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セブンスアビス  作者: レイタイ
死霊魔術師と神槍編
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氷刀の王vs神槍の神 一

 それは直感なのか、それともセブンスアビスの性質なのか。 俺達は完全武装で街の外に出ていた。

 理由は分からず、不明ではあるが確信めいたものはあった。

 今日、それもこのタイミングで神が襲ってくると。


「っ! 皆さん! 上です!」


 シルヴィアが気配を察知したらしい。 全員で上を向くと、そこには4つの白い翼を生やした下卑た笑みを浮かべる黒髪の男が。

 短髪で見た目は細マッチョというところだろうか? 上半身裸で腰には白いローブのようなものを巻いている。

 その周囲には上級天使の更に上、精鋭隊とも呼ぶべき5人の集団が飛び回っている。


「お前ら、天使は頼むわ」

「え? る、ルナさんそれって––––––」


 シルヴィアが慌てて声を掛けている途中、俺は足に雷を纏わせて思い切り跳躍した。

 黒い刀を2連、両手で強く握り締めると神の喉元めがけて飛び込んだ。


「っ!? 全員俺を守––––––」

「遅い!」

「ちっ…………!」


 全員が反応する前に神の喉元に刀が突きつけられる。 しかしそれが当たることはなく、咄嗟に後ろに下がりながら精製した槍で防いだ。

 そのまま刀を押し込み、神を地に叩き落とす。


「雷殺剣・黒!」


 地面に着地し、黒き雷を纏った刀で追い討ちをかける。 神は槍を白く鈍く光らせる。 それは神専用の神力を解放した状態といえだろう。 俺の黒い刀と変わらない。


「雷を纏うなんて器用なことするじゃねぇか!」

「黙って死ねクソ神が!」


 刀と槍がぶつかり合う。 隣から強い殺気を感じ、つい一瞬そちらに視線がいってしまう。

 天使のうちの1人がこちらに腕を突き出していた。


「させないわ!」


 しかしフェシルのスナイパーがその腕を撃ち抜いていた。 本当に頼りになるな。 天使は全員任せて問題なさそうだ。


「余所見してる場合かぁ!?」


 高速で槍を突いてくる。 雷を纏ってすらいないというのに同等以上の速度を出してくるのは神のうざいところだろう。

 槍を全て避けながらカウンターで刀を振るう。 するとまるでバトンの如く高速で槍を回してきた。 刀が弾かれ、更に一瞬にして先端が俺の眼前に迫る。


「ひゃは! 死ねぇ!」


 槍を指で挟み込み、こちらに押し出してくる。 普通ならばありえない光景だが、それを可能とするのが恐ろしい。


「っ!」


 咄嗟に頭を下げてそれを避けると同時に眼前に足が迫る。


「くっ!」


 避けるには間に合わず、そのまま蹴りを直撃する。 蹴りだけで大きく衝撃波が起こるほどで、俺はそのまま吹き飛ばされる。


「ぐっ! っぅ! 赤晶・千花!」


 飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、氷の魔法を放つ。 その全てを槍を振り回して弾かれる。


「…………」


 唇の端から血が垂れる。 蹴りだけでも異常な威力だ。 普通の人間なら顔面が吹き飛んでるんじゃないか?

 服の袖で血を拭うと神を強く睨みつける。 こいつはネティスの親友であるヘルを殺し、更にはネティスさえも殺害しているのだ。

 おまけにまだネティスの中のリターンタイムまで狙ってるだと? 調子に乗るなよこの野郎…………。


「はっはっはっ! 神に挑んでまでリターンタイムを渡したくないかぁ!? そうだろうなぁ! それがありゃ俺は永遠の命を得られんだからなぁ!」


 こんなクソ野郎が…………。


「で? お前の目的も同じってか?」


 なんでこんな野郎が生き残ってやがるんだ。


「残念だったなぁ! あのリターンタイムは俺の––––––」

「うるせぇよ。 とっとと掛かって来いよ、殺してやるから」


 御託はもういい。 こいつの話など聞きたくもない。 こんなゴミ野郎、とっとと掃除するに限る。


「…………王如きが神を殺すだと? はっ! 笑わせやがる!」

「…………!」


 同時に突っ込むと再び剣戟が起こる。 刀を振れば槍で弾かれ、槍を突けば刀で弾く。

 刀を振る。 槍が突かれる。 弾く。 避ける。 ただの単純作業だ。 しかしそれすはも一線を凌駕したものとなっている。


「神槍!」


 このままではジリ貧になると悟ったのだろう。 バックステップしながら精製魔法で新たに精製した槍を投げてくる。

 俺はそれを半身になって避けると同時に一回転して地面を抉るように強く踏み込む。 刀を交差させ、一気に首元を狙う。

 神は槍を両手に強く握りしめる。 刀と槍がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。 同時に弾かれるようにしてお互いに距離が開く。


「聖針!」

「っ!」


 周囲に神力が伝い、俺の前180度を大量の針が埋め尽くす。 その全てが俺にとっては有害だ。


「風殺剣・黒舞風!」


 腕を伸ばし、半回転しながら刀を振るう。 俺を包むような強く、黒い風が竜巻となって周囲の針を吹き飛ばす。


「雷殺剣・黒突き!」


 更に距離を詰めるように1歩前に踏み出しながら突きを放って黒い雷を飛ばす。


「はっ! こんなもの!」


 思い切り槍を振り下ろしてその雷を叩き落とす。 その瞬間を待っていた。

 雷により真横に一瞬にして移動し、横に刀を振るう。


「っ! ちっ!」


 神は大きく舌打ちをしながら腕を伸ばす。 瞬時に赤い魔法陣が展開された。


「水氷剣・黒!」


 俺は刀を振るい、その魔法陣ごと神の腕を切り裂く。 しかし、まだ浅い!


