白銀のエルフ 二
「…………シルヴィア」
「はい、何でしょう?」
「…………尻尾」
「ふふ、はいどうぞ」
ベッドの上でセリーヌがシルヴィアの尻尾を抱きしめたり頬擦りしたりと気持ち良さそうにしている。
元々面倒見の良いシルヴィアだ。 セリーヌのことも可愛い妹程度に思っているのだろう。 喜んで尻尾を触らせている。
「ルナ、寂しい?」
「え? いや、なんで?」
その様子をソファからじっと見ているとフェシルが俺の隣に座る。
「いえ、シルヴィアの尻尾。 ルナのお気に入りだったでしょう?」
「まぁそうなんだがな。 あの表情見てみ」
セリーヌは気持ち良さそうに頬擦り中。 無表情が崩れて可愛らしい笑みを浮かべていた。
「…………邪魔出来ないわね」
「だろ? それに俺が気に入ってるだけで元々シルヴィアのものだ。 どう使おうとあいつの勝手だろ」
「ふふ、そうね。 寂しいなら私が慰めてあげるわよ?」
「…………お願いします」
フェシルが俺をゆっくりと抱きしめると俺の顔に胸を押し付けてくる。 いや、この体勢はおかしい。
「フェシルさん?」
「何?」
うわー、すっごい笑顔…………。 なんでこんなに嬉しそうなの?
「なんでもないです」
「そう。 ふふ、気持ち良い?」
「凄く」
「良かった…………」
そう言って頭を撫でてくる。 何この人。 母性半端ないんですけど!
しばらくの間フェシルに甘えていると瞼が重くなってきた。 流石に徹夜明けにこの気持ち良さは反則だ。
「眠い? ならこのまま寝ちゃう?」
「それはフェシルに悪いだろ」
「私はこのままの方がいいわよ? 私も気持ち良いし嬉しいもの」
そういうことを言われると更に甘えたくなってしまう。 重くなる瞼に耐えていると何故か掛け布団のようにふんわりと尻尾が乗せられた。
「尻尾も沢山ありますのでこのまま寝ますか?」
「…………」
見るとシルヴィアもこっちに寄ってきていた。 相変わらず尾の1本がセリーヌに独占されていたがその他の尾は俺の自由にしていいという。
「いや、流石に寝るなら全員一緒にな? お前らも眠いだろ?」
「「いえ、全然」」
え、というかなんでそんなに平気そうなんだ? 徹夜に慣れすぎだろ。 俺も結構人のこと言えないんだが。
「ルナさんの寝顔を見ているだけで癒されますし」
「そうよね。 それと眠いのを天秤に掛けたら間違いなくルナの寝顔に傾くもの」
「いや…………とりあえずベッドに移動しないか?」
「ルナがそういうならいいわよ」
ようやくフェシルから解放される。 若干残念だとか胸にもっと触れたいとか思ってない。 うん、思ってない。 本当に。 絶対に。
「…………何なら生で触ってもいいわよ?」
「遠慮しとく。 止まらなくなりそうだし」
俺達はそのままベッドへと移動する。 俺をフェシルとシルヴィアが挟んでシルヴィアの横にセリーヌが陣取っていた。 ベッドでかくて良かったな本当に。
「ふぁ、せ、セリーヌさん、くすぐったいです」
「…………ごめん」
「いえ、いいですけど。 あの、あまりお尻の方は触らないでくださいね? 変な声が出ちゃいますので」
もっと触れ! とか思ってしまった。 本格的に頭が働かなくなっているな…………。 大丈夫か俺。
「あの…………ルナさんなら幾らでも触っていただいて大丈夫ですよ?」
「いい。 寝る」
「なんだか反応が冷たかったです!?」
いや、まともに反応したら襲い掛かりそうだったし。 セリーヌの前でそれは駄目だろ。 ロリコンの相手を長年してたんだぞ。 最後の一線は守りきっていたみたいだが。
「ルナ何してるのよ。 めっ、よ?」
なんだよ、めって。 めちゃくちゃ可愛いなおい。
「最近相手をしてもらえていないから溜まってるのよ。 ルナもでしょう?」
「セリーヌの前で何言ってんだお前は…………」
「そ、そうですよね。 セリーヌさんはそういう……夜の営みは見たくないですよね?」
「ん…………?」
本人全く分かってないぞ!? こ、これは本当に大丈夫か。 実年齢と精神年齢が合ってないから性知識が皆無とか?
