プロローグ 終
俺の部屋にて、現在ネティスに膝枕されていた。 というのも軽く眠らせてもらったのだ。 流石に眠かった。
目を開けようとして、頬に何かが伝った。
「グスッ…………みんな優し過ぎるのよ…………」
そこには涙を流しながら喜ぶネティスの姿があった。 うっすらと開けた目を再び閉じる。
流石に泣き顔を見られたくはないだろう。 俺でもそれくらいの気遣いは出来る。
「月くん…………」
「ん…………」
おっと、名前を呼ばれて反応しそうになった。 咄嗟に黙ったので寝言に聞こえただろうか?
「大好きよ…………本当に…………」
おおう、恥ずかしい。 頬が熱くなるのを感じながら懸命に目を閉じ続ける。
「…………起きてるわよね? 顔赤くなってるわよ」
「…………起きてない」
「反応してるじゃない」
駄目だった。 くそ、この赤面症どうにかならんのか。 こんな時くらいちゃんとしろよ俺。
「…………情けないところを見せたわね」
「お互い様だろ…………?」
俺だってかなりの量の情けないところを見られている。 それにさっきだって見せたばかりだ。
「…………そうね、お互い様よね」
ネティスは苦笑いを零す。 俺は上体を起こして優しくネティスを抱きしめてやる。
「泣きたい時は泣けばいい。 嬉し涙なら遠慮なく流してくれ」
「何よそれ」
言いながらも背中に手を回してくる。 その両腕にギュッと力が込められる。
離さないでくれ、離れないでくれと言っているような、そんな雰囲気だ。
「本当に……優し過ぎるんだから…………」
小さな嗚咽が漏れる。 俺は目を閉じ、その声を聞きながらネティスの頭に手を置いた。
撫でる手には自然と優しさが込められる。 ただネティスには、そしてあいつらには笑顔でいてほしい。 俺はそれだけなのだ。
しばらくの間ネティスを抱きしめ続けているとはっと、何かに気付いたようにネティスが離れた。
「身体は!? もう平気なの!?」
「若干痺れは残ってるけど、まぁ特に問題はなさそうだぞ?」
身体が動かしづらい、というだけだ。 俺が素直に答えるとホッと息を吐かれた。
「よかった…………セブンスアビスだから強めにと思って、かなり強いものを用意してしまったから」
「考え方としては合ってるな。 でもちょっと強過ぎないか?」
「普通の人なら1ヶ月は動けないと思うわ」
なんつーもん飲ませるんだよ。 あ、でもキスされながら飲まされるのはそれはそれで…………。
「今キスされるなら別に変な薬を飲まされても良いとか思ったでしょう?」
「っ!? …………思ってない」
全く隠せてないな! というかネティスからのキスだぞ? 超絶美人からの口付けなんだぞ? 嬉しくないわけがない!
「じゃあキスはお預けかしら?」
「え」
お預け? つまり今しようとしてたってことか? くそっ、勿体無いことを…………。
「ふふ…………冗談よ」
いつもの妖艶な笑み浮かべながらネティスの顔が近付いてくる。 マジですか。
「目、閉じて」
言われた通り目を閉じると唇に冷たくも柔らかい感触が。 ネティスの息遣いがはっきり感じられてちょっとテンションが舞い上がってしまう。
「ルナさん、ネティスさん、ご飯のよう––––––」
「「っ!?」」
「あ、キスの途中でしたか!? す、すいません!」
ゆっくりと開いたドアが勢いよく閉められた。 …………もう気分も何もねぇよ。
ネティスから顔を離して様子を伺うと真っ赤な顔をしていた。 気持ちは分かる。 俺も多分真っ赤だろう。
「ど、どうして九尾ちゃんはいつもこのタイミングなの!?」
「さぁ…………シルヴィアの特殊能力とか?」
本当、なんでだろうな。 というか、今の俺とネティスってどう考えても立場逆じゃね? 流石年上、リードされてる感が半端ない。
「まぁいいや…………。 とりあえず飯食いに行こうぜ」
「…………そうね」
2人で立ち上がると俺は一瞬フラッとした。 咄嗟にネティスが支えようとしてくれる。
俺はなんとか体勢を立て直そうとネティスに掴みかかろうとして、ふにゅっと柔らかい感触が。
「…………」
「…………」
俺は妙な体勢のままなんとか足で支え切る。 ちなみに俺の手はネティスの服の中に突っ込んでおり、その豊かな胸に触れていた。
「…………なんかマジごめん」
「…………わざとじゃないのは分かったわ。 それで? いつまで触っている気?」
「すいません!」
慌てて体勢を元に戻すとそのまま力なくベッドに座り込んでしまう。 というかまだ上手く身体が動かないか。
「…………ちょっと待ってて。 ご飯、貰ってくるから」
「あ、あぁ、悪い」
ネティスは悠然と笑みを浮かべて部屋を出て行く。 そして。
「〜〜〜〜〜〜っ!!!!????」
ドア越しに声にもならない悲鳴が聞こえた。 うん、マジでごめんね。 でもすっごい柔らかかった。
改めて再認識したがネティスの身体は真面目にやばい。 最近してなかったせいで余計にムラムラするし。
「…………そういえば」
以前はむしろ自分から押し付けてきていたような気がする。 何故今更照れるのだろうか。
普段のネティスなら…………。
『あら? おっぱい触りたいの? もう、仕方ないわね♡』
とこうなるはずなのだ。 それなのに今のネティスの反応はなんだ?
