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Home And Bloody Days  作者: ソォラ
2/15

2nd Day

とんとん


朝を告げる音楽が鳴るのと、ドアをノックする音がするのは同時だった。


「もう朝か……」


と思いつつ、制服を着て、身支度を整える。

そうそう、起きるさいに、一応妹のクルミをゆすり起こしておくのも忘れない。

僕は今まで三か月、ここ……第112MeS訓練施設で過ごしてきたかいあって、この音楽ですぐに目覚めることができるけど、クルミは昨日入寮したばかりだからね。


そして、身支度を整えるとドアを開ける。

すると、そこにいたのはいつもの……


「あ、おはよう、シュンくん」

「おはよう、ハルカ」


そうあいさつして、微笑みあう僕とハルカ。

と、その奥に気が付いたハルカが、微笑みをむすっとした顔に変えた。


「え? え?」

「シュンくん~? ど・う・し・て、クルミがシュンくんの布団で一緒に寝てるのかな~?」

「あ。 そ、そうだっ。ぼ、僕がベッドで寝て、クルミが床で寝てたんだよ、うんっ」

「へぇ~、シュンくん、お客さんを床で寝せる礼儀知らずなんだ」

「うぅ……ごめん。ハイ、昨日ハくるみサント一緒ニ寝テマシタ」

「うん、よろしい」


完敗した僕に、うんうんとうなずくハルカ。

これで一件落着かと思ったけど、やっぱりハルカはふくれたまま。


「あ、あの、ハルカ……?」

「こんなことだろうと思って、昨夜メールしといたけど……変なことはしてなかったでしょうね?」

「も、もちろんだよっ」

「そうだよ、ハルカ。あたしと兄さんは、あくまで兄妹なんだから。きょ・う・だ・い」


そういって助け舟を出してくれるのは、制服に着替えたクルミ。とてもありがたい。

でも、その口ぶりに何か嫌な予感を感じるのは気のせい? 頭の中で、赤い警報ランプがピコピコ鳴ってるんですが……


「兄妹だから、寝ながら手をつないでてもおかしくないよね、兄さん?」


あーーー、そんな爆弾発言はーーーー!


「へぇ……そうなんだ」


それを聞いたハルカが、さらに膨れ面に……ああああ。


「あ……あの、ハルカ……さん?」

「シュンくん、わたし、先に行くね」


そう言ってすたすたと去っていくハルカ。


「お、お~い、ハルカ~……」


そのあと、ハルカの機嫌を直すために、購買のイチゴシェイクをおごらされたのは言うまでもない……

しかも三本。


(Ⅰ)


「はぁ……」

「どうしたんだい? シュン」


いつものブリーフィングという名のホームルームを終えた後、僕たち……僕、シンヤ、ヨシノ先輩、そしてクルミの四人は、エレベータでシミュレータ室に向かっていた。

今日のシミュレータ訓練は、僕とシンヤのドライバー組が、射撃回避訓練。ヨシノ先輩とクルミのガンナー組は射撃基礎訓練だ。


「朝からハルカとけんかしちゃってさ。まぁ、機嫌直してくれたのはいいんだけど……購買のイチゴシェイク3本900円はきつい……」

「一緒に寝て、手をつないだくらいなのにねー」

「クルミちゃん……それは「くらい」って言わないと思いますよ……」

「えー、だって手をつないで寝るなんて、向こうの国じゃ当然のスキンシップですよ、スキンシップ」


「そんなスキンシップはありませんっ」


……あれ? なんか今ハルカの声が聞こえたような……気にしないことにしよう。


「それに……今まで三年間、兄さんに会えなかったんだもん……」


と、寂しそうな表情を浮かべるクルミ。


そうだったよな……

クルミは、ハイスクールに入ってすぐ、語学学習のため、中米某自治区(連邦成立前でいう国家だ)にある街・ラウラバドルに留学に行って……三年の間、僕と離ればなれになって……

さらに、アリアスとの戦争が始まって、僕と会えなくなるかもしれない不安に襲われて……

そう考えると、クルミが僕にあそこまでスキンシップを求めるのも、わからないではないんだよね。


昨夜、クルミが言った言葉が思い出される。


「だから今、とっても嬉しいよ……? こうして兄さんと一緒にいれて、一緒の布団で眠れるんだから……これに勝る幸せなんて、ない」


その言葉が、いまさらながら、胸の奥に沁み渡る。


「……? どうしたの、兄さん?」

「いや、なんでもないよ。これからもよろしくね、クルミ」


そう言ってクルミの頭をわしわしとなでてやる。微笑みを浮かべて嬉しそうにするクルミ。

その顔を見ると、イチゴシェイク3本900円分も安いものだと思えてしまう。


「いいなぁ……わたしもシンくんに……」

「え、シンヤに?」

「な、なんでもありませんっ。秘密ですっ」


そう言って、顔をゆでだこのようにするヨシノ先輩。

あー、なんとなくわかる気がするなぁ。

クルミも気が付いたのか、にやにやしてるし。


「へぇ、そうなんだ~」


そんなこんなで、僕たちはシミュレータ室に入って行った。


(Ⅱ)


