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セブンスアビス  作者: レイタイ
死霊魔術師と神槍編
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氷刀の王vs神槍の神 二

「…………殺してやる? もう勝った気分とは! 調子に乗ってんじゃねぇよ!」


 神が槍の切っ先を伸ばす。 するといきなりその槍が伸びる。 しかも超高速で。


「っ!」


 咄嗟に半身になって避けると先端はコの字に曲がってきて追尾してくる。


「ちっ!」


 舌打ちしながら跳躍してその槍を避ける。ふると槍の先端が分裂して二手に分かれて追尾してくる。

 なんつー面倒な能力だよ! 刀でも防げねぇし、ふざけんなよ!

 刀を地面に刺し、手の置き場を作ると共に腕に精一杯の力を込めて腕だけで小さく跳躍する。 更に回転しながら槍を避ける。

 その回転の勢いのまま刀を引き抜くとともに右足で着地、槍を飛び越えながら旋回するように神の周りをぐるぐる走る。


「今のルナさん見ましたか!? 格好良かったですよ!」

「ん…………流石」

「呑気かお前らは!」


 流石にツッコミを入れてしまった。 なんで見てんだよ。 あんなアクロバット2度とやりたくねぇよ。 槍が刺さったら終わりなんだからな?


「シルヴィア! セリーヌ! 真面目にしなさい! …………それと後で何してたのかじっくり聞かせて」


 お前もそっち側かい。 みんな呑気だなおい。

 まぁつまりは呑気になれるほどに余裕は出てきたということだろう。 シルヴィアとセリーヌも随時こちらを気にしながら戦ってくれていたに違いない。


「風切・黒!」


 旋回した状態で、多方向からほぼ同時にカマイタチを飛ばす。

 高速で戻った槍が神の周囲を旋回し、そのカマイタチ全てを防ぐ。 攻防共に長けた槍のようだ。 更には収縮速度が速すぎる。 防御面に優れすぎていて攻撃が通らない。


「無駄なんだよぉ! お前の攻撃はなぁ!」


 大量に分離した槍の先端が伸びて全方位から襲い掛かってくる。

 なるほど、確かに数は有利になるだろう。 でもそれ、曲がるのに少し時間を掛けなければ行けない上に攻撃はあくまでも直線だ。

 俺は全ての槍の軌道を確認しながら神との距離を詰めていく。 ある程度近付けば神も防御態勢にならなければいけなくなる。


「くそ! くそっ! なんで当たらないんだよ!」


 そんな直線上の攻撃当たるわけないだろ。 もっと数を増やして逃げ道をなくしてからにしなければ無駄だ。

 だからこいつはお子様なのだ。 感情に全てを任せて行動する。 気に入らない奴は全員ぶっ殺せばいいと、そう考えている。


「そこだ!」


 槍の穴を見つけて刀を刺し込む。 それは神の腹部をギリギリかすめる程度のものではあったがこれで攻略法は見つかった。


「うらぁ!」


 まるで雨の如く槍が降り注いできて流石にバックステップで避ける。


「赤晶・離刺!」


 カマイタチに加えて、更に氷の棘を飛ばして追い討ち。 更に防御面を強化せざるを得なくなれば更にこいつの神力が消費されるだろう。

 勝ちは見えてきた。 しかしこれが命取りになるのは何度も経験した記憶がある。

 あくまでも油断せず、ただ心を無にして作業に没頭する。 一歩間違えれば刺し殺されるだろう。


「くっ! これならどうだぁ!」


 神はもう片手にもう一本の槍を創り出した。 単純に考えて今の攻撃と防御が2倍か。


「ちっ! きっちぃな!」


 襲い掛かってくる槍を寸前のところで避けながら好機を伺う。 気配的にはそろそろだろう。


「ホーミングフレイム!」


 その凛とした声が聞こえてきた瞬間頬が緩んだ。 多数の炎が色々な角度から神に向かっていく。


「っ!」


 咄嗟に攻撃をやめ、防御面に回した。 反応が速すぎる。 どうなってやがんだ。


「貴様ぁ…………リターンタイム!」

「リターンタイムじゃないわ、ネティスよ」


 その凛とした声の主、ネティスは5体の赤黒い骸骨を召喚した。 ネティスは槍を避ける程の機動力はないが、その骸骨に身体を支えて貰えば話は別だ。


「行きなさい」


 1体の骸骨にお姫様抱っこされながら残りの4体を神に向かわせる。 流石ネティスさん、分かってらっしゃる。

 わざわざネティスだけをこちらに回したのは全員それが分かっているからだろう。 相変わらずの安定感だなお前ら!


