プロローグ 三
「「「「「ネティスが悪い」」」」」
事情を話した結果、これが俺達の総意である。 ネティスは縮こまっていた。 ちなみに俺はベッドで横になっています。
「格好良く去ろうとしたのに。 なんだか馬鹿みたいじゃない…………」
「変な演出するから悪いんだよ」
まさしくその通りである。 ほら、戦闘中も容赦しない方がいいだろ? それと変わらん。
「大体ルナくんを泣かせて許すはずないだろう? ネティスさん、そんなことをして嬉しいのか?」
「そんなわけないじゃない! で、でも…………私がいたら神に狙われるのよ?」
「いえ、ルナがセブンスアビスの時点で狙われるわよ」
全くだ。 大体向こうがリターンタイムを変に使われる方が余計に危険な可能性がある。 そんなもん許容出来るか。
「い、いえ、でも……その……」
「ネティスさんの気持ちは分かります。 自分のせいでルナさんが傷付くのが嫌なんですよね?」
あぁ、そういうことだったのか。 でもそんなこと気にしなくても。 というかそれでもわざわざこんな用意周到に場を整えなくても良かったような気がする。 意外とロマンチストか?
「…………」
「ですけど、ルナさんが1番悲しむのは何か、考えたことはありますか?」
「…………半泣きになってたから離れられる方が嫌なのよね?」
いや、半泣きになってねぇよ。 …………な、なってないよな? 泣いてはいなかったよな?
「そうです!」
「なってねぇよ。 半泣きにはなってねぇよ」
全員から疑うような目を向けられた。 え、な、なってないよね? 本当になってないよね!?
「私達が帰ってきた時には既にシルヴィアとセリーヌがいたわよね」
「うん…………その時はもう場が収まっててルーちゃんも普通だったよね」
ということで全員の視線がシルヴィアとセリーヌに。 2人は良い笑顔をしていた。
「泣いてましたね」
「…………号泣する勢い」
「そこまではねぇよ」
それは断言出来る。 というかなんで俺を辱める会になってんだよ。
「ルナさんは私達を絶対に見捨てませんし、それをするくらいなら死を選ぶような人ですよ? 私達が離れてしまっては元も子もないじゃないですか」
「…………そうよね」
「大体! ルナさんはいっつも何かを抱えてるんですから! それなら私達が解決する為にも一緒にいないと駄目じゃないですか!」
「おっしゃる通りです…………」
「いや、おっしゃる通りじゃねぇよ」
別に抱えてねぇし。 何かしら抱えてんならここまでしんどくもないだろ、普通。
「ルーちゃん、静かにしてようね?」
「そうだぞ? 絶対安静だ」
お前らはあれだ、過保護過ぎる。 俺の体質舐めんなよ。 セブンスアビスは魔法や状態異常は効きにくい傾向にあるんだぞ。 効きにくいだけで効くけどな。
「ルナのそば、離れたいの?」
「そんなわけないじゃない…………ずっと一緒にいたいわよ…………」
「ルナさんが悲しむこと、したいんですか?」
「それも嫌…………」
「…………エッチは?」
「もちろんしたいわよ!」
そこで開き直っちゃう? というか良い話してんのになんてもんぶっ込んでくるんだセリーヌは。
「…………今は襲うチャンス」
「え、今か? 無理だっての。 身体動かねぇし。 イキそうなのにイケない地獄は嫌だぞ?」
「…………なら仕方ない」
さらっと達してしまうという話は流れるんだな。 いいのかそれで。
「とりあえずルナくんに謝ろう。 流石に泣かせたままなのは嫌だろう?」
「そ、そうね。 月くん……ごめんなさい…………」
ネティスが大きく頭を下げる。 これは……分ってくれたのだろうか?
「泣いてないけどな。 とりあえず自分の意思で俺のそばにいたくないっていうのなら離れるのは許すけど…………そ、そん時は泣くかもしれんけど。 でも自分が悪いからとか、遠慮とか、そんなんで離れないでくれ。 …………独りになるのも、避けられるのも、辛いことは充分分かってるだろ?」
「えぇ…………絶対月くんのそばを離れないわ…………」
そばに寄ってきたネティス。 俺の手を包み込むように両手で握る。
俺は動かない身体に無理やり力を入れ、ネティスの頭に手を置いた。
「あ…………」
「本当に、もうやめてくれよ?」
「…………うん」
ネティスが嬉しそうに微笑む。 良かった、これでもう安心だ。
「ルーちゃん? じっとしていようね?」
「そうだぞ? 身体、痺れてるんだろう?」
「もうちょっと流れってものを…………まぁ今回はそのお陰でネティスが行かなかったし。 もう良しとするか」
相変わらず空気が読めないなこいつら。 お陰で助かった面はあるが、やっぱり空気くらい読んだ方がいいんじゃないか?
「それじゃあこの件は水に流すとして…………ネティスさん」
「何かしら?」
「最初、ルナさんを利用する気だったんですか?」
「え、えぇ…………」
あれ? シルヴィアさんなんか怖いですよ?
「…………この件はどういう落とし前をつけるのかしら?」
「…………お仕置き?」
「そうだな、お仕置きだ」
「うん、私もそれは仕方ないと思うなぁ」
「ですよね?」
「え、えっと…………そうね……甘んじて受け入れるわ」
甘んじて受け入れちゃうのか。 俺としては全く気にしてないのにな。 そもそも利用しようっていう考え方は生き残る為には取り得る選択肢だろう。
「罰として今日はルナさんのお世話です」
「せめて麻痺が抜けるまではやってもらわないといけないわね」
「ん…………責任」
「そうだな。 ルナくんが正常に動けるまでは面倒を見るべきだ」
「うん、それが良いよね」
「え…………」
意外なお仕置きだったのかネティスはキョトンとしていた。
「そ、それは本当にお仕置きなの? ご褒美の間違いなんじゃ…………」
「いや、ご褒美ではないだろ」
それがご褒美になるってどういうことだ。 どんどけ世話好き極めてんだよ。
「まだ納得出来ない部分もあるでしょう?」
「それにルナさんの素晴らしさを再認識する良い機会でもあります」
「…………ちゃんと納得すべき」
「ネティスさんはルナくんと関わっている時間がまだ短いからな」
「あれ? ルーちゃんと関わった時間なら私も…………。 で、でも納得する為なら仕方ないよね」
「みんな…………」
ネティスが感動で目尻に涙を溜め始める。 なんだか変な話になってきているが、これは放置でいいのか?
「多分今日1日で月くんは正常に動けるようになるでしょうけど…………看病、やらせてもらうわね」
本当にな。 初期に比べてかなり楽になったしな。 数時間後くらいには完全に抜けそうだ。
「みんな……ありがとう」
目尻の涙を拭って、ネティスが微笑む。 とりあえずは一件落着。
ということで俺はこのまま寝させてもらうとしよう。 しんどいし徹夜明けなので眠い。
「あぁ、月くん。 眠るなら膝枕するから……ね?」
「ん? あぁ…………」
とりあえず今日はこのままネティスに甘えるとしよう。 これは俺から送るネティスへの罰だ。 不安だったし眠れなかったしな。




