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Home And Bloody Days  作者: ソォラ
13/15

13th Day

ウィーーーーン……

1世紀前の電車のカタタンコトンというリズムのいい音ではなく、かすかな音が耳に入っていく。


「実家に帰るなんて8か月ぶりだね、シュンくん」

「あぁ、そうだね」

「あたしは3年8か月ぶりかぁ……この前は、荷物取りにちょっと立ち寄っただけだし、どうなってるんだろ」


電車の中で、そう楽しく話す僕たち。

久しぶりの長期休暇とあって、ハルカもクルミも、とても楽しそうだ。


「私も実家に帰るのは楽しみです。お父様やお母様と会えますし……」


そして、アヤメも……って、アヤメ!?


「ああああアヤメ!? なんでことに!?」

「あら、忘れましたか? 私も三重県出身なのですが。実家はイセシティなので」

「そ、そうか……」


と、そこでアヤメは申し訳ない表情を浮かべて……


「あ、でもお邪魔でしたら、他の席にうつりますが……」

「い、いや、そんなことないから、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだし」


慌てて非礼をわびる。

驚いただけで、邪魔だの迷惑だのなんてことは全然ない。

そんなこと言われたら、こちらが恐縮しちゃう。


「ということは、ツシティ駅までは一緒なんだね」

「そうですね……」


少し微笑んで、小さくガッツポーズして「よし」とつぶやくアヤメ。

うーん、アヤメってよくわからない。


まぁ、何はともあれ。


今は年末。故郷へ向かうHLTハイパー・リニアトレインの中に、僕らはいる。


(Ⅰ)


「それじゃシュンくん、また元旦にね」

「うん」


そうハルカとあいさつを交わして別れる僕たち。


あれから、ツシティ駅でアヤメと別れた僕ら……アヤメが寂しそうな恨めしそうな顔をしていたのはきっと気のせいだろう……は、普通の電車で故郷のシマシティに向かい、故郷の街に戻ってきていた。


「うーん、前に来たときも思ったけど、ずいぶん変わったよね、兄さん」

「うん。色々建物とか店が建ったりしたしね」


今年の春にこの街を出た僕と違い、3年以上この街を出ていたクルミにとっては、この街はとても変わったように見えるだろう。

僕のハイスクール時代の3年間の間も、色々新しい店や施設ができたり、古い店がつぶれたりしてたからね。


「家も変わってたらどうしよう……」

「ははは、前に行ってからそんなに時も経ってないでしょ。そんなことないって」


そう言いながら、家のほうに歩いていって……


「全然変わってないね。よかったぁ」

「ははは、そんなに喜ぶことじゃないと思うけど……あれ?」


懐かしの我が家のドアを開けようとしたら、鍵がかかってた。

やむを得ず、僕はポケットから、家を出る前に親からもらってたスペアのカードキーを使ってドアを開ける。


そして中に入ると……リビングのテーブルの上には手紙が一つ。

どれどれ……


「兄さん、なんて書いてあるの?」

「うん、それがね……」


クルミに手紙の内容を教えてあげる。

どうやら、クルミが荷物を取りに来たその翌日、大きなプロジェクトが入ってしまい、3年はこの家に戻れないらしい。

そして手紙の最後に……


「ん、どうしたの兄さん?」

「い、いやいや、なんでもないっ」


手紙の最後には


『二人きりだからといって、変なことしないように!』


という母からの追伸が書かれていた。


頼むから、そんな恥ずかしくて気まずくなるようなこと書かないでよ、母さん……。


「でも……」

「え、な、なにっ?」

「ということは、この年末年始は、兄さんと二人なんですね……」

「そ、そうだね……」


そして黙ってしまう僕たち二人。


「……」

「……」


ぬあああああ! 気まずいーーーー!!

