悪霊退治 三
翌日、俺は寝ぼけながらもセリーヌの移動魔法で村へと来ていた。 近寄って来たミアが俺の顔を見るなり不思議そうな顔をする。
「お兄ちゃん眠いの?」
「あぁ…………朝は弱くてなぁー…………」
立っているだけでもやっとだ。 眠すぎてフラフラする。
そんな俺を支えてくれるのはクロエとネティスだ。 2人とも身長高いからな。
「やはり朝は苦手なままなんだな…………」
「仕方ないわよ、人間誰しも完璧ではないのだから。 月くんは朝も寝ぼけてて可愛らしいけれどね」
「ひ、否定はしないがルナくんの朝のこれは弱点だろう? ふ、普段が完璧超人なのは認めるが」
認めるのかよ。 あ、寝ぼけててもツッコミは自動発動みたいだ。 口には出せないけど。
「…………ルナが認めるのかよ、と思ってる」
すげぇなセリーヌ。 なんでツッコミを知ってるんだよ。 心読んでるの?
「読んでない」
読んでるじゃないか。 あれ? この会話前にもしなかった?
「…………した」
どうやらしていたらしい。 しかし、何故その心すら読んで来るのだろうか。 ちょっと怖くなって来た。 それ以上に眠いけどな。
「紅月さん、お仕事の話なのですが」
ニアがやって来て仕事の話になる。 一瞬で目が覚めた。 そうだった、仕事中だった。
「あ、目が覚めたか」
「…………もう少しくっついていたかったけれど、仕方ないわね」
2人が名残惜しそうに離れる。 そんなに残念そうな顔するならずっとそばに居てくれていいんですよ?
「悪霊が出るのはあちらに見える山の中の洞窟です」
ニアが指を差したのは村の後方に位置するあまり高くはない山。 ここからでも頂上は見えるのだからそれほど高くはないのだろう。
更にその山から不自然に空いた空洞が見えた。 あそこが問題となっている洞窟なのだろう。
「悪霊は人型で、高速のパンチをして来ます」
「…………スタンド?」
「スタ……ンド? なんですかそれは?」
いや、悪霊で高速のパンチって言ったらねぇ? このまま時間すらも止めそうで怖いな!
「ちなみに状態異常系の不思議な魔法を使うようです。 なんでも仲間を襲うとか」
「へ?」
それって…………オーレリアが経験したあれか? いや、あれは神の仕業だ。 ということは今回の悪霊の正体って…………。
「ルナさん?」
「…………ん?」
「いえ、何か考え事をされていたみたいで」
「いや…………まぁちょっと気になってな」
と、ここで濁すから以前フェシルとシルヴィアを不安にさせたわけか。 しかしここで話すことでもないな。 あんまり公にする必要はない。 仲間内で分かっていれば良い問題だ。 オーレリアにも悪いしな。
「まぁ詳細はダンジョンの中で話す」
「っ! ルナさん…………」
うお、ちょ、理解早いよシルヴィアさん! なんでそこでうっとりした顔をするんですかね。
「ルナさんが自分から話してくれる日が来るなんて…………」
いや、そんな珍しいことじゃないからね? 別に隠し事とかないからね? 隠し子もいないからね?
「また自分の中にしまい込むつもりだったらお仕置きするところだったわ」
「…………お仕置き?」
「セリーヌ、いらんところで反応すんな」
SMじゃねぇからな? やったことないしやる気もないからな? 俺は結構純愛タイプなんだよ。
「……知ってる」
「っ!?」
読まれた!? やっぱり心の中が覗けるんじゃないのか!?
「……それは無理」
「だからなんで分かるんだよ」
もう怖いよセリーヌさん。 迂闊なこと考えたら全部読まれちまうよ。 俺はどうすりゃいいんだ。
「まぁいいや…………もう行こうぜ?」
「ん…………」
何やら納得は出来ないが色々と話を進めなければいつまで経っても終わらない。 俺達はそのまま足を進めて登山を始めた。
山の懐かしいような、もう慣れたような岩場をぴょんぴょんする。 ついでにいつかのようにシルヴィアとネティス、更にはクロエの胸もぴょんぴょんしていた。 いや、ボヨンボヨン?
