7.『好き』の理由
サボってるわけではありません……
忙しかったのです……本当です……(←言い訳)
いつもなら、翔太からかかってくる電話を待ち侘びているこの時間……
……なのに、今日は夕飯やお風呂の時間をわざと早めて、翔太の電話に出られない口実を作ろうとしていた。
「もう十時半か……。今日は……もうかかってこないかな」
不在着信が0件なのを確認して、複雑な気持ちになり早めに布団に入る。
「寝ちゃえばもう……気づかなくても仕方ないよね?」
自分に言い聞かせるように布団をを頭からかぶった。
あぁ……眠れない……
今日の可愛い子……一体誰なの??
翔太、あんな可愛い子と仲良くしてるなんて私に一言も言ってなかったじゃない……!!
どれだけ布団で身体をくるんでも、突き破るように不安が私に絡みついてくる。
真相を直接翔太に確かめればいいじゃない……
でも、もし『好きな人ができた』なんて言われたらどうするの??
私と付き合ったまま、他の女の子に手を出すような人じゃないって、自分が一番分かっているはずなのに……
でも、あんなに親密な空気を出されたら……
嫌だよ翔太……
せっかくずっと一緒に居られると思ってたのに……
長い間想い続けてきた恋が、やっと実って……
でも、一緒に過ごした時間なんてほんの僅かのまま、楽しい思い出も残せずに終わっちゃうなんて……
こんなに私は翔太の事大好きなのに……
大粒の涙がシーツを濡らしていく。
あんなに求め合っていたと思っていたのに、その気持ちは独りよがりだったんだと思ったら、悲しくて涙が止まらない。
それでも時計を気にしてしまう。
これでかかってこなかったら……
翔太の気持ち、確かめるまでもないのかな……?
そう思ってた時だった。
突然スマホのバイブ音が鳴り響く。
「翔太……?!」
私は布団を払いのけ、スマホに駆け寄る。
画面に『翔太』の名前があることに嬉しさが顔を出した瞬間、あの可愛らしい女の子との親密な姿が脳裏に蘇る。
もしかしたら、別れを告げられるのかもしれない……
怖い……怖いよ……
手のひらの中で震え続けるスマホを見つめながら恐る恐る出てみる。
「もしもし……」
あぁ、泣きすぎて完全に鼻声だわ……
「実花? ごめんな、遅くなって……」
すまなそうな翔太の声に心が一気に怖気づく。
「……あ、あの……ごめん、今忙しいから……また今度ね!」
翔太の話を一言も聞かずにぶつりと電話を切ってしまった。
また布団に巻き付いて現実逃避する。
激しい動悸に襲われてマイナス思考が高速で頭の中を侵略してくる。
おかしくなりそうになり、思わずスマホの電源を切った。
今までだって翔太はあんなにカッコよくて、普段から告白したとか、フラれたとか、しょっちゅう周りから聞こえて来ていた。
でも私は、翔太との絆は太くて強い揺るぎのないものだって信じて疑わなかったし、小さい頃から一緒に過ごしてきた彼との時間が自信となって、私の不安になる気持ちをいつも支えてくれていたのに……
でも今日の翔太は違ってた。
翔太の隣にいた彼女があまりにも可愛くて……
私の知ることのない二人の仲良しな姿がどうしても見えてしまって……
あんまりにもお似合いすぎたから……
私にとって、翔太はイケメンだからとか、優等生だからとか、もちろんそれも好きな理由の一つではあるけど、そんなことはおまけで、ずっと自分の一部のように心が誰よりも近い存在だと思ってきた。
でも翔太の目には、一体どんな風に私は映っていたんだろう……?
たいして可愛くもないし、頭も別に普通。
これと言って特技もないし……
いま改めて考えると、好きになってくれている理由が全く思い浮かばない……
どうしてこんなに何のとりえもない私を翔太は好きでいてくれたんんだろう……??
『好き』じゃなくて『義理』でもし一緒にいてくれてたんだったとしたら……
幼少の頃の悲しい記憶が蘇る。
考えないようにしていたけど……
窓の外は春の嵐が吹き荒れている。
ゴーゴーと唸る風の音に震えながら、布団に潜り目を閉じた……