4.触れ合い
「はぁぁ……」
授業中も、休み時間も、窓の外をぼーっと眺めては、ため息の繰り返し。
最近ホントに私、色々駄目になりそう……
「みーかー!!」
優菜が私の背中をバシンと叩く。
「なに……?」
ぼーっとしたまま窓の外から優菜に視線を移す。
「ねぇ、目の奥が病んでるよ? 相当キテるでしょ??」
……そう、そのとおり。
優菜の言うとおりだよ。
翔太に逢えなくて、声だけじゃ足りなくて……
もう完全にエネルギー切れなんだよ……
「実花さ、なんで自分から翔太君に逢いに行かないのよ? 実花だって忙しいのは分かるよ? でもそんなゾンビみたいな目になるくらいなら、今の時代すぐ連絡だって取れるんだしさぁ」
優菜の呆れ顔をみて『うん……』そう消えるような声で頷く。
「翔太、ほんっとに忙しいんだよ。放課後なんてほんと分刻みでスケジュールいっぱいだって、この前も電話で言ってたし……。困らせたくないんだよ……」
ぐにゃっと机に突っ伏した。
「んぁぁぁあ!! もう!!」
優菜の雄叫びが聞こえたと思ったら、机の上にあった私のスマホをスッと持ち上げる。
無言でポチポチやりだした優菜の手をまたぼーっと見ていたが、その違和感に急に我に返る。
「ゆ、優菜!? 何やってんの??」
急いで取り上げようと立ち上がった時にはもう遅くて……
「ハイ! 送信!! 実花は今日の昼休みに、体育館裏に必ず行くこと!!」
ガシャンとスマホを机の上に置き、優菜は席に戻っていく。
私は慌てて画面を確認した。
『今日昼休み、体育館裏で待ってるね! 絶対絶対来てね』
最後にハートの絵文字で括られている。
「ちょっ!! これ……!! もう、優菜!!!!」
叫ぶ私の声を背にほんの少し振り返った優菜はニヤリと笑っていた。
直ぐに翔太からの返信が入る。
『わかった!』
たった一言……
でも嬉しい……!!
あぁ、涙出る!!
優菜……、ありがとう……!!
それからの私は昼休みまで全く授業が頭の中に入ってこない。
声だけだった翔太に今日、本当に久しぶりに二人きりで逢えるんだ!!
いつもはお経にしか聞こえない日本史の先生の授業も、蝶も舞うようなワルツに聞こえる。
あぁ、私今どんな顔してるだろう??
きっとニヤニヤしてるんだろうなぁ……
でも、まぁいいか!!
4時限目のチャイムの音を待ちに待って、私は体育館裏へ走り出した。
はぁはぁと上がった息が収まらない。
(翔太は……まだ来てないみたい)
キョロキョロ見回すとシンとした空気が私の心をだんだんと落ち着かせていく。
大きく深呼吸をしてすぅと息を吸い込んだ時だった。
「実花!! ごめんな。待った??」
私と同じように息を切らした翔太が駆け寄ってくる。
「……翔太……!!」
あぁ、本物だ……
ずっと逢いたかった人……
もう、何もいう事なんてない。
ただ、ギュッと抱きしめてもらいたいだけ……
感情のままに、私は翔太の胸の中に飛び込んだ。
「……実花?!」
きっと戸惑ってるだろうな……
学校で抱き合うなんて、見られたら大変だもん……
翔太の表情を想像したらなんだか心が擽ったくて、ほんわか温まる。
何も言わずに、彼の背中に回した手を強める。
私の髪の毛を優しくなでてくれる心地よさに目を閉じる。
「実花……」
もう一度呼ばれて、彼の表情を確認しようと顔を上げた。
翔太の大きな手が私の頬を撫でる。
「……逢いたかった……ずっと……」
そう言って、近づいてくる彼の顔を私はじっと見つめていた。
ゆっくり唇が重なり、時間が止まる。
ずっと、こうしたかった……
翔太の温もりを感じたくて……
本当に愛されているの……?
消えてなくなりそうだった自信が少しずつ蘇っていく……
「……翔太……ありがとう……。わがまま言って、ここまで来てもらって……」
翔太の顔を見たら涙が溢れそうで俯きながら話す。
「忙しいの、ちゃんとわかってるんだよ? でも……どうしても逢いたかった……」
ぽたぽたと涙の粒が地面に落ちていく。
「今日、こうして翔太に逢えたから……、またしばらく頑張れる!!」
一生懸命笑顔を作って翔太の顔を見た。
「……実花……」
そう言って、もう一度強く私を抱きしめてくれた翔太。
こうして触れ合わないと安心できない私は我儘なのかな……
でも……声だけじゃ……足りないんだよ……