悪霊退治 一
久しぶりにギルドに呼ばれ、奥の一室にて人を待つ。 その間にしばらくの間構ってやれなかったジーナが甘えてきたのでとりあえず抱きしめてみた。
「ルナ様たくましいです」
案の定ジーナはデレデレである。 デレさせゲームがあれば徹夜明けの俺みたくなりそうだ。 あれは今思い出してもかなり恥ずかしい。
「そういえば今日は人と会うんですよね?」
「はい、その通りです。 ルナ様にお会いしたいという依頼人からのご希望です」
俺に会いたい? そんな酔狂な奴がいるのか。
ミッションクラッシャーなんて呼ばれているくらいだからてっきり嫌われているものかと思っていたが。
「ルナ様のミッションクラッシャーという二つ名はまさしくこの世の正義を示す言葉ですから。 どんな圧力にも屈しず、全てを己が意思で勝ち取るという素晴らしい異名です」
「そんな大層なものだったのか?」
マジかよ。 そんな話初めて聞いたぞ。
どうもその手のものは日本では悪い方に捉えられてしまう。 そのせいか俺も思考が負の方向へ傾いてしまっていたらしい。
「流石はルナよね」
「ん…………英雄」
「いや、英雄ではなく王だろう?」
「そういう意味じゃないと思うよ…………」
と、まぁ無駄話をしたところでドアが開いて例の依頼人が入ってくる。
それは親子だった。 いつかに見た。
「あら? あの2人は」
「あぁ。 俺達が初めて会ったときに助けた親子だな」
どうやら依頼人は例の親子だったらしい。 そういえばギルドに俺のことを紹介したのもこの人とか言ってたっけ?
「お久しぶりです、紅月 ルナ様、フェシル・スペクロトゥム様」
「久しぶりー!」
「あぁ、久しぶりだな」
「こちらこそ」
俺とフェシルしか知り合いがいないので周囲はキョトンとしていた。 まぁそうなるだろう。
「あ、私は以前お2人に助けていただいたニア・アルファと申します。 こちらは娘のミア・アルファです」
初めて聞いた親子の名前。 とりあえずで全員が名乗ると丁寧に頭を下げる。 こういうのを世間では良妻と言うらしい。 礼儀正しい女性だった。
「それで、依頼っていうのは?」
「はい。 ルナ様、こちらを」
依頼の説明はお前がするのかよ、とツッコミを入れかけた。 この自己紹介の意味は?
とりあえずツッコミを頭を隅に追いやって依頼内容を確認する。
「…………また合同任務か」
「はい。 ですが普段の合同任務とは違います」
そうなのか。 読み進めていくと、確かに妙な違いはあった。
「悪霊を払うのか? それって霊媒師の仕事だろ」
「レイバイシ…………?」
あ、霊媒師はこの世界にないのか。 全員一様に首を傾げている。
「悪い、前の世界の知識だ。 で、悪霊は……ネクロマンサーの仕事になるのか?」
「いえ、悪霊と言っても恐らくは魔物ではないかという推測が。 ただ、物理攻撃が通じない魔物である為に大変厄介ですのでルナ様にお声が掛かった、ということです」
どうやらそういうことらしい。 参加するのは俺達、そしてもう1チームの計2チームという少数編成らしい。
「リヴァイアサンの攻撃すらも防ぐルナ様にならお任せ出来る…………そう私が進言しておきました」
「そして私がその依頼人の代表として選ばれたんです。 奇妙な偶然ですね」
本当にな。 場所はこの街の近く。 ということはこの人は商人か何かだろうか?
あとジーナ、俺達防げてない。 モロに食らいました。
「報酬はギルドが半額負担しております。 ですので請求はギルドの方で良いかと」
「別に金目的で冒険者やってるわけじゃ…………いや、いらないってわけじゃないんだけどな。 俺達は最低限生活が出来りゃ文句はないしな」
無駄遣いしなければ最低限の生活費があればフェシルとシルヴィアとクロエとエイラが割と勝手にしてくれている。 マジ助かる。
フェシルは細かいところまで良く気が付くし、シルヴィアは料理が美味すぎる。 クロエは真面目だしエイラはなんかメイドみたいな感じになる。 人魚メイド。 ふざけて『旦那様♪』とか言ってくるしな。 それはそれで良い。
「それはいけません。 対価に見合った報酬でなければ。 ルナ様、そういうことに疎いのですか?」
「疎いっていうかそこまで興味もないっていうか。 まぁそんな感じだろうな」
今まで贅沢もしなければ苦労もしていない。 普通に学校へ行って空いた時間にバイトして、ただそれくらいだ。 だからだろうか、お金のありがたみを知っているし、だからこそそこまで貰う価値があるのかも俺には分からない。
「流石ルナ様、金欲にまみれた大人とは違います」
「逆に無欲過ぎて困るのだけれど」
「そうですね。 なんだか最近よく甘えてくるなぁとは思ってましたけど。 基本的にわたくし達が喜ぶからというのが行動原理ですし」
「…………無趣味多才」
「私にはあんまり甘えてくれない…………」
「それはクロエさんが恥ずかしがって何も言わないからじゃないかなぁ…………。 ルーちゃん鈍いから」
褒められてんの? 貶されてんの? どっち?
