真に強き龍人 五
「くっ…………あいつら…………」
扉の角から覗き込んだところ、予想通りの光景が展開されていた。 龍人族が鎖に繋がれた状態で無抵抗に男を受け入れている光景。 クロエが全員を睨み付けるのも無理はない。 でも殺気漏れてるからあんまりやらないでくれよ?
「完全に油断しきってるな。 やるなら今だ」
「どうするんだ?」
「正面突破」
「え!?」
いや、なにをそんなに驚くことがあるのやら。
「安心しろって、きちんと考えてっから。 お前はあいつらが俺に気を取られているうちに龍人族を頼むな」
「う、うん…………キミがそれでいいなら」
なんとか納得はしてくれたらしい。 というかヤッてる最中なので何かあったら他の龍人族が危ない。 正面突破で1度ヤルのをやめさせないといけないわけだ。
「じゃ、行ってくるわ」
「あぁ! イク! 出る!」
「…………」
なんかやる気にならないんだよな…………。 そう思いながらも正面からゆっくり入っていく。
「んん! っ!? 誰だお前!?」
「し、侵入者か!?」
「敵襲だ! 警備何して!」
裸の男がごちゃごちゃとうるさい。 相手にするのも面倒だ。
俺はとりあえず全員を瞬殺した。 いや、殺してはないけど。 魔力と身体つきからある程度素人なのは分かっていた。 作戦もクソもないな。
ついでにと龍人の鎖も切り裂いておく。 相変わらず硬いなこの鎖。
「大丈夫か!?」
「クロエ…………クロエェェェェ!」
「穢されちゃった! 私穢されちゃったよぉ!!」
「うわぁぁぁぁん!!!!」
あ、こいつらは比較的元気だ。 元気過ぎて声が漏れて完全にバレちまっただろうけどな!
「お礼は私じゃなくてあそこにいる男の子に頼む。 私も彼に助けられたんだ」
「ふぇ? に、人間…………」
「クロエ! に、人間! し、しかも男の!」
「ま、またやられちゃう…………!」
「彼は別だから大丈夫だ。 ルナくんも何か言ってあげてくれ」
「ん? …………とりあえずその光景はあんまり見たくないっていうか、今絶対顔赤いからそっち向くの嫌だ」
だって全員裸なんですよ? なにその桃源郷。 絶対鼻血ものだろ。
「皆の格好に照れてこっちを向けないみたいだ」
「え…………」
「そ、そんなことあるの…………?」
「だ、だって人間は醜いケダモノだって…………」
なんかすっごい生温かい視線を感じるんですけど。 俺なんかしたっけ?
「と、とりあえず早く行こうぜ? 多分ここもバレただろうし。 あんまり長居はしたくない」
「そうだな。 皆、行こう」
「う、うん…………」
「本当に信用していいんだよね?」
ちらっと見た限り人数は報告通り10数人。 でも一応は確認しておいた方が良いか。
「ぜ、全員いるんだよな…………?」
「うん。 これで全員だ」
「そうか…………。 じゃあお前らはここに用はないな」
俺は一応この組織を潰すという役目があるが龍人族は関係のない話だ。 まぁ俺の最優先目標である全員の安全の確保が完了してからの話だが。
「…………? キミは何か用があったのかな?」
「まぁ、ちょっとな。 とりあえず行くか」
「う、うん」
納得はしていないようだったがとりあえずは頷いた。 極力後ろを見ないよう、そして率先して前を歩く。
「…………耳まで赤くない?」
「初心?」
「皆、少し静かにしよう。 ここは敵地だ」
くそ、集中出来ねぇ。 なんでこの人達はこんなにほのぼのしてんだろ。
「見つけたぞぉ!!!!」
「っ…………!」
案の定場所はバレていたらしい。 待ち伏せを食らった。 丁度広場に出る所だ。 格好の的だろう。
「撃てぇぇぇぇ!!!!」
「赤晶・壁」
撃ち出される弾丸を全て赤い結晶の壁で防ぐ。 すると大きな魔力の変動が視界の隅に入った。
