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杏奈さんは少女初心者  作者: 秋瀬 満月
プロローグ
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プロローグ

プロローグ+1話を同時公開しています!

 その夢ではいつも、目が覚めるところから始まる。そして、これが夢だということを、何となくその時から分かってしまうのだった。

 それは――何度も見たことがある夢だから。



 目を開けて最初に視界に入ってくるのは、自分が寝かされているベッドと、白色で統一された天井と壁だった。


 周りには様々な機械やモニターは置いてあるが、人は誰一人としていない。

 上半身を起こしてみると、視界がハッキリしないし体がすごくだるくて、頭がボーッとしすぎていて自分がどうしてここにいるのか、それすらも分からないくらいだった。


 ここはどこなのか。

 どうして、自分はここにいるのか。


 考えてみても全く思い出せず、この見知らぬ場所が何処なのかを確かめるため、ベッドから起き上がろう……とすると、まるで見計らっていたかのように、いつもこのタイミングでその男はやってくる。


 ガチャリ。

 無言のまま部屋に入ってきた男は、そのままベッドの近くまで歩いてくると決まって、

「目が覚めたようだな」

 と言うのだった。


 返事を待っているのか男は少しだけ間を置いて、何も言葉が返ってこないと分かると、

「まあいい。まずは、記憶が定着しているか確かめさせてもらおうか。名前と性別、それに年齢を答えてみろ」

 そんな問いを投げかけてくる。


 未だボーッとする頭で訊かれた質問の答えを思い出してみると、どうやら記憶喪失ではないことが分かる。まるで長い時間眠っていたかのように記憶が曖昧だったものの、自分がどんな人間であるか、それが少しずつ思い出せるようになっていた。


「須藤祐介、男。十四歳」


 自分の名前を答えた時、一番最近の記憶も朧気に蘇ってきた。

 たしか、幼馴染を助けるために大型のトラックに轢かれて……。


「上出来だ。次はこれを見てみろ」

 しかし男は、その後のことを思い出す前に次の課題を出してくる。

 差し出されたのは、一枚の手鏡だった。


 見てみろと言われるがまま、それを受け取ってのぞき込む。

 自分の顔は思い出せていたのだから、そうする必要性なんて全くないにもかかわらず。


「……!!?」


 しかしのぞき込んだ鏡には、知っている『自分の顔』が映ることはなかった。

 それが信じられず、もう一度、自分自身のことを思い出してみる。

 ところが何度確認してみても、鏡に映るそれと自分の中の記憶が一致しない。


 そこには、一度も逢ったことのない女の子が映っていたのだから――


 力の入らなくなった手から鏡がすべり落ちて、布団が落下の衝撃を受け止めた。

 その様子を見た男は満足そうにニヤリと笑って鏡を拾うと、こちらに背を向けて言う。

「以前のお前のことは全て忘れろ。これからは女として生きていくんだからな。それから、お前の新しい名は――」



 そしていつも、必ずここで目が覚めてしまうのだった。


実はネタ自体かなり長い間温めていたもので、

途中まで書いたものもこのまま腐らせちゃうよりは…と、

初連載しました。



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