第五話 「グランドマスター」
冒険者登録も無事に済んだアレク達は冒険者ギルドを後にする。
ジャックが言っていた忠告がアレクは気になっていた。遠回しにぶつかる事になるだろうから気をつけておけというニュアンスであったが、どうすれば良いのかわからずにいた。とりあえずはフランとミラが言うグランドマスターの処へと足を向ける。
本来であるならばシリアスになってしかるべきではあるが、この状況が幼い頃に味わった初めてのお使いのような感覚で何となく懐かしさも覚えてはいた。
「アレクさんなんか楽しそうですね」
アレクの顔が楽しげに見えたのかフランが言う。
「うん?そう見えたかな。ところでグランドマスターってのはどんな人なんだい」
グランドマスター、この世界で一つのジャンルを極めし者と言う説明をフランとミラに聞いてはいたが、どのような人なのかは聞いてはいなかった。これから会うべき人物がどのような人物なのか事前情報としてアレクは知りたがった。
「グランドマスターは、すごい年齢なんだよ!」
アレクの質問に答えたのはミラだった。まだ幼さが残る少女の声はアレクの心を常にほっこりとさせる。
「すごい年齢ってのは相当なご高齢ってことかな?」
高齢ではありますが、老人ってわけではないんですよね。羨ましい限りです。となぞなぞじみたことをフランが言う。他にこの世界において賢者と呼ばれる人間は数えるほどしかおらず、その一人が今から会うグランドマスターであるらしい。
グランドマスターのところへ向かう最中に街を見渡す、改めて異世界へ来てしまったんだなと実感する。猫耳や尻尾など二次元で可愛いと思っていたものが三次元になると違和感があるものだが、コスプレという文化に慣れている日本人だからなのかそれとも本物ゆえに違和感を感じさせないのかはわからないが、可愛いなと思ってしまっている自分がいる事にアレクは気づく。
この世界では人種による差別などはあるかどうかはわからないが、今のところはそれを感じさせるものはなかった。そういうことも時間があるときに聞いとかないといけないなとアレクは心にメモをとる。
しばらく歩いていると物語に出てくる貴族が住むような洋館が見えて来た。二人によるとその洋館がグランドマスターの邸宅らしい。アレク達はそのまま門の前まで行くと、横に立っている衛兵にエアリアル商会の姉妹が至急グランドマスターに要件があるので面会を求めるという趣旨を伝えた。
衛兵はお待ちくださいと、取り継ぐために館内へと姿を消す。アレクはグランドマスターがどういう人間かは
わからないがこの世界において魔術師の極みにいる存在、代理人の可能性もあるのではないかと考える。
その場合は一戦を交える覚悟をアレクは決めた。
「お待たせしました。中へどうぞ」
先ほどの衛兵が戻って来てアレク達を屋敷の中へと招き入れた。
広い庭、中央には貴族の館を連想させる噴水がありその四方には花が咲き乱れていた。アレク達一行は衛兵に案内されその庭を超え館の内部へと招き入れた。衛兵はこちらですと一際大きなドアの前にアレク達を案内するとドアをノックした。
「エアリアル紹介の方々をお連れしました」
衛兵はドアの向こうにそう声を掛けると
「入ってくれたまえ」
可愛い女性の声が返って来た。
衛兵がドアを開けると、フランが先導で部屋の中へと入り、その部屋の主であろう存在に挨拶をした。
「ご無沙汰しております。エアリアル商会が長バレロの娘フランです。この度はグランドマスターパメラ様に是非会わせたい方がおりましてお時間をとらせていただきました」
フランはスカートの端をつまんで軽くお辞儀を目の前に立っている少女にした。
「フラン久しいな。儀礼じみた挨拶は抜きにして、合わせたいというのはそこの……少年か?」
身の丈はフランよりも低く、長い金色の髪と青い瞳が人形的な美しさをアレクに感じさせた。
「初めまして、グランドマスター。僕はアレクって言います。記憶を失っているからなのか、魔法が使えずその対処方を聞きにフランとミラに勧められてお伺いしました」
アレクがそういうとグランドマスターはアレクの元に歩み寄り、足のつま先から頭の先までをじっくりと観察した。
グランドマスターは次にアレクの手をとり観察した。そして訝しげにアレクの顔を見る。
