海に潜む魔神 三
移動魔法により一気に海までやって来た。 本当に便利だ。 ギルド員が小さく頭を下げた後に再び移動魔法でギルドへと戻っていった。
「海、来たわね」
「来ましたね」
「ん…………綺麗」
「そうだな…………」
全員でその様子に見惚れていた。 見惚れるのはいい。 別に全然構わない。 問題はそこじゃない。
「…………あれは遊べるのか?」
もぞもぞと動く謎の生物達。 どう見ても魔物である。 魚やらクラゲやらヒトデやら、終いには某湖に生息するとされる恐竜のような生物までいる。
「一掃すればいいじゃない」
「それだと血の海になりませんか?」
「…………バリアで押し退ける」
「常に維持するのはきついと思うぞ……?」
どうやら遊べる雰囲気ではないらしい。 元々遊んでいいとかいうのはなかったしな。 でも気分が落ちるのは仕方ない。
「…………水着、見たかったんだけどな」
そう、気分が落ちるのは仕方ない。 仕方ない。
「それじゃあまた個人的に行きましょう?」
「そうですね。 ルナさんにはそれまで楽しみにしていてもらうということで」
「酷い生殺しだな」
しかし仕方ない。 仕方ないかな? 仕方ないかぁ…………。
「少年」
「ん?」
ふと、いきなり横に立ったゴリゴリマッチョマンが遠い目をしながら海を眺める。 そして俺の肩に手を置いて一言。
「元凶は全てリヴァイアサンだ。 殺ろう」
「…………そうか。 リヴァイアサンが悪いのか…………」
そいつのせいで水着が見れなくなっちまったんだな。 そいつのせいか。 そいつのせいで。
「…………ぶっ殺す」
「ルナさんがいつになくやる気です!?」
「やる気というより殺る気よね」
「本当に私達の水着姿が見たかったんだな……ルナくんも男の子だ」
「ん…………意外とエッチ」
全員から生温かい視線を向けられた。 しかし散々焦らされた挙句この仕打ち。 どうしてくれようか。
「それで、リヴァイアサンってどうすりゃ出るんだ? 本来そいつを殺す仕事だろ」
「いきなり仕事の顔に戻ったわね…………」
「…………切り替えが早い」
いや、無理なものは無理なのだ。 いずれ楽しみにしておくとしてやるべきことはきちんとやるべきだ。
「えっとですね…………海底にいるみたいです。 誘き出すための作戦があるみたいなので指示を待ちましょう」
「誘き出す? リヴァイアサンって生態不明なんだろ?」
「見つかったみたいです。 今日はそれの実践も兼ねたものになっています」
シルヴィアがよく理解してくれて助かる。 俺は説明書を読まずにゲームを始めるタイプだからな。
「ですけど準備に時間が掛かるそうなのでしばらくは自由行動みたいです」
「なら軽く海にでも入ってみるか?」
「…………いいの?」
「魔物がいない辺りまでだけどな」
あまり広くは遊べないが、それでもまだマシだろう。 水着を着るほど濡れないけどな! せいぜい膝までだろう。
「昼食の為の狩とか?」
「それいいな。 それにしよう」
タダで飯が食えるし一石二鳥だ。 そうと決まればやることはひとつ。
「…………狩勝負」
「報酬は?」
「1日ルナを好きに出来るとかどうかしら?」
「それ俺が勝ったらどうなるんだ?」
「…………全員を好きにしていいとか?」
「俺だけ豪華だなおい…………」
それは釣り合ってるのか? いいのかそんな条件で。
「いいですよ」
「ん…………問題ない」
「ルナくんだから私も大丈夫だ」
いやまさかの満場一致? というか俺なら問題ないってなんだよ。
「まぁいいか…………。 とりあえずルールを決めるぞ」
「ルール? 必要なの?」
「当たり前だろ? むしろ俺かシルヴィアが雷魔法使ってみろよ。 海の魔物全員瞬殺だぞ?」
「…………しっかりルールを決めましょう」
まず重要なのは俺達それぞれで不利にならないルールだ。 ということは全員平等。
「そうだな、持ってくる魔物は1人1体ずつ。 勝敗は美味いか不味いかで決めるか」
「それなら全員平等なのかな?」
「そうなんですか?」
「この辺の美味い魔物とか誰か知ってるか?」
「「「「…………」」」」
ですよね、遠いですもんね。 ちなみに俺も全く知らん。 何が出るかも知らん。
「じゃあ始めるか。 つってもいつ何が出るか分からねぇしな。 一緒に行動はするか」
「それが安全ですね」
「そうね。 こんな時に神とか最悪だもの」
「…………リヴァイアサンに頼む」
「敵を利用して敵を追い返すのか? そんなこと可能なのか?」
タイミング次第だろう。 今攻められたら多分間に合わない。
「じゃあ、海の近くに行くか」
俺達は全員で海のそばまで移動する。 浜辺というのはやけに歩きにくく、足場が悪い。 リヴァイアサン戦の前に知れて良かった。
「さて、どうやって捕獲する? 俺としては海を爆散させて打ち上がったものでいいんだが」
「随分と物騒です!?」
「どうやって打ち上がった魔物取りに行くの?」
