悪霊退治 終
シルヴィアの出してくれた灯を頼りに前へと進んで行く。 しかし妙に雰囲気が出て来た。 それはセリーヌとクロエとエイラに抱きつかれていることから安易に想像出来るだろう。
「驚いたわ。 まさか白銀ちゃんと黒龍ちゃんまで怖いものが苦手だなんて。 それで九尾ちゃんが平気なのね」
「ん? あぁ、そういやあの時まだネティスと出会う前か」
ネティスは残念人魚姫のことを知らないんだったな。
「こいつら本当に怖がりでな…………」
「そう…………月くんは平気なの?」
「あぁ、別に。 案の定ネティスも余裕か」
まぁネクロマンサーで幽霊怖いとかは流石にないだろう。
ネティスは俺の返答に何やら少し不満そうだ。 俺別に悪いことしてないのに。
「…………怖がる月くんが見たかったわ」
「ドSかお前は」
なんつーこと考えてんだよ。 俺の怖がるシーンがそんなに面白いのかよ。
「それで私に甘えてくれたら完璧だったのに…………」
「女神かお前は」
まさかそんな綿密な計画を。 いや、別に綿密でもなんでもねぇな。
「しっかし…………全然何もねぇな」
「そうだね」
本当に何もなかった。 魔物がいなければ冒険者もいない。 これは困った。
「どうする? 俺の予想だと罠に引っかかった時点でもう…………」
「そ、そうだよね…………着地出来ないよね…………」
そうなのだ。 そうなれば…………いや、まだ方法はある。
「移動魔法の可能性は? セリーヌ以上に移動魔法が使えりゃいけるな」
「あ、確かに! セリーヌさん、移動魔法が苦手なんだよね?」
「ん…………使える程度」
つまりはそういうことだ。 一般的に移動魔法が得意な奴は魔法陣など描かなくても普通に展開して移動する。 普通ならそうするだろう。 もちろん以前のヒーラのように長距離を楽々と移動するようなことは普通は出来ないが。
「俺達も一旦戻って見るか?」
「それが良いと思いますよ? もしかしたら街にいるかもしれません」
セリーヌに視線を向けると既に魔法陣を描き始めようと指を噛んでいた。 やること早いよセリーヌさん。
「…………?」
今、何か動いたか? いや、しかし魔力は見えねぇし。 気のせいか?
「ルーちゃん? どうかした?」
「な、何か見つけたのかな?」
何やら不安そうに聞かれた。 怖いもの苦手すぎない? ダンジョンで怖いものとか沢山あるような気がするが。
「いや、今何か動いた気がして」
「フフフ…………」
「「「っ!?」」」
女性の笑い声が聞こえた瞬間、いきなり3人にタックルをかまされた。 腹に結構な衝撃が…………!
「る、るるるるルーちゃん今のは!?」
「さぁ、なんだろうな」
「…………ルナ、早く逃げるべき」
「そ、そうだろう!? な、何が起こるか分からないぞ!?」
落ち着けお前ら。 とりあえず俺が何も出来ないから俺にまとわりつかないで。 咄嗟の時何も出来ないから。
「灯、もっと増やしますね! サンシャイン!」
シルヴィアが炎の球体を大量に出した。 うん、正体が分からない以上はそれだけの用心は必要だ。
周囲を見渡すとそこはかなり大きめの大部屋だ。 いつの間にかそんなところまで来ていたらしい。
「全員状態異常には気を付けろよ」
「はい! ってあれ…………? フェシルさんはどこでしょう?」
「え? あ、あれ? いねぇな」
慌てて周囲を探すと何やらとんでもないものを引きずっているフェシルが戻ってきた。 何それ?
