3度目の合同任務 三
本日も晴天。 俺達は例の噴水広場にてようやくの新米冒険者護衛任務の為に集合していた。
周囲には既に何人かの冒険者が顔を見せている。 早い集合なのは良いことだ。
「紅月 ルナさん!」
「ん?」
ボケーっと立っていると突然初々しい雰囲気の身長の小さい(小学生?)くらいの黒髪の男の子が叫ぶように名前を呼んできた。
「ファンです! 握手してください!」
「へ? 握手? 俺が?」
何そのアイドルみたいな扱い。 いやいや、俺は血なまぐさい冒険者ですから。
「あのブラッドミノタウロスを! ああ、いえ、確か炎魔でしたっけ? それを倒した伝説の冒険者と聞いています!」
「あー…………それなら俺だけじゃなくてフェシルとシルヴィアもだが」
あの時は3人で倒したはずだ。 もちろん俺達がそれぞれ1人でも問題はなかっただろうが。
「ほとんどルナよね?」
「ほとんどルナさんでしたよね?」
おい、そんなわけないだろ。 2人が弱らせたから俺の刀が当たるようになったんだ。 無駄な魔力消費をしないようにとか色々考えながらな。
「やっぱり! 紅月 ルナさん! 握手してください!」
「お、おう…………」
何故だか分からないがとりあえず握手に応じてみる。 すると満面の笑みを浮かべながら腕を上下に激しく振られる。 痛い。
「俺! この手一生洗いません!」
「それはやめろ」
汚いだろ、普通に。 そんな奴と2度と握手などしたくない。
「ルナさん、良かったですね」
「いや、何が? むしろ目立つと神とか色々面倒じゃないか?」
俺はセブンスアビスなんだぞ? 扱い的にはあまり良く思われないはずなのだが。 何故か好かれる体質にあるらしい。 意味が分からない。
「あ、もしかしてこれが俺の本当の能力とか…………?」
「何言ってるの?」
「いやな、ちょっと思ったんだが、俺ってセブンスアビスとしての能力が覚醒してないんだよ」
そう、普通ならば激しい身体の痛みにのたうちまわってようやく人の限界を超えるはずなのに俺にはまだそれがないのだ。
「セブンスアビス!?」
小学生くらいの男の子が驚いたように大声をあげた。 声がでかい。
「え? セブンスアビス?」
「もしかしてあの子か?」
「え? 髪の長い女の…………男の子?」
「あの赤い目、何人か殺ってるわね」
ほら、なんか変な噂され始めたし。 というか内容酷いなおい。
「何を言ってるのだろうな。 ルナくんの赤い目はこんなに格好良いのに」
「そうだよね。 みんなルーちゃんのこと全く分かってないね」
うん、慰めてくれるのは仲間だけですよ。 というかこんななら俺のファンとか公言するのやめた方がいいだろうな。
「でもなんか格好良くない?」
「ポニーテールも似合ってるしね!」
「赤い目付きもワイルドだよね!」
おっと? 風向きが変わってきちまったぞ?
「…………節操なし」
「優柔不断よね」
セリーヌとネティスの辛辣な感想に俺の胸が抉られたよ。 なんで周りが攻めれば褒めてくれて、周りが褒めれば攻めてくるんだよ。
「し、シルヴィア…………」
「はい、どうぞ♡」
そして最後にシルヴィアに泣きつくと。 嫌な一連の流れだな!
