3度目の合同任務 一
「ルナ様、それで相談なのですが」
「あぁ…………」
俺達は例に漏れずギルドに呼び出されていた。 お決まりとなったパターンだ。
「こちらをご覧ください」
更には例に漏れずに渡される資料。 しかし今回は封筒に入っているようだ。 量もそれなりにある。
「えっと…………また合同任務か」
内容は本日3度目の合同任務。 しかしターゲットは炎の塔の攻略やリヴァイアサンなどではなく普通の山や深林という簡単なもの。 初心者冒険者の付き添いのようだ。
「引率の任務か?」
「はい。 安全の為の護衛役と捉えていただければ」
次の資料には事細かに内容が書かれていた。 これをわざわざジーナが作ったのだろう。 ご苦労なことで。
他の人にも資料を回しながらどんどんと内容を頭に入れていく。 どうやらあまり治安のよろしくない地域にも行くようだ。
「あくまでも護衛です。 案内や説明をされる必要はありません」
「そうか。 まぁ引き受けてもいいぞ? どうせ暇だしな」
かなり長期的な任務だがこればかりは仕方ない。 俺が頷くとジーナはにっこりと微笑む。
「ありがとうございます」
ジーナってコミュ障だが律儀だよな…………。 そう素直に礼を言われると照れる。
「しかし本来なら俺達も新人としてここに参加するべき立場じゃないのか?」
「そうですね。 冒険者を始めてまだ1ヶ月も経ってません」
そう、俺達はまだその程度のはずなのだ。 フェシルは別だが。
「ご冗談を。 あなた方を新米と言えば世間から笑われてしまいます」
そうなんですよね。 なんで全員こんなに優秀なんだろうか。 意外にもエイラですら普通の実力ではゴールドランクなのだから。 ネティスもゴールドだったし。
もちろんそれぞれ1人でゴールドなのだから俺達が集まった時点でミスリル決定。 だから付けているプレートもミスリルだったりする。
「俺はセブンスアビスだし。 よく分からん集まりになったな」
「そう? 王に仕える6人の家臣。 別に何も分からないことはないじゃない」
「そうですよ。 ルナさんが魅力的な方なのでそうなってしまっただけです」
そうなのか。 俺に魅力云々は置いといてお前ら俺がいなくてもかなり仲良しじゃないか。
「月くんは可愛いのだから、このまま私達と一緒にいればいいのよ♡」
「ネティスさん! なんで後ろからルナくんに抱きついているんだ!」
「ん…………自重すべき」
ネティスもかなり馴染んだしな! そして2人に引き離された後に決まったパターンがこれだ。
「みんな静かにしようね? 今ルーくんが大事な話をしてるんだから」
エイラの注意が入る。 実はこの中で1番まともだ。 いや、色々暴走してしまう時も多いが。
「長期任務の依頼はごく稀にあることなのですが。 報酬は常に相談で決めさせていただいております。 予定などもありますでしょうから。 ルナ様も何かご要望がありましたら遠慮なくどうぞ」
「あー…………家欲しいくらいか?」
いつも宿暮らしなのだがたまに困る。 自分の私物とか置いておけないからな。
「家……ですか」
「大所帯になったからな。 まぁそれくらいだから普通に相応の金でいいぞ?」
「…………分かりました。 家で掛け合ってみます」
あれ? 掛け合ってもらえちゃったぞ?
