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君の気持ち  作者: 新山桜
13/16

13.実花の愛情

「あったよ!! しょうた!!」

 全身傷だらけで、泥まみれになった幼い少女が開いた手の中には、赤いミニカーが大切そうに佇んでいた。


 俺はそっとそのミニカーを受け取り彼女を見る。


「みつかってよかったね!」

 そう一言言って、俺が声を発する前に彼女は消えた……




「実花!! 待って!!!」

 ガバッと起き上がり、視界に見慣れない風景が映る。


「ここは……??」

 昨日実花の家の前で雨の中座り込んで、ひたすら彼女を待ち続けていた……ところで記憶が途切れた。


「翔太! 気が付いたのね!」

 安心した表情で母さんが俺を見ている。


「翔太……。まったくホントに実花ちゃんの事で頭がいっぱいなのね……」

 呆れたように、俺の肩を優しく叩いた。


「昨日、実花ちゃんちの近所の人が、翔太が倒れてるの見つけて救急車呼んでくれたのよ。熱も下がったし一時的に目が覚めるまでここで休んでていいって病院の方が言ってくださっただけだから、もうすぐに帰れるわよ」



 そうか……

 実花は結局昨日帰って来たんだろうか……?


「母さん! 俺の携帯は??」

 居てもたってもいられなくて彼女にすぐ連絡をしようとした。

 待ち受けを見ても、昨日あれだけかけた着信の折り返しが一件もない事に、不安が募る。


 直ぐに実花の番号を開いてかけたが……やっぱり繋がらず、電源を切っている様だった。


(どういう事なんだ……? まさか森下先輩の家に……??)

 嫌な予感だけが暴走する。


「母さん、俺行かなきゃ……!!」

 ベットを出ようとする俺を必死で引き留める母さんに一喝される。


「翔太!! 部活は休むってお母さんが連絡入れといたから、今日はちゃんと家で休みなさい!! それに、この病院実花ちゃんのお父さんが入院してるから……少し顔出していきましょ?」

 穏やかになった母の表情を見て、俺はふとさっきまで見ていた夢の話を思い出した。


「なぁ、母さん……覚えてる? まだ小学校に入る前に俺が大事にしてたミニカーなくしちゃってさ、実花が探してきてくれた事あっただろ……?」

 懐かしい景色が頭の中に広がり、夢の続きが次々と蘇ってきた。


「もちろん、覚えてるわよ。買ってもらったばっかりで、翔太、凄く大切にしてたじゃない? 実花ちゃんと遊びに行くとき、『失くしちゃうから置いてきなさい』って言ったのに、あなた言うこと聞かずに持って行って、案の定失くして来たでしょ?」

 クスクスと当時を思い出して笑っている。



「あの時、母さん失くしてショック受けてる俺の姿見て、同じもの買ってきてくれただろ? でも、その後、実花が一日中原っぱ探してくれて、やっと見つけて俺に渡しに来てくれたんだよ」

 俺はあの時の実花の気持ちを考えると今でも胸が苦しくなる。


「実花がそっと広げた両手の中に、泥だらけの赤いミニカーを見つけた時、俺咄嗟に新しく買ってもらった方をポケットの中に隠したんだ。せっかく探してくれた実花の気持ち考えたらとても本当のこと言えなくて。でも実花が帰った後に俺自分のポケット見たら、新しいミニカーが顔出しててさ。実花……せっかく探してくれたにに、気づいちゃったかな……って、今でも申し訳ない気持ちがあってさ。真相も怖くて聞けないんだ」

 はぁ……とため息をついて当時の実花の気持ちを想う。


 母さんは俺を見ながらフフフと笑った。

「実はあの後実花ちゃんのお母さんとその話になってね。 一日中帰ってこないし、擦り傷だらけの実花ちゃんの事心配して、理由を彼女に聞いたんだって」

 俺の知らない真相を母さんは静かに話し始めた。


「そしたら、翔太が大切にしてたミニカーをずっと一人で探してやっと見けたんだけど、泥で真っ黒に汚れてたから、返しても翔太が悲しむんじゃないかって返すかどうか迷ってたんだって」

 母の瞳が揺れていた。


「でも、やっぱり翔太の手元に戻してあげたいって、思い切って返しに来てくれたでしょ? その時、翔太のポケットの中に全く同じピカピカの赤いミニカーを見つけて、『あーよかった!!』って思ったんだって。翔太が悲しまないでよかったって、実花ちゃん笑ってお母さんにいってたんだってさ」


 実花……

 あぁ、視界が歪んできた。

 なんで、いつもそうやって、自分の事より俺の事ばっかり考えてるんだよ……


「翔太、本当に愛されてるわね! 何があったか知らないけど、実花ちゃんの事、大切にしなさいよ」

 母さんは肩を震わせてる俺の様子に気づいたのか、そう言って病室を出て行った。



 我慢していた涙が、バタバタと布団に落ちた。

 実花に逢いたい……

 実花……今どこで何してるんだよ……!!


 布団を握りしめ、自分の情けなさに後悔の涙が止まらないでいた……





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