真に強き龍人 三
「…………今っ!」
俺は角から飛び出した。 刀に手を掛け少し抜いた。
「っ! 何者––––––」
「遅いわ」
フェシルの銃弾が前衛2人の眉間を撃ち抜いた。 俺は倒れゆく2人の間を抜けると刀を抜いた。
一閃。 それにより3人が気を失う。 一応峰打ちだ。 でも峰打ちでもかなり痛いらしい。 骨が砕けるレベルで。
「ふぅ…………」
なんとか上手くいったらしい。 予想より気付かれるの速くてちょっと焦った。
「…………」
黒龍騎と呼ばれていた女性は目を見開く。 長い黒髪に琥珀色の鋭い目付き。 美人で綺麗な顔立ちをしていた。 全体的に色々な箇所が大きく、胸までもがシルヴィア並みだ。 長く黒い尾が自分の体に巻き付かれており、こめかみから生えた大きな黒い角が特徴的だ。 更には大きな翼が背中から生えている。 今はやる気がなさそうにしなっているが…………。
「…………身長高いな」
「え、最初の感想がそれ?」
「いや見てみろよ。 あれ絶対180はあるだろ」
俺より大きい。 というか全体的に真面目に大きい。 胸もそうだがお尻とか。 腹とか腕とか足とか全然細いのに何故だ。 しかも守るように鱗が中途半端に付いているのがエロい。
「だ、誰だ貴様は」
「あー…………警戒されちまった」
アホみたいな話ししてるからだな。 仕方ないといえば仕方ない。
「…………あのとりあえず前隠しません?」
その大きく主張して来る身体が全裸なので目のやり場に困る。 というか腕が壁に繋がれてて何も出来ないのか。 足は自由のようだが。
開きっぱなしの牢の中に入るとその鎖を刀で突いた。 最近覚えた刀の切っ先にのみ魔力を込めるやり方。 消費魔力を極力まで抑えたのだ。
ガシャン! と大きな音を立てて鎖が落ちる。 龍人はようやくの自由を少し確かめた後に思い出したように顔を真っ赤にして大事な部分を隠した。
「これどうぞ…………」
刀を鞘に納め、黒いコートを脱いで龍人に渡す。 龍人は少し躊躇った後に渋々受け取って自分の身体を隠した。 長いコートで良かった。
「すまない、助かった。 キミ達は何者だ?」
「まぁギルドからの救助依頼で来たんだが。 変な組織が龍人族を捕まえて強姦してるとかなんとか」
「…………人間も悪い奴らばかりではないのだな」
やっぱりそんな認識になるわな。 折角の和解をなんだと思ってんだか。
「私の名前はクロエ・クロシュバルツェ。 改めて助けてくれてありがとう」
「クロシュバ…………え?」
「…………クロエでいいぞ?」
本当にこの世界の名前はややこしい。 日本ですら人の名前覚えるの苦手だったってのに。
「俺は紅月 ルナ。 一応セブンスアビスだ」
「セブンスアビス!?」
「私は家臣で仲間で家族で恋人のフェシル・スペクロトゥムよ」
「同じくシルヴィア・シルフォスです」
「セリーヌ・シルシス」
「よ、よろしく頼む」
何やら若干混乱していた。 それでも気丈だからだろうか。 動揺はあまり見られない。
「おっと、こんなことしてる場合じゃないな。 早く他の龍人族も助けてねぇと」
さっき約束したしな。 急いで向かうとしよう。
よく見るとあまり龍人族はいなかった。 確か報告書には10数人とか書いていたんだが。
「…………会ったの2人だけなんだが」
「他の人は恐らく今は…………」
あー、うん。 ヤッてる最中なのね。 本当に強姦とかくだらねぇ考えだ。
先程の虚ろな瞳の龍人も助けて地下室という名の牢屋を後にする。 さて問題はここからだ。
「二手に分かれた方が効率的だな」
龍人族を護衛しながら外に出るのと龍人族を救出するのと2組。 もっと人数が欲しいな。
「私も戦力に数えてもらって構わない。 多分役に立てるはずだ」
「…………だろうな」
だって魔力がおかしい。 既に燃えたぎっているようで放出するだけで炎魔法と勘違いするレベルだ。
「…………? 分かるのか?」
「まぁそれなりに。 とりあえず分かれるか。 つってもチーム分けなんて決まってるようなもんなんだけどな」
「そうなんですか?」
「あぁ。 まぁとりあえず何が言いたいかというとだな」
全員分かっていないようだ。 というか本当に分かってねぇの?