俺が意外そうにジーナを見つめるとにっこりと微笑まれた。
「我が王のお願いですから」
わぁー、セブンスアビスがこんなとこでも適用されちゃったよ。 というかジーナ、意外に人に甘いよな? 遊んでるネティスを放置している上にうるさいセリーヌとクロエに何も言わないし。
ジーナが部屋を出て行き、残されたのは呆然とした俺と騒ぐ仲間達だった。
「意外ね、彼女がそこまでルナを慕ってるなんて」
「そうですか? 仲良くなった時からあんな感じではないかと」
「そうか?」
シルヴィアは意外と見る目があるな。 のほほーんとしてそうな雰囲気なのに。
「今失礼なこと考えませんでしたか?」
こういうところとかな! シルヴィアは俺を疑うような視線で見つめてくる。 なんで分かるんだよ。
「女の勘は時に人の心も読むのよ」
こえぇよ女の勘。
「家、か。 どんな家がいいんだろうな」
とりあえず話題を逸らしてみる。 というか希望も聞いて置いた方が良い。
「ルーちゃんと同じ部屋かな」
「ん…………同じく」
「うん、当然却下な」
なんで俺と同じ部屋なんだよ。 そんなことになったら毎日ヤりたい放題……んん、プライベートも何もあったもんじゃないな。
「今ちょっと揺れたよね?」
「ゆ、揺れてない…………」
揺れましたよグラグラにな! 理性と常識が絶賛戦闘中だ。
「駄目よ。 月くんは1人部屋よ」
「ネティス……お前が1番常識人とは」
意外だった。 立ってるだけでエロい痴女だと思っていた俺の認識を改めなければならない。
「それに……夜這いの方が興奮するでしょう?」
「前言撤回だバカ」
軽くチョップを食らわせてやる。 確かに興奮するとか思ってない。 えぇ、全然思ってない。
「あなた達ね…………。 はぁ……仲間が多いと大変ね」
「そうですね。 甘やかす回数が減っちゃいます」
「え? そんな認識なの?」
フェシルとシルヴィアは仲が良いのに意見は合わないんだよな……。 仲が良いから喧嘩にはならないのだが。 後セリーヌはシルヴィアの尻尾好き過ぎな。 気持ちは分かるけど。 よく分かるけど。
「お待たせしました」
勢いよくドアが開く。 珍しくちょっとはしたないよ?
「現在ご用意出来る家はこれです」
そう言って大量の絵を持ってきた。 全部家の絵だとは。 しかも丁寧に家の中の構造まで書いてあるし。
「そんなに簡単に家の購入が通るものなのか?」
「私が半分負担してます」
「え」
なんで!? というか、え? マジでなんで?
「普段からのお礼です」
「いや、それは良くないだろ。 それならいらない」
「…………私からの施しは受けたくありませんか?」
おおう、ズルい言い方。 しかも普段はクールな彼女が涙目上目遣いとか破壊力半端ない。
「いや、でも…………なぁ?」
「申し訳ないわね。 だからあなたも一緒に住むということでどうかしら?」
「え」
いや、それもおかしい話だろ。 というか今現在ジーナが住んでる家はどうすんだよ。
「それでよろしいのであれば」
「頷いちゃうのかよ! いや、もういいんだけどな…………」
わお、目を見ただけで凄くワクワクしてるのが分かる。 初めて見たよこんな表情。
別にジーナがいて困ることはない。 むしろありがたい事の方が多いような気がする。
「ルナ様と同じ家、楽しみです」
「そうだな…………というかどれがいい?」
俺達はきちんと部屋を見ていく。 依頼の話とかどこ行ったんだろうな。 もう資料読めば全部書いてあるんだけど。
「こちらなどどうでしょう。 リビングダイニングキッチンに小部屋が10部屋です」
「それならきちんと全員に部屋割りが出来るな。 あ、こっちにも同じような作りあるぞ。 部屋は9部屋だが」
まずは部屋の数。 全員分確保出来るもの以外は落としていく。 数が多過ぎるのも考えものなのでふるいにかけるのは大事だ。
最終的に残ったのは5件だ。 どれも値段がかなり張るのだが、半額出してもらえると考えればかなりこちらに都合が良いものばかりだ。
「ここがよろしいかと」
ジーナが指を差したのは全く俺と同じ考えの家だった。 まぁそうだよな、普通なら。
「どうしてですか?」
「商店から近いからな。 物運びに便利だ。 基本的に外から帰ってくる時は移動魔法、入り口から遠くて問題はあまりないだろ」
「あぁ、なるほど」
ギルドからも徒歩5分程度。 ジーナの通勤にも全く問題はないはずだ。
「それじゃあお家目指して頑張りましょう!」
何故かジーナに締められたがまぁいいか。 ジーナが実際に護衛任務に行くわけではないのだが。 俺達は一同苦笑いで返事をした。




