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異世界代理戦争  作者: Hazy
3/6

第二話 「フランとミラ」

 馬車の前に突然人が飛び出てきた。

 馬は驚き、御者がそれを制する。

 馬を落ち着けその場に止まると、どこから現れたのか、大勢の男に

 囲まれていることに御者は気付いた。


「なんだ君達は?」


 御者は男達に問いかけた。


「悠長な問いだな。どこからどうみても盗賊以外にありえないだろう」


 自らを盗賊だと称する男は小馬鹿にするような口調で御者に答えた。


「盗賊が何のようだ?私達がエアリアル商会と知っての蛮行なのだろうな?それなれば覚悟はできているんだろうな」


 御者はたじろぐ事なく、牽制する。


「盗賊が奪取する以外に何かすることがあると思ってるのか?お話相手だとでも期待しているんだとしたらお気の毒さまだな。勿論あんたらの馬車だとわかって襲撃しているわけだし、あんたらの後ろ楯になっている傭兵団についてもいやと言うほど知っているさ」


 だがなと盗賊の男は続けた。


「今ここにその傭兵団は居ない。そしてその馬車の中にいる人物を人質に取ってしまえばこっちのもんなんだよ」


 盗賊は無駄話も終わりだと、柄から剣を引き抜き御者に切りかかった。

 御者もそれに応じ、横に置いてあった剣を抜き盗賊の剣を受け止める。


「ヒューズ、お嬢様をお守りしろ」


 御者がそう叫ぶと、馬車のドアが勢いよく開き、剣を持った若者が

 囲んでいる盗賊に斬りかかった。

 不意をつかれた盗賊の一人がヒューズの斬撃に倒れる。


「お嬢様達は馬車から出ないようにおねがいします」


 ヒューズは次の盗賊に斬りかかりながらそう叫んだ。

 最初はヒューズの奇襲で盗賊の数人を斬り伏せたが、数の不利は勢いだけで

 どうにかなるわけでもなく少しづつ劣勢にたたされる。


「調子に乗るなよ若造が」


 盗賊の一人が疲れを見せ始めていたヒューズの隙をつき後ろから斬りつけた。


「うっ……」


 背中にはしった激痛にヒューズは前のめりに倒れた。


「手間かけさせるなよ。おい、馬車から女達を引きずりだせ」


 ヒューズを斬りつけた盗賊が他の盗賊に指示を出した。

 指示を聞いた盗賊は馬車に乗り込み二人の女を引きずりだそうする。


「誰か助けてください」


 馬車に乗っていた二人の少女の内幼い方が叫ぶように助けを求めた。

 それを聞いた盗賊がその少女を平手打ちする。


「おとなしくしろ。どれだけ叫んだとしてもこんな草原の真ん中で助けは来ない。もし抵抗するならば容赦しないぞ」


 盗賊は平手打ちで倒れた幼い少女の髪を掴み、顔を無理やり上を向かせてそういった。


「おとなしくするので妹に乱暴はやめてください」


 もう一人の少女が盗賊に向かってそう言った。


「最初からそうしときゃいいんだよ。お前らは大事な金蔓だから俺達はお前らに何もしねぇーよ」


 妹の髪から手を離し、盗賊は姉に向かってそう言った。

 妹は嗚咽をあげそうになるのを必死に耐え、盗賊を睨み付けた。


「娘達を確保したぞ」


 盗賊がそういうと、外の盗賊達も


「おう、御者と剣士も片付け終わったぜ」


 それをきいた姉が驚愕の表情を浮かべ呟く


「そんな…。ヒューズ、ハンス。殺すなんてひどい…」


 姉は膝をついて顔をおおった。


「お嬢様よ。酷いっていったってこっちも数人やられてるんだよ。そっちの剣士に限って言えばそいつから斬りかかってきたんだ。殺されても文句はないだろ」


 そういって姉を引っ立て馬車から下ろし、盗賊達の馬車へと連行される。

 その時後ろから声が聞こえた。


「これは一体何事ですか?」


 それを聞いた盗賊の一味は一斉に声のした方に振り向いた。

 盗賊達はそこに立っていた存在を品定めした上で口を開いた。


「なんでもねぇーよ。お嬢ちゃん。余計なことに首を突っ込んで不幸な結末を迎えたくはないだろ?」


 盗賊は見なかったことにして失せろと遠回しに忠告した。


「なんでもないようには見えませんが。それと僕は男なので、お嬢ちゃんではありません」


 盗賊達がその存在を少女だと思うのも無理がない理由があった。

 当の本人は姿見で確認していないので気づいてないのもあるが、男性にしては

 明らかに長い銀髪、そしてポンチョ調のシルエットで体型が把握できないが袖口から

 見える手首は細く、目鼻立ちがはっきりしているがまだ幼さを残しているため

 盗賊は少女だと誤認したのだ。


「ほう…男なのか。なら物好きな貴族様に売れるかもな。見逃してやろうと思って親切に見て見ぬふりをしろといってやったのに、お前はよほどのバカなのか?まぁいい…。この仕事とは別に小遣い稼ぎができるとおもうと、神様も随分とおれらに優しいことだ」