「月くん! サポートはするわ!」

「あぁ、充分だ…………!」


 両手の刀を強く握り締めると一気に突っ込む。 攻撃が手薄くなればそれだけ余裕が出るというものだ。

 流石の神も1人と4体に同時に攻撃されて全ての攻撃を防御出来ない。 俺の攻撃は要警戒しているみたいだが骸骨の攻撃は少しだが当たっている。


「雷殺拳!」

「ぐぼぁっ!?」


 骸骨の雷を纏った拳が神の背中を打ち抜く。 一瞬、隙が出来た。


「雷殺剣・黒突き!」


 その一瞬の隙の間に曲がり続ける槍のその隙間に刀を差し込む。 そのまま神の左腹部に刀が突き刺さる。


「ごぼぉ!!!!」


 盛大に吐血した神。 その血液すら俺には触ると危険だ。 危ない危ない。

 そのまま刀を引き抜きながら距離を取る。 一閃して付着した血を振り払う。


「貴様らぁ…………! 俺は神なんだぁ! 貴様ら程度にやられるほど落ちぶれちゃいねぇんだよ!」


 叫びに呼応して大量の槍が向かってくる。 その全てはネティスの方へ。


「なっ! まっ…………!」


 手を伸ばそうとして、頭が酷く痛んだ。 しかしそんなことを気にしていられる場合じゃない。

 ネティスは機動力はあれど、それは向こうの槍も同じだ。 だからこそ俺はアクロバットな避け方を強要させられたわけで。 つまりは今この状態において、ネティスが槍の全てを避けられる方法などありはしないのだ。

 気付けば頭の痛みなど吹き飛んで、雷を纏った足で駆けていた。


「ネティス!」

「っ!?」


 飛び込むようにしてネティスを庇う。 ネティスは驚いたような顔をしていたが今はそんな場合ではない。

 骸骨ごと掴んでそのままの勢いで走り抜ける。 が、それも限界はあるわけで。

 脳内にズザンッ! という特徴的な音が響いた。 身体が酷く痛む。 過去、肩を突き刺されたことはあるが、その時には叫ぶことが出来た。

 しかし今はその叫ぶ気力すらないほどに全身に痛みが走る。 ただ、俺は少し満足感に浸っていた。


「…………月…くん?」

「…………無事か、ネティス?」

「え、えぇ…………」


 ネティスはキョトンとしている。 状況を全く理解していないようで目を大きく見開いたまま固まっている。

 痛みで苦しんでいるわけでもないようだ。 とりあえずはそこは一安心か。


「ごふっ…………!」

「っ! 月くん!」


 全身の力が一気に抜け、ネティスに倒れ掛かる。


「は、ははは! やったぞ! だから王如きが俺に敵うわけがないんだよ! あはははは!!!!」


 あぁ、馬鹿の馬鹿笑いが聞こえる。 こんなはずじゃなかったんだけどな…………。


「…………! ルナ!」

「え? る、ルナさん!?」

「す、凄い血が!?」


 どうやらかなりの出血量らしい。 俺は全く自覚はないのだが、いや、もう痛すぎて何も感じないだけか。


「月くん! 月くん!」

「…………わりぃ……お前守りながら勝つつもりだったんだけど…………」


 俺はここでリタイアかなぁ…………リタイアだよな、冷た過ぎて感覚がなくなってきたし。


「待ってよ! わ、私を独りにしないでよ!」

「…………なんだかんだ綺麗事言ってもやっぱり俺はあれなんだろな…………。 お前らには生きて欲しいんだ」

「そんなの…………月くんのいない世界で何をすればいいのよ…………」


 そんなの幾らでもあるだろう。 こいつはもう独りじゃない、今はフェシルやシルヴィア、セリーヌ、クロエ、エイラ、ジーナがいるんだから。

 相変わらず全身は痛いというのに他の痛みは全く感じない。 そろそろ神力が全身に回ったのだろうか。


「…………お前らはなんとか逃げてくれ。 …………な?」


 極力、安心させるように微笑んで見せた。 しかしこの表情、涙を流しているネティスには見えているのだろうか。

 目を閉じようとしたところで再び声が掛かる。


『ゴーーーーーマーーーーーー!』


 だからなんでゴマやねん! というツッコミをするのはもうしんどいな。

 俺の体は酷く冷たく、もう指一本とて動かせない。 身体が痛む。 しかしそれ以上にネティスの親友の、ネティスの仇を取れなかったな。

 セリーヌにはイフリートを殺す約束もしてるってのに…………。 本当に…………情けない王だったな…………。

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