2.まさかの再会
「実花、ごめん!! 今日もこれから忙しいんだ。話たくさん聞いてやれなくてごめんな……」
今日も翔太は早々に、電話を切ろうとする。
「ねぇ、翔太……?」
私はそう言いかけて、口を噤む。
「……ん? どうした実花??」
「ううん、何でもない。ごめんね」
翔太に話したいこと、いっぱいあるんだよ?
恋人同士になったって、私はちっとも翔太の心の中に入り込めてない。
もっとちゃんと顔を見て、翔太の温かい手に触れて、笑い合って……
「じゃあな。また明日電話するから」
そう言って、あっさり電話を切る。
スマホの『通話終了』の文字を見つめながら、音のない部屋で孤独が襲う。
翔太は私に逢いたいって思わないのかな……?
私は一秒だって長く、翔太と一緒にいたいのに……
寂しい……
寂しいよう……
父も母もいない、私一人には広すぎるこの家で、また今日も涙が零れ落ちる。
カチカチと無機質に聞こえてくる時計の秒針の音を煩く感じながら、まだ翔太の声の余韻が残っているスマホを抱きしめた。
一方翔太は今、最高に満たされていた。
大好きなサッカーに全力で取り組み、実花との短くはあるが毎日の電話が、彼にとっては大きなパワーになっている。
元々進学校を受験する予定だった翔太が、実花と同じ高校に通うために、両親に我儘を言って志望校を変えた時、何があっても一定以上の成績は取ることを条件に承諾してもらった。
だからいくら夢中になることがあっても、そこはしっかりと守らなければ両親に自分の本気は伝えられないと、妥協せず忙しい部活の時間を縫って、しっかりと勉強にも励んでいた。
実花との時間を作りたい……
ちゃんと顔を見て、彼女の温もりも感じたい……
そう思うのは翔太も一緒だった。
でも、それはいつでもできることだと思っていたのだ。
今しかできない、部活や勉強をとにかく最優先でこなしていくことが最善の道だと信じて疑わなかった。
そんなストイックさが今の翔太を作り上げたのは間違いないんだろうが……
両親が家に居ない実花にとって、唯一心の拠り所になる翔太の存在は寂しさに押しつぶされそうな日常から欠かすことができなかったのだ。
そんな二人の間に訪れる暗雲……
翔太が思いもよらない人に再会したのだ。
「今日からみんなの仲間になる、木内沙彩さんです! 仲良くしてあげてくださいね!」
翔太の担任に紹介されたのは、白いセーラー服を着た、瞳が大きくまつ毛の長い、おとなしめの美少女だった。
透き通るような肌の美しさに、クラスの男子たちはざわめき始める。
周囲が彼女の容姿を褒める言葉に特に興味もなかったが、翔太は聞き覚えのある彼女の名前に顔を上げた。
「沙彩……?」
驚いて沙彩の顔に釘付けになる翔太。
「……翔太君?? 翔太君だよね?!」
沙彩は驚きと嬉しさに満ち満ちた表情で翔太に声を掛ける。
「狭山君、木内さんの事知ってるの?? だったら色々学校のこと教えてあげてくださいね!」
担任は気を利かせたつもりで、翔太の隣の席に沙彩を案内した。
女性らしい甘い香りを放ちながら、翔太の隣の席に着く沙彩。
「翔太君、またよろしくね!」
ニコッと笑い、目配せする。
翔太も『あぁ』と一言、微笑み返した。
クラスメイト達は、一体二人がどんな関係なのか、知りたくて仕方のない気持ちが教室中に渦を巻いているようだったが、そんな空気に蓋をするように一限目が始まっていく……