さて、シミュレータ室に着くと、僕たちは受付の人にIDカードを見せ、使ってもいい筐体の番号が書かれた札を受け取る。

そして筐体に入ると、IDカードをセットして、シミュレータを起動させる。


『MeS Simulation System Ver1.23/By Minose High Technology』


その文字が出て、画面がホワイトアウトすると、目の前には仮想敵機のMeSの姿が。

今回の、僕たちの射撃回避訓練と、クルミたちの射撃基礎訓練は、セットで行われる。

僕の機体がヨシノ先輩に射撃され、クルミがシンヤの機体に射撃し、それを僕たちがかわすというものだ。


「い、行きますよ、アズマくんっ」

「えぇ。いつでもどうぞ」


ヨシノ先輩の機体から、僕に向けて、機体両肩部のガトリング砲が発射される。

僕はそれを、機体を巧みに動かして回避し、回避しきれないものは、機体左腕のシールドで受け止める。


「や、やりますね、アズマくん」

「ヨシノ先輩こそ、さすがです」


そう言葉を交わしながら、訓練を続ける。

あれ? そういえば、シンヤたちのほうからは銃声だけが聞こえて、MeSの駆動音とかは聞こえてこないぞ。

どうしたんだろう?


「あ、当たって当たって~」

「……クルミちゃん、ちゃんとこっちに向けて発射してくれないと、訓練にならないよ……」


……

あー……クルミって、昔からノーコンだったもんなぁ……


そう遠い目をした僕の機体に、先輩のガトリングがクリーンヒットした。


…………

……

……


そして、シミュレータ訓練終わり。


「うぅ~……」


涙目でうなってるクルミ。どうやら、一発も当てる……どころか、正しい方向にすら撃てなかったのが悔しいらしい。


「ま、まぁ、初日だし、うまくいかないのも当たり前だよ、うん」


そう言って、クルミの頭を軽くぽんぽんってしてやる。


「ん……」

「元気出してください、クルミちゃん。練習すれば、きっとそのうちうまくなりますよ」

「うん、ありがとうございます……あ、あのっ」

「はい?」

「終業後、練習に付き合ってもらえますかっ? このままじゃ終われないんでっ」


そのクルミの申し出に、微笑んで返すヨシノ先輩。


「えぇ、かまいませんよ。なんなら、私が教えてあげますよ?」

「ほ、本当ですか? ぜひぜひっ」


うーん。クルミもやる気満々だなぁ。いいことだ、うんうん。


「……次の射撃回避訓練のときまで、ノーコンが直ってたらいいよね……」

「……そうだね」


まぁ、一日一歩、少しずつよくなっていけば……いい……よね、うん。

射撃も……あれも。


(Ⅲ)


そして終業後。時間は6時ごろ。


僕は一人で、寮の自室にいた。

ちなみにクルミはまだ帰ってきてない。 終業後、使用許可をとったうえで、ヨシノ先輩と一緒にシミュレータ室で特訓してると思う。

本当にクルミは努力家だからなぁ……


ふぅ……でもおなか減ったな。

食堂に晩御飯でも食べに行くか……


そう思って立ち上がったところで。


「ただいまー、兄さん」


クルミが帰ってきた。


「おかえりクルミ。かなり頑張ったみたいだね。少しはうまくなった?」

「うん、少し……ね」


クルミの表情を見ると、まだまだみたいだな。まぁ、少しでも上達したのなら立派な進歩だ。


「お疲れ様。それじゃ、晩御飯は……って……」


と、そこで僕は気が付いた。クルミが両手で持っている、何やら食べ物ののっている皿を。


「? どうしたんですか、兄さん?」

「い、いや、その皿はナンデショウカ?」


僕のその言葉に、クルミは持っている皿に目を落とすと、再び僕のほうに目を向けて


「あぁ、これ? せっかくだし、晩御飯作ってみたの。この寮、各フロアに自炊できる施設あるしね♪」


ええええええ!?


