デレさせゲーム
ようやく身体の痺れも治った次の日。 俺はリビングの窓を開けて、庭の前で座っていた。
草花に溢れた庭の綺麗な空気やポカポカとした日の光、更には頬を撫でる心地良い風が眠気を誘ってくる。
「今日は良い天気ね」
「ん? あぁ、そうだな」
ネティスが微笑みながら俺の隣に座る。 こういうほのぼのとした時間は大切だ。 俺はそのままのんびりとしていると肩に心地の良い重さがのし掛かる。
「ネティス?」
「少しの間、こうさせてもらえる?」
「…………あぁ」
なんとなく恋人っぽいな、とか思ったが現在のネティスは色々不安定だ。
みんなからも気を付けてやれという許可も貰っていることだし遠慮させる気は無い。 …………そもそも許可をもらうこと自体がおかしいんだけどな?
「…………ネティス、私もしたい」
「え? あぁ、それは月くんに聞いてもらわないと」
「ん…………ルナ、いい?」
セリーヌがじっと俺を見下げてくる。 ふむ…………うん、何がしたいのかよく分からん。
「何をしたいのか分からないんだが」
「…………私もルナの肩を貸して欲しい」
「あぁ、なんだそんなことか。 別にいいぞ」
なんだ、肩借りるだけか。 別にそのくらいお安い御用だ。
セリーヌが俺の方に頬を預け、3人でボーッと空を眺める。 幸せな時間だ。
「あ、ルーちゃん! 私も参加していい?」
「え? …………どうやって?」
「こうやって!」
エイラが後ろから抱きついてくる。 後頭部に感じるこの柔らかい感触は!
「平気そう?」
「幸せです…………」
「え? あ、う、うん。 そうなんだね」
何やら理解してないご様子だ。 ということは無自覚か。 無自覚に胸を当てているのか。
「流石はルナね。 一気に3人侍らせたわ」
「残る席は前だけ…………ですね」
「いや、どう考えてもそれは邪魔になるだろう? ルナくんも迷惑なんじゃないかな?」
迷惑じゃない。 誰でもいいからばっちこいだ。 いや、クロエは流石に駄目だな。 シルヴィアも微妙か。 翼とか尻尾とかがな。
「フェシル、来るか?」
「いえ、それだとシルヴィアとクロエが暇になるでしょう?」
「…………そうか? なら全員で何か出来ることをするか?」
流石に俺も誰かを省くなんてことはしたくない。 全員平等で俺の仲間なのだから。
「あ、それじゃあ1度やってみたかったゲームがあるんです♪」
シルヴィアが珍しく発案する。 うん、ろくなことにならない未来しか見えないな。
「…………本当に大丈夫か?」
「はい。 簡単なゲームですよ?」
簡単なゲームなのが1番怖いんだよな。 このメンツの場合何かしらの罰ゲームがあるだろうし。
「ルナさんをデレさせた人が勝ちです」
「あら、そんなことでいいの?」
「…………簡単」
「え、そ、そうなのか? 私に出来るかな…………」
「ルーちゃんを…………うーん、普段からデレてるよね?」
「月くんを…………?」
なんだそのゲーム。 というか俺は参加じゃなくて受け手かよ。 まぁいいんだが。
「エッチなことは禁止にしましょう。 その……止まらなくなってしまうので」
あー、うん。 そうですよね。
「色仕掛けは?」
「それはありでしょう。 女性としての武器よ」
アリなのか。 エッチなことと色仕掛けとの違いってなんなんだろう。 よく分からんな。
「なら言い出したシルヴィアから始めましょう? 平気?」
「はい、大丈夫ですよ」
「あー、ちょっと待ってくれ。 心閉ざすから」
そうでもしないと一発でアウトになりそうだし。 俺ってこういうゲーム弱すぎるからな。
「よし、いいぞ」
俺は死んだ魚のような目でじっとシルヴィアを見つめる。 シルヴィアは苦笑いを浮かべていた。
「なんだかとてもやりにくいです」
「そ、そうね。 ルナってそんな表情も出来たのね」
「…………普段が生き生きしてる」
そうらしい。 確かにこいつらといれば退屈しないし楽しい、嬉しいことの方が多い。
「ルナさん、尻尾抱きませんか?」
「んー…………5点」
「辛辣です!?」
どうやら辛辣だったらしい。しかしいざデレさせようとして言う台詞ではない。 普段ならもちろん反応したけどな!
