特別編2 普段着を変えよう
本日も晴天。 私は月くんと2人きりのお出かけに心を弾ませていた。
きっかけは月くんのこんな言葉。
「なぁ、ネティス。 お前っていっつも胸元とか太ももとか見えてるんだが…………その、恥ずかしいとは思わないのか?」
その言葉にちょっと私は傷心していた。 しかしその後の台詞に心は温まった。
「えっと……なんかお前の身体を他の人に見られるのは…………えっと……つ、つまりは多分嫉妬……なんだと思う」
月くんが嫉妬してくれた。 もう本当に可愛い。 なんで月くんはこんなに可愛いの? これ以上私の心を奪ってどうする気なの?
ということで2人きりでお買い物デート。 他のみんなも行きたがっていたがそれは丁重に断った。 もちろん月くんと2人きりになりたかったというのもあるけれど、それ以上に他のみんなの意見を聞いてしまうと月くんの好みからかけ離れてしまう可能性があったから。
どうせなら月くんが選んだ服を着ておきたい。 そうした方が月くんも喜んでくれるし、私も嬉しいしで一石二鳥。
「そういえば月くん」
「ん?」
不思議そうに私を見つめる月くん。 その表情も可愛らしくて素敵よね。
「その…………銃娘ちゃんと九尾ちゃんからエッチ用の服があるって噂が…………」
「っ!? あいつら…………」
月くんは一瞬で顔を真っ赤に染め、恥ずかしげに視線を逸らした。 頬をかいてなんとか誤魔化す言葉を考えてるみたい。
「月くんは私にそんな服を着せてみたい?」
「え? いや…………ま、まぁ…………」
そこで正直に頷いてくれるのが月くんの魅力の1つ。 滅多な事では嘘は付かない。
自分のことをあまり話してくれない月くんだけれど嘘を言うこともほとんどない。 あったとしてもそれは誰かの為。 その点は普通に信用出来る。 もちろん月くんの言葉なら問答無用で信じれる自信はある。
「ならそれ用の服も……1着買ってもいい?」
「お、おう…………」
頬をかきながらも肯定してくれる。 これは本気で選ばないと。 そして月くんを完璧に落としてみせる!
2人でやって来たのは少し大きめの服屋さん。 事前に調べておいたので場所はすぐに分かった。
月くんも一応は調べてくれていたみたいだけど、本人も実用的過ぎて普段着には合わないと言っていたので私の見つけたお店にした。 実用的っていうことは冒険者の服が並んであるんでしょうね。 今度そちらも覗いておいた方が良さそうね。
「月くん、服を選んでもらえる?」
「へ? 俺が?」
「えぇ。 月くんが見繕って?」
ここで若干上目遣いにおねだりすると月くんは引き受けてくれる(過去に実証済み)。 本当に純情で可愛い……。
「別に良いけど…………その、あんまり期待するなよ? 俺服のセンスは皆無なんだから」
確かに月くんは普段は帽子の付いた服、パーカーと言っていたものを着てたわね。 暑い時なんかはTシャツ? というものでオシャレというものに気を遣っている感じはなかった。
薄着に上から何かを羽織ったりすることもあったような。 あれは少し格好良かったわね。 もちろん私は冒険者用の黒いコート姿の月くんの方が好きだけど。
「ネティスに似合いそうな服…………」
それからは月くんは色々と服を物色し、時折似合いそうだなと呟きながら私に服を当てて確認する。
「あ、これとか綺麗だぞ」
「本当? なら試着するわね」
月くんから服を受け取って試着室に入る。 月くんの持って来たのは上下一体となった服だった。
黒色の衣服で下はスカートのようにヒラヒラしている。 胸元が少し開いてる気がするけれど月くんはこういうのが好きなのね。
「あ、ネティス。 ちょっと腕だけ出してくれ」
「え? えぇ」
言われた通り腕を出すと何かを握らされる。 これは何?
