海に潜む魔神 一
「おはようルナくん」
目を開けると真っ先に挨拶をしてきたのはクロエだった。 いや、クロエ以外全員まだ寝ていた。
ゆっくりと近付いてくるクロエの顔。 寝ぼけた頭で考えていると何故か唇を奪われた。
「ん…………おはようのキスだ」
そして幸せそうにはにかむ。 うん、夢だな。 二度寝するか。
「ルナくん? さっきから話してくれないけど、どうかしたか?」
「寝る…………」
「今起きたばかりだろう? それにもうそんなに時間はないだろう」
「昼まで寝て問題なし」
どうせやることはないのだ。 金もギルドからの報酬金で困っていない。 何の問題もないはずた。
「ん……んん…………クロエ? 何しているのよ」
「あ、フェシルさん、おはよう。 ルナくんが二度寝すると言うんだ」
「あぁ…………いつものことだから気にしなくていいわよ? ルナは朝弱いもの」
「そうだったのか? 意外だ、弱点なんてないものだと思っていた」
俺はそんな完璧超人じゃない。 ということでおやすみだ。
「エッチなことにも弱いわよ」
「そ、そうか? どちらかというと強いような…………この人数を相手にしていたんだぞ?」
「…………確かにそうね」
朝から何の話ししてんだこいつら…………。 寝ぼけた頭でツッコミを入れていると、声に反応したのかシルヴィアが目を覚ました。
「うん…………どうかなさいましたか……?」
「いえ、ルナが二度寝するというから」
「そうなんですか。 では尻尾を」
寝ている俺に尻尾のサービス。 これは良い。
俺が自分の意思は関係なく無意識に抱きついてそのまま意識を底に沈めようとした瞬間、頭を撫でられる。
「ふふ、寝顔可愛いなぁ…………」
そしてうっとりとしたクロエの声が聞こえた。 そういえばフェシルやシルヴィアにも同じことを言われたことがある。 というか今は若干起きてる。
「そうよね。 ルナの寝顔が1番可愛いわよね」
「確かに可愛い顔ですが…………」
「母性本能をくすぐるような、そんな顔だ」
俺ってそんな顔してるのか? あまり言われたことはないのだが。
「…………ルナ可愛い」
「うわ!? セリーヌさん、起きていたのか!」
「突然ね…………」
「び、びっくりしました…………」
「……ルナの寝顔が見れると聞いて」
セリーヌも起きていたらしい。 俺も全然気が付かなかった。
「…………尻尾は気持ち良い……だからそのまま眠る」
「わ、わたくしのせいだったんですか!?」
「確かにシルヴィアの尻尾は気持ち良いもの。 私も抱いて寝ていたいわ。 ルナも抱いて眠ると気持ち良いけれど」
「わ、私もシルヴィアさんの尻尾を触っていたいかな……」
相変わらずシルヴィアの尻尾は人気だ。 これを疎ましいとか思う奴らの頭がおかしい。
「うん…………? あ、またギルドから依頼が来てます」
どうやらまた依頼が来たらしい。 こうも頻繁に来るとは思わなかったが。 仕方ないのでゆっくりと目を開ける。
「あら? ルナ、起きたの?」
「ギルドからの依頼…………?」
「あ、はい。 そうですよ」
上体を起こすと、手紙を取ってきたシルヴィアから受け取る。 内容を確認するとどうやらジーナからではないようだ。
「合同任務の誘いみたいだ。 行かないと駄目なのか?」
「ルナが望むなら行くわよ。 行く気がないなら無視しましょう」
「そうですよ。 ルナさん次第です」
「…………ルナについて行く」
「ルナくん次第だ」
みんな俺について来てくれるらしい。 ちょっと責任全部俺に押し付ける気とか思わなくもないがとりあえずは俺の意見に合わせるようだ。 つまりはどっちでも良いということだろう。
「相手は水龍と言われる魔物らしいが…………」
「リヴァイアサンですか?」
「確か物凄く強いわよね?」
「…………そうなの?」
「なんたって四神と呼ばれるくらいだからな」
四神とは魔物の中でも神クラスとされる化け物のことだ。 炎のイフリート、水のリヴァイアサン、雷のタケミカヅチ、風のアネモイ。 まぁ言わずもがな現状では勝てる気が全くしない。
昔イフリートをオーレリアが戦ったことがあるが、その際には精鋭が20人、しかも2人命を落とすという事態にまで陥った。
俺達の実力は俺はオーレリアと同じなので言うまでもないがフェシル達も精鋭に引けは取らない。 それでも20人は必要で更には2人死ぬくらいなのだから勝てるはずもない。
「来るのはミスリルランク5組の計30人。 最高ランク集団での四神狩りみたいだな」
30人…………丁度試すには良い機会かもしれない。 どれくらいで四神に勝てるのかを見極めるチャンスだ。 これを元にセリーヌの村の仇であるイフリートの力も大体窺える。
「…………ルナ、セリーヌを見た時点でバレバレよ?」
「え?」
「そうですね。 では力試しに行きましょうか」
「ん…………ありがとう」
「…………? とりあえず行くということかな?」
3人にはもろバレていた。 クロエだけは首を傾げていたがそれも時間の問題なのだろう。
「出発は5日後、海に行けるらしいな」
「海ですか?」
「水着がいるわね」
「…………ルナを悩殺」
「なっ! そ、そういうものなのか! な、なら私も可愛いものを…………」
4人の水着姿か。 正直めちゃくちゃ見たいです。
「じゃあ今日は水着を買いに行く日かしら?」
「そうですね。 わたくしもルナさんを悩殺したいです」
「それもあるけれど、あなたとクロエはズレない水着を買うことの方が重要でしょう…………」
「ポロリ…………駄目……」
「うっ…………た、確かに………」
いや、流石にそれはないだろ。 他の奴らがこいつらの裸を見ようものなら。 即死刑だな。 でもちょっと見たい気もする。
「…………あえてルナに見せつける?」
「いや、それは痴女だろう」
「でもルナさん、そういうの好きそうです」
「そうよね」
これもバレてるのな。 本当、実は俺なんでもいいんじゃないか?
俺は心の中で首を傾げながらも4人の水着姿を想像し期待を膨らませた。




