変わらなかった関係、変わっていく気持ち7
いつもより短いですが、二章最後の一話になります。
その代わり、食べに来れないことが分かったらすぐに連絡してもらうためにスマホの電話番号とメールアドレスを交換しておくことにした。それに加えて、あると便利だからとSNSアプリのアカウントも教えてもらいながら作ったのだった。
何せ、最近はメールではなくこういったSNS用アプリを使った連絡の方が多いのだ。
慣れや流行という面もあるのだが、やはり、会話していることが分かりやすいその見た目から気軽に連絡しやすいというところも大きい。
そして機械全般に苦手意識をもつ杏奈はそういった情報も全く知らなかったのだが、彼曰くそのSNSは、どうやら達哉たち男子三人だけでなく晶たちも使っているらしい。何故彼がそんなことを知っているのかは分からないものの、つまりそれだけ同世代の間で流行っているのだろうと杏奈は勝手に解釈している。
ただ、その考えも大外れというわけではない。
「絶対使わなきゃいけないモノではないけど、こっちしか使わないって人もたまーにいるからね」
と達哉は言っている。
だったら今のうちに使い方に慣れておいた方が良いだろうと、杏奈はインストールしたばかりのSNSアプリを起動して、操作をしてみる。
ところが彼女の機械音痴がここでもしっかり発揮されて、達哉とアプリ上で文による会話をするのも一苦労だった。
操作を覚えるのもそうなのだが、何よりも時間がかかるのは文字の打ち込みだ。「あかさたなはまやらわ」と並んでいるフリック入力用のキーボードも、あ段より下の文字は、見えている文字を押さえてから「どっちだっけ?」と考えるため、一文字打ちこむのにも苦労するのだった。普段から、誰かとメールをするのにも時間がかかる彼女からすれば、使うツールが変わったところでそこに変化は無い。
一方でスマホには大抵パソコンのキーボードと同じ並びの入力方法もあるのだが、パソコンに慣れていない杏奈では、「あ」すらどこを押せば良いのか覚えていないため、余計に時間がかかってしまう。
そのことを知っている彼女の友人たちは、やりとりに時間をかけている暇がないと思った時にはとりあえず電話をかけてくるのだった。
それでも物は試しと、食事が終わったところで互いの連絡先が交換できたことを確かめることになった。ただそれだけなのだが、達哉から送られてきたメッセージに返信しようと文字を打ち込む間にもため息が出てしまいそうだ。
「慌てなくても、ゆっくり慣れていけば大丈夫だよ杏奈」
しかし投げやりになりかけた心も、柔らかく微笑みながら優しく言葉をかけられると、それだけで温かい気持ちで上書きされていく。
この一室で香織と一緒に生活していた時だって、誰かといることで感じられる「良さ」には気づいていたはずなのだが、今の気持ちは、つい一ヶ月ほど前まで持っていた感情とは明らかに違う。もっと、ほっとするものだ。
家族がいなくなってから杏奈がずっと手に入れたいと思っていたもの、それに近い「温かさ」をくれる人が目の前にいて、これからも一緒に、こんな気持ちを感じていたいと思った。彼との間にあった「障害」がほとんど無くなってしまった今、自分の中にある気持ちに正直になって良いことにも、気づいている。
その一方で、この人はぐいぐい押されることに反発しやすい性格じゃないだろうかとも思うのだ。
逆にそうじゃないかも知れないのだが、思い切って行動するには、まだまだ達哉のことを杏奈は深く知らない。
「うん、ありがと。慣れるように少しずつ頑張ってみるよ」
温かい気持ちと同時にやってきたもどかしさもあるが、これからゆっくりと距離を縮めていこう、そう思う杏奈はその第一歩として……
「あのさ楠本。これから毎食わたしが二人分の食事を用意するのはもちろん良いんだけど、この話、紗江にもしておこうと思うんだけど良いかな?」
「え……あの子に? 何で?」
何だか良い雰囲気になってきたな、と達哉も手応えを感じていたところに、今日はここまでと言わんばかりに二人の間の空気をぶち壊すための言葉を発するのだった。
そして、現状で投稿できる内容もここまでになります。
まだまだお話としては続けたいと思っているので完結の設定にはしていませんが、
書く速度が牛歩でして……次がいつになるかは未定の状態です。
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