3度目の合同任務 四
合同任務が始まり、新米冒険者達の後ろをついていく形で歩き続ける。 時折視線を感じるのは気にする必要はないだろう。
「なんか見られてるわよね?」
「ルナくんが魅力的だからだろう」
いや、なんでそうなるんだよ。
「ルナさんが素敵な方ですからね。 皆さん注目されるのも無理はないかと」
「そうだね。 私もそう思うよ」
おかしい。 絶対におかしい。 というかどう考えてもお前らが注目されてんだけど。
「…………ルナ、ツッコミは?」
「入れた方がいいか?」
お前らが注目される元だってな。
「いいんじゃないかしら? 放っておけば」
「ネティス、お前も注目される元なんだよ」
「え? どこがかしら?」
ネティスに不思議そうな顔をされる。 本当に分かっていないご様子だ。
その顔とかワガママボディとか胸の谷間とか色々だよ! とは口が裂けても言えんけどな。
「しかしいきなり山登りとはどういう了見だ?」
そう、新米冒険者達の最初の課題は魔物が潜む山にて頂上を目指すことだ。 本当にくだらないと言ってしまえばくだらないんだけどな。 余裕だから。
「ちょっと面倒だよね」
「お前が言うな」
エイラは浮いているので地形など関係ない。 その気になれば一気に上空まで浮遊してそのまま頂上も可能なのだ。 クロエも言わずもがなである。 律儀に歩いてついてきているけど。
「よっ…………と」
岩だらけの道をジャンプしながら渡っていく。 前の新米冒険者が遅いこともあってかペースは乱されるが。
後ろを確認すると俺は見てしまった。 というよりは見えてしまった。
「よっ……! うん? ルナさん? どうかしましたか?」
「いや…………」
胸がすごいことになってましたよ。 うん。
「…………ネティスも」
「ほう?」
軽く跳躍するネティスの胸も確かに揺れていた。 絶景とか思っちゃいけないんだろうけど俺はこれで嬉しいから困る。
「え? ふふ、普段から生で見ているでしょう?」
「岩場でエロいポーズとんなよ」
谷間を強調するポーズに流石にツッコミを入れる。 というか今のツッコミで見ていた場所がバレたみたいだ。 セリーヌにはバレてたけど。
「る、ルナさん……こんな所で…………」
「いや、目に入っちまっただけだから」
「言ってくださればいつでも…………♡」
いつでも、どこでもいいらしい。 俺に露出狂の趣味はない。 …………ないけど揺れてしまうのが複雑な男心だ。
「何言ってるのよ…………ベッドの方がその後すぐに眠れるでしょう?」
「いや、そういう理由で駄目なわけじゃないと思う…………。 た、確かにルナくんのは気持ち良いけど…………」
なんか猥談に花を咲かせ始めたんだが。 …………俺もその会話に入った方がいいか?
「あら? 私はいつでもどこでも月くんを受け入れる準備は出来ているわよ♡」
それって常に濡れてるってこと…………やめよう、考えるの。
「ルーちゃん…………止めなくていいの?」
「止めれるのか?」
「…………無理、かな」
うん、無理だな。 だって俺の話聞いてくれそうな雰囲気じゃないしな。 こそこそと何話してんだか…………。
「…………ルナ、敵」
セリーヌが指差す先には確かに魔物がいた。 虎といえばいいのだろうか。 ヨダレだらだらで目が真っ赤というオプション付きの。
「ひぃ!! ま、魔物だぁ!」
そりゃ魔物だろ。 と、大騒ぎし始めた目の前の新米冒険者にツッコミを入れながら刀を抜く。 そのへっぴり腰で相手を任せるのは危ない。
「よっ…………!」
一気に虎に近付くと飛び掛かってくる。 半身になって避けると共に刀で斬り上げて身体を両断した。
「お、おう…………」
「いや、なんだその変な感想は」
へた〜っと座り込む新米冒険者にツッコミを入れる。 ツッコミしか入れてない気がする。
「弱腰だと勝てるもんも勝てねぇぞ」
「は、はいぃぃ…………」
これでよし。 多分。
「みなさーん! この辺りから虎型の魔物が現れるので気を付けてくださ––––––」
「「「「「「「忠告が遅い!」」」」」」」
「ふぇ!? は、はい…………」
本当に遅い。 というかやる気あんのかと先頭を歩いていた案内役に全員でツッコミを入れてやる。 流石に面食らったようだ。
「どうして襲われた後に言うんですか!」
「そうよ! こういうのはその地域に入る前に言うべきでしょう!」
「ん…………常識」
「流石に駄目だろう。 キミは本当に案内をする気があるのか?」
「ちょっと庇えないかな…………。 人の命が関わってるんだよ?」
「私達がいなかったら間違いなく犠牲者が出ていたじゃない。 何してるのよ」
うわー、ボロクソ言うなこいつら。 全部同じ意見なので止めはしないけどな!
