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セブンスアビス  作者: レイタイ
出会い編
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プロローグ 終

 俺は現在、辿り着いた街の鍛冶屋に来ている。 白を基調とした家が並ぶこの街はなんと商人の横行の多い街だった。 名前はサルザールというらしい。

 商人の横行の多いということは潤った街ということだ。 その為に金の出入りも激しい。 そして俺が仕留めた巨大なブルはここら一帯を占めるボスのような扱いらしい。

 簡単にいうと全財産が軽く金持ちと変わらないくらいまで溜まってしまったのだ。 まぁ金の出入りが激しいということはその分必要経費も高くなるのだが。

 しかし刀を買う分には貯まったのでこうして鍛冶屋に来たということだ。 一応武器屋にも寄ったのだが大量の剣があるだけで刀自体はなかった。

 実はこの世界に刀という概念がないのだ。 全て両刃の剣しかない。 しかし刀というのは色々と都合が良い場合が多いのだ。 間合いの広さや抜刀術等色々。

 時間が経って刀なんかもあるのではと思ったが、意外にもなかったのだ。 銃の概念は昔からあったってのに。

 まぁというわけで鍛冶屋に直接乗り込んで特注で作ってもらうつもりなのだが。


「…………」

「…………」


 鍛冶屋の中に入ろうとした瞬間、扉が開いて小ちゃなお子様が出て来た。 茶髪の酷く無表情な女の子だ。 大きくパッチリとした双眼が真っ直ぐに俺を見つめる。 体型も小学生のようで天使の時と違い、まさしくこれがロリっ子と思わされる。

 更には身に纏うその雰囲気が大人そのものなのだ。 黙っているだけで雰囲気に気圧されそうになる。


「…………お前が鍛冶屋?」

「ん…………一目で鍛冶師と認められたのは初めてだ」


 その少女はやはり鍛冶屋だった。 いや、鍛冶屋は建物で人は鍛冶師というのか。

 鍛冶師の少女は俺を興味深そうに眺めた後に何度かふむふむと頷く。


「少年、剣が欲しいのか?」

「剣というか刀だな」

「カタナ…………? なんだそれは」


 喋り方が大人のそれだった。 というよりはちょっとおばさんくさい。 代わり映えのしない表情は相変わらずだが。


「片刃の剣だ。 後ちょっと長い」

「ほう? そんな剣が存在するのか。 カタナと言ったな? 面白い。 中へ入れ」


 えっと、俺一応客なんだよな? 扱いが丁寧なのか雑なのか分からないんだが。

 中へ案内される。 何本か鞘に入った剣が中が並べられており、後は鍛冶に使うだろう石の釜やら材料である鉱石の山があった。


「名はなんと言う?」

「紅月 ルナ」

「あかつき るな? 変な名前だ」

「ほっとけ」


 確かにこの世界では妙な名前だろう。 それに日本でもあんまりよろしくなかった。 ルナって女っぽい名前だからか。


「…………妙な剣と妙な名前。 もしかしてセブンスアビスか?」

「っ……!」


 咄嗟に拳を構える。 見た目は幼女だがどう考えても中身は大人だ。 セブンスアビスはあまり評判はよろしくないのが世の常だ。

 なんだって普段から人を従わせようとするからな。 目立つ上に命を狙われているせいか街の厄介者として有名になってしまう。


「そう構えるな。 私は非力な鍛冶師だ、セブンスアビスに挑もうだなんて妙な考えは持っちゃいない」

「…………」

「疑り深い性格だ。 だが、時としてそれは役に立つだろう。 もちろん損の方が大きいだろうけど」


 この子は、いや、この人か? この人は何故こうも余裕そうな雰囲気なのだろうか。 普通セブンスアビスだと聞けば驚くなり狼狽えたりするはずなのに。


「キミがセブンスアビスだろうと私には関係のない話だ。 それより私はカタナという物について知りたいのだが?」


 俺の心を読んだようだ。 本当にこの人は何者なのだろうか。 ただの鍛冶師には思えない。 というか見えない。 幼女にしか。


「あー、ま、まぁ刀ってのは俺の世界であった物でな」


 刀の説明をすると興味津々に俺の話を聞いてくる。 相変わらず無表情なのだが、目がキラキラしていた。


「というわけでそれを作って欲しいわけだ」

「なるほどなるほど。 そんなことを考えもしなかった。 バットウジュツと言うのか?」

「あぁ、まぁ」

「なるほど、興味深い技術だ。 しかしこれは剣にしても問題はないのではないか?」

「いや……そういうわけじゃない」


 剣と刀の違い、それはその性能にある。 もちろん両方共に斬るという行為が可能なものだがきちんと違いはあるのだ。

 まず剣は両刃の真っ直ぐとした形状、こちらは刺突をメインとして作られている。 その為に斬撃が甘くなる傾向があるのだ。 対して刀は片刃に反りを付けたもの。 斬撃がメインとなっている。 抜刀術で刺殺など不可能、その為に刀の方が抜刀術をする際には優れている。