「ライトニング」
撃ち出された雷の弾丸が超高速で赤い結晶を貫いた。 次いで俺に向かってくる。 俺は咄嗟に半身になって避けるも流石に早過ぎて頬を掠めてしまった。
「…………」
なかなか厄介なのがいるらしい。 幹部やらは大したことなかったはずだが明らかに別格も混じっている。
「ルナくん!」
「いい。 静かにしとけ」
流石に事の重大さに気付いたのかクロエ以外の全員は怯えていた。 クロエだけは冷静で助かる。
「槍って言っていたな。 どんな形状だ?」
「え?」
「形。 どんなのが使いやすい?」
「えっと、細くて軽いものだな。 思い切り振り回せるような」
アバウトな説明だ。 まぁそこまで気にしないという事だろう。
俺は精製魔法と氷魔法を組み合わせた俺特製の槍を創り出す。 出来るだけ細く、そして先を鋭くすることで本来の槍より軽く、更には硬いものになっているはずだ。
「こんなのでいいか?」
「せ、精製魔法まで使えたのか」
「あぁ。 セブンスアビス並みの強さがあるならこれを持ってりゃ全員守れるな?」
「当然だ。 むしろお釣りが来るレベルだ」
「頼もしいな。 じゃあ俺は突っ込むから」
これで背後は気にせず突っ込める。 俺は赤い結晶の壁を解くと同時に飛び込んだ。 銃弾の嵐で後ろまで軌道がいくものを斬り裂きながら正面の敵をなぎ倒していく。
「風殺剣・舞風」
黒い風が激しく刀を纏い、振るう度に大きな衝撃波が襲ってきて周囲の敵を吹き飛ばす。 本来なら弓矢や銃弾の軌道をズラす防御的な使い方なのだが今回は雑魚なのでこれで充分だった。
「ライトニング」
再び撃ち出される雷の銃弾。 俺はそれを紙一重で避けながら左側の敵をどんどんと暴風で蹴散らしていく。
「人質だ! 人質を狙え!!!!」
敵は龍人族に銃口を向け始めた。 本当に、最低のクズ野郎ども過ぎて容赦する気が無くなってきた。
「赤晶・離壁」
全員が引き金を引き始めた。 そのタイミングで刀を振るう。 地面を滑らすように振ったそれは前方に大きな氷を飛ばし、壁にまで達するほどに大きく伸びていく。 所謂氷を地面から張っただけだ。
突然前方が氷で塞がれた敵どもは驚きを隠せないようだ。 俺はその一瞬の隙に飛び込むと同時に峰打ちで気絶させていく。
「ライトニング」
再び、何度目かの雷の銃弾が飛んで来る。 しかもよく見るとダブルタップという妙な技術まで。
俺は…………まぁ簡単に避けれるので問題なかった。 しかし俺しか狙われないのはかなり助かるな。
「赤晶・刺」
爆発するかのような加速で持って氷を纏った刀での突きを放つ。 対象者の肩を貫き傷口を大きく凍らせる。
これでライトニングを使う野郎は終わりだ。 残りの敵は怯えたように俺を見つめる。
「ひぃ! み、見逃して––––––」
「赤晶」
命乞いを始めた野郎どもを赤い氷で凍りつかせて全員無力化した。 やはり都合が良すぎる。 命乞いをして今更助かるとでも思ってるのだろうか?
俺は刀を鞘に納めると大きく息を吐いた。 待ち伏せが多過ぎる。 正直面倒だ。
「わぁぁ! 格好良い!」
「あの人数全員倒しちゃったよ! あの子何者なの!?」
「ふふ、本当に凄い人だ。 槍を持たせてくれたり、と思ったら結局護衛させてくれただけだった。 何もしなくてもこちらに銃弾は来なかったし、流石はルナくんだ」
何やらべた褒めされた。 まぁ龍人族達の方には素直には向けないんだが。 全員裸でも気にしないのだろうか。 いや、着る服がないのでなんとも言えないのだが。
こんなことなら着替え用の服をあいつらからもらっておくべきだったか。 失敗したな。
「ま、まぁとりあえず早く行くぞ?」
「うん。 皆、行こう」
「「「「「おぉ!!!!」」」」」
うん、あんまり騒がないでくれよ?