「フラン、ミラ少し席を外してほしい。少しばかりこの少年と二人で話したい。そういって二人を部屋の外に追いやり、部屋の中にはアレクだけが残った。二人が外に出たのを確認したグランドマスターは口を開く。
「さて少年。いやアレク、本当に記憶がないのかな?」
グランドマスターは確信を持った表情でアレクを見る。
アレクはどう答えるべきか考えた。本当のことを言ったところで信じてもらえるか、もしくは半分本当で半分嘘で誤魔化すか、それともしらを切り通すかを迷ったがここは本当のことを話すことにした。
「お見通しですか。記憶はあります」
グランドマスターはアレクの言葉に満足気に笑った。そして踵を返しソファーに座り込む。
「とりあえず座ったらどうだ?それとグランドマスターなんて大層な呼び方ではなくパメラで構わない」
「ではパメラ、なぜ僕に記憶があると?」
「簡単なことだよ。カマをかけただけだ」
そう言って口元を手で隠すようにクスクスとパメラは笑った。
「……では特に魔法を使ってわかったとかでは無いと?」
「確かにそう言った魔法もあるし、私も使えはするが当人が隠そうとしていることを無理に暴くのは趣味じゃ無いんだ」
カマをかけるのはいいのか、とアレクは内心で思ったが口にはしなかった。
「ところで僕は魔法が使えないのでしょうか?」
「使えると思うぞ。ただ……使えない理由を君自身が知らないのが腑に落ちないな」
アレクはパメラの視線が手元にいっているのを見て自分の手を見る。鈍く輝く銀色の指輪が左手に二個と右手に金色に輝く指輪が一個はめられている。それ以外に特に変わったところはない。
「僕の手に何か問題でも?」
「その指輪を見せてもらいたいから、指から外してもらえるとありがたいんだが」
アレクはパメラの申し出に応じて指から指輪を外そうとするが外れなかった。
「外れない……」
パメラはやはりかと得心がいった様子だ。
「その指輪はアーティファクトだね。その指輪の一つが君が魔法を使うのを阻害している」
「これを外す方法は?」
「それをつけた人物がその指輪を条件付きでつけさせている場合はそれを満たせば外せるんだが、その条件を君は聞かされてはいないんだよね?まぁ私のところに来ている時点で知らないのは明白なんだが……」
そういってパメラは少し考える。
「とりあえず、君自身は魔法は使えるはずなんだ。だから私の方から一つアドバイスしとこう」
そういってパメラはソファーから立ち上がりアレクの前へと歩み寄る。その際に右手を胸の位置にあげ、人差し指を立てた。
「君はそのアーティファクトのせいでマナを感じることができないかもしれないが、本来誰でも感じることができるものだ」
パメラはそういうと指先の先端に光り輝く球状の物体を発現させた。
「今君の目に見えている球状の物は私が想像し魔力によって具現化した物だ。そして魔法とはこの世界が創造された時に世界に刻まれた碑文より力を借りることによって発動するものだ」
アレクは咀嚼しながらパメラの話を聞いた。要は格闘ゲームで言うところの普通の攻撃は自分の想像のみでできますが、必殺技は碑文の力を借りて発動するしかないとのことらしい。
「こればっかりは実際に発動しないとわからないとは思うが、そうだな実演してみせよう」
パメラは名案とばかりに手を打った。そして何もない場所にドアを出現させた。
「それじゃあ行こうか」
パメラは出現させたドアを開けて中へと入った。アレクはそのドアの先がこことは全く違う草原なのを見て、転生前のアニメで出てくる有名なドアを連想した。
アレクがそのドアをくぐると自動的にドアは消滅した。くぐった先は所々に大きな岩があるが、そのほかには何もない草原だ。
「それじゃあ早速実演してみようか」
そういってパメラは何もない場所から杖を出現させ手に取る。手に取った杖を軽く振り上げ、振り下ろすと言う動作をパメラがすると杖の先から光球が飛び、その光球が飛んだ先にある巨大な岩を粉砕した。
「これが魔力を形にしただけの球体の威力だ。そして次が本番の魔法だね」
そういってパメラは杖を高くあげ、両手で持ち呪文を詠唱した。
「世界の始まりを照らす光よ。我が前に立ちはだかる一切の敵を消滅させよ。デイブレイク」
