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「さぁて次はどいつから...?」
指名手配犯であるシスイは状況を楽しんでいた。
時が経つとともに自身にかけられた賞金が上昇しているのにも関わらず、まだ自分が捕まっていないという事実に快感を覚えてしまっていた。
彼にもtriggerがあった。
名はバブルグレー。
洗脳のtriggerである。
まず、triggerという異能の詳細だが、自身あるいは他人の何かしらの行動や感情をきっかけにして起動する能力である。
キャサリンを例にとれば、彼女のクリムゾンライフルはイドラの怒りをきっかけにして発動した。きっかけにしたものが強ければ強いほど威力は上昇する。
傾向として、物質化したtriggerは単純な威力や速さ、非物質化したものは特殊な能力に特化する。
また、triggerは色にまつわる名称をしている事が多く、色からある程度の能力の起動条件の類推が可能な場合がある。
能力者本人の人格によってtriggerは形成されるというが、trigger自体が発現した例が少ないため今日まで研究が続いている。
コツコツ...
「今日のが来たようだね」
薄暗い空間で中央に立つシスイはこちらに歩いてくる少女をチラリと見て口角を上げる。
月明かりに顔のタトゥーがうっすらと照らし出された。
彼が何故指名手配犯として追われているのか。
その罪状とは、
都合10回の強姦殺人。
「さぁ、おいで...」
「ストップ」
静止。
「ッ!?誰だッ!!」
浮かび上がるシルエット。
「あーいや通りすがりのモンなんですがね。今何しようとしてたか教えてくれないかい?」
「何って恋人と待ち合わせをしていたんですよ」
努めて冷静に答えることに成功する。
「左様でしたかっ。いやいや気が利かなくて申し訳ない」
似たような局面は潜り抜けてきた。今回も同じようにやる。
「それにしても同じタトゥーをして随分と仲がよろしいんですなぁ」
「ええ、まぁ」
「それに、こんな大都市の端っこにこれほど月明かりが綺麗な場所があるとは驚きましたよ。中々センスがよろしい」
この時点で普通のカップルであれば無粋以外の何者でもないような男を前にして、シスイの頭は目の前の男をどうやって殺すかということしか考えていなかった。
「強姦殺人魔にしてはな」
なので、度肝を抜かれる。
即殺。
シスイはその思想に支配された。直後、起動。
「バブルグレーッ!!」
「おいおいtriggerの名前を叫ぶなんてトーシロじゃあるめぇしよ〜」
そう言う男の足元から泡が噴き出した。
貰ったッ
シスイは安堵した。
だが、倒れていたのは自分だった。
「は...?」
霞む視界で男はにやりと笑った。
「残念だったな。triggerの勝負なんて八割相性だ。そして、俺とお前の相性は悪かった」
そんなことはどうでもいい。
「じゃ。この子は家に返させてもらうから安心しなよ」
俺の、俺のモノ...
「ふむ...死刑確定のお前に言っても無駄かもしれないが。」
「女ってのはモノじゃないぜ」