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君の気持ち  作者: 新山桜
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6.実花の知らない翔太

「なぁ、優菜。静内と翔太って仲良くやってるんだよな?」

 祐介は今朝、翔太と美少女の転校生の噂話を耳にして、心配になりさりげなく優菜に聞いてみた。


「なになに? どういう事??」

 優菜の全く知らない様子にやっぱり噂だったか……と少しホッとしてみたものの、ここまで騒ぎになっていることに嫌な予感を感じざるを得なかった。


「いやさ? これ静内には言うなよ? 実は……」

 祐介は今学校中で噂になっているこの話を知ってる限り優菜に話した。


「転校生?? あぁ、凄い可愛い子が2組に入ってきたって、確かに一時期、話題になってたよね……」

 顎に手を当て、四月の初めの頃を想いだす。


「あぁ、翔太その子とおんなじクラスだろ? なんかさ、静内、翔太と全然逢えないって嘆いてたのにさ、最近休み時間の度にあの二人音楽室に出現して、何やらイチャついてるらしいんだよ」


 噂で聞いたことをそのまま口に出しただけだったが、優菜の顔色が急に変わった事に気付いた時はもう遅かった。


「は?? なんで?? 翔太の彼女は実花でしょ?? そんなわけ分かんない女とイチャついてる暇なんてどこにあるのよ??? 実花、あんなに我慢してんのよ?? 翔太君だって知ってるはずじゃない!!!」


 鬼のような形相を見せた優菜に震えながら、祐介はボソボソと話だす。


「なんか、中学一緒だったらしいんだよ。詳しくは俺も分かんないんだけど、翔太と同じ中学出身の奴が、あの二人その頃も相当仲良かったって話しててさ?」


 祐介はまったく、また面倒なことになったな……と正直思いながらも、実花には優菜を彼女にするためにたくさん協力してもらった恩があるし、翔太は大切な友達でもある。


 ここは一肌脱いで、真相を確かめて遣るかと考えていた。


「実花はそんな女の子が翔太君の近くにいるなんて話、一言も私にしてなかったから……、もしかしたら、その子の存在すらまだ知らないのかもしれない……

 あぁ、ただでさえ最近翔太君に逢えなくて弱ってるのにどうしよう? 祐介……」


 優菜は、いつも明るく笑顔でいる実花の心の中には、孤独が住んでいることをちゃんと知っていた。

 彼女のお父さんの具合も最近急激に悪化して、危険な状態に何度もなったと聞いている。

 お母さんも早くに亡くして、さぞかし寂しいだろう……そう、実花の立場に自分を重ねたら、視界が涙で歪んできた。


「実花にはもっともっと幸せで楽しい事があっていいはずなのに……、なんで神様はこんなに辛い事を実花だけに与えるんだろう……?? 私だったら完全に引きこもりになってるよ……」

 鼻をズルズルいわせて自分の事のように実花を想う優菜を、祐介はまた愛おしく思えた。

 実花の為にも、優菜の為にも一肌脱ぐか……そう決意していたが……


 そんな祐介と優菜の思いも虚しく、実花は現実を目の当たりにすることになる。




 放課後の音楽室にはちょっとした人だかりができていた。

 実花は、祐介から今日はサッカー部が休みなことを聞いて、久しぶりに翔太に逢いに行こうと彼のクラスに向かったが、音楽室に行ったと聞かされた。


 直ぐに音楽室に足を運ぶと、教室の中を覗き込むように生徒たちがおしくらまんじゅうをしている。


 ほんの少しだけ開いた扉の向こうには、睫の長い大きな目の少女が美しい音色を奏でていた。

 その後ろには長身で細身ではあるが半袖のシャツから見えた小麦色の逞しい腕から、とても音楽をやっているようなイメージとはかけ離れた男子生徒がスッと姿勢よく立っている。


 どこか見覚えのある佇まいに、実花はまさかと思った。


 彼女が紡ぎだす美しいメロディーを後ろで操縦するかのように語り掛ける彼の姿に、実花は翔太で間違いないと確信する。


 そこには誰も入ることが許されない、二人だけの世界が広がっていた。


(あの女の子……誰なの??)

 彼女の演奏が終わって、人だかりが散って行っても、実花はその場から一歩も身動きが取れない。



「ねぇ、翔太君、覚えてる? 私あの時お弁当落としちゃって、翔太君が半分分けてくれた時の事」

 幸せそうに話している沙彩の姿が、なんだか実花の目には翔太の彼女のように哀しく映った。


「翔太君、大好きな卵焼き、私に全部くれたでしょ? 本当に嬉しかったんだよ??」

 うふふと翔太に、彼女は天使のような微笑みを浮かべている。


「あの時、沙彩、泣きそうだっただろ??」

『全くしょうがないな……』そんな翔太の表情の中には、優しい笑顔があった。


(翔太……、なんでそんなに幸せそうな顔をしてるの??)

 小さい頃から、翔太の事なら何でも知っている……そんなふうに思っていた実花の記憶にはない、まるで別人の翔太の笑顔が視線の先に映っている……


 翔太が急に何も知らない他人のように思えてしまって、動けなくなった。

 信じあっていたと思っていたのに、もしかしたらそれは自分だけだったのかもしれない……



「静内!!」

 横を通りすがった先生に声を掛けられ、ハッと我に返る。

 そのあと何を言われたのか、どうやって家に帰りついたのか、思い出せない。


 私は深い暗闇に落ちて行くような感覚に、とてつもない孤独を感じ、一人ぼっちの部屋で震えていた……


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