詠唱を唱え始めた時から杖の先端に集まりだした光は詠唱が終わると同時に急激な広がりを見せ、次の瞬間強烈な爆風と眩い光がアレクを襲った。しばらくして爆風が収まるとアレクは目を開いた。先ほどまではどこまでも続くであろうと思われた草原がかなりの範囲で荒野と化していた。
「これが魔法だ。もちろん詠唱者によって威力と使える魔法は違う」
パメラは得意気な顔でアレクを見た。
「この魔法は僕にも使えるんですかね?」
「どうだろうね。使えたとしても使用者によって威力が違うからなんとも言えないな」
例えばとパメラは続けて、魔法詠唱に得意な魔法と不得意な魔法があり術者によって同じ魔法でも威力効果は天と地の差が出る。使いたい魔法をイメージして念じると、脳内に呪文が浮かびそれを詠唱することによってイメージに一番近しい魔法を発動できること、そして詠唱は基本的に最初の一回のみすれば次回からは念じるだけでも発動できる趣旨の説明をしてくれた。
「まぁ魔法は応用だ。使用者の使い方によって不可能を可能にすることもできる。だからこそ使い方を間違ってはいけないと言うことを肝に命じておいてほしい。特に君みたいな特別な子にはね」
アレクが何者であるか見当がついているかのような含みをもたせた言い方をパメラはした。
「現状魔法が使えない僕はどうやって魔法に対処すればいいですか?」
アレクはジャックとの戦いで魔法に対応しきれなかった事を思い出し、対処法はないのかとパメラに尋ねた。
「普通だったら誰しもが使えるものだから、それに対する対処法は自ずと剣技か魔技になってしまうんだが、現状で取れる策があるとするならばマジックアイテムに頼るのが最善だろう」
そういってパメラは自分の首からネックレスを外すとアレクに投げた。
「持っていきな。魔法による攻撃を三回無効にするアイテムだ。使い終わると砕けるから、その時点で対処しきれない相手と退治しているのならば潔く撤退しなさい」
少なくともその魔法を使えなくしているアーティファクトを解除できるまでは無闇矢鱈に敵と戦うなとの忠告をアレクは受けた。
それから追加で軽く魔法等の説明をパメラから受けた。魔法が不得意な者は魔法を使わない方が強い場合もあるとの事と、その場合は魔力を使わないスキルを磨くしかないと言う説明も受けた。
フラン達を襲った山賊は魔法が不得意なタイプだったのだろう。スキルも使ってこなかったことを見るとやはりゲームの世界で言うところのスライムとかゴブリン程度の相手だったのだろうとアレクは結論づけた。
そうなってくると自分の強さがどの程度なのか未だ判別がつかないのが一つの懸念事項として胸につっかえる。
「パメラ。一度手合わせを願えませんか?」
この世界においてのある一種の超越者。それを相手にしてどれぐらい戦えるか、それは一つの指標になるのではないかと思い手合わせを願い出た。
「そうさねー。別に私は構わないんだけれど、多分現時点の君だと無理だと思うよ」
現時点で勝機はないと言いながらも律儀なのかパメラはアレクに対して杖を構えた。
アレクは軽く礼のお辞儀をして鞘から剣を引き抜きパメラと向かい合う。
では、とアレクは全力でパメラに斬りかかった。
「速いねぇー。剣技も何も使わずにそれだけの身体能力ってのは普通の人間じゃないよね」
別に慌てるでもなく、パメラは距離を詰めるアレクに対して感想を述べた。
縦からの一撃を半身を引いて避ける。滑らかなその動きはまるでアレクの攻撃を問題にしていなかった。アレクは追撃とばかりにそこから剣をひき、一歩踏み込み刺突へと切り替えるがそれも軽く躱された。あまりにも流麗なその動きは闘牛士と闘牛のようであり、そこからさらに繰り出されるアレクの攻撃の数々は一撃もパメラに当たることはなかった。
「君は素直だねー。まぁ素直と言うよりもその高すぎる身体能力を生かしきれていないと言うか、中身と体が別物のように感じ取っちゃうな。……あながち間違ってもいないとは思うけれど」
パメラはそう言いながら杖をまるでバトントワリングするかのように操り、勢いをつけた杖をアレクの鳩尾に打ち込んだ。アレクはくの字になり、口から胃液が飛び散った。パメラはそれを見てここまでにしとこうとアレクに告げた。