 盗賊の一人がそう言い終わると、腰から剣を引き抜いた。

 他の盗賊もそれに続くように剣を引き抜いて構えをとっていく。

 下劣な笑みを浮かべながら、少しずつ近づき包囲を狭めていった。


「なるほど…力で解決したいわけですね」


 盗賊達に少女と間違われた司は深いため息を吐き出し、腰にぶら下げた柄から剣を引き抜いた。

 所謂別世界からの転生。

 剣を持った盗賊に囲まれるという非現実的な光景、普通ならば一対一であろうと恐怖してもおかしくない状況でも司はどうにかなるだろうと確信めいたものがあった。

 それは神々の代理戦争の代行者である存在として用意された自分が弱いわけがないと言う推測である。

 この非現実的な状況、夢でないのならばなんだって信じられる。

 そうこう考えている内に盗賊達が一斉に斬りつけてきた。

 司は瞬時に剣を抜き、その剣戟を軽くいなした。


「手加減してくれてるのかな?」


 盗賊達を挑発すると共に、地面を蹴り一番近くの盗賊まで詰め寄る。

 最小限の動きで首を斬りつけた。

 斬りつけられた盗賊は膝から力なく崩れ落ちた。


「……てめぇ、ふざけるなよ」


 激昂した残りの盗賊達が叫びながら司に斬りかかった。

 それを斬りかかって盗賊から流れるように斬り伏せていく。

 司は盗賊達の動きがスローモーションに見えた。それ故に最小限の動きで

 盗賊に近づき斬りつける。それの繰り返しは傍から見たら舞のようだ。

 最後に残った盗賊にたいして司は剣の切っ先を鼻先に向けた。


「あとはあんた一人だけれどどうする?降参するかい、それとも死にたいかい?」


 剣先を向けられた盗賊は歯をカチカチとならしながら、震え


「わ、わかった……。こ、降参するから頼む、い、命だけは……」


 盗賊は手に持った剣を手放すと剣は重力に従って地面に突き刺さり、それを見て司は剣を柄に納めた。

 司は手際よくその盗賊を縄で拘束する。

 縄は盗賊が持っていたものを使った。

 その後斬り伏せられていた御者と剣士の息と脈を確かめるとまだ息があった。

 司は次に盗賊達によって後ろ手に縛られた姉妹を解放した。


「大丈夫だったか?」


 ありきたりな言葉ではあるが、姉妹に確認をした。


「危ないところを助けていただいてありがとうございます」


「それはいいんだけれど、とりあえずそこの二人はまだ息がある。助かるかはわからないがまず治療が受けられる場所まで運ぶのを手伝ってくれ」


 それを聞いて姉はまずヒューズの所に駆け寄った。

 傷の状態を見て


「これなら私の魔法で応急処置はできるとおもいます」


 司は魔法という単語に反応した。


「魔法を使うことができるのか?」


「はい、初級魔法程度ではありますが使うことができます」


 司は魔法という物が存在しているのかという意味で聞いたのだが、姉は使える魔法のレベルを答えた。

 ここで齟齬が生じていたが、この世界では魔法とは当たり前のように存在しているものだと司は解釈して深く追求はしなかった。

 姉はヒューズの傷口に手をやり、軽く息を吸い目を閉じ手のひらに意識を集中させた。

 手の平に光が集まり、それに伴って少しずつ傷口が塞がっていた。

 五分程立ったあたりでヒューズの傷口が痕もなくきれいに消えてしまった。


「応急処置は終わりました」


 姉は額を腕で拭い、次にハンスの方に向かい同じく処置を施すと


「これで二人とも大丈夫です。あとは街でちゃんとした手当ての後休養さえすれば今まで通りの生活が送れるかと思います」


 そういうと姉は深々と司に頭を下げた。


「ご挨拶の方遅れて申し訳ございません。私はエアリアル商会の長女フラン、そしてそちらの妹がミラです。この度は危ないところを助けて頂きありがとうございました」


「本当にありがとうございました」


 フランの司に対する礼に合わせて妹のミラも深く頭を下げてお礼を述べた。


「草原を歩いていたら助けを呼ぶ声が聞こえたから来て見てよかった」


 盗賊の一味を除いて死者が出なかったのが幸いと司も頬を緩めた。

 もし同じことが転生前の世界で起こったら司は何もできなかったであろうなと感じていた。仮に同じことができたとしても人を殺めたことに苦しんだだろう。例えそれが剣を持って自分を殺そうとして来た相手を殺したとしてもだ。