「これは一応隠密だ。 まずはフェシル。 銃声は駄目な。 シルヴィアは隠れられるがたいじゃないだろ。 守りに長けたセリーヌは当然護衛役だ」
「…………つまり?」
「俺と、クロエだけでいいわけだ」
「「「…………」」」」
え、何その目。 というか真面目に考えたのに? すっごい怖いんですけど。 氷魔法使われているくらい冷たいんですけど。
「ルナ、胸の大きな子が好きだからってそれはないと思うわ」
「そうですよ! 胸なら私も負けてません!」
「……再編成」
何言ってんだこいつら…………。 俺が呆れ顔をしているとクロエがおずおずと手を挙げる。
「わ、私も隠れるのは無理なんだけど…………」
「もし仮に人間の俺が周りの敵瞬殺して龍人にコンタクトを取ってみろ。 どうなると思う?」
「え? うーん…………」
「怖がられて避けられて逃げられますね」
「ルナだものね」
「ん……仕方ない」
わぁ…………仲間ってこんなに冷たいもんだったんだな。 どうしよ。
「とりあえずそういうことだ。 …………なんでお前はそんなに例外なんだ?」
「私は…………ほら、まだ奪われていないからだろう」
「そういうもんなのか…………?」
俺にはよく分からないが。 普通は怖がるような…………。 虚ろな目の龍人だって未だに発言すらしねぇし。
「とりあえず早く終わらせよう。 面倒だ」
「はぁ…………仕方ないわね。 言っていることは合ってるもの…………」
「あの、ルナさん。 怪我だけはしないでくださいね?」
「気を付けて…………」
うん、こういう言葉が最初から欲しかったよ俺は。 なんであんなに罵倒されなきゃならんのか。
3人は虚ろな目の龍人を連れて来た道を戻って行った。 さて、俺達はやることをやろう。
「さて、戦力にしていいと言ったわけだが、どれくらい期待すりゃいい?」
「え? うーん…………元々槍があった方が強いと思うし…………。 あまり期待はしないでくれ」
「自分の身は自分で守れる、程度に思っていればいいか?」
「うん、それでいい」
つまりは足手まといにならない程度には自信があるわけか。 流石は龍人族。 全種族の中で1番力が強いと言われるわけだ。
「じゃあお前なんで捕まったんだ…………?」
「その…………仲間を人質に取られて…………」
あぁ、そういうことか。 なんとも卑怯な手段を使うものだ。 いや、そもそも強姦するような連中だ。 そうなっちまうか。
「キミはセブンスアビスなんだろう? どうしてそんなに優しいんだ?」
「それセブンスアビスってことと関係あるのか? いや、そもそも優しいとも思ってないんだが」
「天然ジゴロか?」
なんでみんなそんな感想なんだよ。 初対面でもジゴロ扱い。 しかも天然って…………。
「違う。 それよりもお前はこの辺りに詳しいのか?」
「いや、詳しくはないけど…………」
「そうか。 ならまた人に聞くか」
「え?」
曲がり角から集団の気配。 俺は刀を抜きながら体勢を低く、一気に走る。
「侵入者なんて全然いな––––––」
何やら間抜けな勘違いをしている先頭の男の首を刀で斬り上げる。 もちろんこれも峰打ち。
更に間髪入れずにその右隣にいた男の腹部に刀で殴りつけ、半回転しながら左隣の男の腹部にも刀で殴りつけた。
「な、何も––––––」
その驚きは一瞬の間が生まれる。 その間に腰から鞘を外して頬を殴り付ける。
「赤晶」
更には俺の周囲に赤い氷の結晶が発生し、全員を氷の世界へと閉じ込めた。 シルヴィアから教わったセブンスアビスではない、俺の力だ。
「つ、冷てぇ!」
もちろん1人はきちんと上半身までを凍らせた。 首から上は凍らせていない。
「お前に聞きたいことがあんだけど」
「冷たてぇ! 助けてくれぇ! 誰か助けてぇ!」
「静かに人の話を聞け」
その頭を鞘で叩いた。 かなり痛いだろう。 特に気絶させないよう加減をした辺りがな。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!! 殺されるぅ!!!!」
「紅月くん! 大丈……ぶだな。 それで何してるんだそれは…………?」
「いや、こうして情報喋らせた方が早いだろ?」
「そ、そうだな…………」
何やら結構ドン引きされた。 まぁ別にいいんだが…………。 普段から割とあるし。 あいつら今思ったら容赦とか全くなかったもんな。
自然と溜息を吐いてしまう。 というか俺が吐くんじゃなくてこいつに吐いてもらわないと困るんだがな。
「うぅ…………俺をどうする気だよぉ!」
「お前が質問出来る立場か?」
「ひぃぃぃぃ!!!! た、助けでぇ! お願いだよぉ!!!!」
「「…………」」
男はまさかの号泣しながらクロエに懇願し始めた。 いや、お前プライドとかないのかよ。
そもそも龍人族を散々やったというのに自分の時は助けて欲しいとか都合良すぎるだろ。
「…………こいつ使えねぇな」
鞘で頬を殴りつける。 しかしその痛みではなく恐怖に負けて口から泡を吹きながら気絶してしまった。 もうどうでもいいや。
「クロエ、行くぞ?」
「あ、うん。 …………実は容赦がない人なのかな」
聞こえてる。 聞こえてますよその独り言。 あと俺は敵には容赦しない。 この世界初日から天使で学んだ。
俺は深く溜息を吐きながら先の長そうな展開に遠い目をした。