クルミはなおのこと、僕はあの手紙のことがあるからなおさら。

と、そこに。


ぴんぽーんっ


「うわっ」

「きゃっ」


玄関のチャイムの音が突然なり、僕とクルミは二人そろって、飛び上がってびっくりしてしまった。

慌てて、玄関に出ると、そこには隣のおばさんの姿。


「こんにちは、シュンくん。やっぱり、今日帰ってきてたんだね」

「は、はい……」

「お母さんから、『多分今日帰ってくるだろうから、様子を見てきてって頼まれてね」

「そ、そうだったんですか……ありがとうございます……」


そう言って、おばさんにぺこりとおじぎする。


「どうしたんだい、シュンくん? 態度がおかしいよ」

「そ、そんなことないですよっ」

「ふーん……クルミちゃんと変なことしたらダメよ?」

「ももも、もちろんですともっ」


おばさんの爆弾発言に大慌ての僕。ともあれ、おばさんは帰って行った。

そして、僕もリビングへ。


「お帰り、兄さん。誰からですか?」

「う、うん。隣のおばさんがね。お母さんに頼まれて、様子を見に来てくれたんだって」

「そうか。……あれ? 兄さん、どうして顔赤くしてるんですか?」

「ななな、なんでもないよっ」

「?」

「そ、それじゃ、とりあえず晩御飯でも作ろうか?また、クルミのジャンパラヤ食べたいな」

「ん、わかった。それじゃ、まずは材料でも買ってこようか?」

「う、うん、そうだね」


…………

……

……


それから大晦日まで、二人で商店街に遊びに行ったら、ハルカと出くわして膨れられたり、お風呂でクルミとばったり出くわしてしまったり、おせちを届けにきたおばさんに、また茶化しついでにくぎを刺されたりと、年末の時間は過ぎていき……。


そして大晦日の夜。僕とクルミは二人で布団に入って、テレビを見たりお話したりしていた。

もちろん、別々の布団。さらにその布団の間には人一人通れるだけのスペースを開けてある。


そして……


ぴっ

ぴっ

ぴっ

ぽーん……


「あけましておめでとう、クルミ」

「あけましておめでとうございます、兄さん」


(Ⅱ)


「う、うーん……」


元旦の朝を迎えて目が覚めた僕を迎えたのは、ちょっと離れた場所から漂ってくる、クルミのかんきつ系の香り。

……そうか、昨日はクルミと布団を並べて寝てたんだっけ。

そしてすぐ近くから香ってくる、ハルカのミルクの香り……って、ハルカ!?


「ははは、ハルカ!?」

「……おはよう、シュンくん」


なんと、僕の布団、僕のすぐ横にハルカが寝ていたのだ。


「どどど、どうしてここに!?」

「それはこっちのセリフだよぅ。どうしてシュンくんが、クルミと布団を並べて寝てるのよっ」


それが恒例のバトルの口火となった。


「別にいいじゃない。あたしと兄さんは兄妹なんだもの。兄妹のスキンシップよ、スキンシップ」

「そんなスキンシップはありませんっ」

「そう? 中米では、布団を並べて正月を迎えるって習慣があったわよ?」

「中米には正月はありませんっ」


い、いや、それはあんまりじゃないでしょうか、というか、中米にだってお正月はあるよハルカ?

と、そのハルカは僕の右腕にぎゅうっとしがみついてきた。


「ち、ちょ、ハルカ……」

「だってー…… クルミにシュンくんを渡したくないんだもん……」

「あ、あたしだって、兄さんをとられたくないよっ」


ぎゅうぅ……

クルミが僕の左腕に抱きついて、ぎゅうとしがみついてくる。


両腕に女の子……なんという役得……っていやいやいや。


まぁ、それはともかく。


「もぐもぐ……うん、やっぱりハルカの雑煮はとてもおいしいな」

「ぱくぱく……うん、悔しいけど、ハルカにはかなわないなぁ……」

「えへへ、ありがとう。でも、まだまだだよ。このおばさんのおせち、わたしなんかよりずっとおいしいもの」


元旦の朝、僕たちは、ハルカの作ってくれたお雑煮と、大晦日の夕方におばさんが持ってきてくれたおせちに舌鼓を打っていた。

ハルカは謙遜してるけど、なかなかどうして。ハルカのお雑煮も、おばさんのおせちに匹敵するぐらいおいしい。

彼女は、僕の味の嗜好を知り尽くしてるからなおさらかな。


「うーん……あたしも来年の正月には、兄さんに手作りおせち食べてもらえるようになりたいなぁ……」

「そしたらもっと料理のお勉強頑張らなきゃ、だね」

「うんっ。ハルカには負けないよっ」

「わたしこそっ」


ライバル心(?)を燃え上がらせる二人。

僕はそれを横目に見ながら、ただ黙々とおせちを食べていた。

……下手に絡むと、大変なことに巻き込まれそうな気がしたから。


(Ⅲ)