「本来だったらこの結果程の差はないはずなんだけれど、とりあえずは経験値の差って言葉で片付いてしまうね。君も最初から勝てないと潜在的に真剣で向かってきたんだろ?気づいてるかどうかはわからないけれどね」
パメラはアレクを寸評し杖をしまった。アレクは先ほどのパメラからの一撃でまだ意識が朦朧としているが、深呼吸を数度繰り返し、意識をクリアーにしていく。パメラはアレクが落ち着いたのを見て声をかけた。
「エアリアル姉妹と一緒行動していると言うことは商会に雇われているのかな?」
「一応そんな感じですね」
呼吸が落ち着いたアレクは地面に胡座をかきながら答えた。
「なるほど。数日後に行われるポーションの販売権について君はどの程度理解している?」
パメラの意図が読めず、アレクは少し考え込む。パメラはそれを見てアレクが理解していないと判断して説明を始めた。
「まずポーションというアイテムが何なのかはわかっているかな?」
この世界においてのポーションとアレクが知っているポーションが同一であるならば回復アイテムである。アレクはそれを前提にパメラの問いに答えた。パメラはアレクの回答に満足し、ではそれがどれほど画期的なアイテムであるのかを話し始める。
元来攻撃魔法や刃物等での傷等は回復魔法か病院での治療のみによって処置が行われてきた。当然回復魔法が不得意な人間の詠唱では治る傷も限られている。そして使える魔力にも限度があるため診れる人間も限られていた。病院での治療の場合はある程度の時間がかかり、兵士や冒険者等が怪我をした場合はすぐに復帰は難しかった。だが、ポーションの発明によって誰でも一定の効果を得ることができ、物さえあれば延々と回復することができる。そして戦闘においても有利になるのは明白なアイテムである。そんなアイテムの入札が近日行われる。その意味がわかるかとパメラはアレクに聞いた。
「……血を見る結果になりますね」
単純な事だ。回復アイテムがまだ開発されていなかった世界で、初めて回復アイテムが生成された。それの独占販売権などといったものが絡むならば当然どんなリスクを侵しても手に入れたいと思うのが人間である。そして商人であるならば尚更だ。
「ここ最近めぼしい商会の関係者が誘拐されたり殺害されたりする事件が頻繁に起こっている。ポーションの入札が絡んでいるのは明白だ」
そして有名な冒険者達もこの街に入ってきているらしいことを告げる。入札当日までに間違いなくエアリアル商会の関係者も狙われるであろう。もちろん雇われている君もだとパメラは念を押す。
アレクはそれに対してそれは覚悟の上です。そう簡潔に答え、先程から疑問に思っていたことを口にした。
「もちろん独占販売権などと言っている程ですから、生成方法は非公開何でしょうが生成するのはそんなに難しいものなんですか?」
パメラはアレクの問いに口を開く。
ポーションの生成が成功した時に、どうやって生成したのかは公開されている。簡単に生成方法を説明するならば、数種類の薬草を魔術付与された釜で煮込みその液体を精製することによってできるらしい。パメラはアレクにそう説明した。
「では真似して作ることも可能なのではないでしょうか?」
パメラの説明からは簡単に同じようなものが作れる気がしてアレクは質問した。
パメラはその釜には特別な魔術刻印が内部に彫られていてそれを模写でもしてこない限り無理だということと、その釜の所有者の魔力でなければ起動できないらしいので、仮に盗んだとしても所有者も同時に誘拐しなければ無意味だという事を聞かされた。さらに駄目押しで巨大な釜な為現在設置されている場所から持ち出すには建物自体を破壊しなければいけないみたいだ。
「私も時間さえあれば作れなくはないだろうが……後数十年はかかるだろうな。そもそも私はポーションなどと言うものを必要としていなかった為に発想すらできなかったのだ……」
パメラは自分が先に開発できなかったことを悔やんでいた。
ポーションがパメラが作るとして数十年もかかる品物だと言うのがアレクからしたら驚きだったが、難病に対する新薬の開発期間だと考えるならば妥当なのではないかと勝手に納得した。