「…………海の上を走って?」
雷魔法で速度を上げれば出来そうなものだが。 しかし少し面倒なのも確かだ。
「私がやろうか? 私なら浜辺に打ち上げることも出来るぞ?」
「本当か?」
「うん、任せてくれ」
流石頼りになる。 ならまずは適当に打ち上げてもらって、そこから選ぶ形にするか。
「じゃあやってくれ」
「うん」
クロエが翼を大きく動かし、勢いよく空中へと移動した。 何する気だろうか。
「黒龍槍・爆」
精製魔法によって精製された黒い槍。 クロエはそれを思い切り投擲した。 槍はかなりの高速で海へと突き刺さる。
「これでいい」
「…………」
何がしたいのか分かったのでちょっと心配になる。 クロエは少しやり過ぎだ。 多分俺達びしょ濡れになっちまう。
「赤晶・壁」
正面から上に掛けて赤い氷の壁を張る。 全員不思議そうな顔をした。
「ルナ?」
「どうしたんですか?」
「濡れるの嫌だろ?」
「あぁ、確かにそうだな。 すまない、配慮が足らなくて」
「一体何の話を––––––」
言葉の途中で大きな爆撃音。 海に突き刺さった槍が爆発したのだろう。 その際に大量の水と魔物を吹き飛ばしてこちらに飛ばしてくる。 確かに空中から投げれば軌道はこちらに向くように突き刺さる。 爆破すればこちらにくるのは必然だ。
全ての雨と魔物を守り切って氷は砕けた。 なるほど、壮観だ。
「やり過ぎたな」
「す、すまない…………役に立てると思って張り切ってしまった」
「皆さん驚いたようにこちらを見てますね」
「気にする必要ないわ」
「ん…………早く選ぶ」
俺達は俺達なりに楽しむ。 他の奴らなど知るか。
ということでそれぞれ美味そうな食材を選ぶ。 俺は何にしようか。
「ん…………?」
すると何やら唇がある気持ち悪い魚と目が合った。 見なかったことにした。 気色悪い。
色々物色して、結局は無難な割と大きめな魚を選んだ。 割とと言ったもののそれはこの世界での話。 大きさは1mほどだ。
「…………ルナ、助けて」
「ん?」
見るとセリーヌの腕に大きめのタコが絡み付いていた。 何をすればそんなことをされるのか。
「てい」
俺はタコにチョップを食らわせてやる。 そのまま吹き飛んで転がって行く。 いや、転がり過ぎだろ。
「…………ありがと」
「あぁ。 お前はもう選んだのか?」
「……あれ」
セリーヌが指を差したのは…………大きなトカゲだった。 またキモいの選んだな……。
「…………ゲテモノ」
「それを分かってて選ぶとはなかなかのチャレンジャーだな…………」
でも食べるの俺達なんだろ? 大丈夫だろうか…………。
少し不安になりながら3人が選ぶのを待っているとシルヴィアが小ぶりの魚を持って走ってくる。 本当に小ぶりだ。 といってもマグロくらいの大きさはあるのだが。
「身がしっかり詰まっていて美味しそうでした」
「本当だな」
「ん…………」
シルヴィアはまともに選んだようだ。 続いてフェシルが人の首すら切断出来そうな大きなハサミを持つ3mほどの蟹を引きずってきた。
確かに美味そうだけどさ。 ちょっと大き過ぎないか…………?
「蒸せば美味しいかしら?」
「多分な。 しかしまた大きいの選んだな」
「なんとなくよ」
大きいのを選んだのはなんとなくらしい。 持ち運びが面倒だということ以外はなんとも思わないが。 別に殺される気はしないし。
「す、すまない、待たせたか?」
「いや、そんなに大差ない」
最後にクロエがやってくる。 持っているのは5匹の小さな小魚。 一口サイズだ。
「多分5人分には足りないと思って同じものを5匹連れてきた。 これはルール違反だろうか?」
「いや、一口サイズだしな。 仕方ないだろ」
「ん…………」
「そうね」
「問題なしです」
ということでそれぞれの獲物は決まった。 あとは調理をするだけだ。 料理が出来るのはフェシル、シルヴィア、クロエだけだ。
男である俺は日本にある簡単な料理しか出来ない。 セリーヌは幼い頃から閉じ込められていたせいでそんな余裕がなく、仕方ない。
早速調理を始めてもらう。 といっても道具が無いので全て魔法でどうにかした。 シルヴィアさんマジパネェっす。
「「「「「いただきます」」」」」
並べられたかなり豪勢な料理。 俺達は躊躇いなく口に入れる。
「まっず…………」
「…………ネチョネチョしているわ」
「それになんだか苦いです」
「ん…………毒」
「なんだろうな…………汚染された水のようだ」
結論、全員クソ不味い。 ということで勝負は流れた。 ゲテモノなのに他と味が全く変わらなかったセリーヌの勝利でもよかったような気がするが本人も納得しているようなので無視した。
「えー、今からリヴァイアサンを出現させます。 準備をお願い致します」
大声で叫んだ男性によるとそろそろ始めるらしい。 良い暇潰しにはなったが後味が悪い。
とりあえずは俺達は戦闘準備を進めるのだった。 特にやることもなかったが。




