10th Day
「あ、おはよう、アズマくん、ナガサワさん」
「おはよう、シュン、ハルカちゃん」
僕とハルカが集合室に入ると、先に中にいたヨシノ先輩とシンヤがそうあいさつを返してきた。
もちろん、僕とハルカも、笑顔であいさつを返す。
「やぁ、おはよう、シンヤ、ヨシノ先輩」
「ヨシノ先輩、シンくん、おはよう」
そうあいさつを交わして微笑みあう僕たち。
「でも、シンくんとヨシノ先輩って、とても仲いいですよね」
「うんうん。それに二人が一緒に行動してるのって、見かけるの多いような」
僕たちがそう感想を言うと、ヨシノ先輩は微笑んで言った。
「えぇ。シンくんとは生まれてからずっと一緒でしたから」
「そうだっんだ……」
僕とハルカが初めて出会ったのは、確かエレメンタリー・スクールに入ってばかりだったから、先輩とシンヤはそれより長く付き合ってるわけだ。
それはこんなに仲がいいのも当たり前かな、と思う。
「やっぱり、シンヤは先輩に起こしてもらってるの?」
そう聞くと、シンヤは苦笑を浮かべて言った。
「いや、逆に僕が姉さんを起こしてる毎日だよ。姉さんって、いつも朝弱いから」
「もう……シンくんの意地悪」
その様子がなんか微笑ましくて、僕たちも微笑みを浮かべてしまう。
「もうっ、アズマくんにナガサワさんも」
「ははは……すみません」
「ぜぇぜぇ……兄さん、どうして今日起こしてくれなかったの~?」
あ、ここにも朝に弱い人が一人。
(Ⅰ)
さて、今日の午前の訓練も、この前と同じくシミュレータを使った実戦訓練。
「シュンくん、0時、3時、9時の方向から、1小隊ずつ接近してきてるよ」
「げ」
3小隊が相手、しかも包囲戦かぁ……。なんか最近、訓練の設定が厳しくなってない?
まぁ、愚痴を言っても仕方ないな。
……よし。
「よし、シンヤ。急速接近して、0時の敵を先にたたいて、この包囲を突破しよう」
「うん、わかった。姉さん、準備はいい?」
「う、うん……」
3小隊相手の包囲戦からの突破という厳しい戦況のためか、とても緊張した感じの先輩。
でも、あまり問題はないみたいだ。
「クルミもいい?」
「うん、いつでもいいよっ。人、人、人……」
……大丈夫かいな。というか、それは人前で発表するときでは。
まぁ、それはともかく。
「よし、行くぞっ!」
二機のMeSと一両のリサーチャーは、0時方向に向けて突進していった。
3時と9時の敵に補足される前に、0時の敵に接敵して撃滅しなくちゃ。
そして、二体の敵がMeSの近距離レーダーの範囲に入った。
「よし、行くよ!」
「うん!」
「が、頑張りますっ」
「やっちゃおー!」
…………
………
……
ぷしゅー……
シミュレータ筐体の扉が開き、みんなが中から出てくる。
あれから、先手を打ったのが幸いして、なんとかミッションクリアーできた。
よかったよかった。
……あれ?
「先輩? なんか顔色悪くないですか?」
「い、いえ、大丈夫です……」
「全然大丈夫じゃないですよ。冷や汗もかいてるし、足も震えてるし……」
「ほんとに大丈夫ですよ、心配しないでくだ……あ、あれ?」
そう言うと、先輩はぺたりとその場にへたり込んでしまった。
「せ、先輩!?」
「大丈夫、姉さん!?」
「は、ははは……ど、どうしたんでしょう……」
「とりあえず医務室に行こうよ。ほら、おんぶしてあげるから」
「そ、そんな、恥ずかしいです……」
「遠慮しないで。ほら」
「う、うん、ありがと……」
そして、ヨシノ先輩はシンヤに背負われて、医務室に運ばれていった。
もちろん、僕たちも一緒。
そして、医務室。
「過労ですね。あと、緊張が続いたことによる心労もあると思います」
診察を終え、クールな口調で話す、医官のヒオミ……エル=ヒオミさん。
そういえば、購買の店員さんも、エルさんって言うんだったよな。どんな関係なんだろ?
まぁ、それはともかく……
「緊張か……。ここ最近、ちょっとハードな訓練が続いたもんね」
「うん。もう少し、気を使ってあげたらよかったな……ごめんね、姉さん」
「ううん……私のほうこそ、心配かけてごめんなさい……」
医務室のベッドに横たわったまま、そう返すヨシノ先輩。
「まぁ……今週いっぱいは、激しい訓練は控えたほうがいいかと思われます」
エル先生の言葉に、がばっと飛び起きる先輩。
「えぇ、そんな!? 訓練を休むわけにはっ」
と、そこでくらくらしてしまう先輩。
「ほら、姉さん、横になってなきゃ」
「う、うん……でも……」
「休んでなきゃダメだよ。姉さんの体が一番大事なんだから」
「でも……頑張らなきゃ、シンくんのあしでまといになっちゃう……」
そう先輩が言うと、シンヤは先輩を安心させるように、ひたいに手を当てて微笑んだ。
「姉さんは姉さんのペースで、ゆっくり進んでいけばいいんだよ。無理をしなくたっていいから」
「シンくん……」
「それにね。僕ががんばれるのは、姉さんがいてくれるからなんだよ。
姉さんの存在が、僕にいっぱい力をくれるんだ」
「ありがとう……シンくん……。私も……」
「え?」
「な、なんでもありませんっ」
聞き返したシンヤに、顔を真っ赤にして言う先輩、とてもかわいいなぁ……
つねり
「いてっ」
「何にやにやしてるのよ、シュンくん」
「ご、ごめん」
その様子を見て、くすくすと笑うシンヤとヨシノ先輩。
先輩も、だいぶ落ち着いたみたいでよかった。
「それじゃ、僕たちは先に集合室に戻ってるよ。シンヤは、先輩の様子見ててあげて」
「うん、わかった」
「二人とも、頑張って」
「「え……」」
クルミの爆弾発言に、顔をこれ以上ないってくらいに真っ赤にしちゃう二人。
こんなところも、とても微笑ましい。
「くすくす、冗談だよ。それじゃ、またあとでね」
「う、うん」
「はい、またあとで……」
そして僕たちは医務室を後にした。
(Ⅱ)
さて、昼休みになって、回復した先輩とシンヤが戻ってきた。
本当によくなってよかったよかった。
「お帰りなさい先輩。具合、よくなったみたいですね。良かった」
「うん。顔色もよくなったみたいですし」
僕たちがそう声をかけると、先輩も微笑んで返してくれた。
「ありがとうございます。心配かけてごめんなさい」
と、そこで。
「で、どうだったんですか?」
ぶふぅ!!
