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異世界代理戦争  作者: Hazy
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第四話 「剣技と魔技」

 教会みたいな外観の冒険者ギルドの入り口び立つ。

 アレクはその建物の扉に手をかけた。扉は木でできており龍の模様が彫り込まれていた。冒険者への資格を試すような重厚な構えである。その厚みのある扉を開けると、吹き抜けの天井と窓から光が差し込んだ空間が現れた。

 受付と思われるカウンターは数個あり、その半分は現在進行形で冒険者達が依頼を受けたり、依頼書の内容の確認をしており埋まっていた。

 アレク達は空いている受付にバレロから預かった依頼書を差し出した。受付の女性は微笑みながらその依頼書を受け取った。依頼書の内容に女性が目を通すと。


「エアリアル商会のバレロ様からの直接のご依頼ですね。添えられた手紙も拝見させていただきましたが、 アレク様はまだ冒険者登録されていらっしゃらないようですのでまずは登録からになります」


 受付の女性はそう言って一枚の紙をカウンター越しに差し出してきた。

 アレクはそれを受け取り記入箇所を確認する。


「——ッ。字が読めない」


 思わずアレクは口に出してしまった。

 言葉が通じて会話ができるので、字も問題なく読めるだろうと思っていたが、そうはならなかった。英語でも日本語でもなく、今まで見たことのない文字で綴られたそれはアレクに異世界だもんなと変に納得させた。


「あ、大丈夫ですよ。字が読めない場合は私達係りの者が代筆しますので」


 そういってアレクから紙を受け取りペンを持った。


「ではお名前・性別・年齢・クラス、それとクエストを受けて不慮の事故に遭われた場合の連絡先がございましたらお教えください」


 アレクはそこでまた一つ困ったことがある事に気づいた。自分の年齢である。未だに姿見で自分の外見を確認してはいないが、フランやミラの反応からそこまでの年の差がないであろう外見だろう。前の世界で言うところの身分証明証を提示しないでいいあたり多分適当でも問題はないのだろうが、さてどうしたものかと思案する。

 少し間があったのでアレクの後ろにいたフランが察して口を開く。


「あの、アレクさん記憶喪失みたいで名前だけしか覚えていないんですよね」


「なるほど。記憶喪失という事ですか……。とりあえずわかる範囲で構いませんよ。極端な話名前以外は適当でも問題はないんですが、依頼を受ける際に性別や年齢は条件で提示される場合がございますのでその類の物だけ受けることができません」


 女性の説明にアレクはそれで構いませんよと答えた。それに対して性別はわかりますよね。と女性は微笑みながら返した。


「はい。男です」


 その言葉に係りの人間は微笑みを崩して


「え、男の子なんですか……。綺麗な顔立ちだったんでてっきり女の子かと思いました」


 この性別を間違われるやり取りは今回が初めてじゃないために、またかと思ってため息を吐いた。アレクの外見から性別を間違わなかったのはエアリアル商会の面々だけという事になるが、そんなにも女の子のような容姿なのだろうかとアレクは不安になった。

 一通りの質問が終わり、これで書類の方は終わりですとアレクに女性は言った。


「では本来ですと、今回のクエストは実力が把握できていない初級冒険者には受けさせられないのが通例です。なので実力の方を図るテストをさせていただきます」


 そう言って係りの女性は席を立ち、こちらについてきてくださいとアレクに言った。アレク達はそれに付き従い歩いた。カウンターの横の細い廊下を歩いて行くとドアに突き当たる。女性はその扉を開けると光が差し込んだ。外と繋がっているようだ。

 ドアを抜けると四方を壁に囲まれた庭のような場所に出た。庭と言っても校庭といったほうが正しいであろう程の大きさの庭である。その庭は白線で区画分けされており、その区画毎に木刀での打ち合いが行われていた。

