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目が覚めた。独房だった。
何を言ってるかわからねーと思うが俺にもわからねぇ。
手を顔に添えてポル◯レフごっこをしているとコツコツと足音が聞こえた。ヒールの音だ。
「またかイドラ」
聞き飽きた説教。それはある意味毎朝食べる食パンだ。味には飽きてる。だが食らう。マーガリン、ジャム、目玉焼き、ハム。トッピングなんてそんなもん。
「小銭稼ぎもいい加減にしろ。あれはお前の仕事じゃない」
「アルメイア。ありゃ仕事じゃねぇ。ただ、良い女を見つけたから金払ってワンナイトラブしようと思ってたまたま賞金首だっただけよ」
「全て計算の内だろうに。わざとらしい。お前のそういう所が嫌いだ、私は」
アルメイア、こいつは顔は良いが20を過ぎて男と手を繋いだことさえ無い喪女だ。そこが良いともいう。
「大体、お前は依頼を他の奴らに放り投げては路上に転がっているのを回収されるのが常態化してるんだ。そうなる前に偶然通りかかった私に連れ帰ってもらった事を感謝しろ」
「いや、trigger使って直接独房に叩き込んでおいて何を...」
「あぁッ!?」
強引だ。そこがいいと俺は感じてる。
「とにかく業務怠慢であと半日はここで過ごしてもらう」
「横暴だー!!出せー!!」
「そうか。では給料を」
「ここに居させてください!」
俺はアルメイアの前では従順な犬となる。
「よろしい。では私は行く」
「わん...」
俺が寂しげに鳴くのはここにあと半日居なくてはならないからじゃない。アルメイアに詰られる時間が終わったからだ。俺はアルメイアにこんな体にされてしまったんだ。
アルメイアは去った。最後に俺は左右に元気よく動く桃を眺め面会時間を終えた。
ここだけの話。アルメイアは普段めちゃくちゃに人当たりのいい奴だ。つまり、
俺はあの女にどちゃくそに惚れていた。
半日経って夜。俺は独房から解放された。
生憎とアルメイアには会えなかったが、これで良いとも思っている。
俺はイカロス、又は、飛んで火に入る小バエだ。近付きすぎると燃える。正確にはアルメイアに殺される。
光り輝くアルメイアにハエとなった俺が燃やされる気持ち悪い想像をしながら夜を歩く。
頭で考えていることはともかく、今の俺は最高にcoolだ。夜の街灯照らすレンガ造りの小道を颯爽と歩く様は自分で震えがくる程だ。
ふとこの世界の事を考える。
俺の出生の事を思い出す。
俺は5歳の時、自分が元はこの世界の住人ではない事を悟った。頭の中に違う世界の記憶があった。でも俺は俺だった。おそらく俺は俺を淘汰したのではないかと思う。5年という年月を掛けて。それ以前の記憶がない事と周りの人間から明らかに人が変わったと言われたから。
...やめよう。この話は。5歳の時だ。記憶も曖昧だし異世界だなんて眉唾もいいところだ。拗らせたやつだと思われちまうよ。
俺は俺。それでいい。
あっ、あの子かわいい。今日も今日とて女の尻を追うぜ。声を掛けてみるのも全然アリだなこりゃ。coolな俺は死んだ。ハイエナに成り下がるのに1秒も要らない。しかし...
大通りでチラと見た指名手配犯の張り紙。
顔に刻まれた仰々しいタトゥー。
少女の手の甲に見えた気がした同様のモノ。
「気のせいだといいがね」