 そして次に俺の覚えている剣技のほとんどが斬撃メインとなっているからだ。 その為にあまり剣は向いていない。

 そのことを説明すると先程よりも目を輝かせた少女が眼前迫る。


「なるほどなるほど! やはり異世界とは面白い! そんなことを考えつくだなんて!」


 無表情なのにテンションが物凄く上がっていた。 顔が幼女なので近付けられても欲情はしないが。


「面白い! 情報提供料だ、今回はタダで製作してやろう!」

「ん、いいのか?」

「もちろんだ。 その代わり使い心地や感想を聞かせてくれ!」

「お、おう…………」


 少女の勢いについ頷いてしまう。 なんだかんだでこの人、根っからの鍛冶師なのかもしれない。


「使用する金属はどうする?」

「あー、お任せで。 俺も専門家じゃなくてな。 そこまで詳しくは知らないんだ」

「む、そうか。 では仕方ないな」


 あ、そこは仕方ないで済ませてくれるんだな。 物分かりが良すぎて怖いくらいだ。


「製作期間はどうする?」

「早めに出来るとありがたい。 天使とか神がいつ来るかも分からないしな」

「では試作品でも渡すという形で良いか?」

「ああ、それでいい」


 そして使い心地やら改善点を確かめる。 一応利害は一致しているので問題ないだろう。


「じゃあ早速製作させてもらおう。 キミはどうする?」

「どうするってのは?」

「ここから先は見物料ものだ」


 あぁ、流石に製作段階を見せるわけには行かないか。 企業秘密というやつだ。


「いつぐらいに取りに来ればいいんだ?」

「大体20日後くらいか?」

「意外と時間掛かるんだな」


 俺の予想を遥かに超える日数が伝えられた。 まぁその手の知識は皆無なのでそういうものなのだと納得することとしよう。


「だが特別サービスだ。 10日で作ってみせよう」

「お、おう…………」


 10日も充分遅いんじゃ、とかは言えないな。 倍まで縮めてくれたんだから。


「ありがとな。 助かる」

「これもサービスだ。 持っていけ」


 そう言って少女は近くに立て掛けてあった鞘に納まった剣を俺に向かって投げる。 慌てて受け取ると無表情を崩してにっこり微笑んだ。


「セブンスアビスなら狙われることも多かろう。 キミが死んでしまっては折角の刀とやらも試す人がいなくなってしまう」


 理由はあれだが俺としてはありがたい話だ。 素直に受け取って頭を下げる。


「ありがとう」

「いやいや、気にするな。 なら早く行った行った」

「あぁ」


 追い出されるように鍛冶屋を後にする。 外は真っ暗で、街灯と民家から漏れた灯だけが街を照らしていた。

 夜となって冷えるような風が頬を撫でる。 日本の冬にも等しい気温だ。 息を吐けば白くなるほどに。

 日本では現在夏に近掛かったのだが、この世界では冬に近いのかもしれない。 季節という概念そのものが存在しないので良く分からないが。


「もう後は宿に泊まればいいか…………」


 昨日から流石に色々ありすぎて疲れた。 一般の高校生にはきつい。 まぁセブンスアビスの影響か一般には程遠いのかもしれないが。

 宿に向かって歩いていると何かの視線を感じた。 咄嗟に後ろを振り向くと初対面でありながら見覚えのある少女が立っていた。

 白いセミロングの髪。 青く大きな瞳。 長い睫毛。 あどけない顔立ちとスラッとした身体つき。 青白く光るその人物を見て俺は目を見開く。


「…………オーレリア、だと?」


 そう、その人物の顔は俺が記憶を受け継いだ主、オーレリアにそっくりだったのだ。

 いや、そっくりではなく同じというべきなのかもしれない。


『こんばんは、紅月 ルナさん』

「あ、あぁ…………」


 話している、というよりは頭の中に声が響いてくるような感じだった。 思念体と思えばいいのだろうか。

 確かネクロマンサーという存在がいると聞く。 オーレリアも仲間に死者を降霊させる何かを使える奴がいたはずだ。


『思念体、なるほど。 あなたの世界では幽霊とも呼ぶのでしょうか?』

「…………そうだな」


 俺の心は読まれているらしい。 それだけ俺達は深く繋がったということだ。 セブンスアビスというのは本当に厄介なものらしい。

 そしてオーレリアの思念体。 それは魔力によるものだ。 こうしている間もどんどんと魔力は消費され続け、持って後数分というところだろう。


『申し訳ありません。 いきなり過酷な運命を押し付けてしまって』

「…………深淵はセブンスアビス本人が選べるものじゃないだろ。 言わば自然現象だ。 あんたが気にする必要はないと思うぞ」

『ですが…………』

「そういう話をする為に現れたのか?」


 そんな時間はないはずだ。 オーレリアは勢い良く首を横に振った。 そんなに振らなくても…………。


『私はこの世界の真実と…………希望を伝えに来たんです』

「…………真実と希望?」


 なんだそれは。 そんなものがこんな世界にあるってのか?


