凍りつく魔力
今日も今日とてギルドからの依頼はなく、俺、シルヴィア、エイラは街の外で魔法の練習をしていた。 他のみんなにはネティスの護衛を頼んである。 肝心のネティスは部屋で何か考え事をしていたみたいだが。 また何か妙なことをしでかさなければいいけど…………。
近いうちにネティスを狙ってまた何かが攻めてくるかもしれない。 その為にも俺のこの練習は無駄にはならないはずだ。
「シルヴィアさん、水魔法って基本的に攻撃力が低いよね?」
「はい。 ですから色々工夫をするんですよ?」
「工夫?」
シルヴィアが俺に視線を向ける。 まぁ実演するということだろう。 シルヴィアの意図を汲んで赤い氷の結晶を発生させる。
シルヴィアはにっこりと微笑みながら小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
「ん…………まぁ俺も一応勉強させてもらうとする」
俺もエイラの横に並んでその実演を眺める。
「例えば普通の水魔法ですが、単体ですとただの鎮火魔法です」
シルヴィアの伸ばされ手から青い魔法陣が展開され、水鉄砲のような攻撃が繰り出される。
水は俺の赤い結晶に当たるも特に意味はない。 まぁ普通はそうなるだろう。
「ですが、これを指一本にしますと…………」
シルヴィアの指先に魔力が集中し、青い魔法陣が展開される。 水は高出力でビームのように発射され、氷の結晶にダメージを与える。
「確かに威力は上がるけど、まだ攻撃力が足りないよね?」
「まぁ見てろよ。 これからだから」
「はい。 では続いて更に攻撃力を上げる為に回転を加えて見ましょう」
シルヴィアが再び指先に魔力を集中させる。 魔法陣が展開され、更には回転し始める。 …………俺はその魔法陣の回転のさせ方を教えて欲しいものだが。
撃ち出された水のビームは高速で回転しながら赤い結晶を貫通した。 つまりは威力が一気に上がったことになる。
「わぁ! 凄いね!」
「このように一気に威力を上昇させることが出来ます。 他にも更に魔力を細く集中させることでビームのように威力を上げることも出来ます」
本来は広範囲攻撃として使われる水の魔法。 しかしやり方によっては色々と使い勝手の良いものにもなる。
「エイラさんは魔力量も多い方ですし、広範囲攻撃も得意だと思いますが、こうして単体攻撃を覚えた方が魔力消費も抑えれて効率的ですよ?」
「うん! ありがとうシルヴィアさん!」
シルヴィアの解説は相変わらず分かりやすい。 俺もちょっと勉強になった。 ほとんど記憶の中に眠っていたけど。
「お次はルナさん。 氷魔法ですが特徴は分かりますか?」
「物の形状が作りやすいのと、動きを止めれる、あるいは防御面に優れるってとこか?」
「正解です、流石ルナさんです♪」
物凄い笑顔で褒められた。 まるで自分のことのように嬉しそうだ。 流石はシルヴィアさんです♪ …………俺には似合わないな。
「追加するなら凍ったものは脆い、ということもでしょうか?」
「まぁそうだな。 あんまりお披露目する機会はないだろうけどな」
「そうですね」
凍らせたものは当然脆くなる。 硬くなる分脆いのだから俺の刀が折れるのも仕方ない。 …………うん、仕方ない。
「ですがこんな使い方が出来るのを知ってますか?」
シルヴィアは何故か知らないがいきなり周囲に魔法陣を展開し始めた。 な、何事?
よく観察するとシルヴィアの身体から発せられた魔力が外に発生した魔法陣と繋がっていた。 しかしそんなことが出来るものなのか?
「こうして慣れれば大気の水に直接魔力を流し込み、凍らせて使用することも可能になりますよ」
マジかよ。 すげぇな氷魔法。 防御魔法の劣化版とか呼ばれているが、使い方によってはどの魔法よりも強くなるだろう。
「氷魔法とは言わば水魔法です。 ややこしいかもしれませんが…………」
「まぁ水魔法を凍らせたから氷魔法だろうしな。 俺は何故か水魔法は使えないが」
「恐らくルナさんの魔力がそういう性質なのではないでしょうか? 試しに魔力を流してみてもらえますか?」
「あぁ」
シルヴィアに言われた通り腕に魔力を流す。 その腕にシルヴィアが水魔法を向ける。
チョロチョロとまるで蛇口を捻ったかのように水が流れる。 なんかシュールだ。
水は俺の魔力に触れた瞬間、凍結し始めた。 なるほど、俺の魔力ってそんな性質が。
「ごく稀にいるみたいですよ? 何かに特化した魔力をお持ちの方」
「あぁ、それは知ってる。 クロエもそうだしな。 あいつは何故か他の魔法属性も使えるが…………」
多分俺は極端なのだろう。 氷に秀でたレベルの。 クロエは良く言えば炎魔法特化ながら他の魔法も使える。 悪く言えば中途半端ということだろう。
「クロエさんもそうだったんですか?」
「あぁ。 魔力が燃えたぎってやがるからな」
本当にグツグツと。 分かりやすいくらいにグツグツしてる。 俺は全く分からないくらい普通と変わらないんだけどな。
「ですが羨ましいです。 何かに秀でた魔力をお持ちの方はその道を極めれば最強になるかと思います」
