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セブンスアビス  作者: レイタイ
死霊魔術師と神槍編
57/90

プロローグ 一

「じゃあネティス、頼む」

「えぇ、手加減はしないわよ」


 戦闘服に着替え、街の外に出る。 周囲の冒険者が物珍しげに俺達を見つめているが、全て無視した。


「来なさいブラッドスカル」


 ネティスの魔法により5つの棺桶が現れる。 その棺桶は開き、中から大量の煙と共に赤黒い骸骨が現れる。


「私の特別製よ。 九尾ちゃんに教えてもらった、ね」

「あぁ、全力で構わない」

 

 俺達は現在訓練中、というよりは色々教えてもらいながら実践的に戦闘で鍛えているのだ。 もちろん殺すというのはない。 当たり前だが。

 俺は氷の魔法を、というかそれ以外の魔法が覚えられなかった。 後は精製魔法くらいか。

 ネティスも一応魔法を教えてもらっていたらしいが何を覚えて来たのかは俺も知らない。

 そしてここからは俺達だけの謎のルール。 俺に勝てば俺を1日好きに出来るらしい。 逆に俺が勝てば1日好きにしていいというよく分からないルールが出来上がっていた。


「いくわよ」


 ネティスが鋭い目付きで睨んでくる。 俺も精製魔法で刀を作って構える。

 まずは2体の骸骨が突っ込んでくる。 高速移動、というのも足に雷が纏ってあるのだ。

 本来なら身体に雷を纏わせるその魔法は自身の肉体をも滅ぼす諸刃の剣のような魔法だ。 セブンスアビスの俺の身体は当たり前のように持つし、ネティスの骸骨もそれは言わずもがなということである。

 問題はそれが俺の魔法ではなく受け継いだセブンスアビスのものであるために現状の俺では使えない、使ってはいけないということだろうか?