「何ひいてるのよ、兄さん? あと、後ずさっているように見えるんですけど」

「だ、だって……」


僕がひいて、後ずさるのも無理はない。だってクルミは……


毒料理つか……もとい、料理が超絶下手なんだもの。


「兄さん? 今失礼なこと考えませんでしたか?」

「い、いやいやいや」


クルミの料理は、僕の記憶では、食材に失礼なほどにまずかった気がする。

彼女がジュニア・ハイスクールのころ、一週間に一回は彼女が料理を作ってくれてたんだけど、そのたびに気絶するのが、うちでの恒例行事だったなぁ……


「失礼だなぁ……。あたしだって、留学してて、少しは料理も成長したんだよ?」

「そ、そうなんだ……」

「まぁ、とにかく食べてみて、兄さん?」

「う、うん」


僕がそう言うと、クルミはテーブルに皿に載った食器を並べ始めた。

彼女が作ったのは、ジャンパラヤに味噌汁だった。 なんか妙な取り合わせ。


「そ、それじゃいただきます……」

「うん」


本当は遠慮したいんだけど、そうしたらクルミがどうなることか。

僕は覚悟を決めて、ジャンパラヤを口に入れてみた。

だけど。


「お、おいしい……」

「でしょ? やった~」


僕の感想に、クルミは笑顔を浮かべた。まばゆい笑顔。

いや、本当においしい。スパイシーかつうまみもあって、一流シェフもびっくりなおいしさ。

クルミがこんなおいしいお料理作れるなんて驚きだ。


「言ったでしょ? 料理も成長したって。 留学してた頃、ホームステイ先の人に、ラテン料理を教わって、頑張って練習したんだよ。向こうの人たちにも好評だったんだから」

「そうだったんだ。本当にクルミも成長したんだなぁ」

「もう……」


ほっぺを膨らませるクルミ。でも怒ってる様子じゃない。そんなクルミもとってもかわいくて、僕もつい笑顔になる。

だが、僕は致命的なミスを犯した。ジャンパラヤのおいしさと、クルミの笑顔に気を取られて、クルミの話の大切な部分に気づかなかったんだ。


「さて、それじゃ次は味噌汁をいただこうかな」

「うん。どうぞ」


そう、彼女が得意なのは、ラテン料理だけだったんだ。

僕が意識を取り戻したのは、夜の9時ごろだった。


(Ⅳ)


そして夜の9時。消灯時間になって、もう部屋は暗い。

さて。


「……それで」

「なに、兄さん?」

「なに、シュンくん?」


「クルミはわかるけど、なんでハルカまで僕の部屋にいるのかな、と思うわけですが」


そう、僕のベッド。真ん中に僕、右側にハルカ、左側にクルミと川の字に寝ていたのだった。

ベッドはシングルで……まぁ、どんな状態になってるかは予想がつく……よね?


「だってー…… シュンくんはわたしのだもん。 クルミに負けたくないんだもん」

「だけど、基本的に男女同室は禁止でしょ。早く戻ったほうがいいよ」

「あ、あんたはどうなのよ、クルミ」

「あたしと兄さんは特別なんだもん♪」


そう言って、クルミは僕の左腕にしがみついてきた。

あー……そんなことをされたらハルカが……


「わ、わたしだってっ」


ぎゅっ。

ほら。ハルカまで僕の右腕にしがみついてきた。

もしかして、昨日アヤメが言ってた女難、まだ続いてるのかな……?

って、それよりも。


「男子の部屋に入ってるのがばれたら、先生に怒られちゃうよ。早く戻ったほうがいいんじゃない?」

「ぶー……わかった」


しぶしぶベッドから出ていくハルカ。


「それじゃ部屋に戻るけど、くれぐれも変なことはしないようにね」

「う、うん、もちろんだよ」

「ふぅ……ほんとにシュンくんったら」


そう言って部屋を出ようとするハルカ。

でも、やっぱり付き合い長い身としては、何かフォローしなくちゃ、と思う。


「あ、そうだハルカ」

「え、もしかして一緒に寝ていいとか?」

「いやいや。今度、またイチゴシェイクおごってあげるから、ね?」


そういうと、ハルカは口に手を当て


「ん~……」


と考え込んでから笑顔で言った。


「それもいいけど、今度の休日、一緒に出掛けたいな。どう?」

「う、うん、わかった」


そういうと、ハルカはまばゆい笑顔を見せてくれた。


「えへへ、ありがと。それじゃ今度の休日、楽しみにしてるねっ」

「う、うん」


元気に部屋を出ていくハルカ。

そのあと、今度はクルミを必死になだめて、ソーダフロートを5本2500円分おごることになったのは言うまでもない……




To be New Day...

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