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セブンスアビス  作者: レイタイ
死霊魔術師と神槍編
78/90

怪我人は黙って看病されるもの 終

「うぅ…………咄嗟に怒ってしまったけれど……やっぱりみんな悪くないのよね……」


 自室に帰るなりネティスは悶々としていた。 自分のあの態度を悔いているようだ。


「ま、まぁそこまで気にすることでもないんじゃないか? ほら、フォローはするから、な?」

「え、えぇ……ありがとう」


 ネティスは気を取り直したのか軽く咳払いをするとテーブルに置いてあったお盆を持ってくる。


「はい、消化に良いと思ってスープを持ってきたの」

「お前の手作りか?」

「え? えぇ」


 マジか! まさかネティスの手作り料理を食べれるとか!


「手作りといってもスカルにも手伝ってもらったけれど」

「う、うーん…………その使い方は良いのか?」


 ネティスにとってはシルヴィアが炎や水魔法で焼いたり冷ましたりしているのと同じ感覚なのだろう。 でもちょっとシュールだな。


「……? 駄目だった?」

「いや、全然」


 それでもやっぱり味付けしたのはネティス自身。 だからネティスの手作りに相違はない。 …………ちょっと残念かなとか思ってない。 いや、やっぱりちょっと、ね…………。


「ちょっと残念?」

「え?」

「いえ……顔に出てるから」


 あちゃー…………顔に出てたらしい。 しまったな。


「ふふ……次はちゃんと私1人で作るわね?」

「あ…………はい……お願いします…………」


 うぅ……恥ずかしい。 でも嬉しいから困るな。


「さぁ、今は食事をしましょう?」

「あ、はい」


 そのままナチュラルにあーんをされる。 口を開けるとネティスは優しくスプーンを口に入れてくれる。


「美味しい?」

「うん、美味い」

「じゃあもう一口。 あーん♡」

「あーん」


 いや、だからって続け様にまたやっちゃうから俺もやっちまったよ。 自分で食えるのに。


「ふふ……可愛い♡」


 ネティスはうっとりした様子で頭を撫でてくる。 気持ち良い。 気持ち良いんだけどやっぱり俺っていつもこんな扱い?


「月くん月く〜ん♡」


 でもやっぱり俺より嬉しそうなネティスさん。 後ろから俺を抱きしめて頬ずりを始める始末である。 胸がふよんふよんして気持ち良いんだけどね。

 そのままネティスとイチャイチャしながら食事を続けているとドアがノックされる。 この気配は…………紅雪か。


「どうぞ」

「紅雪だな」


 部屋に入ってきたのは紅雪…………と、シルヴィアだった。 くそ、シルヴィアの気配までは読めなかった。 まだダメージが抜けきれていないか。 いや、関係ないか。


「あの…………いいですか?」

「え、えぇ……。 さ、さっきはごめんなさい」

「い、いえ、こちらこそすいませんでした。 ルナさんが可愛くてつい…………」

「そうよね……可愛いものね……」


 納得しちゃうん? しかも2人してもう既に仲良さそうにこっち見てくるし。


「ルナさん…………」

「お、お姉ちゃんって言ってみてくれない?」


 マジかよ。 何の罰ゲーム? いや、以前に言ったのは覚えてるよ? 覚えてるけどあれ結構勇気がいるからね?


『御主人様どうされますか?』

「え、えー…………」


 マジで言うの? めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。 でもこの期待した目をされると断れない。 ネティスにはイチャイチャな夕食のお礼もあるしな…………。


「ネティスお姉ちゃん、シルヴィアお姉ちゃん」

「っ! ルナさん可愛すぎます!」

「愛らしいわ…………」


 愛らしい!? なんだその感想は。


「ルナさん食事は終わったんですよね?」

「えぇ、あとは……何かある?」


 いや、なんだそのキャッキャウフフな会話は。 これ以上まだ何かしてくれるってのか? 何そのご褒美。


「なぁ……もう俺は別に––––––」

「月くんは黙って看病されること。 怪我酷いのよ?」

「そうですよ! お姉ちゃんがしっかり治るまで看病してあげますからね?」


 うーん? 何やらとんでもないことになりそうだぞ?

 俺がなんとか止めてくれるよう願いを込めて紅雪に視線を向ける。 紅雪は相変わらずの無表情だが分かりやすくこう伝えてきた。 首を横に振って。

 つまりそれは…………諦めろってことですよね。 うん、そうですよねー…………。


『お2人とも、紅雪にも何かさせて欲しいです』


 いやお前も参加するんかい。 なんだその力強い文字は。


「あ、それじゃあ添い寝はどうですか?」

「でも3人よ?」

「わたくしはいいですよ? で、ですが、その前にルナさんにマッサージしてあげたいです」


 出た! シルヴィアの伝家の宝刀マッサージ! あれ気持ち良過ぎて幸せだよなぁ…………。


『御主人様も喜ぶかと思います。 マッサージ、膝枕、胸枕、耳かき、添い寝にエッチにとなんでもお好きなようです』


 ちょ、なんてもんバラしてんだ!?