「雷殺拳!」

「っ!?」


 骸骨の全身に雷が行き渡り、俺と同じく雷を纏った打撃を食らわせてくる。 ネティスの奴、俺の戦闘シーンだけを観察して覚えやがった。

 高速の乱打を最小限で避けながら足に氷魔法を発動させる。


「っ! 足を凍らせて!?」

「機動力がなけりゃ一緒だ」


 俺は刀を振り抜き、1体の首の骨を切り裂く。 もう1体の首を刎ねようとしたところで横から炎の魔法が飛んで来た。


「ホーミングフレイム!」


 なるほど、シルヴィアから教わった魔法か。 前衛2人に後衛3人。 単純だが良い手だ。

 更には相性が悪そうな炎を選ぶところもまたポイント高い。 ただまぁネティスは失念している。


「その戦法、あんまり良くないと思うぜ」

「っ!?」


 俺はホーミングフレイムとの直線上に前衛の骸骨を入れる。 こうして回り道しか出来なくなる。


「操作魔法と遠隔魔法の同時使用はまだお前には早いってことだ」


 俺はそのまま前衛を無視して後衛の3体に向かっていく。 刀を振って氷の礫を飛ばしながら。


「召喚…………来なさいスカルドラゴン!」

「っ!」


 現れた巨大な門から巨大な骨のドラゴンが出てくる。 こんなのもあるんだな…………。

 俺は大きく跳躍し、ドラゴンの眼前まで迫ると刀を構える。


「赤晶・絶牙!」


 大きく肥大化した刀を振り下ろす。 刀がドラゴンの顔面に見事に直撃する。 しかし…………。


「げっ」


 刀がへし折れて氷の塊が宙を舞う。 回転しながらそれは地面に突き刺さった。


「っ!? スカルドラゴン! 止まりなさい!」


 ネティスの命令も遅く、身体を捻ったドラゴンが回転するように尾で俺を叩き落とした。 そのまま地面に全身を打ち付ける。


「ああ! つ、月くん! 大丈夫!?」

「ルナ!」

「ルナさん!」


 ネティスと、更には観戦していたみんなが寄ってくる。 俺は上体を起こしてその場に座ると打ち付けた頭を撫でる。


「いちち…………まさか振った刀の方がへし折られるとは。 俺もまだまだだな」


 そう自嘲気味に言ってやると全員安堵したように息を漏らした。 心配させる気はなかったんだが、結局させちまったか。


「ごめんなさい月くん、痛かったわよね?」

「別に練習だからって寸止めにしなくてもいいんじゃねぇか? 俺は気にしてねぇぞ?」


 ネティスが近寄って来て俺の服に付いた土を払ってくれる。 前はいらないが背中はありがたい。


「あれ?」


 何故か右側の視界が閉じられた。 頬に得体の知れない何かが伝う。


「わわっ!? 頭から血が出てますよ!」

「つ、月くん!? え、えっと…………ちょ、ちょっと待ってなさい」


 何故か慌てた様子のネティスに抱きしめられる。 胸の感触が顔いっぱいに広がる。


「あのー、ネティスさん?」

「じっとしていなさい! 頭を打っているのよ!?」

「あ、はい、すいません」


 真剣な様子で怒られた。 どうやらじっとさせるために抱きしめてくれたらしい。 それでも過剰に反応しちまうのは男として仕方ないですよね。


「ん…………救急箱」


 セリーヌが救急箱を持って来てくれる。 ネティスはそれを受け取ると器用に俺を抱きながら頭を止血し始める。


「手際良いな」

「そ、そう?」


 あっという間に止血が終わり、頭に包帯が巻かれた。 なんだろうか、この慣れた感は。


「あら…………? なんだか違和感がないわね」

「そ、そうだよな? 俺も違和感がない」


 概ね全員同じ意見のようだ。 何故か違和感がない。


「ルナは傷が似合う男なのね」

「リヴァイアサンの時もそうだったよね…………」


 そういえばリヴァイアサンの時も頭に包帯巻かれてたっけな。 別に大したことない…………というのはセブンスアビスだからだろうか。 日本じゃ病院ものだしな。


「っ! 天使…………」


 その気配に気付いた俺が上を見上げる。 そこには懐かしいような、それでも別に嬉しくはない奴らが飛んでいた。


「どうする? あいつら集団だぜ?」

「くっくっくっ、所詮は王。 神の僕たる俺達に敵うわけが––––––」

「…………邪魔」


 何やら相談中の5人の天使達。 アホらしく相談を始めているうちにセリーヌの防御魔法によるプレスで1体の天使が押し潰れて大量の血を巻き上げた。


「なっ!? 会話中になんて卑怯だろう!?」

「…………? ……殺しに来たんじゃないの?」


 セリーヌさん、グッジョブ! 別に遠慮することはない。 殺しに来たのなら殺すべきだ。


「今ルナさんがお怪我をされているのでやめてくださいね。 ホーミングフレイム!」


 大量の炎の魔法が真っ直ぐに天使に向かっていく。 シルヴィアさん、かなり容赦なくなりましたよね。


「た、退避ぃ!」


 逃げようとする天使達だがホーミングフレイムは文字通り追尾する。 残念ながら出遅れてである。

 全員が焼け焦げて身体を焦がしながら落ちてくる。 その様子にフェシルが苦笑いを零す。


「シルヴィアも当たり前のように殺すようになったわね…………」

「ルナさんを守るためですから。 遠慮して……失うのは嫌です」


 そういうことか。 シルヴィアなりに考えて、それで出した結論なのだろう。 きっかけはネティスだろうか。 ネティスの過去を聞いて、自分も失うのを怖くなった、ということか。

 気持ちはよく分かる。 だからこそ俺も刀を振るって来たし、そうしなければ自分だけじゃなく周りも失うことになるのを重々承知している。


「うぅ…………貴様ら…………」

「うるさいわ」


 まだ生きていたリーダー格っぽい天使の眉間を撃ち抜いてトドメを刺した。 フェシルは相変わらずか。 台詞の途中だったけど。


「ルナくん、良かったのか? その…………殺してしまって」


 クロエが不安げに聞いてくる。 そういえばクロエの前では組織の人間は1人も殺さなかったんだったか? あれは依頼のためだが。


「本当は良くもないんだろうけどな。 …………でも俺は仕方ないと諦めてる」

「ルナくん…………」


 クロエがゆっくりと俺を抱きしめてくる。 俺は今相当参ったような顔をしていたのだろう。 目を閉じてクロエの体温を、その暖かさを分けてもらう。


「つ・き・く・ん♡」

「ん?」


 後ろからネティスが妖艶な笑みを浮かべながら抱きついてくる。 ようやくこの表情にも慣れて来た。 抱きつかれるのは慣れないけどな!


「私も暖めてほしいわ」

「…………?」


 何やらいつもと様子が違う。 その様子が気になってネティスの顔をじっと見てしまう。


「…………? 月くん?」

「…………いや、なんでもない」


 ネティスは体温がないせいで身体が冷たい。 しかし今日はその体温以上に冷たいような気がした。

 もしかすれば今は心すらも冷たくなっているのではないかと、そう思ってしまうくらいに不安になる。


「ごめんね…………私のせいで…………」


 そう、耳元で呟かれた。 驚いてネティスの顔を見ていると、相変わらずの妖艶な笑みを浮かべていた。 それはいつもと違っていて…………。


「なぁネティス…………」

「月くん。 気にしないで今日ゆっくりしましょう? なんなら今日は1日中…………ね♡」

「なっ!? ずるいぞネティスさん!」

「ん…………私も参加する」


 相変わらずエロいなこいつら。 しかしネティスのさっきの台詞は…………。


「さぁ、月くん行きましょう」

「あ、おい…………引っ張んなよ」


 何やら今日は強引だ。 俺はその様子をじっと観察しながらも家へと引っ張られる。 その後は言うまでもなくヤった。 いや、ヤられた?

 しかしネティスの台詞が頭から離れることはなく、今日はそのまま徹夜してしまった。 俺の隣で気持ち良さそうに眠るネティスの顔を見ながら…………。


「何かあるなら……相談してほしいんだけどな」


 そう呟くことしか出来なかった。 だから精一杯彼女のことを考えることくらいだろう。

 俺は結局、ネティスの言葉の意味を考えることだけしか出来なかった。

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