「そうなのか? …………俺って実は凄い奴だったんだな」
「はい、当然です♪」
そこ、当然ではない。
しかしセブンスアビスとしか取り柄がないかと思ったがそんなことなかったな。
「ルナさんは氷魔法の基礎知識が足りないだけだと思います。 普段から水魔法を使用してませんか?」
「そうなのか? …………自分ではよく分からん」
でも確かに普段から水を刀に纏わせることはよくする。 ということは俺が精製魔法+氷魔法と思っていたのは実は精製魔法+水魔法だったってわけか。
「その辺りをきちんと分別出来れば随分と変わりますよ」
「そういうものなんだな」
やはり魔法というのは知識がものを言うらしい。 オーレリアもハグロウも勉強不十分ということか。
「まずは元は水魔法である氷魔法ですが、明確には違います。 氷魔法を使用する際に水魔法を凍らせるという動作が必要となってきます」
「ふむ」
「つまりは水魔法の魔法陣にその動作を組み込む必要があります。 それも綿密に。 普段から目にされている水色の魔法陣はその動作が正確に起動しているからという理由で起こります」
そうだったのか。 というか知識量半端ねぇなシルヴィア。 なんでそんなことまで知ってんだ。
「氷魔法は原理が難解な分、物凄い力を発揮します。 ルナさんの力にもなるかと思いますよ」
「…………そういやシルヴィアと、それにフェシルも普通に使ってたよな?」
「フェシルさんは理解力が凄かったです。 魔法を教えた途端に使えていました」
規格外かよ。 オーレリアとハグロウの努力を返せ。
「流石にあいつは優秀だな」
「ルナさんと同じような気がしますが…………」
「俺が? そんなことないだろ」
今までだって生き残ったのは偶然と、そしてみんながいたからだ。 結局俺1人ではなし得ないことだ。
「ふふ、そう思っているのはルナさんだけだと思いますよ」
シルヴィアは笑って会話を流した。 どうやら俺の勘違いらしい。 よく分からんがシルヴィアがそう言うのならそうなのだろう。 よく分からんが!
「ルーちゃーん! 氷出してー!」
「ん? あぁ」
どうやらエイラは実践したいらしい。 氷を出すと両手を突き出して魔法陣を発生させる。
「…………本当に理解してるのかあいつは?」
魔力を集中させることに意味があるわけで。 両手を突き出しても無意味だろう。
「大丈夫ですよ。 エイラさんは魔力コントロールがお上手ですからね」
「そうなのか?」
とてもそうには見えないがそうらしい。 ならお手並み拝見といこう。
「行くよー!」
エイラの手元に青い魔法陣が展開される。 それらは大きく回転をし始めた。
「アクアレイン!」
撃ち出された巨大な水は遥か上空へと飛んで行く。 一体何がしたいのか分からない。
「っ! 赤晶・対空重壁」
足から氷を伝わらせて出した氷の頭部分を大きく広げ、傘を作る。 それらは何重にも張られる。
降り注いできた先ほど上に上がった水魔法が分裂し、高速回転を加えながら落ちてくる。 厄介な魔法使いやがって!
高速回転する複数の水のビームがどんどんと赤い氷を貫いていく。 貫かれ、破壊された氷は赤い魔力となって周囲に散っていく。
「ルナさん! 魔力を水魔法にぶつけてください!」
「え? あ、あぁ…………!」
シルヴィアに言われた通り魔力の塊を放出した。 すると水のビームは瞬時に凍りつき、複数の大きな柱を作った。
「わぁぁ…………綺麗……」
「いや、呑気に見惚れてる場合かコラ」
「そうですよ。 もう少しで地面にたくさん穴が空いちゃうところでしたよ?」
「す、すいません…………」
だがかなり強力な技だった。 戦闘でも大いに役立ってくれることだろう。
しかし人の魔法すらも凍りつかせるとかどうなってんだ俺の魔力。
「流石ルナさんです。 水魔法を相手にする際は圧倒的ですね」
本当にその通りだろう。 だって全部凍りつくんだもん。 相手からすりゃやってられないだろう。
「今のルーちゃんがしたの? ど、どうやったの!?」
「ルナさんの魔力は水魔法を凍らせることが出来るんですよ?」
「そうなの!?」
うん、驚くよな。 俺も驚いたしな。 やはり特別なことらしい。
しかし、こうして俺がもっと強くなれると分かれば急いで極めないといけない。
「…………俺がもっと強くなりゃ、ネティスも気を遣わなくて済むのかな」
「「…………」」
あ、つい本音が口から出てしまった。 慌てて2人の顔を見るとニヤニヤされた。
「やっぱりそれが目的だったんですか?」
「ルーちゃん分かりやすいよね」
「っ!?」
気付かれてましたよ!? というか俺が分かりやすいっていうよりはお前らの勘が良すぎるんじゃないか?
「も、もういいだろ俺のことは。 それより早く練習するぞ」
「ふふ、はい、そうですね」
「うん! ネティスさんの為にももっと強くならないとね!」
なんだかんだで2人もネティスのことを気に掛けてくれている。 俺だけじゃないのだ。
俺は口元が緩むのを感じながらシルヴィアの説明を頭の中で整理する。 それが強さに繋がるというのなら、俺はどんなことでもしようと固く誓った。




