生ける屍 ニ
「………………あなたは、変なセブンスアビスね」
しばらくの沈黙の後に出た言葉は俺を非難するような台詞だった。 しかしそれはどことなく嬉しさが込められているようで。 怒るに怒れない。
「セブンスアビスはもっと自己欲に取り憑かれた我儘の権化だと思っていたわ」
「別にその認識で間違ってないぞ」
俺もその通りだし。 善人であると言う自覚もなければ我儘なのも理解している。
「あなたのそれはただの優しさよ」
「あら? あんた、ルナのことよく分かるわね」
「当然でしょ。 こんな露骨なんだもの」
そんなに露骨だろうか? というか優しさが露骨ってなんだ。 そもそも優しくした覚えもないんだが。
「ルナくんは分からなくていいことだ」
「ルーちゃんはそれを素で出来るから凄いんだよね」
よく分からんが褒められててこのままで良いらしい。 本当によく分からんが。
「…………私ばかり独りになって、どうしてあなた達は」
「それは違うな」
すぐに否定してしまう。 その言葉は俺達の今までの苦労を無に帰すような言葉の気がしたから。
「俺は幼い頃に親を亡くして孤児院ってとこに引き取られた。 そこではずっと独りだった。 生きる術をそこで身に付けるしか生き残る方法がなかったくらいにな。 俺だけじゃない。 こいつらもそれぞれ何かを抱えて、それでも懸命に生きてここまで来たんだ」
俺は鋭い目付きでネフィロを睨み付ける。
「それを否定する気なら俺はお前を許さない」
「…………ごめんなさい」
お? かなり素直に謝罪された。 意外だ、というのは失礼か?
俺は俯くネフィロに近付くとその頭を撫でてやる。 ビクッと全身を震わせた後におっかなびっくり顔を上げた。
「お前も苦労してんだろうし、何かに必死なのは分かる。 お前みたいな奴は嫌いじゃないしな」
「月くん…………」
目尻に涙を溜め始めた。 い、いや、泣かす気は全くなかったんだよ?
俺が1人パニックになっていると腰に抱きつかれた。 ちょっとこの体勢が危険な体勢に見えなくもない。
「あ、あのー…………ネフィロさん?」
「…………独りやだ」
「駄々っ子!?」
まさかの子供に逆転したか!? 大人っぽい見た目で子供みたいになっちまったよ!
「ルナはこうしてまた仲間を、というよりはハーレムを増やしていくのよね」
「もうお決まりみたいなものですね」
いや、和やかに会話してないで助けてくれよ。 この駄々っ子絶対俺1人じゃ手に負えん。
「…………お化けが仲間?」
「お、お化けじゃないだろう! ネクロマンサーだ! そう……ただのネクロマンサー!」
「で、でも1回死んでるんだよね……?」
「「「…………」」」
そこで黙るな。 後こっち見て顔を真っ青に染めるな。 こいつはただの人で、リターンタイムがなけりゃ身体の維持すら出来ずに腐敗する存在だぞ! 身体めちゃくちゃ冷たいし!
「あ、頭撫でればいいのか!? それとも抱きしめ返せばいいのか!?」
「…………両方して」
まさかの両方を要求して来やがった。 ま、まぁそれしかすることないんでするんですけどね?
しばらくして、ようやく落ち着いたネフィロが離れてくれた。 心臓まだドキドキしてるよ……。
「ふ、ふん…………少しはまともな王みたいね」
再びソファに足を組んで座るネフィロ。 あくまでも上から目線。 なにこいつ、すっげぇ偉そうなんだけど。
「…………顔、赤いわよ」
「本当ですね」
「…………ツンデレ?」
「耳まで真っ赤だ」
「あと目も少し赤いよ? 泣いたあとだってすぐにバレちゃうよ?」
みんな容赦ないな! 俺ですらそれには触れなかったぞ。
「…………何か?」
おおう、すっげえ目付きで睨まれた。 更には周囲にゴーストが舞い始めた。 再び3人に抱きつかれる。
「やっぱり怖い!」
「…………同じく」
「ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気ルナくんがいるから平気」
クロエ怖い。 何その洗脳みたいな言葉。
「ルナさん、ネフィロさんはどうするおつもりですか?」
「本人が望むなら仲間にしようかなとか思ってたんだけどな。 この調子だし、やっぱり無理そうか?」
「っ!?」
ネフィロに目をパチクリとされた。 というか元々誘う気だったし。 神に狙われて放置するわけにもいかないしな。
「ただのツンデレでしょ? 意味は逆よ?」
「ツンデレで意味は逆…………実は従えて踏みつけてくださいってことか? ドMだったのか?」
「違うわよ!」
じゃあどういう意味だ。 ツンデレは言葉の理解が1番難しい生き物なんだぞ。
「だから、独りになるのは嫌だから仲間にしてくださいって言ってるのよ?」
「そうなのか?」
俺が聞き直すと全員から苦笑いをされた。 なんだその表情は。 俺なんかまずったか?
「ルナ様、僭越ながら口を挟ませてもらいます。 あなたはもう少し他者の気持ちを考えることを推奨致します」
あ、ジーナからガチの説教始まった。 一応俺王なんだけどな! 別にいいけど。
ジーナの説教を聞き流しながらネフィロを見ると何やら全員仲良くなったご様子。 というよりはネフィロのゴーストで3人を驚かせて、残りの3人は笑みを浮かべているというドS丸出しの光景だった。
「ゴーストはどんな形状でも出せるのよね?」
「えぇ。 月くんのようにも出来るわよ?」
そう言って俺のそっくりさんをゴーストで作ってみせる。 その様子を全員かガン見していた。
「うーん…………腕はもう少し太いです。 お腹はもっと引っ込んでますよ?」
「鎖骨はもうちょっとこう、何とかならないかしら?」
指示が細けぇ! というか何でそんなに詳しいんだよ。 俺でも一瞬本物かと思ったくらいによく出来ているぞ。 俺本人のゴーストなんだけど。
「…………髪はもう少しなびかせて欲しい」
「いつもポケットに手を入れているぞ?」
「立つ時は少し左足を曲げるよ?」
ポーズの指定までするのかよ。 いや、ネフィロも律儀に付き合わなくてもいいんだぞ?
「こう?」
「「「「「腕太くしすぎ!」」」」」
仲良過ぎるだろこいつら。 一体説教食らってる間に何があったんだよ。
「…………賑やかになりましたね」
「なんでだろうな。 しかもまともな奴が1人もいないカオス空間だ」
しかしかなり満たされているような空気でもある。 互いに寂しさを紛らわせるためだとかそんな簡単なものではない。 深く繋がっていたいからという曖昧ではあるが確かなものだ。 少し恥ずかしいが絆という言葉が浮かぶ。
「しかし、なんでネティスはギルドに俺がいることを知ってたんだ?」
「死者に聞いたそうです。 この世を彷徨った」
それって幽霊が実は存在しますという証言だよな? 恐る恐るセリーヌ達を見ると俺激似のゴーストにテンションが上がっているようで気付いていなかった。
「あいつらには言えねぇな…………」
「そうですね。 それが良いかと」
大変な目にあう未来しか考えられない。 ネティスにもうっかり口を滑らせないよう気をつけさせよう。
そんなことを考えながらのんびりと過ごした1日だった。 多分。 のんびりと呼ぶには騒がしいような気がしたが、そこは考えないことにした。




