第一話 「目覚めると草原にいました」
陽の光を瞼越しに感じる。
時折肌に感じる心地よいそよ風。
まだ覚醒していないまどろんだ意識のなかで少しばかりの違和感を感じた。
ベッドの上で寝ているにしては硬すぎる、そして指先に意識を集中させると草が指を撫でる。
ベッドから転げ落ちて床で寝ているのかとも思ったが、それならば指先に触れるこの草のような感覚はなんなのであろうか。そう疑問に思ったあたりで僕は目をあけた。
最初に飛び込んできた景色はただただ青い空と大地を照らす太陽の光だった。
「なっ…」
状況が理解できず、おもわず声をあげた。それと同時に状況を理解しようと脳がフルスロットルで稼働する。
これは夢なのであろうか、否肌に触れる風と陽の光がそれを否定する。
TV番組か何かのドッキリ企画なのか。そのような疑問も思い浮かんだが あたり一面を見渡しても
そのような影はなく、ただただ広い草原が視界の隅から隅まで埋め尽くされていた。
司は意識を失う前の事を必死に思い出そうとした。
「えーと……。確か財布を拾って、お礼に焼肉をご馳走になって……」
少しづつ司は何故この見慣れぬ地にいるのか理解してきた。
未だに半信半疑ではあるが、あの自称神様を信じるならばここは異世界だ。
そう仮定してその時の会話を思い返す。
「確か神に変わっての代理戦争をするんだよな……」
そもそも相手がどこにいるのかなどの事前情報はもらっておらず、
どうするべきか思案にくれた。
ふと自分の服装に目がいった。
意識を失うまでに着て居たスーツとは違うことに気づく。
七分丈のワイドパンツ調の物にロングブーツそしてポンチョっぽい衣装。
とりあえず立ち上がろうと思い手のひらを地面につけた時に指先に固いものがあたった。
見ると銀の装飾が掘られたロングソードが置いてあった。
手に取り、柄から剣を引き抜くと刃引きせれていない真剣であることが確認できた。
「明らかに銃刀法違反で逮捕されそうな品物だよねこれは……」
司は苦笑いを浮かべながら呟いた。
そして他にも確認をしていて気づいたことがある。少しばかり身の丈が縮んだような気がしたが、姿見がないために確信は持てずにいた。
さてどうするべきか、司は思慮を巡らす。
幾ばくかの時間が過ぎたあたりで神様の発言を思い出した。
『7月7日の朝に司くんは転生することになるから。』
「あの時は7月7日って何時だと思ったけれど、すぐだったのか」
早かったからどうと言う事はないのだが、最後に感慨深く日常を過ごしたかったなと一抹の寂しさを感じた。
「とりあえず情報収集をするしかないか」
いつまでも此処に留まっている訳にはいかない。
まずはここは異世界の何処なのか、それを知らなければならない。
司は立ち上がり、歩き始める。
どの方角に行けば道に出られるのかもわからず、闇雲に歩いていると
遠くから人の叫び声が聞こえてきた。
微かなその声が聞こえる方を目を細め、陽の光を手の平で遮断して見やる。
馬車のような乗り物に複数人の人物が群がっているようだった。
助けなきゃ、そう咄嗟に思い馬車の見える方角に走った。