クルミの爆弾発言に、思わず僕は飲んでいたコーラを吹きだしてしまった。
「どうして兄さんが噴き出すんですか?」
「い、いや……」
口をふきながら、クルミにそう答える僕。
本当に、クルミ、なんという発言を……
一方の二人はといえば……
「ななな、何もなかったよ!?」
「ははは、はい、何もありませんでしたっ」
顔を真っ赤にして、そろって顔をぷるぷるしてる。
でも、顔を赤くしてるってのは、ちょっと怪しい。もしかして、キスぐらいはした……かな?
と、そこに。
「……ちょっとは期待しましたけど……」
顔を赤くしてぼそりと言う先輩。
「え?」
「な、なんでもないですっ。そ、そういえばっ」
聞き返したシンヤに、ふるふるふると首を振って否定し、先輩はかばんから何かを取り出した。
それは弁当箱。
「今日は私がお弁当作ってみたの。食べてみてね」
「そうなのか、ありがとう」
ふたを開けると、中にはおいしそうな料理の数々が。
「うわぁ~、とってもおいしそう~」
「ほんとだ。ハルカの手料理に迫る勢いですよ」
「ふふふ、ありがとうございます。実は、毎日、ハルカさんに付き合ってもらって、料理の練習してたんです」
「へぇ~、そうだったんだ? 本当にありがとう、姉さん」
「いえいえ、とんでもないです。さぁ、ぜひ食べてね」
「うん」
そう言って、お弁当を口に運ぶシンヤ。
僕たちはその様子をつばをいろんな意味で飲み込みながら見守っていた。
そして。
「うん、とってもおいしいよ」
「よかったぁ……」
「いいなぁ……あたしなんか、まだまずいのしか作れないし……」
「そんなことないですよ。愛を持って頑張れば、きっとクルミさんもいいのが作れます」
「そっかー、よし、がんばるぞーっ」
ああああ、ヨシノ先輩、クルミに余計なことを……
「ん、何か言いましたか、兄さん?」
「い、いや……」
(Ⅲ)
そして、訓練が終わったあと。
僕が集合室に忘れ物を取りに行くと、そこで何かを探してる先輩を見かけた。
「どうしたんですか、ヨシノ先輩?」
「あ。アズマくん」
先輩が、探しながら、顔を僕のほうに向けた。
「実は、あるものを落としてなくしてしまったみたいで……」
「そうだったんですか。それじゃ、僕も手伝いますよ」
「え、そ、そんなことしてもらうわけには……」
「気にしないでください。仲間が困ってるのに放って置けませんからね」
僕がそう言うと、先輩はぺこりと頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……」
「それで何を落としたんですか?」
「えーと……指輪です……宝石の代わりに、色つきのガラスの玉がついた、おもちゃの……」
「へぇ……思い出の品なんですか?」
「はい……」
そういうと、先輩はシンヤとの思い出を語ってくれた。
子供のころ、先輩は今以上に大人しくて、エレメンタリー・スクールでもいじめられていたそうだ。
そのときに、シンヤがいつもかばって、助けてくれていたそうで。
そんなある日、前の日の祭りに、シンヤから買ってもらったそのおもちゃの指輪を、いじめっ子に取り上げられたそうで。
泣きながら返してくれるように頼んでも、いじめっ子は全然返してくれなくて。
そこにシンヤが、いじめっ子に飛びかかって、大ゲンカの末、奪還することができたそうだ。
「ぐずっていた私に、指輪を返してくれたシンくんが、とてもまばゆくかっこよく見えたんですよ……」
そう、懐かしむように言う先輩。
きっと、そのときから、先輩はシンヤのことを強く想うようになったんだな……
と。
「あ、先輩ありましたよ。 これじゃないですか?」
「あ、これです。本当にありがとうございましたっ」
指輪を見せた僕に、ぺこぺこと何度も頭を下げる先輩。
そこまで感謝されると、なんかこちらが恐縮してしまう。
「はい、もう落とさないように気を付けてくださいね」
「はい。ありがとうございます」
と微笑む先輩。
と、そこに。
「シュンさん、またも女難が迫っています。気を付けてくださいね」
「え?」
アヤメの言葉に、僕が聞き返した瞬間、僕はいやなオーラを感じた。
ふと振り向くと……
「シュンくん、先輩と何をしてるのかしら~?」
「い、いや、これは……」
女仁王様が、ドアのところに立っていらしたのでした。
「ふんっ、シュンくんのばかっ」
そう言ってすたすたと去っていくハルカ。
「ま、待ってよ~」
そのあと、ハルカの機嫌を直すため、イチゴシェイクを3本買うはめになったのはあくまでも余談。
To be New Day...




