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セブンスアビス  作者: レイタイ
出会い編
5/90

鎖に繋がれた少女 一

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 曇り空の下、草原に周囲に女の子の悲鳴が響く。 ブルの群れが一斉にして女の子に襲い掛かる。

 女の子とブルがぶつかる直前、走りながら剣を抜く。


「雷殺剣」


 バチンッ!という特徴的な雷の音。 そして黒い閃光が一閃。

 ブルの群れが横に真っ二つになるという異常事態にその女の子は目を丸くしていた。


「ここは危ないぞ? 街に戻れ」


 怖がらせないように、極力優しく声を掛ける。 女の子は文字通り目を点にして俺を見上げる。


「お兄ちゃん…………助けてくれたの?」

「どうだろうな? お母さんやお父さんは?」

「逸れちゃった…………」

「…………マジですか」


 周囲を見回すもそれらしき人物の姿はなし。 どうしたものかと頭をかいていると、俺の目の前に銃弾が通過した。


「速っ…………」


 避けれなくはないが咄嗟のことだった。 そして通常の銃とは思えない速度が出ていた為につい驚いてしまった。

 女の子は何がなんだか分からずに首を傾げるだけだ。 まぁ常人には見えないだろう。


「…………」


 銃弾を放った人物を見る。 そこには黒いコートに身を包んだ両手にハンドガンを持った少女が立っていた。

 長い黒髪、鋭い目付きではあるが、怖いというよりはクールなイメージがある。 コートに隠れているせいあ身体つきは分からないが胸は大きめなのはよく分かる。 年齢は15歳ほど、つまりは俺と同じくらいだ。

 その少女は無表情で銃を腰元のホルスターに入れる。 もちろん銃弾は突っ込んで来た大きめのブルの眉間を撃ち抜いて即死させていた。


「あ、お母さん!」


 そしてその少女が連れている女性が女の子の母親だったらしい。 女の子が駆け寄っていく。

 つい武装していた少女と一緒にいたので冒険者の人だと思っていた。 その人がお母さんなのか。


「どこ行ってたの!」

「ごめんなさぁい〜!!!!」


 女の子は泣きながら母親に抱きつく。 日本にいた頃でも稀に見たことのある光景だった。

 それから少女と2人で街まで送り届けたところで目が合う。


「…………何?」

「いや、何でも。 …………優しいんだな」

「別に…………」


 少女はそのまま去ろうとする。 無理に追い掛ける気はない。 いや、だってストーカーみたいだし。

 しかし1人で冒険者というのも少し気になる話だ。 もちろんあり得ない話ではない。 現に俺も1人だから。

 そう思って俺は街に戻ろうとしたところで殺気を感じた。 先程の少女と、そしてもう1人。


「ちっ…………!」


 俺は飛び込むようにしてその少女と、そしてもう1人の間に割って入った。

 金髪の優しげな瞳をした天使だ。 女ではなく男。 瞳の色は青色の綺麗な瞳。 まさしく天使、というより神に近いような男だ。


「悪いがこの子は関係なくてな。 相手なら俺にするのが道理だろ」

「そんなことはないはずだよ。 キミ達が話をしていたのは聞かせてもらったからね」

「…………」


 まぁ普通は話など聞いてくれるわけがない。 なんたって俺達は敵同士なのだから。

 和解は無理なのだろう。 皆から慕われる、と言ってもそこには例外がある。

 オーレリアですら神や天使に慕われることはなかった。 どれだけ優しかろうとそこには必ず争いがあるものだ。

 少女は腰のホルスターから二丁のハンドガンを取り出す。 鋭い眼光が天使を貫く。


「悪いな、巻き込んで。 俺はセブンスアビスだ。 だが…………一瞬で終わらせるからお前は手を出さなくていい」

「…………」


 こちらを一瞥した少女は俺の言葉を全て無視して引き金を引いた。

 ちょっとこの子全く会話する気ないんですけど。 それどころかわざわざ喧嘩売っちゃったよ?

 あっさりと避けた天使は光の弓矢を創り出し、迎撃してくる。

 少女は負けじとその矢全てを撃ち落とし、更に追撃を仕掛ける。

 なんだろう、この疎外感。 俺って当事者じゃないんですか?