「…………?」
やっぱり何か調子が悪いとか? それともやっぱり色々考えてしまってたりするのだろうか?
部屋に戻ってきたネティスはいつも通りだった。 若干頬が赤い気がするが。 俺の気のせいだろうか?
「ほら、月くん。 あーんって口を開けて」
「え? いや、そんくらい自分で」
「私がやりたいの。 駄目……かしら?」
出たよ涙目上目遣い。 俺がこれに弱いことを知っててわざとやってるんじゃないだろうか?
「あーん」
「っ! あーん♡」
ネティスが何やら色っぽくあーんとしてくる。 なんだろうか、素でエロいんだろうな。
「…………おっぱいに落とせばしゃぶりつく?」
「やらねぇよ。 確信犯じゃねぇか」
どうやらわざとだったようだ。 ようやくいつものネティスに戻ってきたか。 良きかな良きかな。
「その…………何なら口移しでも……その…………いい、のよ?」
いや、あかんて。 なんだその真っ赤な顔は。
「な、なんてね。 …………」
だからって黙らないでぇ! 若干気まずい空気流れてるから!
「…………どうして前まではあんなに普通に言ってたのに」
「あ、お前もそこは不明なのか」
「え?」
どうやら普段と違うというのはネティス本人も感じているらしい。 しかしそれが何なのか、理由はよく分からないということか。
「いや、普段と違うから。 何というか……自分の発言ひとつひとつに照れてるっていうか」
「…………そうね。 えぇ…………多分そうなのでしょうね」
「…………?」
何やら1人納得したように頷いていた。 よく分からんが何か分かったらしい。
「月くん」
「ん?」
「好きよ」
「お、おう…………?」
何だ突然。 恥ずかしいんだけど。
ネティスは真剣な眼差しで俺を見つめる。 俺はよく分からず首を傾げているとゆっくりとネティスの顔が近付いてくる。
「大好きよ♡」
そのまま唇を奪われる。 何やら昨日からネティスが積極的だ。
そしてネティスの手が絡みつくように俺の手を握る。 これって俗にいう恋人繋ぎというやつだよな?
「ん…………月くん…………んぅ…………」
なおも唇を押し付けてくるネティスに流石の俺も理性が限界です。 なんとか押し退けようにも手はネティスに握られて動かせない。
「ネティス…………!」
「ん…………月くん好き……好きよ…………大好き…………」
うわぁー、もう駄目。 理性の限界。 ついでに支えるのも限界。 俺はそのまま力なくベッドに倒れる。 身体が痺れてまともに動けん。
「ふふ……大きくなってる…………♡」
「そ、そりゃ…………」
「今日は……その、下のお世話の方もね?」
ああ、うん、ですよね。 こうなりゃ仕方ない。 あとでエイラとクロエになんて言われるか…………。
そんなことを考えながらもネティスを抱きしめた。 ただ離さまいと、離れまいと強く。
ネティスも負けじと抱きついてくる。 その表情は妖艶で、それでいて幸せそうで。 そんな顔を見せられては後悔なんてものもなくなってくる。 まぁ後々怒られて後悔することになるのだろうが。
それでも今はネティスのことだけで頭がいっぱいだ。 だから今はこれで、このままで良いんだと。 俺は自分にそう言い聞かせてネティスと2人きりの夜を過ごした。




