膝枕より胸枕
結局あのダンジョンにはそれ以上の成果もなく、俺達はそのまま依頼達成の報告をして戻ってきた。
ちなみに一緒にいた冒険者は残念ながら姿は確認出来ず、現在は調査隊が入っていることだろう。
「ルナさん、気になっていたんですが、この方々はどうしますか?」
「ん?」
シルヴィアの方を向くとおっさんとブサイクちゃんがいた。 …………何故いる。
「邪魔だし帰していいんじゃねぇの?」
「邪魔!?」
「道案内したのに酷い!?」
いや、道案内してもらってねぇし。 ぐだぐだしてたら目標に遭遇したし。
「…………フェシル、手伝って」
「えぇ」
セリーヌが床に魔法陣を描く。 あぁ、直接移動させるのか。 名案といえば名案だ。 わざわざ家に上げる必要もあるまい。
「ちょ、まだ助けてもらったお礼が!?」
「いらないわ。 むしろ邪魔よ」
辛辣すぎるなおい…………。
おっさんとブサイクちゃんはそのままセリーヌの魔法陣に入れられ、ダンジョンの中へと帰っていった。
「はぁ…………疲れた…………」
「お疲れ様、膝枕する?」
ネティスさんマジで女神っすね。 前は死神とか思ってたけど。 ネティスが1番乙女だった。
ソファに座ったネティスの太ももに頭を乗せると幸せそうに頬を緩ませてくれる。 うん、幸せそうなのは見ていてこちらも嬉しくなる。
「なんかもうこうしてないと昼寝出来ない身体になりそうだ…………」
「本当? なら毎日してあげましょうか?」
「いや、流石にそれはお前の負担が大きいだろ?」
そんな迷惑を掛けるわけにはいかない。 いや、毎日してくれるならありがたいというか是非お願いしたいんですけどね?
「負担? むしろ毎日させてくれるの?」
「え? むしろお願いされてるの俺の方なの?」
なんか話が噛み合ってない! でも嬉しい!
「えぇ、お願いだから毎日膝枕してもいい?」
「それは是非」
「っ! ふふ、嬉しいわ…………」
幸せを噛みしめるように目を閉じて頬に手を添えていた。 うん、そんな表情が見れるなら俺も満足です。 でも立場はやっぱり逆だと思うのですが?
「もうお決まりになってしまいました!? ネティスさん手強いです!」
「え? あぁ、もちろん順番は守るわよ? 九尾ちゃんも、それに銃娘ちゃんも人魚ちゃんも膝枕好きよね?」
「い、いいんですか?」
シルヴィアが伺うような視線を向ける。 うん、可愛いね。
でも忘れてはいけない。 これは俺を膝枕してくれるという話なのでお願いする立場なのは本来俺のはずだ。 なのに何故俺が蚊帳の外なのだろうか?
「もちろん。 月くんもその方が飽きないわよね?」
「いや、飽きる飽きないの問題なのか?」
誰の膝枕も気持ち良いよ? 感触は全然違うんだけどな。
フェシルのはドキドキするし、シルヴィアのは安心するし、クロエのは嬉しくなるし、ネティスのは甘えたくなる。 皆それぞれ違うのだ。
「それに、こんな素敵な子を独り占めなんてバチが当たるもの」
「…………? よく分からんが、今俺は褒められたのか?」
「もちろん。 最高の王様よ」
最高の王様らしい。 でも全く話が分からん。
「あの幽霊戦ではあまり役に立てなかったもの。 今は甘やかされてほしいわ」
「そうか? ならこのまま昼寝してもいいのか?」
なんて、冗談なんですけどね。 そんなことすれば足痺れちまうだろうし。
「もちろんいいわよ? 何なら胸枕にする?」
「…………なんですと?」
何やら肯定された上にもっと上級編も要求された? マジですか、魅力的すぎて頷いちまった!
「ふふ、じゃあ私が先に寝転がるからちょっと起きてもらえる?」
「は、はい」
上体を起こすと先にネティスが仰向けに寝転がった。 そして抱きしめられるように首に手を回され、そのまま胸へと顔をダイブ。
冷たいけどふかふかしてるしふにふにしてるしボヨンボヨンだし幸せだわ〜…………。
「月くん可愛いわ…………♡」
ネティスの顔を見るとうっとりしていた。 やっぱりいつも立場が逆なのだが。 もういいか。 俺も幸せだしネティスも幸せそうだし。
「ほ、本当にこのまま寝ちまうぞ? いいのか?」
「えぇ、もちろん。 月くんは遠慮しすぎよ? 王様なのだからもっと甘えてもいいのに。 …………いえ、私を惚れさせた男の子なのだからいつでも私に甘えていいのよ?」
そうかー。 俺はネティスを惚れさせた唯一の男なのか。
…………めちゃくちゃ恥ずかしいな。 しかもネティスは本当に幸せそうで嘘を言っている様子はない。 気遣って言ってるわけではないということか。
「…………羨ましい」
俺達の様子をじっと見ていたセリーヌがそう呟いた。 そうだろうそうだろう。 ネティスの胸枕マジパネェもんな。
「…………おっぱいの差?」
「いえ…………白銀ちゃんはどちらかというと甘えたい方なのでしょう?」
「ん…………甘やかすのも嫌いじゃない」
あれ? もしかしてネティスの方を羨ましがってる? 俺じゃなくてか?
「…………ルナ、また今度お願い」
「え? あ、あぁ。 ん? 俺がされる方って認識でいいんだよな?」
まぁ俺としてはどっちでもいいんだけど。 セリーヌが上になると……………うん、それはそれで幸せだ。 ネティスも言わずもがなである。
「ん…………」
「そ、そうか。 まぁ機会があれば言ってくれ」
「ん…………楽しみにしてる」
俺の方もな!
「じゃあ月くん、今は眠るまでこうして頭を撫でるわ。 他にもして欲しいこととかある?」
「もう幸せ過ぎて充分です…………」
本当に良いのだろうか、こんなに幸せで。 どこを行っても甘やかしてくれるし。 ちょっと刺激は強過ぎる時もあるけどな。
「じゃあ…………おやすみネティス…………」
「えぇ…………おやすみ」
重くなった瞼がどんどんと下がってくる。 ネティスの背中に手を回し、離れまいと、離れたくないと抱きしめる。 顔いっぱいに柔らかい感触に包まれる。
「月くん可愛いわ……このまま私の部屋にお持ち帰りして1日中抱きしめていたいわ…………」
聞こえてます。 まだ完全には寝てませんよ俺。
うん、割とマジでお持ち帰りしていただいて大丈夫ですよ? 俺は万事オーケーなので。
「…………まだ寝てない」
「え? ほ、本当?」
「ん…………寝る一歩手前」
なるほど、当たっている表現だ。 確かにまだ寝てませんよ? もう寝るけどね!
「寝る前でこの可愛さだなんて…………寝たらどんなに可愛いのかしら…………」
「至高…………」
その表現はおかしいかな! なんだよ、寝顔が至高って。 それはお前らのことじゃねぇか。
そんなツッコミを入れていると頭が真っ白になってきた。 あぁ、もう完全に意識が落ちるな、という自覚をしたと同時に俺は眠りについた。
ちなみに俺が寝ている間に全員から可愛いと言われ続け、唇を奪われまくったという羞恥の話は起きてからジーナに聞いた。