「…………揺れる揺れる」
「なんだそのオヤジ臭い表現は」
しかしセリーヌ、気持ちはよく分かる。 どうしてもそっちに視線行っちゃうよね!
「つ、月くん……恥ずかしいからあまり見ないでもらえる?」
自分の身体を隠すようにして注意された。 あれー…………前はいつでもどこでも俺を受け入れる準備がどうたらこうたら言ってませんでしたっけ?
「…………すいません」
しかし俺はもう謝ることしか出来ない。 極力ネティスは見ないようにしてシルヴィアとクロエを観察する。 隣にはセリーヌが並んでその光景を眺めている。 俺達2人何してんだろ。
「…………同性の目から見てもやっぱり凄いか?」
「ん…………超重量」
やっぱりそうなのか。 しかし超重量か。 確かに…………。
「…………ボヨンボヨン」
「ボヨンボヨンだな」
「…………ブルンブルン」
「ブルンブルンだな」
「2人で何してるのよ…………」
フェシルから呆れた視線を頂戴した。 でもセリーヌは懲りた様子はなく、むしろ指を差していた。
「うん? シルヴィアを見ればいいの?」
セリーヌの指差す先を見るフェシル。 そして目は上下に。
「す、凄いわね…………」
「ん…………あれが本当の化け物」
「あのー…………そこまで見られると恥ずかしいのですが…………」
シルヴィアもやんわりと抗議して来る。 うん、まぁ当然だな。
「その……ルナさんならいつでも…………」
「なんと」
いつでもいいらしい。 そういえば前もそう言ってたな。
「どうして同じネタで盛り上がれるのよ…………」
「いや、揺れる胸はいつ見ても良いものだ」
「ん…………同意」
ほら、セリーヌもこう言ってるんだ。 やはりこれが世界の真理だろう。
「その……ベットの上で散々見ているでしょう?」
「まぁそうなんだけどな…………。 男としてはな?」
「ん…………同意」
「お前は男じゃないだろ」
なんで同意しちゃったんだよ。
「…………? 男なら仕方ない」
それは男の台詞では…………。 いや、しかし心が読めるレベルで人の心理を読む能力に長けたセリーヌなら男心も分かるか?
「…………これでも嬉しい?」
セリーヌがちらっと胸元を見せて来る。 割と大きな胸の谷間が…………!
「やめようね」
エイラに止められた。 くそ、もうちょっと見たかった。
「どうして残念そうな顔をしてるのかな? なんでかな?」
「いひゃい、いひゃいでふ」
頬を引っ張られる。 なんでこんな目に。 でもちょっと得した気分。
「…………続きはベッドで」
「ほーはな」
「何言ってるのか分からないわ」
頬を引っ張られてるんだからそりゃ何言ってるか分からないだろう。
「キミ達は何をしてるんだ…………」
最後にクロエに呆れられる。 しかし真面目なクロエに口が裂けても揺れるあなたの胸を見ていましたとか言えないな。
「…………クロエのおっぱい見てた」
「おおい! お前は勇者か!」
なんて無謀なことを! ついエイラのお仕置きを振り払ってツッコミを入れてしまった。
全員でクロエの顔を見ると果てしなく興味なさそうな顔をされた。 怒るでもなく何でもなく、ただの無だった。
「…………ルナくん?」
「ひゃい!」
こ、こっわぁ…………。 俺このまま死んじゃうんじゃないの?
「本当か?」
「す、すいません」
改めて聞かれてももう謝罪しか出ねぇよ…………。 セリーヌも震えて俺の腰を掴んで来る。
「…………その、あんまり見ないでくれ。 恥ずかしいから」
「へ…………? あ、はい、すいませんでした」
いきなり顔を真っ赤にした。 どうやら怒っていたわけではなく頭が理解していなかっただけらしい。
「…………もう2度としない」
「同じく…………」
俺達は2度とクロエの前で揺れる胸の話題は出さないことを今ここで誓った。 全員が呆れていたが本当に怖かった。