「どうしてルナはいつもシルヴィアに抱きつくのかしら?」
「シルヴィアさんは母性の塊のような人だからな。 甘えたくなる気持ちはよく分かる」
うんうん、みんなよく理解している。 なんたって良いお嫁さんだからな。 あぁ、この世界じゃそれは愛の告白だって言ってたっけか。 まぁいいんだけどな。
「ルナさん可愛いです」
「月くん? 私にも抱きついていいのよ? ほら、慰めてあげるわよ?」
「いや、俺が傷付いた原因お前なんだけど…………」
なんで傷付けた相手に慰められないといけないんだ俺は。
「紅月 ルナさんっていつもこんな感じなんですか?」
「うん? ルーちゃん? うーん…………どうかな。 今日はちょっと悪ふざけしてるだけにしか見えないよ?」
エイラは小学生くらいの男の子の対応をしてくれていた。 1番しっかりしていて頼りになる。
しかし悪ふさげか。 実際悪ふざけなんだけどな。 シルヴィアの尻尾と胸は気持ち良いし。 もちろんそんな邪な理由で抱き合いたわけじゃないけどな。 そこだけは分かってほしい。
「シルヴィア、周りの視線は気にするなよ」
「え、は、はい」
こそっとシルヴィアに耳打ちする。 獣人族というのはあまりよく思われない傾向にある。 俺はとりあえずそれだけ言っておくべきだと思ったのだが。
「あぁ、そういうことなのね。 ふふ、ルナは変わらないわね」
「…………?」
俺がシルヴィアから離れるとフェシルから微笑まれる。 俺今何か変なことしたっけ?
「セリーヌとネティスも気付いていたわけね?」
「ん…………ルナの考えそうなこと」
「月くんの考えていることなんてわかりやすいもの」
うん、まぁ分かってたけどね! だから付き合ってもらったんだが。 でも俺を傷付けた時に2人とも妙に嬉しそうだったけど。 こうなることを想像してだよな? 俺を痛めつけることに快感を覚えているわけじゃないよな?
「紅月 ルナさん何の話ししてるの?」
「うん? ふふ、なんだろうね?」
おっと、全員気付いているようだ。 クロエもニコニコしてるし。 俺って実は隠し事とか出来ないのか?
「さて、キミもそろそろ行かないと。 もう集合時間なんだよ?」
「うん! ありがとう海人族のお姉さん!」
「うん、またね」
結局男の子の対応はエイラに丸投げだったが問題ないよな?
「エイラ、ありがとな」
「ううん、平気だよ。 ルーちゃんってあんまり子供好きじゃないの?」
「いや…………嫌いじゃないけどなんていうか。 何考えてるか分からんからな」
子供というのは行動が読めない。 だからだろうか、嫌いではないけど苦手だ。
「意外だね」
「そうか?」
どうやら意外だったらしい。 そんなに子供好きに見えるだろうか。
「私も子供は苦手よ」
ネティスは苦手というより嫌いなイメージだったんだが。 他の奴らは面倒見良さそうだけどな。
「俺も昔は可愛げがなかったらしいしな」
「っ! ルナさんの小さい頃の話はよく聞きたいです!」
「私も! 私も聞きたいわ!」
「…………同じく」
「私も聞きたいぞ!」
「うん! それは是非!」
「私も聞いておきましょう」
いや、なんでみんなそんなに反応するんだよ。 何気なく言っただけだってのに。
「話すことなんて特に何もないからな? 基本1人で本読んでたりしてただけだからな?」
「…………コミュ障?」
うん、辛辣。 でも事実なので否定は出来ない。 中学に上がった頃くらいからはまぁマシにはなったがあまり人と話したいと思わないのも事実だ。
「他にもこんなことしたとか、色々聞かせてほしいわ」
「好きなものとか、ルナさんのいた世界のこととか、物凄く興味があります」
これはもう逃げられないな。 別に話す分にはいいのだが本当に面白い話などありはしないのだ。
「まぁ俺は––––––」
俺はそこから日本について話し続けた。 全員が興味深そうに聞いていて、日本では常識だったこともこの世界では異常であったり首を傾げられたりはしたが、それなりに有益だったのだろうと思う。
同時に俺はこの仲間達とこれからこの世界で沢山の思い出を作っていくのだろう。 それをまたこうして思い出して笑いあえる日々があればとそう願うのみだ。