そんな俺のツッコミも虚しく何やら和気藹々とした雰囲気で入り口まで戻って来れた。 敵がこれ以上来なかったのは恐怖心なのか嵐の前の静けさというやつなのか。
「よっと…………」
「ルナ、やっぱり無事––––––そ、その頬の傷どうしたの!?」
「け、怪我したんですか!?」
「…………平気?」
「いや、頬ちょっと掠めただけだ」
仲間に会うなり心配された。 ちょっと嬉しかったのは内緒だ。
「とりあえず龍人族は全員助けたんだが。 セリーヌ、この人数分をギルドに移動させることは出来るか?」
「…………多分魔力は持つ」
「分かった。 事情説明の為に俺も行こう。 フェシルとシルヴィアは少しここで待っててくれ」
「えぇ」
「はい」
相変わらず全員俺のやりたいこと分かってくれてるらしい。 セリーヌは早速魔法陣描いてるし。
セリーヌの移動魔法でギルドの例の一室へと移動して来る。 流石にギルドの前に全裸の龍人族を連れられない。
部屋の外からギルド員に声を掛けて事情説明を、そしてジーナを呼んできてもらった。
「これは…………お早いお仕事ぶりで」
龍人族を見ては目を大きく見開いた。 なんか早い仕事だったらしい。
「すぐに着る物をご用意致します。 それから少し話しを伺いたいのですが、よろしいですか?」
「俺達は向こうに戻る。 まだ組織一掃の途中なんでな」
「龍人族のみ助けていただいたのですか。 相変わらず、やることはほぼ不可能なことを平然とやりますね」
「そうか? まぁ出来たんだし、いいだろ? じゃあ俺達は戻るから。 セリーヌ、頼む」
「ん…………」
セリーヌが魔法陣を描き始める。 その間にジーナは龍人族用の洋服を持ってきて全員に着せる。 どうやら尻尾や翼を出す部分は穴が空いたものらしい。 当然と言えば当然か。
「ルナくん」
「ん?」
ようやくの目のやり場に安堵しているとクロエが話し掛けてくる。 そのままコートを見せてくる。
「ありがとう。 それとすまない…………尻尾はなんとかなったんだが翼のせいで…………」
俺のコートは翼によって大きく穴を空けられていた。 もうあげたようなものなので別にいいのだが。
「必ず弁償するから」
「まぁ気にしなくていいぞ。 元々俺が目のやり場に困って渡しただけだしな。 お前にやるよ」
「い、いや、しかし…………」
「別に構わん。 まだあるし」
「そ、そうか…………それと重ねて申し訳ないんだけど…………」
何やら言いにくそうにモジモジしている。 まだ何かあるのだろうか?
「キミ達は元々あの組織を潰すつもりだったのか?」
「まぁ最初からそういう依頼だったからな」
「その依頼、私にも手伝わせてもらえないだろうか? その、私もやり返しがしたいのと、キミ達に何かお礼がしたい」
お礼云々は置いといてやり返ししたいというのは気持ちは分かる。 ここは連れて行きたいところだが。
「セリーヌ、魔力は––––––」
「……平気」
言葉を被せられる。 やっぱり俺の言動は全部読まれているらしい。 魔法陣ももう描き終わっていた。
「ということらしい。 じゃあ頼むな」
「うん。 任せてくれ」
大きく胸を張る。 するとプルンッと大きく揺れた。 シルヴィアので慣れていたとはいえどうしても視線がいってしまう。
「…………」
そして恥ずかしくて視線を逸らした。 その様子を見ていたセリーヌに頬を引っ張られる。
「…………いひゃい」
「……早く行く」
頬を引っ張られながら魔法陣の上に乗せられる。 クロエも槍を強く握りしめながら魔法陣の中へと入っていく。
「じゃあジーナ、龍人族のことは頼む」
「はい。 お気を付けて行ってください」
「ん…………転移」
そのまま来た時と同様、視界は真っ白に包まれる。 俺達は砂漠へと戻って来た。
「あ、おかえりなさいませ。 クロエさんも一緒なんですか?」
「やり返しをしたいらしい。 当然といえば当然だけどな」
「それもそうね。 ルナが認めるってことは強いのよね?」
「あぁ。 なんか黒龍騎らしいし」
凄い二つ名だ。 槍を持つ姿も結構様になっている。
「手伝う以上はきちんと役に立つ。 期待していてくれ」
「あぁ、期待してる」
俺が素直に肯定すると優しく微笑まれた。 ちょっとドキッとした。 美人ってズルい。
俺達はそのまま再び中へと侵入する。 その間フェシルとシルヴィアにも頬を引っ張られたのには何か理由があったのだろうか。 そんなことを考えながら。