『あなたも想像していましたけど、実は神も選ばれた存在です。 ですから紅月さんの想像通り、王に対して好戦的な天使や消極的に天使がいます』


 やはりそうなのか。 しかし俺はオーレリアからそういう記憶を受け取っていない。

 …………そして今それを言うということは、あの後に降霊魔法によりこの人はこの世界に呼び戻されているという証拠に他ならない。


『はい。 これは私の死後、私が集めた情報です。 …………もう気付いているんじゃないですか?』

「…………」


 この話は矛盾しているのだ。 確かに降霊魔法による思念体の残留という行為は出来る。 そしてその思念体が自由に動くことも可能だ。 情報を集めるのには充分のはず。

 しかしだ、その前提がまず成り立たない。 そんな前提があるはずないのだ。 だって。


「お前、誰に降霊魔法をされたんだ…………?」


 その降霊魔法を使う仲間は彼女を最後の最後で裏切った。 ならば降霊魔法を使う必要性がないのだ。

 頭が痛む。 考えることを放棄したい。 そんな弱音が心の中から叫んでくる。


『はい…………私は裏切られたわけじゃないです』


 語られた真実。 それは確かに希望のあるものだった。 同時に長い道のりでもある。


『裏切られたのではなく…………仲間を全員操られてしまったんです…………』

「…………それも神の仕業、だな」

『はい。 私が殺害された後、その洗脳は解けました。 そして私は全員から魔力のほとんどを頂いて降霊魔法を使用していただきました』


 ああ、なんて話だろうか。 つまり俺がこれから踏み込む未来にはそんな絶望も詰め込まれているわけだ。


『だから…………あなたは仲間を集めていいんです。 王としての使命を背負ってしまったからといって、誰もあなたを恨まないでしょう』

「そんなことないだろ…………。 疎ましく思う奴もいる」

『…………そうですね。 現実はそうではないかと思います。 ですが、それでもあなたと一緒にいてくれる方々が…………仲間が出来ると思います』

「…………」


 彼女はそれを成し遂げて今俺の前にいるのだ。 俺はその言葉を否定出来ない。

 誰かの想いに応えることは簡単だ。 そうすれば仲良くはなれるかもしれない。

 しかしそこから関係を続けていくことが難しいのだ。 ましてや俺は王としての立場がある。 敵は自然と多くなってしまう。


『大丈夫ですよ』

「え?」

『あなたなら、大丈夫ですよ』


 オーレリアは俺に近付いてくると頬に手を添える。 体温は感じないはずなのに、不思議と温かくなる。


『あなたは優しいから…………大丈夫ですよ』

「そんなこと…………」


 天使すらも容赦なく殺したこの俺が優しい…………。 そんなことあるはずがない。


『あなたの優しさを理解してくれる人が必ずいます。 あなたの強さを理解してくれる人が必ずいます。 ですから…………諦めないでください』


 最後に、優しく抱きしめられた。 そして耳元で囁かれた最後の言葉は俺の心に深く、そして強く突き刺さる。


『皆から慕われる良き王であってください』


 ふわっとオーレリアは消える。 魔力の限界が来て降霊魔法が解けてしまったのだろう。


「痛っ…………」


 最後に残したオーレリアの記憶が流れ込んでくる。 それは降霊魔法があったあの時からの、仲間達からの謝罪と、そして笑顔でそれすらも受け止め、許した少女の…………いや、王の姿だった。

 俺は頭を押さえながらも少し笑みを作る。

 流れ込んできた記憶は…………確かに希望そのものだった。 オーレリア自身も2度目の記憶の受け継ぎなど出来ないだろうと考えて最後に俺に会いに来てくれたことも。 そして、彼女はセブンスアビスとして自分の記憶が受け継がれることも分かっていたようだ。

 それは聡明だから、というわけではない。 仲間がそれらの情報を集めてくれたから。

 そして俺が目指すべき道を、背中を見せてくれた。 ならば俺がすべきことは、必要なことは。


「立ち向かってやる…………。 何があろうと、俺は」


 だからこそ、胸この言葉を刻みつけようと思う。

『皆から慕われる良き王であれ』。

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