「ところでパメラはいくつなんでスカ?見た目的には僕より若い感じがしますが」
話した感じからは自分よりある程度は年上だと言うことが理解できるが、パメラの見た目がそれを否定する。アレクは気になりだしたので直球でパメラに聞いた。
「アレク、女性に年齢を聞くのはあまりよろしいとは思えないぞ。まぁ隠しても仕方ないし、後で周りに聞けばすぐわかるであろうことなので教えるけれどな。確か今年でちょうど五百歳を迎えることになるな」
アレクは聞き間違いではないかとパメラに再度聞いたが同じ答えが返ってきた。なんでも一日過ぎれば一日戻る魔法を体に永続的にかけ続けているので擬似的な不老不死の状態にあるらしい。ただ体に欠損がでたとしらリカバリーは他の魔法を使わなければ回復しない為致命傷を受ければ命を落とすとの説明もしてくれた。
そんな話などをしていると空が少し暗くなってきたように感じた。アレクはフラン達をまたしていることを思い出し、そろそろ戻りましょうとパメラに提案した。
パメラはそうだなと来た時と同じドアを出現させ、そのドアをくぐった。ドアの先はもちろん元居たパメラの屋敷なのだが未だに違和感が拭えないで居た。何回か利用すれば慣れるものなのだろうかと内心で思っているとパメラから声がかかった。
「アレク、私はグランドマスターという立場上個人的な誰かの味方になるのが難しい身だ。だからこれはお願いなんだが、できる限りでいいフランとミラを護ってやってくれ」
簡潔ではあるが、気持ちがこもった言葉をアレクに投げた。先ほどのパメラの説明からフラン達が狙われる可能性は非常に高いのであろう。それを見越して信用できそうな人間に頼めればというパメラの言葉だ。それを聞いたアレクはパメラを見て答える。
「言われなくってもできる限りのことはしますよ。ああいう笑顔が似合う優しい女の子を護れなきゃ勇者になんて到底なれないですからね」
そう言ってアレクははにかみ笑った。
パメラはそれを聞いて安心し、使用人を呼びフラン達を再度部屋に呼び寄せた。応接室でお茶と茶菓子で使用人と話して居たらしく退屈ではなかったとアレクは聞かされた。
アレクの記憶についてはどうだったのかと聞かれたが、アレクは手がかりはつかめたとうまいこと誤魔化し、パメラに目配せをする。
「まぁアレクは大丈夫だろう。それよりも二人とも最近物騒なんだから気をつけるんだよ。いつ襲われるとも限らないんだから」
パメラにそう言われてフランは今日賊に襲われて、その際にアレクに助けられた話を出した。パメラはバレロは何をしているんだと頭を抱え、アレクの方を見てお願いするまでもなかったみたいだなと声をかける。それにしてもバレロのところの傭兵団は何をしているんだとパメラは呟いたが、もしかしたらと勝手に納得したようだった。
軽く談笑した後にアレク達はパメラの屋敷を後にした。
「だいぶ外も暗くなって来ましたね」
外に出て空を見るとすっかり暗くなって居た。空気が綺麗なせいか星々が綺麗に見える。これだけ綺麗な空を見るにはいつぶりだろうとアレクは振り返る。フラン達は行きましょうかと先に足を進めて居た。
来た道を折り返しているだけなのだが、街は先ほどまでと打って変わって夜の顔を見せていた。街灯が街を照らし、多数の酒場の至る所から人の声が聞こえてくる。酒場の前を通り過ぎると料理の匂いが鼻をくすぐり、まだこの世界に来て何も食べて居ないことに気づく。お腹からは空腹だと音がなり、口には唾液が溢れて来て居た。
「フラン、ミラどこかで食べていくか?」
アレクの問いに二人は少し悩んだが、お父さんがアレクさんの歓迎も込めてディナーを用意していると思うのでここで食べたら入らなくなってしまうからと辞退されてしまった。アレクもそれならばここでお腹を満たすのは得策ではないと思い諦めることにした。
この世界に来てまだ一日だが、今までの世界とは全てが違うとアレクは感じて居た。最低限言葉が通じるのが救いではあるが、日本の常識が一切通じない世界。この世界で究極的に言うなれば殺し合いをしなければいけない自分の選択が正しかったのかについて少しばかり考えたが、突然に神様が現れて選んだ選択。これからどんな結果になろうが後悔だけはしないようにしようと思いながらアレクは帰路に着いた。