 女性は辺りを見渡し手が空いている人間を探した。奥の方であくびをしている職員を見つけると、彼女はそこに向かって歩いていった。アレク達はそれに付き従って移動する。


「ジャックさん、これを」


 そういって女性はジャックと呼んだ男に依頼書と先程の冒険者登録の用紙を渡した。ジャックをそれを受け取り一通り目を通すとアレク達を見やる。


「男と書いてあるが、見た所そこにはエアリアル商会の嬢ちゃん達と見知らぬ嬢ちゃんがいるだけだが、アレクってのはどこだ?」


 そういってジャックは周りを見渡した。


「……僕がアレクです」


 そういうとジャックはアレクを見やる。ジャックは本当に男の子なのかと疑った目線を向けた。


「まぁあれだ……。君はこのクエストを受けるのかい?内容から最低Bランク程度の実力が必要と判断するが、Bランクっていうのは普通の冒険者ならば三年で到達できれば早い方なんだが……」


 そういって難しいんじゃないかと言葉を濁した。


「ジャックさん、既に目を通していると思いますがエアリアル商会のバレロ氏より直々の推薦状もあるのでテストの方だけはお願いいたします」


 係りの女性はそういってジャックに試験をするように促した。


「だけれどなぁミランダ。いくらバレロ氏の紹介といっても俺は甘くはできな——」


「あの、アレクさんは盗賊数十人を一瞬で倒してしまうほど強いですよ」


 フランはジャックにアレクの強さを簡潔に説明した。それを聞いたジャックはフランの目を見た。ジャックはフランが嘘をいっているようにも見えなかった。


「……良いだろう。それが本当か嘘かはわからないが、とりあえずテストだけはやってやる。そこに立てかけてある木刀から好きなのを選べ」


 壁には様々な長さの木刀が立てかけられていた。アレクは自分が腰に差している剣と同じぐらいの木刀を選んだ。


「これで良いです」


 そういって腰に差した剣をフランに預けジャックに向かい合う。


「体躯の割に長物を選んだな。簡単にルールを説明する。相手の体のどこかしらに木刀を三度当てれば合格だ。触れるのではなく有効な剣戟を三回だ。もしくは相手の降参、この場合は俺が降参したならば合格だ」


 そういってジャックも木刀をとりアレクと向かい合う。


「ちなみにこの長方形に引かれた白線から出たら一回当てられた事になるから気をつけろよ少年。じゃあミランダ合図を頼む」


 ジャックの言葉に応じ、ミランダは二人の中間の位置に立ち片手を上げる。


「はじめ!」


 ミランダが腕を振り下げると、ジャックが一気にアレクとの間合いを詰める。


「——まず一本もらうぞ!」


 地面を蹴った勢いを利用した突きをアレクに放った。

 アレクはそれに対応して体をよじって躱す。初撃を躱されたジャックは一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐさまそれに対応して手首で返し薙ぎ払う。アレクはその一撃を木刀で受け止めた。受け止められたジャックは地面を蹴って距離をとった。


「……驚きだな。盗賊を一瞬で倒したってのも嘘じゃなさそうだ」


 ジャックは驚きの表情を浮かべながら、アレクの評価を一新しないとまずいと感じていた。


「じゃあ次は僕から行きますね」


 アレクはそういうとジャックの攻撃と同じく一瞬で間合いを詰める。先程のジャックの攻撃と違う点があるとするならば、先程のジャックが間合いを詰めるまでかかった時間よりも数段早いという事だ。


「——っ!」


 ジャックは地面を蹴って後ろに距離を取ろうとしたが間に合わず、アレクの一撃はジャックの肩に食い込んだ。


「……まじかよ」


 ジャックは突かれた痛みで顔を歪め、突かれた場所を手でかばいうずくまり気味になる。

 アレクはその隙を見逃さずに木刀を振り上げジャックの肩への追撃を試みた。


「もらいまし——」


剣技ソードスキルクイックストライク!」


 アレクの振り下ろしよりも早く、ジャックの木刀がお返しとばかりにアレクの肩を突いた。

 アレクは突かれた事の痛みよりも何が起こったのかわからずにいた。先に振り下ろしていたのは自分で、それよりも後に動いたジャックの木刀が肩を突いたことが理解できず思わず口走る。