「炎殺剣・黒!」


 更に踏み込むと黒い炎を纏った刀を振るう。 神は苦しい顔で少し後退しながら槍で弾く。

 過去、俺は神を殺した際に自分の力の無さを実感した。 正面からぶつかれば間違いなく勝てないそいつらに、工夫して勝利出来る戦闘方法をずっと考えてきたのだ。


「ふっ!」


 刀を思い切り振るうと、神を吹き飛ばすように槍を押し込んだ。 神は後退していたこともあってか勢いに負けて無理やり距離を取らざるを得ない。


「すー…………はー…………」


 大きく息を吸い、大きく息を吐く。 深呼吸をしたのは何も落ち着かせるためではない。

 この神は容赦なく徹底的に叩き潰すべきだ。 こんな奴が神になれる世の中など俺は認めない。 ならば、相応の殺す覚悟が必要だったから。

 俺は神を強く睨み付けると同時に両手両足首に雷の輪を纏わせた。 黒い雷はそれだけでバチバチと大きな音を立てている。


「……てめぇは何をしてくるのか、全く読めねぇな!」

「…………」


 こいつの御託に付き合う気はもうない。 足にめいいっぱいの力を入れると同時に一気に加速する。


「はっ! そんな直線上の攻撃! 当たりすらしねぇよ!」


 神の槍が眼前に迫る。 と同時に左足を踏ん張り、右足を浮かせて左に回転しながら槍を避ける。

 そのまま一回転と共に右の刀を振り抜く。 神が上体を逸らしたので刀は虚空を切り裂いた。 しかし体勢は崩れている。


「炎殺––––––っ!」


 更に踏み込んで突っ込もうとした瞬間、ゾクッ! と嫌な予感が背筋を強張らせた。 咄嗟に少しバックステップで距離を取る。


「ちっ……!」


 神は舌打ちする。 よく見ると周囲には神力が巡らされていて、再びあの大量の針をゼロ距離で放とうとしていたとみえる。


「神槍!」


 再び槍投げの如く槍が飛んでくる。 咄嗟に左に避けながら更に高速移動で一気に距離を詰める。

 両手両足に纏わせた雷が常に俺の速度を上げてくれる。 その分魔力を消費し続けるが、黒刀を2つ作るよりはかなり楽な魔力消費量だ、問題はない。


「炎殺剣・黒!」

「くっ!」


 再び剣戟。 神の槍が白く輝き、高威力となって炎を纏った俺の刀と力が拮抗する。


「仕方ない…………使ってやるよ」

「っ!」


 いきなり神力が高まるのが見えた。 咄嗟に距離を取る。


「貴様は確かに王の中では優秀の部類に入る」


 何やら力を認められたようだ。 だからと言って俺がこいつを許すなんてことはあり得なければ、さっさと死んでくれとも思っているが。


「だが…………あくまでもそれは王の中でだ。 神には敵わないことを悔いながら死んでいけ」


 神力の高まりと共に手に持った槍が光る。 どんどんとその形状が細く、そして鋭くなっていく。


「神である俺に敵うわけがないんだ」


 あぁ、なんだかガキを相手にしている気分だ。 自分は神だから、特別だからと思い上がっているようにしか思えない。

 それを言ってのけるだけのおもちゃを与えられるているのだから余計にタチが悪い。

 こいつは知らないのだろう。 この世がどれだけ残酷で、無慈悲で、幸せよりも絶望の方が多いことを。

 しかし俺はそれと同時に仲間の暖かさを、幸福を知っている。 そんなおもちゃに振り回されているだけのガキに負ける気などない。


「まぁもっとも…………」


 今まさにそのおもちゃに負けそうなわけだが。 どんだけパンパンに神力注ぎ込んだんだよあいつ。 頭おかしいんじゃねぇの?

 まともに打ち合えば間違いなくこっちの刀が折られる。 無駄な魔力消費になりそうだが…………。

 俺もそれくらいの魔力を込めるか? いや、やはりそれだときついな。 俺の魔力が持たん。

 落ち着け、冷静に…………何をしてくるのか分からない以上は相手の出方を伺う方が良い。

 殺したい気持ちは山々だが、俺が死んでしまっては多分あいつら全員泣く。 倒れただけで号泣されるし。


「あいつらを泣かすわけにはいかん」


 それだけは絶対に駄目だな。 命を懸けて阻止しなければ。 …………いや、逆に命を懸けたら駄目なのか? よく分からなくなってきたな。


「月くん! 大丈夫!?」


 ネティスの声が聞こえてくる。 その声音は不安そうだ。

 様子を伺うと精鋭天使相手にかなり善戦していた。 しかしこちらに援護にくる余裕はなさそうだ。

 そんな状況でも気遣いが飛んでくるのは相変わらずだな。 不思議と絶望的な状況でも笑みが漏れる。


「もちろん。 そっちも頑張れよ」


 極力平気そうに、それでいて勤めて明るく。 ネティスは安心したようにホッと息を吐いた。

 活力は得た。 後はどうするかだ。


「…………やはり天使程度では役にも立たないか」

「そんなことはねぇよ。 お前が天使の扱い方を間違えてんだよ」

「なんだと?」


 そう、全てはこいつの責任だ。 大量の天使が出てきた時、こいつはあの精鋭達を送り込んで来なかった。 どうせ高みの見物でもしていたのだろう。

 そんなくだらないもので、くだらないことで沢山の命を失ったのだ。 それをこいつは役にも立たないと称した。

 心底ゴミクズだな。 どこまで行けばここまで堕ちるのかと思えるくらいに。


「きちんと殺してやるよ。 お前は生きているべきじゃない」

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