 転生に際して神、神乃美夏があらゆる外敵を殺す事に対する呵責を消したのであろうと感じた。


「ところでお名前はなんておっしゃるんですか?」


 フランの問いに自分がまだ名前を名乗っていないことを思い出した。

 そのまま司と名乗ろうと思ったが、フランやミラと言う名前がこの世界のスタンダードだと

 するならばいささか浮くと思い名乗るのが気後れした。

 そこで司はゲームをするときに必ず使っていたキャラクターネームを使おうと思いつき、

 アレクサンダー大王からとったそのキャラクターネームを司は口にした。


「アレクって言います。一応旅人の予定です」


 アレクがそう述べるとフランもそれに応じて


「アレクさんっておっしゃるんですね。改めてアレクさん先ほどはありがとうございました」


 再度軽く頭を下げた。

 フランはお礼もしたいので是非街までいらっしゃってくださいと

 アレクに申し出た。

 アレクもまだ行き先が決まっていないためそれに応じた。

 何より御者を欠いた状況でフランに馬車の操作ができると思わなかったのと、

 拘束しているとはいえ従者の二人が意識を失っている中盗賊を連行する危険性を考えると

 放っておくことはできないと思ったからだ。

 アレクは盗賊を引っ立て馬車に乗せると、続いて気絶したままの二人を運び込んだ。

 フランには倒した盗賊が所持していた剣を持たせ、盗賊が不穏な動きをしたら

 躊躇なく殺すように指示を出した。

 最後にフランとミラが乗り込み、道なりに進めば街に着くと教えられてから

 アレクは御者席に座り手綱を握って馬を歩かせた。


 アレクは御者の経験はもちろんなかったが、先程の盗賊の戦闘からどうになると踏んでいた。

 自分が想像した通りに体が動いたからだ。本来想像と現実には差異が生じる。

 だが先程の戦闘といい御者の真似事といい想像通りに体が動く、アレクはこの体に

 備わった権能なのだろうかと推測する。

 そんな事を思案していると後ろから声が聞こえた。


「アレクさんはどこの国の方なんですか?」


 声の主は妹のミラだ。

 御者席と客席は長方形の窓上の枠で繋がっており話すことができるようになっていた。


「東の方の国の出身です」


 極東の日本という国出身です。そう言えれば楽なのだが、生憎ここは異世界で

 日本という存在は確認できるはずはなく抽象的な表現でごまかした。


「東の方といいますと、クレイドル王国ですか?」


 当たり前の事だが、転生して間もないアレクは全く国の情報を持ち得ていない。

 それ故どう答えるべきなのか思案したが、適切な回答は思い浮かばず


「だいたいそうですね」


 歯切れの悪い答えとなった。

 街に行ったら、まずはこの世界の一般教養と情報を集めると決めた。


「アレクさんは旅人って言ってましたけれど、旅人って冒険者ですよね?すごく強かったですし、冒険者階級も凄く高そうですよね。あんなに強いとどっかの有名な傭兵団に所属していたりして……?」


 ミラは声を弾ませてアレクに質問を続けて来た。

 冒険者階級、傭兵団。初めて聞く言葉だが心が躍った。

 先ほどのフランの魔法といい、この世界は転生前の世界でファンタジーと呼ばれていた

 物に分類されるであろう世界観なのだ。

 その事実がアレクの胸の内を高鳴らせた。


「えーと、実はまだ冒険者になっていないんだ。だから傭兵団にも属してないよ」


 明らかに自分より年下の少女が知っている情報に対して自分が無知を晒すのは明らかに

 得策ではないと思い、話を合わせながらも少しづつ情報を引き出そうと思った。


「え?そうなんですか。あんなに強いのにまだ冒険者登録もしてないんですね。アレクさんなら登録して傭兵団に雇われたらすぐ二つ名が付くくらい有名になれますよ」


「……旅に出て最初についた街で冒険者登録をしようと思っていたんだ。だからフランとミラの街でしようと思っているよ」


「えー、じゃあ着いたらミラが冒険者組合まで案内するよ!」


 予想通りどこの街でも登録ができるようだった。

 ミラとその後もたわいない会話をして少しづつこの世界がどのような

 常識で成り立っているのかを探った。

 フランは盗賊がおかしな動きをしないかを注視しているためにほぼ

 会話には参加していなかったが、街に着いたらフランからもこの世界の

 事を聞こうと思い再度二人を見た。

 フランとミラは共に赤毛で、見た目から年の頃10代後半と10代半ばと

 予想した。二人とも目鼻立ちがくっきりしているが、年の差でミラの方は

 まだだいぶあどけなさが残っている。

 髪型もフランが長い髪を一つに結っていたのに対して、ミラは転生前の世界の

 セミロングぐらいの長さだったため余計に幼く見えるのもある。

 ミラとしばらく話していると視界に街が見えて来た。


「あれがミレイ共和国首都にして私たちの街メルクリウスです」


 そう言ってミラは街というよりも都市と呼んだ方が適切な場所を指差した。



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