「……なんですかそれは」


「悪い悪い。お前があまりにも強いもんだから剣技なんて物を使っちまったわ。まぁB級以上の実力はあるのはわかったが、残り二本取らせてもらうわ」


 そういうと瞬時にジャックは動いた。先程と同じく距離を詰めるが、アレクはこれなら対応できると木刀で受け止めようとする。


「剣技イリュージョンスラッシュ!」


 アレクは木刀で受け止めた。正確には受け止めたはずだった。だが実際にはアレクの横腹にジャックの一撃が響いた。アレクは何が起こったかわからず混乱に陥る。このままではまずいと思い、距離を取ろうとするがジャックがそれを許さない。


「剣技クイックストライク!」


 先程と同じ技がアレクを襲う。アレクはこの突きならばと全力で地面を蹴って距離をとった。紙一重といった差で避けたアレクは逆に今度は前に向かって地面を蹴り、斬りかかるフェイントをかけて後ろに回った。素早い動きでジャックの背中を木刀で斬りつける。ジャックはさすがに反応しきれずくらうしかなった。


「驚いたな。本気で行ってるのに力技でさらに一本取られるとはな……」


「こっちのセリフですよ。盗賊数十人なんて目じゃない強さじゃないですか」


 アレクは神の代理人としてこの世界で戦争を行うために転生をした存在だ。アレク自身もそれを自覚していたが為に普通の人間相手ならば目をつぶってでも勝てるであろうと踏んでいた。故に現在の状況は想定外だった。だが全力で向かえば相手は対応ができないことがわかった。


「行きます!」


 アレクはそういうと、まずは正面から攻勢をかける。その太刀筋を読みジャックが受け止める。ジャックは先程の動きがアレクの全力だと踏んでいた。アレクもジャックがそう想定していると踏んで本当の全力をジャックが隙を見せた瞬間に打ち込もうと考えていた。数度の打ち合い、フェイントをかけながらジャックの銅に一撃を入れようとアレクはした。その一撃がジャックの体制を崩した。


「僕の勝ちです!」


 アレクはその瞬間に溜めを作り、最速で木刀を振るった。


「——魔技マジックスキル閃光フラッシュ!」


 強烈な光がアレクの視界を奪った。本来ならばジャックが居る位置を木刀が通り抜けた。


「——っ!」


 それと同時に頭にコンと軽く衝撃が走る。


「俺の勝ちだな」


 視界が戻ると目の前にはジャックはおらず、声がした後ろを振り向くとそこにジャックが立っていた。


「なんですかその手品みたいな技は」


「うん?あー剣技ソードスキル魔技マジックスキルか。まさかテストで使う事になるとは思わなかったぞ。本当にお前さんは何者だよ」


 剣技と魔技、どのような物なのかはなんとなくはわかるが原理がわからない。


「それはどのように使うのですか?」


「単純な話さ、剣技ってのは魔力を内に向けて使って身体能力を強化させる。マジックスキルってのはまぁ魔法だわな。ただ魔法の中でも発動までの時間がかからない物を魔技って呼んでいるだけだ。もちろん剣技もちゃんとした剣術を習った人間のが強いわけで、剣術を魔法で強化させるような物だと考えてくれ」


 俺は我流だがなとジャックは笑ってアレクに合格を告げた。二人の模擬を見ていた三人は驚きを越して呆けていた。先程の二人のやり取りはある程度の実力者でなければ、剣筋は残像も見えず動きも目で追うのがやっとといったものだ。


「……おーい、ミランダ。アレクは合格だ」


「は、はい。まさかジャックを本気にさせる新人が現れるなんて、驚きで……」


 ミランダはまさかここまでジャックを本気にさせる人間が無名で冒険者登録もしていない事にも驚いた。記憶を失って居ると言ったが、もしかしたら有名な冒険者の可能性もあるのではと思案したが、アレクという名前は聞いた事がないのでそれはないのだろうと落ち着く。