無欲なのは良いことなのか悪いことなのか分からなくなってきた。
「…………月くんのワガママならひとつ知ってるわ」
「ルナ様のですか? 意外ですね」
「ん…………気になる」
ネティスさんは何を知ってらっしゃるんでしょうか? ワガママ? そんなこと……あ…………。
「その…………」
「ネティスちょっとタンマ、マジで待って」
「わ、私達と一緒にいたい…………とか」
「「「「「「………………」」」」」」
あーあ…………言っちゃったよ。 しかも本人顔真っ赤で本当のことっぽくなっちゃったし。 本当のことだけどさ!
「いえ、知ってますよ?」
「ルナはいつもそれだものね」
「ん…………常識」
「ルナくんだからそうだろう」
「そうだね。 ルーちゃんのいつものことだよ?」
「今更です」
え、何その周知の事実。 気付かれてないと思ってたの俺だけなんですか?
「ふふ、仲良いですね」
「お兄ちゃーん! 私もお兄ちゃんのお嫁さんになるぅ!」
へ? お嫁さんになる? 何この可愛い生き物。 にぱーって笑う感じが見てて微笑ましくなるな。
「…………ルナにロリコンではなかった」
「人の心を読んだ挙句随分と失礼じゃねぇか」
別に欲情したりするわけがないだろうが。 で、こいつは今まで俺のことをロリコンだと思っていたわけか。
お仕置きにとセリーヌの頬を引っ張る。 何やら少し嬉しそうなのは何故だろうか?
「なら私も立候補しちゃいましょうかしら?」
ニアが妖艶に微笑む。 それは争いの種にしかならないんじゃないだろうか。
「っ! …………年上のリード役は私の役目よ。 あなたには渡さないわ」
「何その役目。 実際そうだけど」
ネティスはネティスなりに考えてポジションを獲得しているらしい。 何それ、リード役は2人いてもいいんですよ?
「つ、月くんは渡さないわ!」
「うぷ!?」
何やら強気なネティスに抱きしめられ、胸に顔を埋める。 相変わらず柔らかいし気持ち良いけど…………なんかネティス、いつもの余裕がない?
「つ、月くんはわ、私の…………その…………つ、月くんのお嫁さんだもの…………」
頬を真っ赤に染めるも相変わらず強い瞳でニアを睨みつける。
全員が意外そうにネティスを見つめる。 そりゃそうだろう。 俺も意外な目で見つめちまってるし。
「…………ネティスがいつもの余裕がないわ」
「これってつまり…………ネティスさんは既にもう…………」
「ん…………草津の湯でも?」
「もう手遅れということか?」
「私達もそうなんだけどね…………」
つまり…………どういうこと? 俺だけ分かってないんだが。
「独占欲は当然あるわよね。 私もシルヴィアが入る前はルナと2人きりで幸せだったわ…………」
「な、なるほど…………ルナさんと2人きりになれる時間があるのは羨ましいです…………」
「…………私達もそうする?」
「そんなことが出来るのか?」
「順番に2人きりになったりとか…………出来るよね?」
「「「なるほど…………」」」
フェシル、シルヴィア、クロエが納得したように声を揃えた。 つまりそういう風になるわけか。
好きな人と2人きりの時間を過ごすこと…………。 ふむ、なんかテンション上がるイベントだ。
しっかし、盛大に話が脱線してるな。 俺は相変わらずネティスに抱きしめられたままだし。
「冗談ですよ? 冗談。 私、好きな人いますし」
「そ、そう…………良かったわ」
心底安心したように息を吐いた。 その際に俺と目が合う。
「っ!?」
俺の顔を見るなり驚きながら耳を真っ赤にする。 ふむ、可愛いが、やっぱりなんかおかしい。
「…………月くんは私のものだもの…………」
「へ?」
公衆の面前にも関わらずネティスの顔が近付いてくる。 や、やばい、近い。
「月くん…………」
「ちょ、ちょっと待たない? あの、そういうのは家で––––––んむ!?」
そのまま俺は唇を奪われる。 文句を言えばいいのだろうか、いや、ネティスのこんな必死な顔を見せられてそんなことが出来るはずもなかろう。 嬉しいしな!
「ず、ズルいぞ! 私もキスしたい!」
「ん…………自重すべき」
あぁ、また始まったよ…………。 というかミアの前で何してんだこれは。
俺は心の中で盛大に溜息を吐きながらミアに視線を向ける。 ニアがきちんと目を塞いでいた。グッジョブ!