「ルナ、悪霊ってこいつじゃない?」
かなり雑に放り投げてきた。 その悪霊は俺達の丁度中央辺りの地面に顔を打ち付け、悶えていた。
二頭身の女の幽霊みたいな魔物だ。 身体が青白く、更には顔も膨らんでいて正直可愛いとはとても言えない。
「…………ブサイク」
だからってそれは直接的過ぎる。
「幽霊の正体がこんなのなのか?」
「多分? さっきからこの辺りをうろちょろしていたわよ?」
「そうなのか。 …………というかフェシル、この暗闇で見えてたのか?」
「そうでなければスナイパーは出来ないわ」
すっげぇ。 フェシルさんすっげぇ。
「お願いします! 怖がらせたことは謝りますから助けてください!」
「…………黙ってブサイク」
ブサイクは名前じゃないよ? しかし悪霊がこんなのってかなり拍子抜けだな。
「しかしこいつが高速のパンチが出来ると思うか? 腕ねぇんだけど」
「人型というのも怪しいわね」
「…………ただのブサイク?」
セリーヌ、いい加減ブサイクから離れてあげて。
しかしどう考えてもこいつが犯人じゃない。 というかこいつの魔力はほぼ見えないくらい希薄だ。
「多分ハズレだ」
「ならこの魔物? に道案内させればいいのではないかしら?」
「そうだな」
ネティスの提案を採用である。 まぁつまりは攻略続行ということだろうな。
そのブサイクちゃんは慌てた様子で周りを見回す。
「だ、誰か助けてぇ!」
「うるせぇブサイク! とっととくたばれぇ!」
「酷い!?」
あ、もう1体おっさんがいた。 幽霊だが。
「やりなさいスカル」
間髪入れずにネティスが骸骨を出してその幽霊も捕獲。 ちょっとこいつら気持ち悪い顔してんだけどな。 …………案内だけだし増えても無駄のような。
「お、俺たちをどうするってんだい!?」
「命までは! 命までは取らないでください!」
うーん、何やら必死に懇願してくる。 別に殺す気はないんだけどな。 この程度の魔力で人間をどうにか出来るとはとても思えんし。 例えるなら初級魔法1回を使おうとして魔力が足りません! と言われるくらいに少ないのだから。 …………無害だな。
「こいつを! こいつを代わりに殺していいから!」
「えぇ!? ひ、酷いぃ〜!!!!」
うん、本当に酷いなこのおっさん。 このおっさんだけ殺してもいいんじゃないか?
俺がそんなどうでもいいことを考えていると頭が少し痛んだ。 なんだ?
「…………?」
周囲を見回すも魔力に異常はない。 つまりは魔法系統の攻撃の可能性は少ない。 だがなんだろうか?
「痛っ…………」
何か声? のようなものが聞こえる。
『ーーーーーーーー!』
しかし何を言ってるのか、いまいち分からない。 というか一文字も聞こえない。
「ルナさん? ど、どうしました?」
「いや、ちょっと頭が痛んだだけだ。 今はもう治った」
「だ、大丈夫ですか? この魔物を見て何か異常が…………」
いや、魔物のせいなの? 多分それはないと思うんだが。 なくはないけど。
「…………殺す?」
「うえ!? お、俺達じゃねぇって!」
「違います! 違いますから!」
いや、分かってるからそんな必死にならんでも。 そもそも俺に精神負荷を掛けれる奴って結構限られてるしな。 セブンスアビスって厄介ですもんね。
「ルナくん、どうするのかな? 私はルナくんに任せる」
「私もだよ。 私が考えるよりルーちゃんが考えた方が確実だもんね」
それは他力本願じゃないのか? いや、まぁ俺の意見を聞いて駄目なら駄目ってはっきり言うのがこいつらだが。
「まぁとりあえずは依頼達成くらいはしておかないとな。 探しても見つからない以上あの冒険者チームは置いておこう」
「なら案内ね。 ほら立ちなさい」
いや、そいつら足ないから立てないぞ。
「うぅ、幽霊使いが荒いぜ…………」
初めて聞いたわそんな言葉。 変な言葉作るなよ。
「何か異常とか、この辺りのことに詳しかったりはしないのか?」
「お、俺は特には…………」
「嘘つき! この前自慢げに何か話してたじゃない!」
「うわ! お前今それを言うのか!?」
なんだこの夫婦コンビ。 聞いてるだけで腹立つな。
「…………殺る?」
「「っ!?」」
「だから殺らないっての。 とりあえずその自慢げに話してたその内容を聞きたいんだがな」
しかし自慢げってなんだよ。 こいつの功績じゃないんだろ?
よく分からんが、とりあえずは話を聞きながら先へ進むことにしよう。