「ではアレクさん。ジャックから合格の判定が出たので、先程のカウンターで冒険者であることの証をお渡ししますね」


 そういって再度先程のカウンターまで三人を案内した。

 アレクは先程のジャックが言っていた剣技と魔技について考えていた。剣技も魔技も魔力が必要みたいだが、自分が一切の魔法を使えていない事に疑問を持っていた。魔法が使えない状況で他の代理人相手に勝つことは多分不可能であろう。あの盗賊達レベルの人間ならば何人いても問題はないが、先程のジャッククラスの人間が相手で勝てるかどうかが五分五分である。


「アレクさんお待たせしました」


 アレクが考え事に耽って居るとミランダが声をかけてきた。


「まずこれが冒険者の証で冒険者ランクと登録者名が刻印されたバングルになります。下の方に書いてある街の名前と識別番号で個人の特定が可能になっています。素材はミスリルなので並みの剣戟でしたら傷一つつきません」


 そう言ってミランダはアレクに太めのミスリル性のバングルを差し出してきた。他にも現在の登録ランクはBであること。本来はFから始まりSSSが最高位であること、それとBランクは集団戦であれば状況を左右できるだけの実力がある存在であることを教えられた。

 アレクは太めのミスリルのバングルを手首にはめた。手首が細いせいか収まりが悪い、それを見ていたミランダがサイズ調整は魔力を込める事によって可能だとアレクに伝えた。

 アレクは魔力の込め方が未だにわからないので、できないでいると着用者じゃなくとも魔力さえ込めればサイズ調整ができる主旨を聞きフランに代わりに魔力を込めてもらった。魔力を込められたバングルは生き物のように動きアレクの手首のサイズにぴったりと収まった。


「これで冒険者登録が終わりになります。今回は依頼書をご持参でしたが、本来はそこの壁に掲示してある案件かもしくは探して居る案件があるようでしたら私たち係りの物がご案内させていただきます」


 ミランダの説明が終わるとアレク達は外へ続く扉へ歩き出した。数歩歩いたあたりで後ろから声がかかった。


「アレク、ちょっと待ってくれ」


 声の主は先程の試験管であるジャックだった。


「はい?何でしょうか」


「さっきの剣技について何だが、時間があるようだったら我流ではあるが俺の剣技を教えてやる。ちゃんとした流派で学ぶまでの繋ぎだと思って覚えておくのも悪くないぞ」


 剣技を教えてくれると言うジャックの申し出はとても嬉しかったので、アレクは二つ返事でお願いしますと申し出た。それとアレクが受けたクエストについて忠告だとジャック口を開いた。


「そこの嬢ちゃん達から聞いてるかもしれないが、エアリアル商会と並ぶ三大商会のうちの残り二つ、トルシェ商会とクリス商会が雇って居る傭兵団、漆黒と狂剣に気をつけろ。両方ともSランクの冒険者が一人ずついる」


 ジャックはこの案件が血を見ないで終わるとは思ってはいなかった。最近この街で有力な商会の人間が殺されたり行方不明になって居るのもこの傭兵団が原因だとジャックは踏んでいたからだ。


「ご忠告ありがとうございます。ちなみにSランクの冒険者っていうのはどの程度の強さなんですか?」


 アレクはSランクの冒険者がどの程度強いのか想像できなかったためにジャックに具体的な例を求めた。もちろんBよりかは強いのは明らかだが、その差を知っておくことは大事だ。


「Bランクの冒険者が10人で斬りかかって勝てれば運が良い方だ」


 ジャックは簡潔に言った。だが先程から忠告とは言ってもアレクに無謀だとは一言も言ってはいない。


「……僕にどうにかできますかね?」


 そうアレクが口にすると、お前次第だなと踵を返して後ろ手に手を振りながら奥に消えた。






予定だと六話か七話でバトルパートに入れればなと思ってます。

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