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君の気持ち  作者: 新山桜
12/16

12.新しい自分

『あの様子じゃ、翔太君、今頃必死で実花ちゃんの事探しているかしら……』

 ユミは雨が降り始めた窓の外を店内から眺め、さっきの翔太の慌てた表情を思いだす。


 実花と駿の間に、翔太の心配するようなことは何もないと分かってはいたが、彼の鈍感さを自分自身に気づかせるには荒療治が必要だとも思っていた。


(そろそろ、演奏会も終わる時間ね……)

 時計を見て、兄である駿に電話をかける。


「あ、もしもし、お兄ちゃん? 演奏終わったんでしょ? 実花ちゃんに渡したいものがあるから、うちに来てもらえるように、今話してもらっていいかな? もちろん、予定があるなら今日じゃなくてもいいんだけど……」


『分かった』

 電話の向こうで、駿が実花に話をしているのを静かに待っていたユミは、その間も色々考えを巡らせていた。


 何とか、実花と翔太には幸せになってほしい……

 散々嫌がらせをして、二人を傷つけてしまった懺悔の想いはユミの心にずっと消えることなく留まり続けている。

 翔太のあの周りを気にしない性格は、いいところもたくさんあるが、時には大切な人の心を傷つける凶器にもなりかねない。

 そんなことで、モテる翔太に可愛い女の子が近づいてくる度に、実花の心を振り回すようでは彼女だって、いつか疲れ果ててしまうと思ったのだ。


『実花ちゃん予定ないみたいだから、うちに連れて帰るな?』

 電話越しに駿の声が聞こえて、ユミはやる気に満ち溢れた瞳を見せていた。




「実花ちゃん!!」

 一足先に自宅に着いていたユミが家の前で、駿と実花に大きく手を振る。


「ユミ先輩!!」

 それに答えるように実花も笑顔で両手を振り上げた。


(すっかり笑顔に戻って……ホントに良かった!!)

 ユミは安心しながら実花を家の中に迎え入れる。


「駿先輩、今日の演奏、すっごく良かったですよね!」


「あぁ!」

 興奮しながら喜んでいる実花を見ていると、自分の事のように駿は嬉しくなった。


「あら、こんにちは! 可愛らしいお客さんね」

 騒ぎを聞きつけて、玄関に駿とユミの母が顔をだす。


「あの、初めまして! 静内実花と申します」

 ペコリと頭を下げる実花を、一瞬で気に入ったユミと駿の母は、すぐさま彼女を家の中に引き入れた。


「よかったら、せっかく来てくれたんだし、もう時間も遅いから今日は泊っていったらどう? お友達からいいお肉貰ったから、実花ちゃんも一緒に食べましょう!」

 若々しい二人の母の元気な笑顔に、実花もつられて笑顔になる。



「実花ちゃん、泊っていきなよ? お家誰もいないんでしょ?」

 ユミは実花の寂しい気持ちを察してか、優しく語り掛けた。


「本当にいいんですか??」

 遠慮がちに答える実花。


「お兄ちゃんは近寄らせないようにするから、心配しないで! 一緒に私の部屋に泊まりましょ?」

 ふふふと笑うユミの横で顔を真っ赤にした駿先輩がなんだか可愛らしかった。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 久しぶりのにぎやかな夜が、実花にとってはとても居心地よくて、有難かった。

 孤独に震えていた心が少しずつ癒されていく。


(今日は、久しぶりに元気になれそう……!)

 森下家の温かさに、実花は心から嬉しさが湧き上がっていた。




 食事も一通りおえて、ユミの部屋に戻る。

 ユミはさっそく、今日の本題で、ずっと密かに練りに練っていた実花の改造計画を話し始めた。


「実花ちゃん、メイクとかしたことある??」

 いつも疲れたような顔を見せていた実花に、実はちゃんとメイクをして、素敵な服を着せてあげれば絶対に可愛くなれるとユミは初めて彼女を見た時から思っていた。


「いえ、色付きリップくらいしか使ったことないです」

 照れ笑いしながら恥ずかしそうに下を向く。


「実花ちゃん。私が今からメイクしてあげる。それを見ながらよーく覚えて! あんな木内沙彩なんかかすんじゃうくらい可愛くなれちゃうから!!」

 自信満々なユミの姿を見ながらも、正直そんなに変われるはずもないだろうと本音は思っていた実花。

 でも、ユミが自分の事を想ってくれる気持ちが嬉しくて、素直にその話に乗っかってみた。


「じゃあ、お願いします!」

 ふふふと笑いながら、自分の顔を鏡に映して、ユミにされるがままになる。


 次第にみるみると別人のように変わっていく自分の姿に、釘付けになっていった。


「……これ……私??」

 信じられない位美しく透明感のある肌と、大きな目に長い睫。

 自分の顔なのに呼吸を忘れるくらいな衝撃を受ける。


「そうよ? メイク始めてまだ五分も経ってないでしょ? そんなもんしか手を加えてないのよ。薄くファンデ塗って、ちょっとだけアイメイクしただけ。すごいでしょ??」

 予想以上の出来に大満足のユミは、嬉しそうに実花を覗き込む。


「それと、このワンピース!! これ私からのプレゼント!」

 実花の目の前にふわりと飛び出したのは、ほんの少しグリーンがかった白のワンピースだった。


「今更なんだけどさ、私実花ちゃんに酷い事たくさんしちゃったじゃない? ずっとちゃんと謝りたかったんだ。お詫びの品ってわけじゃないんだけど、この前ショッピング行ったら、これ実花ちゃんが着たら似合いそうだなぁって思ってさ!!」

 恥ずかしそうに差し出されたワンピースを、実花は涙を堪えながらそっと受け取る。


「ユミ先輩……、ありがとうございます……」

 ポロリと涙が流れ落ちる。


「やだ、実花ちゃん泣かないでよ……。それ着て、明日、翔太君に逢ってちゃんと話てきなよ? 今の実花ちゃん、木内沙彩より全然可愛いから!! 自信もって大丈夫だよ!!」

 ユミにポンと肩を叩かれ、その手の温かさに、まるで本当のお姉ちゃんができたような気持になる実花だった。



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