「それは知ってます」

「それは知っているわ」


 あ、うん…………。 そうですか…………。

 ちゃんと隠してるはずなんだがな……。 心では踊りたいくらい喜んでんだけどな。


『では僭越ながら紅雪が御主人様の最も喜ぶ采配を致します。 マッサージはシルヴィア様、お願い致します。 シルヴィア様のマッサージが何よりも気持ちの良いもののようです。 ジーナ様も可能ではありますが、気持ち良さはシルヴィア様の方が上のようです』

「そ、そうだったんですか? ふふ…………」


 あー、確かにな。 ジーナのも気持ち良いし、どちらかというと安心する方向なんだが。 シルヴィアのは実際に身体に効くからな。


『紅雪は不明の為、これから何度かの実践ののちに決めたいと思います。 ネティス様は御主人様に添い寝を。 御主人様はネティス様の胸で眠るのがお好きのようですから』

「そ、そうなの?」

『はい。 御主人様曰く、1番落ち着く場所ということです。 ネティス様のことを心の中では本当にお姉さんだと思っているようです』

「っ!?」


 ちょ、やめて! お姉さんとか言わないで!


「ち、違うからな!? こんな姉がいたら良いなと思っただけで!」

「羨ましいです…………」

『大丈夫です。 シルヴィア様のことも姉と思っているので。 ただネティス様は特別な姉です』

「と、特別?」


 ちょっと待てそれ以上はやらせてたまるか! 俺が紅雪のメモ用紙を奪い取ろうとしたところでシルヴィアがにっこり微笑みながら俺の両腕を掴んで止めた。


「じっとしないと駄目ですよ? それで紅雪さん、特別な姉って何ですか?」


 追い討ち!? あの優しいシルヴィアさんが追い討ちですか!? これ以上更に俺を辱める!?


『はい。 御主人様は今までずっと独りでした。 誰にも心を開けず、ずっと自分の殻にこもってたんです』

「ちょ、タンマ! 紅雪待って!」

『そんな時です。 今まで独りでもなんでも出来た天才肌な御主人様が唯一出来なかったことを。 新しい世界に踏み込む勇気を与えてくださったのはネティス様です』


 あう……言われちまった。 恥ずかしい……。

 顔が熱い。 もう嫌だ。 穴があったら入りたい。


『いつも自分を引っ張ってくれる素敵な女性がネティス様です。 ですから御主人様にとってネティス様は特別であり、尊敬の出来る姉。 いいえ、憧れたお姉様であると思っているようです』

「月くん……本当?」

「…………」


 顔を背ける。 恥ずかしい。 もう顔も見れる気がしない。


「ふふ……良かったですね、ネティスさん」

「月くんが私のことをそんな風に…………」


 もう殺してほしい。 いっそ一思いに腹切るか? あ、既に切られてたね。


『皆様は御主人様にとっての特別です。 皆様は分かりづらいとは思いますが、これでも御主人様はこの世界で大変変わられているんです。 元々は内気で、人思いではありますがそれを口に出す勇気が持てなかった、そんな方なのです』

「…………」

『紅雪から言えることは以上です。 どうか……御主人様を…………そんな御主人様を愛してあげてください…………』


 紅雪は言葉の締めのように最後に頭を下げた。 しかしこのままでは本当っぽくなってしまう。 いや、本当のことなのだが!


「こら紅雪、むやみやたらにいろんなこと喋んなって言ったろうがー!」


 俺は場の空気をなんとか戻す為にも紅雪の頭を撫で回す。 髪の毛をくしゃくしゃにするという罰で。

 しかしネティスにもシルヴィアにもそれが通じたという感じは…………うん、全くないね。


「月くん…………」

「ルナさん…………」

「い、いや、あの……その…………えっと……」


 なんて言えばいいんだよ……。 何も分からん。

 俺は恥ずかしげに視線を逸らすことしかできなかった。 するとネティスはゆっくりと俺を抱きしめ、頭を撫でてくる。


「いいのよ? 月くんが望むなら…………。 私にとっても月くんは特別だから……」

「えっと…………は、はい……ありがとうございます?」


 特別? 俺が? 本当なのだろうか? 胸が柔らかすぎてまともに思考が出来ない。


「月くん…………」

「ね、ネティス…………」


 ゆっくりと俺を離したネティスの顔が近付いてくる。 これはもしかしなくてももしかしちゃうんですね!


「大好き…………」

「あのー…………」

『紅雪達はこのまま見てるだけですか?』


 あ、2人がいたな。 すっかり忘れてネティスとイチャイチャしちまった。


「と、とりあえずマッサージ始めましょう! その後にお眠りになった方が良いかと」

「そ、そうね」

『ささやかながら、紅雪もお手伝い致します』

「ふふ、ありがとう」


 まぁなんとか話が流れてくれて良かった。 そうじゃなきゃ恥ずかしすぎて死にそうだ。 それが分かってるからシルヴィアも逸らしてくれたんだろうな。 ええ子や。

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