かたたんことん……


そして朝食を食べた後。

僕たちは初詣に行くため、普通電車に乗っていた。


初詣先は、ハルカとクルミの要望で、イセシティにある伊勢神宮。


「伊勢神宮って、わたし行くの初めてなんだ。とっても楽しみ~」

「あたしも初めてだなぁ。楽しみだね、兄さんっ」

「そういえば、僕も伊勢神宮って行ったことないなぁ。……って」

「「なに?」」


二人、声をそろえて聞き返してくるハルカとクルミに、聞いてみる。


「どうして、二人して僕の腕につかまってるのかな?」


そう、僕の右腕にハルカが、そして左腕にクルミが、しがみつき、腕を抱きしめているのだ。

なんか、乗客の視線を集めてて、恥ずかしいんですけど……

「あの人たちらぶらぶね」とか、「若い人はいいわね」とか聞こえるし……

あと痛い視線も……


「だって、シュンくんのはわたしのなんだもんっ」

「ううん、兄さんはあたしのなのっ」


ああ……また始まった。お願いだから電車の中でバトルするのはやめてほしい。しかもこの状態で。

はぁ……早くイセシティにつかないかなぁ。


…………

……

……


そして天国のような地獄の後、僕たちは伊勢神宮へとやってきた。

やっぱりすごい混んでるなぁ……。 下手したらはぐれちゃいそうだ。


「はぐれないように気を付けてね、二人とも」

「あの……シュンさん?」

「え?」

「一体誰に、誰の手をつかんで言ってるんですか?」


その言葉に、僕はつないでる手に視線を落とした。

その視線を、手から相手の腕にうつしていく。それは白い巫女服をまとった腕で……って巫女服!?


「ああああ、アヤメ!?」

「はい、奇遇ですね、シュンさん」


そう、僕が手をつないでいたのは、112-77訓練小隊の仲間、アヤメだったんだ。

と、いうことは……


「一つ聞いていいかな、アヤメ?」

「なんでしょう?」

「ハルカとクルミは……?」

「どうやら、人波にもっていかれたみたいですね」


やっぱり……僕はがくりと肩を落とした。


…………

……

……


そして、二人で神宮内を探し回り、ようやくハルカとクルミと合流することができた。


「へぇ~、アヤメって、ここの神主さんの娘だったんだ~」

「はい。外宮のほうですけどね。それに、私には兄がいますので、神宮は兄様が継ぐんですけど」

「へぇ……」


感嘆する僕たち三人。伊勢神宮といえば、このジャパン自治区の神社の中でも最も大きく、最も偉い神社って聞いたことがある。

アヤメがそんなすごい神社の娘さんだなんて本当にびっくり。


と、アヤメが爆弾発言を。


「シュンさん、さっきの手、暖かかったです」

「え、ち、ちょ、アヤメ……」

「「……」」


だから、そんな危険な発言はやめてほしいんだけど。

ほら、ハルカとクルミの視線がすごい痛い。


「あ、そうだ、もうこんな時間。私、準備があるので、これで失礼しますね」

「え、何かするの?」

「はい。三日に、元始祭という祭事があって、私もそれのお手伝いをするので」

「へぇ……すごいね。頑張ってね」


そういうと、アヤメは顔を赤くして……


「は、はいっ。今のシュンさんの言葉で、元気120%ですっ。それじゃ失礼しますっ」


と言ってぱたぱたと去っていくアヤメ。


……って、僕の両脇の二人の機嫌をどうにかしてほしいんだけど……


(Ⅳ)


そして正月三が日の休暇も終わり、1月3日、僕たちは再び、訓練施設のあるヨコスカシティ行きのHLTの乗客になっていた。

アヤメは、初詣のときに言ってた通り、今日は元始祭に出るそうで、明日施設に戻ってくるとのこと。


「この休暇、とても楽しくてリフレッシュできたね、シュンくん」

「うん」

「色々あったよね。二人で年明け迎えたり、ハルカのお雑煮食べたり」

「うん、初詣行ったり。はぐれてるときにアヤメちゃんと何かあったみたいですけど?」


と、僕に痛い視線を向けてくるハルカ。


「な、なにもなかったよ。誤解だってば誤解っ」

「そう? ならいいですけど」


やっぱり、面白くなさそうなハルカ。

これは機嫌とっておかないと、明日の弁当が怖いなぁ……


「ねぇ、帰ったら、またイチゴシェイクおごってあげるから、機嫌直してよ」

「うんっ」


にっこりと笑顔になるハルカ。本当に現金だなぁ……


「そういえば、ハルカのお雑煮食べてる兄さん、とても幸せそうな顔してましたよね」

「う、そ、それはクルミだって……」

「明日、あたしの手料理ふるまおうかなー……」


ハルカへのおごりに便乗する気まんまんのクルミ。

くぅ……我が妹ながら、抜け目がない。


「わかったよ、クルミにもソーダフロートおごってあげるから」

「うんっ、わーいっ」

「でも……」

「ん?」


ハルカが微笑を浮かべて言ってくる。


「とても楽しい正月だったよね。来年もこんな正月を迎えられたらいいよね」

「うん」


うん。

とても不穏な情勢が渦巻くこの世界、この時代だけど、このままずっとこんな穏やかで楽しい時が流れてくれたらいいな、と、そんなことを思う正月だった。


そう思う僕、そしてハルカやクルミを乗せたHLTは、青空の下、東へと走って行った……


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