「やるね、キミ。 流石は王の側近というところかな?」

「…………」


 何を言われても完全無視。 引き金を引き続ける少女はいきなり戦法を変えた。

 矢を撃ち落とすのではなく避け切る。 そして追撃の銃弾の量を重視し始めた。


「遅い遅い」


 天使はその銃弾を華麗に避けながら少女との距離を詰めていく。

 まずいな、銃を使う少女にとって接近戦は苦手だろう。 このまま攻められれば危ない。

 俺は剣を掴んで足に雷を纏わせ、横から飛び入り参加出来るように準備する。


「…………」


 少女は近付かれまいと距離を離そうとするが天使の飛行速度がそれを上回る。


「もらったよ」


 弓矢から槍へと変換させた天使が上から突き刺すようにして槍を突く。 さしずめ槍の雨というべきだろうか。

 その槍を避けながら少女はハンドガンを離す。 するとハンドガンは魔力へと変換されて空に散った。


「あれも精製魔法だったのか」


 魔法により銃を作り出したらしい。 そして少女の手のひらに魔力が集まる。

 次に精製されたのは短機関銃。 サブマシンガンとも呼ぶべき銃だ。

 威力はハンドガンに劣るものの、その連射速度で天使を圧倒していく。


「くっ!」


 苦しくて天使が距離を開ける。 少し被弾したらしい右腕から血が垂れ、だらりと垂れ下がる。


「…………」


 サブマシンガンを魔力に戻した少女は次になんとスナイパーライフルを創り出した。

 いや、なんかすっごい怖いんですけど。


「しまっ!」


 気付いた天使だが遅い。 距離を開けたことが仇となった。

 超高速にして最高威力の銃弾が天使を貫く。 咄嗟に右に移動したことで左の翼の根元が貫かれ、翼がもげてしまった。


「ぐあ!」


 そのまま落下する。 翼が折れた天使はいるものの、もがれて無くなった天使は初めて見る。


「ふふ、周りを見なくていいのかな」

「っ!」


 しかし天使は余裕そうに笑みを作る。 周囲にはいつの間にか大量の魔法陣が。

 天使の能力は魔法陣をその場に展開させ、空中に固定させるものだったということだ。

 つまりは時間は掛かるが、準備が整えば一斉攻撃が可能ということに他ならない。


「死ねぇ!!!!」


 炎やら氷やら雷やら。 様々な属性の魔法が一斉に撃ち出された。

 咄嗟にスナイパーライフルを魔力に変え、ハンドガンを作ろうとするものの間に合わない。


「雷殺剣」


 俺はそこに飛び込むと共に剣を振るう。 間近にあった4つの魔法陣を斬り裂きながら中央へと突っ込む。

 少女を抱え、剣を振りながら飛んでくる魔法を斬り裂いていく。 しかしあまりにも量が多い。


「ちっ…………」


 右肩を掠め、血が噴き出す。 これだから天使の能力は厄介なのだ。 こんな少量の傷で結構なダメージとなる。

 バックステップしながら魔法陣の中心から抜け出そうとして、後ろに回り込んできた天使が両腕を突き出す。


「バーニングブラスト!」


 いつかの別の天使が繰り出した爆発系の魔法。 足に雷を纏わせながら何とかそれを避けようと左側に飛び込む。


「ぐっ…………!」


 転回しながらなんとかギリギリ、右足を焼かれながらも避ける。 やはり少女を抱えたままではきついか。


「まだまだ! グランドプレス!」


 天使が地面に手を着いた。 茶色の魔法陣が展開される。

 俺達の真横の土が盛り上がっていく。 その土はそのまま勢いよく俺達を挟み込む形で。


「風切」


 俺は右側の土に緑の魔法陣を纏わせた剣を振るう。 剣から飛ばされたカマイタチとも呼ぶべき風の斬撃が土を粉々に切り裂く。

 左側から飛んできた土にぶつかる直前、風により貫通力を高めた剣を突き刺しながら跳躍。 真横に回転して剣を引き抜きながら着地する。

 岩は誰もいなくなった直線状を真っ直ぐに進むだけだった。


「あの猛攻を…………全てかいくぐった!?」


 天使は驚いた視線を向けてくる。 天使の神力はかなり消費されており勝ち目はほとんどないと思っているのだろう。

 元々王というのは神と同等か少し下くらいの力を持っているものだ。 天使1人で挑みにくることそのものが間違っている。


「…………離して」


 俺に抱えられたままの少女は首だけを動かし俺を睨んでくる。 確かにもう抱える必要はないな。


「悪い」


 ゆっくりとその場に下ろすと長い髪をかきあげる。 その仕草が美しく、少し見惚れてしまった。


「…………何?」

「え? い、いや、なんでも」


 再び睨まれて慌てて視線を逸らした。 というか美人が睨むと凄く怖いんだが。


「…………どうする気?」

「ん?」

「そいつ…………」


 少女が細く、綺麗な指で絶望する天使を指さす。

 以前の俺なら迷うことなく殺していただろう。 しかし敵だからといって本当に殺すべきか? 皆から慕われる為には誰かを殺さなければならないのだろうか。


「…………」


 いや、殺すことは必ず必要なことだ。 日本にいた頃もそうだった。 他の生物を殺し、それを食べることで生が確立されていたのだ。

 例外などない。 目的は違えど生きることは誰かを殺すことに他ならない。 なら俺の取るべき選択は…………。

 ゆっくりとした足取りで天使の元へと近付く。 争いに犠牲はつきものだ。 そして争いを完全に止める方法などなく、片方か、もしくは双方が全滅するまでそれは続けられる。


「風切」


 剣を振るう。 神聖の高い天使だろうと関係がない。 決してそんなことはないのかもしれないが、それでも念には念を押した。

 首を刎ねた瞬間、大量の血が噴き出して周囲を赤く染めていく。

 血の雨が降り注ぎ、次いで本当に雨が降り出してきた。


「…………」


 残されたのは1人と1人と1つの死体。 たった今自分の手で殺したそれは灰となって雨に流されていく。

 剣に付着した血を振り払うとゆっくりと鞘に戻す。


「…………どうして、泣くの?」

「え?」


 泣いているように見えるのだろうか。 今の俺に涙は流れている様子はない。 雨と勘違いしているのだろう。


「…………なんでもない」


 少女は顔を伏せると街に向かって歩き出す。 俺はその背中に掛ける言葉も見つからず、そのまま見送ってしまう。


「はぁ…………」


 強い子だった。 しかし同時に脆さも感じたような気がした。

 だからだろうか、少し手を差し伸べたいと思ってしまった。 しかしそれは相手にも失礼な行為なのだろう。

 何故ならあの少女は俺の助けなど、求めてすらいないのだから。

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