「す、すいません…………」
「すいませんじゃ済まないですよ!」
そこからはまぁ、炎の塔の時と同様にシルヴィアの長いながーい説教が始まったわけで。 俺達は口も挟めずにただ見守る。
「シルヴィアさんって怒るとこんなに怖いのか…………?」
「えぇ、前も1回あったわ」
シルヴィアは優しい。 優し過ぎるが故に度が過ぎると怒る。 マジで怖いからあまり近付きたくないと思うほどに。
「…………尻尾がファサーってなってる」
「あ、本当だな」
猫は怒ると尻尾が膨らむ。 それと同じ原理なのだろう。 …………そうなのか?
「と、止めなくてもいいの?」
「逆に聞こう。 あれを止めれる自信があるか?」
全員が黙ってしまう。 そりゃそうだろう。 俺も止められる気がしないからな!
「…………ルナしか無理」
「ルナならいけるわ」
「ルーちゃんなら出来るよね?」
「え? いや、なんで」
あんなの止めれる気なんてしないぞ。 全くもってしない。 というか止める気もないけどな。
「怒ってるシルヴィアの耳元でこう囁いてみればいいわ」
フェシルに耳打ちをされ、促されるがままにシルヴィアの元まで背中を押される。
ここまで来たなら仕方ない。 俺も男だ。 覚悟を決めよう。 こんなことでどんな覚悟を決めればいいのか分からないが。
「シルヴィア、甘えたい」
「っ! はい! いいですよ! どうぞ!」
わぁー…………本当に止まったよ。 というか何その満面の笑み。 さっきまでの憤怒はどこいった?
「え、俺はどうすりゃいいんだ?」
「そこは抱きしめる場面でしょうが!」
「いつもしていることだよ!?」
「こう、するのよ」
ネティスのゴーストが俺の周囲を回っている。 そして何故か背中を押され、シルヴィアの胸に飛び込んでしまう。
「んん〜! ルナさん可愛いです!」
「んむ…………」
胸の感触しか返ってこない。 むしろそれしかない。 柔らかく、弾力があって、なおも包み込んでくれるかのような。 安心する。 欲情は…………しなくもない。
「ルナさんルナさんルナさん♡」
「ま、まずいわ。 予想以上に効きすぎて九尾ちゃんが発情しそうよ?」
「っ!? い、急いで止めないと!」
全員が止めに入ってなんとか事なきを得たわけだ。 しかしこうして新たな結論が出たわけだ。
「シルヴィアが怒った場合は全員で対処しないといけないわけだな?」
「そ、そうね…………」
「…………それかルナが犠牲になる」
何その選択肢。 聞きたくなかったよ。
「ぎ、犠牲って! そんな酷いことしません!」
「…………なら何する?」
あー、随分と直接的だな。 というかこの流れって例のアレだろ? もう先の展開全部読めるんだが。
「そ、それは…………ルナさんのアレをわたくしのアソコに…………っ!? な、何を言わせるんですか!」
「え、今の絶対自爆じゃない」
「ず、ズルいぞシルヴィアさん! ルナくんと1人でそんなことしようとしてたのか!?」
そこ、怒るところ違う。
「そうだよ! 私だってまだ1人で相手をしてもらったことないのに!」
「…………同じく」
ほら始まっちまったよ。 こいつら猥談好き過ぎないか?
「…………月くんも大変ね」
「その一端をお前も担っているって自覚は?」
「あるわ。 直す気はないけれど」
はぁぁ…………だろうな。 俺は心の中で大きく溜息を吐きながら言い合う全員を見つめ続けた。
ちなみにこんなくだらない言い合いを黙って聞いていた新米冒険者や案内人に申し訳なくなったのは言うまでもないだろう。