「…………エッチするなら出ていく」
「い、いえ! そういうことではないですから!」
「…………混ざらないと駄目?」
「いや、混ざるという問題じゃないわよ」
なんかすっごい知識持ってないか? 実は変態に色々仕込まれてかなりの知識量を持ってるとか。
「…………私まだ処女」
「落ち着け」
流石にこれ以上は駄目だ。 俺はセリーヌに軽くデコピンをしてやる。
「痛い…………」
「変なこと言うからだ」
俺がお仕置きしてやると無表情で見つめてきた。 さっきまでの機嫌の良さは何処に行ったのやら。 俺のせいか。
「…………何故襲わない?」
「え?」
「…………美人2人を手篭めにしたら普通はそうなる」
「ルナさんは紳士ですから」
「ヘタレとも言うわね」
「褒めてんの? 貶してんの? どっちだ?」
これはあれだな。 よく言えばポジティブで悪く言えば馬鹿というあのパターンのやつだ。 受け取り手がどう取るかによるあれだな。 俺にはどうしようもねぇ。
「…………ヘタレ紳士?」
「いや、繋げんなよ」
なんだよヘタレ紳士って。 変態紳士の仲間か? 嫌だぞそんなレッテル。
「…………2人は好きなの?」
「ルナのこと? 大好きよ」
「はい、大好きです。 もうこの方がいないと生きていけないくらいに」
「そ、そうか…………」
いきなり照れることを言わないで欲しい。 フェシルの優しげに微笑む表情にもシルヴィアも本心だと伝わるくらいの真剣さも心臓に悪過ぎる。 心臓の鼓動が早く、逆に目が冴えてくる。
「…………優しいから?」
「もちろん優しいところもだけれど。 意外と泣き虫で、甘えん坊で」
「普段は可愛らしいですよ。 でも戦闘中は物凄く格好良くなります」
「あの、もうやめてくれませんか?」
もう聞いてて恥ずかしい。 顔が熱くなってきた。
「…………顔真っ赤」
「も、もういいんだよ俺のことは。 それよりセリーヌのことを聞きたいんだが?」
無理やり話題を変えたかったのだがそういうわけには行かないらしい。 2人はニヤニヤしてるしセリーヌももっと聞きたそうだ。
「…………本当にセブンスアビス?」
「え?」
「…………王様っぽくない」
お、おう…………そんなはっきり言われても困るな。 でも実際に俺はやりたいことをやってるだけだしな。 何とも言えん。
「それがルナさんの良いところですよ」
「そうね。 王としての義務と責務は背負った癖に自分に都合の良いところは全て捨て去った、というのが正しいかしら?」
「何かを強要したりしませんもんね。 それにわたくし達を下に見たこともないと思います」
「いざという時頼りになるし、頭も良いし、それに格好良いものね」
「稀に見せる可愛い表情も魅力的です。 はにかんだような微笑みがわたくしは1番だと思います」
「そう? 寝顔も素敵よ?」
「うぅ、確かに寝顔も…………で、ですけどやはり微笑んだ時は素敵じゃないですか?」
「それは認めるけれど…………私はやっぱり寝顔の方が良いわ」
お前らもうやめてくれよ…………。 今顔絶対真っ赤だぞ。 耳まで熱いもん。
「…………とりあえず素敵な男の子?」
「はい、その認識で問題ないと思います」
「異議なしよ」
「いや、俺はありまくりなんだが…………」
なんであんなべた褒めされたんだよ…………。 俺はそこまで良い人間でも善人でもない。
「ん…………確かに優しかった」
「え? 俺なんかしたっけ?」
「…………気遣い」
そんなことしたっけ? いや、全然してないよな。 …………気付かない間に何かやらかしたか?
嫌がられたので頭も撫でてないし、もちろん着替えも覗いていない。 ということはあのやりとりの中に何かが…………。
「ルナ、そんなに悩むことじゃないわよ?」
「そうですよ。 ルナさんは普段通り接しただけですもんね?」
「…………問題ない」
「いや、そ、そうなのか? まぁ不快にさせたんじゃないならいいんだが」
よかった。 やらかしたわけではないようだ。 何をしたのかはよく分からないが。
「…………天然?」
「いえ、これが素なんだと思います」
「天然よ。 天然のジゴロよ」
「なるほど。 確かにその通りだと思います」
いや、なんで勝手に人を天然ジゴロにしてんだ。 別にジゴロじゃないし。 天然なのは…………たまに言われるけど。
「…………良い人?」
「最高に良い人よ」
「これ以上ないくらい良い人だと思います」
「お前らそろそろその辺にしてくれ…………。 恥ずかしすぎて全く眠れん」
流石にそろそろ寝たい。 というか色々限界だ。 あちこち柔らかいしふさふさだしふよふよだしボヨンボヨンだし。
「ふふ、それじゃあ早く寝ましょうか」
「そうですね。 セリーヌさんもどうですか?」
「…………じゃあそうする」
俺達は全員一斉に目を閉じた。 セリーヌは先程まで寝ていたわけで。 本当に眠れるのか?
そんなことを考えながらも俺の意識は闇の中へと落ちていった。