「こ、これは…………覚悟して掛からないと心が折られてしまうわ!」
「そ、そうだな。 つ、次、私が行くぞ?」
続いてクロエが出て来る。 あれ、そういえばいつの間にやらネティスとセリーヌとエイラがそばからいなくなってるな。
「ん、んん…………ルナくん……好きだ」
「3点」
「えぇ!?」
普通の告白なのも駄目だろ。 いざデレさせようというときに言う台詞ではない。
「ゆ、勇気を振り絞ったのに」
「…………次、私が行く」
セリーヌが出てきた。 相変わらずの無表情で俺と見つめ合う。 これは、何が来るか読めないな。
「…………ルナ、何したら喜ぶ?」
「直接聞くのかよ、0点」
「…………辛辣」
論外だろ、それは。
「え、こ、この空気の中行くの? 嫌だよ私」
「…………なら私が行くけれど」
「じゃあお願いします」
フェシルが出て来る。 フェシルは俺と1番付き合いが長いし、何かしら良いアクションをしてくれるよな。 あ、これフラグだな。
「ルナ…………膝枕してあげるわ!」
「案の定駄目だな、4点」
「…………いつも嬉しそうにしてるくせに」
それはそれ、これはこれ。 デレさせるゲームなのだから安易にデレたら駄目だろう。 正直言ってセリーヌ以外は100点付けたいくらいだしな。
「つ、次は私よね…………」
続いてネティスが出てきた。 ネティスには少し採点を甘くしても良いかもしれない。 というのは駄目だな。 ここはやはり平等だ。
「つ、月くん…………その…………えっと…………うぅ……」
ネティスは何故か顔を真っ赤にさせた。 なんだろうか、これから言うことは相当照れることなのだろうか。
「だ…………」
「だ?」
「だ…………抱きしめていい?」
おおう、見事な破壊力だ。 涙目上目遣いを使いこなしてやがる。 しかしこう、あんまり心に響かないんだよな。
「んー…………30点」
「え、というか……今まで100点満点だったの……?」
「当たり前だろ?」
俺が肯定するとぐさりと何かが突き刺さったような音が聞こえた。
「私達…………」
「じゅ、10点以下だったんですか…………」
「ルナくんにそんな風に思われてたなんて…………」
「もう生きていけないわ…………」
「…………死ぬ?」
いやいや、悲観しすぎだから。 というかセリーヌは死ねないだろうが。
「み、みんなの仇は取るよ!」
最後にエイラが物凄いやる気でやってきた。 さて、何を言われるのやら。
「ルーちゃん! 私をお嫁さんにしてください!」
「俺はもうそのつもりだけど?」
「え? あ、ありがとう…………」
俺が当然のように答えるとエイラは顔を真っ赤にしてお礼を言ってきた。
「どうしてエイラが落とされてるのよ!」
「今のは……ルナさんの天然ジゴロだと思いますが…………」
何やってんだか。 というか結局ネティスが優勝か?
「はぁ…………もっとしっかりしろよ。 萌えっていうものが何なのか、お前らは全く分かってないな」
「…………じゃあルナは出来るの?」
「じゃあ俺は一言で全員を落としてやろう」
まぁ基本的にみんなが好きそうな一言がある。 というか俺もそれしか思い付かない。
俺は出来るだけ柔和な笑みを浮かべる。 雰囲気も柔らかく、そして親しみやすい感じで。 極限まで目を見開いて大きく笑みを作る。
「お姉ちゃん達大好き!」
…………うん、やらかしたかな! でもこういうの好きそうじゃないか?
「る、ルナが…………」
「わたくし達を…………」
「おねえ………ちゃん?」
全員が少し固まった後に頬を赤く染め始めた。
「「「「「「私も大好き!」」」」」」
「うお、全員はやめ!」
全員に飛びつかれた。 というか全員で飛び込むとかどうなってんだ。
「ぐほっ!」
全員が飛び込んできて支えきれずに倒れる。 同時に誰かの肘打ちが腹に!
この時俺は誓った。 絶対にこの6人を姉と呼ばないことを。
…………優勝したのにトラウマを植え付けられるとかどうなってんだろうな?