「その下に着てくれ。 その……多分上だけだと露出が…………」
渡されたのは白いインナーのシャツだった。 その辺りはきちんと分かっていたのね。 流石は月くん。
服に着替えてカーテンを開ける。 するとこちらを見ていた月くんが口を開いたまま固まった。
「月くん?」
「…………嫁にしたい」
「え?」
よ、嫁? お嫁さんにしたいって……そ、それって!?
「え? あ、いや、その…………に、似合うな」
そして慌てた様子で誤魔化した。 つまり……今のが本音ってことよね? 私を嫁に……。
「ふふ……」
自然と頬が緩んでしまう。 だって月くんがそんなことを思ってくれるだなんて予想していなかったもの。
「ネティスってどういう服が好きなんだ?」
「え?」
好きな服? そんなのもちろん月くんが気に入ってくれる服に決まっているじゃない。
「いや、ほら。 なんとなくスカート選んだけど実はズボンの方が良いとか」
「あぁ、そういうこと?」
やっぱり月くんは優しい。 私の好み、というよりは動きやすい服に合わせて選んでくれるみたい。 一方的に押し付けるようなのは月くんが嫌いそうだものね。
「そうね…………私はどちらでも良いわよ? でもあまり締め付けられるような服装は苦手よ」
「締め付けられるってことはズボンよりはスカートの方が良いってことか。 そのインナーもあんまり良くないな」
月くんは顎に手を当てると真剣に考える。 あぁ……その凛々しい横顔が格好良いわ。 それに私のことで真剣になってくれるというところが特に好感度が高いわね。
それから月くんに何着か試着するように頼まれ、やはり全部にあっているという感想を貰った。 しかも全部照れながら。
月くんは顔を両手で押さえてうずくまってしまった。 な、何?
「似合うのに胸のせいでインナーが全部キツそう…………」
あ、さっきの私の言葉を鵜呑みにして。 でもそこまで締め付けられるようなものもなかったのよね。
「ちょっと服のサイズ上げるか」
月くんは服のサイズを上げてなんとか対応することにしたみたいだった。 やっぱり私のこと真剣に考えてくれてるのね。 ふふ…………。
「これなんかどうだ?」
月くんは紺色の大きめの服に紫色の、えっとカーディガンと言ったかしら? のようなものと青と黒の丈の長いスカートを持ってきた。
「それじゃあ着替えるわね」
私は試着室のカーテンを閉めると1人ニヤニヤする。 月くんがここまで真剣に付き合ってくれるなんて思わなかった。
着替えてカーテンを開けると月くんはじっと私を観察してくる。 決してエッチな視線じゃない、真剣な表情に私が恥ずかしくなってきた。
「その…………どう?」
「…………うん。 良い!」
月くんは親指を立てていた。 胸もきつくないし、スカートが長くて露出も最小限。 うん、良いわね。
「その服に抱きついたらなおのこと気持ち良いんだろうなぁ…………」
「え? ああ、確かにそうかもしれないわね?」
少しふんわりとした生地の服だから。 月くんが抱きついてくれたら多分気持ち良いのでしょうね。
「ふふ……それじゃあこれにするわね? 他にも何か着てほしい服はある?」
「え? まぁそりゃ…………。 いや、そもそもネティス、自分で着たい服とかないのか?」
「私が着たいのは、月くんが着て欲しくて似合うものよ?」
「そ、そうか…………」
頬を指でかきながら視線を逸らす。 やっぱりその照れた時の仕草は変わらないわね。 可愛いわぁ…………。
「あとはエッチ用の服かしら? ふふ……それを着たら月くんもノリノリになる?」
「あ、あれは結構反則だと思うんだが…………。 あんなの着られたら興奮して止まんねぇぞ…………」
「ならなおのこと良いのを見つけないといけないわね。 ふふ…………」
見られるのは恥ずかしいけれど月くんにだけなら見せても良い。 むしろもっと見て欲しい。
私はニヤニヤしながら恥ずかしがる月くんを見つめる。 本当に……私は月くんのことが大好きなのね。




