5.猛アプローチ
忙しくて更新できてなくてごめんなさい!!
しかもやっとの思いであと一行で書き終わるって時に全部消え、書き直し……(涙)
「ねぇ、翔太君。お願い!!」
放課後の教室で、沙彩は忙しい翔太を引き留め懇願する。
「いや、ホントに無理だって!! 部活は八時まであるし、予備校も週四であるし、とてもじゃないけど沙彩のピアノまで見てる時間なんてないんだよ」
なんとか沙彩の手を振りほどき部活に向かおうとするが、彼女はなかなかあきらめない。
「ちょっとでいいの!! 毎日なんてわがままいわないから!」
翔太を見つめ、顔の前で両手を合わせ必死でお願いをる。
「俺なんかより、ちゃんと先生について教えてもらえよ? そっちの方が断然有意義だろ?」
もっともな答えを吐かれても沙彩は諦めない。
「先生にはちゃんとついてるのよ? でも、中学の時翔太君に練習見てもらってから、『凄い成長したわね!!』って、みんなに褒められたから……」
確かに、沙彩の言っていることはまんざら嘘ではない。
先生の目にも、留まらないようなところに翔太は気づく耳を持っているのを彼女はちゃんと知っていた。
だからと言って、純粋にピアノが上手くなりたいって気持ちだけではない。
翔太と二人きりの時間を作る口実が欲しかったのだ。
沙彩は中学の時、翔太と同じ進学校に行くつもりで猛勉強をしていた。
ところがいつの間にか翔太は志望校を変え、それに気づくことなく、卒業式を迎えてしまう。
高校生になってもずっとまた一緒に居られる……そう思っていたのに、一気にどん底に突き落とされた気分だった。
でも彼女は簡単にあきらめたりしない。
翔太の通っている高校が若干沙彩の通っているピアノ教室に近く、移動に無駄な時間を使いたくないと、一年がかりで彼女の両親に駄々をこね、ついに転校を実現させたという執念の経緯がある。
それほどに、沙彩は翔太を自分のものにしたかった。
彼の為なら、地球の裏側だって付いていくというのも冗談に聞こえないのだ。
「ねぇ、お願い! お願い!! お願い!!!」
沙彩の気迫に押され、よっぽど音大に行きたいんだろうと、翔太は理解を示し始める。
自分だって、手に入れたいものの為なら、きっと沙彩のようにあらゆる手段をフル活用しようと思うだろう。
自分のアドバイスが少しでも彼女の力になれるなら……
一生懸命な彼女の瞳を見ていると、純粋に応援しようという気持ちになった。
「……ったく、分かった。でも予備校のない日だけだから、本当に大して見て遣れる時間ないんだからな?」
もう一度、彼女に念を押す。
「いいよ!! 学校の音楽室借りれなかったら、お母さんに車出してもらうから家でみてもらえる? 前に来たことあるから、翔太君の家からそんなに遠くないの知ってるでしょ?」
中学の時、何度か彼女の家にお邪魔したことがあったのを思い出した。
もちろん、その時も沙彩にしつこく誘われて、ピアノを見て遣りに行っただけだったが……
「……そこは考えさせてくれ」
ほんの少し温度が下がった翔太の顔色を取り繕う様に沙彩は彼に近寄る。
「私頑張るから!!」
自然を装い、沙彩は翔太に抱き付いた。
「ちょっと、マジでやめろ!!」
翔太の瞳の奥が本気だったのを感じて、沙彩は一歩下がる。
「……ご、ごめん……つい……」
しょんぼりする沙彩。
「……じゃ、早速今日予備校休みだから、部活終わったら練習な?」
少し言い過ぎたかな……?と思いつつ、ため息まじりに彼女に声を掛ける。
「分かった!! 音楽室借りてもいいか、先生に聞いとくね!!」
スキップしながら教室を出て行く沙彩の後姿に、純粋さが垣間見えたのか、翔太はクスリと笑った。
放課後、部活終わりの翔太は駆け足で音楽室に向かう。
音楽室が八時半までしか利用ができないからだ。
たった三十分程度の練習時間がない中、一分でも多く有意義に時間を遣いたかった。
「お待たせ! さあ始めよう!!」
上がる息を抑えながら、すぐに練習に取り掛かる。
沙彩は一言の雑談すらないのを少し不満に思ったが、二人きりでいられるこの時間が猛烈に幸せだった。
実花の存在はなんとなく翔太から聞いてはいたが、自分と過ごした彼との三年間に比べれば、幼馴染の恋愛なんておままごとレベルのものだろうと大して気にもしていない。
翔太がなぜ、この高校を選んだのか……、そして彼女である実花も同じ学校に通っているという事は、当然沙彩はまだ知る由もないのだ。
純粋にピアノが上手になりたい……そう思っている沙彩に、自分の恋人の話をする道理もなければ、そんな話の流れになることもない、翔太はそう思っていた。
こうして二人は部活終わりだけではなく、昼休みなどの休み時間も時間の隙をみては、音楽室で練習するようになっていく。
気が付けばいつも一緒にいる二人の色恋の噂が校内に広まるまでには、そんなに時間はかからなかった……