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もっと長めがいいですか?
オデニカンソウクレェ(人体実験で作り出された悲しい怪物)
今ギルドのロビーでひっそりとシリアスが進行している中、イドラは独房の中で退屈していた。
「ご丁寧に鍵の開いてない隣の独房にブチ込むこともないじゃない」
わざわざ監禁するのに鍵の開いた場所に閉じ込めるという甘い話は無い。
「あと半日は流石にきつい。体が狂騒を求めている」
退屈は人間を殺してしまうぜ。
だから、逃げよう。ここから。今すぐに。
イドラは移り気で、衝動的だという悪評ともつかない評判は暗幕のガンナーではあまりに有名だった。
「アルメイアともっとお話ししたい気持ちもあるが我慢できん。俺は風だ。渡り鳥と共に空を駆けるのだ。誰もそれを阻むことは出来ない」
ブツブツと独り言を垂らしたイドラは立ち上がる。
鉄格子に近付き、懐から鍵束を取り出した。
「イドラさんの魔法のキーケースゥ...」
カチャッ
ギルド幹部だけが所有するキーケースだが、その実、イドラにだけは渡されていない、はずだった。
「ミステリアス イズ ジャスティィス」
イドラはいとも簡単に脱獄を成功させた。
「あなたは自分が何を言っているのか理解してらっしゃるのですか?」
アルメイアは問うた。
「承知の上で御座います」
確認はもういいという意志がクロームから感じられた。
まさかそのような話が持ち上がっているとは。アリサは内心驚愕していた。
資本主義都市ルミネルは資本主義の例に漏れず国内勢力の対立がはっきりしている。
暗幕のガンナーが位置する西側。
東側筆頭のスネィクショットというギルドがあるのが東側。
というように認識されている。この都市では地方自治はギルドに委ねられているためギルドの方針によって治安の良さや住みやすさは180度変わる。
商会などにとってもギルドの存在は大きく、傘下に入ったギルドの力によって趨勢が決まるというのもザラだ。
だが、まさか西側と東側の筆頭商会が手を組むというのか?
「私も今その話を聞きましたが正直賛成はできません。競争こそ資本主義の本分かと。しかしその縁談を処理しろという依頼、相応の対価が必要です」
ここで無理と言わないところが暗幕のガンナーのギルドマスターのプライドを感じさせる。
そも、どうやって処理すればいいというのか、縁談など。
相手方からの提案なのだろうが、恐らくクロームの両親も引き受けたということではないだろうか。だからこそ、個人の頼みなのではないだろうか。ということは、少なくとも東側と西側両方を説得しなければならないということだ。
「...が、まず貴女の動機をお聞かせ願いたい。縁談を取り消したい訳を。そこが肝要です」
私も一番気になる所だと少しばかり身を乗り出してしまう。
クローム嬢はふと目を伏せ、一呼吸置き、またアルメイアの目をしかと見据えた。
「私には夢があります」
「世界を旅する夢があります」
「商会を継ぐ気などさらさらありませんし、ましてルミネルの人間と結婚など考えたくもない」
「商会など養子をとってその子に頑張ってもらえばいいと思っております。幸い父上はまだ壮健ですので時間はありますよ」
「二つ目の夢は遠い異国の地で見たこともない魅力的な男性と子供を沢山作ることです。最後は沢山の子供や孫に看取られて死ぬのです。私が望むのはそういった人生です。そのために縁談を跡形も残らぬよう粉々に破壊して欲しいのです」
「ちなみに、父上とは一年間口をきいておりません」
ド ン!
怒涛であった。
アルメイア様と私はクローム嬢のあまりの勢いに呆気にとられてしまっていた。常識人だと思っていたがとんだ勘違いだったようだ。彼女の願望とはまさに私利私欲である。だが、それを語っている時の彼女の目はとても輝いていた。
うちのギルドの数少ない掟、その最後に記された項目。
「より楽しくなる方へ」
アルメイアは呟いた。
誰が作った掟か丸わかりだが、この掟は暗幕のガンナーを確実に成長させてきたと聞いている。故に、この掟は絶対優先。
「面白い。その縁談、暗幕のガンナーが塵にして差し上げましょう」
mission クローム嬢の縁談を阻止せよ