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セブンスアビス  作者: レイタイ
出会い編
23/90

迷宮区『炎の塔』 終

「水氷剣」


 氷と水を纏った刀を振ると炎魔はひらりとかわして真っ直ぐにシルヴィアに向かっていく。


「アクアブレイズ!」


 しかし横から銃口を向けたフェシルの銃弾がそれを遮った。 その間にシルヴィアの両腕突き出して青い魔法陣を展開する。


「アクアブラスト!」


 例えるなら水のビームだろうか。 直径3m程の鉄をも砕きそうな勢いで発射される。


「グォォォォ!!!!」


 それに呑まれた炎魔が苦しみで叫ぶ。 しかし周囲の炎がその水を蒸発させ、大量の水蒸気の煙となってその姿を隠してしまう。


「フェシル! シルヴィア!」

「私は大丈夫よ!」

「私も平気です!」


 全員無事。 となると奴は何処に行ったのか。 そんなことは決まっている。


「ちっ…………」


 俺は舌打ちをしながら一気に煙の中を駆け抜けた。 向かうは気に入らない全員の元へだ。


「グォォォォ!!!!」

「ひぃ!」

「こ、こっち来るな!」

「わぁぁぁぁ!!!!」


 当然人数の多い方に行くだろう。 というか本当に役に立たないなこいつら…………。

 雷が纏った足で一瞬にして追いつくと氷と水を纏った刀を振るう。 炎魔は足から炎を噴射し、走る勢いを殺すとともにバックステップしていく。 俺の刀は虚空を斬り裂いた。


「水氷剣・孤月」


 更に氷を纏わせ、刀の間合いを増やすと共に横に振りぬく。 バックステップ途中の炎魔に避ける術はない。


「グォォォォ!!」


 しかし防ぐことは出来る。 爆発魔法並みの火力で手元からいきなり炎が噴き出し、俺の刀を押し返した。


「ぐっ…………!」


 同時に俺にも炎が襲って来る。 咄嗟に距離を開けるも少し右腕を火傷した。


「アイシクル」


 フェシルのスナイパーライフルから発射された氷を纏った銃弾が炎魔の頭部を貫いた。 俺の攻撃を見て氷も通用するというのが分かったのだろう。

 魔法というのは基本的に属性の概念はあれど弱点の概念は少ない傾向にあるのかもしれない。 炎の塊である炎魔に魔法による氷が通用ことからそう仮定出来る。 本来なら相性は最悪だろうに。


「グォォ!!」


 頭部を貫かれたにも関わらず、炎魔は倒れる直前で一歩耐えやがった。 最初にシルヴィアの魔法も食らっている。 どうなってやがんだこいつの耐久力。


「水氷剣」


 足と腕に雷を纏わせ、更には同時に刀に氷と水を纏わせる。 超高速の剣技で炎魔の全身を斬り刻む。


「ダメージは通ってるんだがな」


 シルヴィアとフェシルの攻撃により確かに弱っている。 現にこうして俺の刀全てが当たっているわけだ。

 だがそれでも炎魔は倒れない。 化け物レベルの耐久力だ。


「グォォォォ!!!!」

「うぉ……!」


 突然炎魔の火力が上がる。 再び刀が押し返される。 しかし今度は俺も引く気はない。


「水氷剣・刺氷」


 突き攻撃といえば弱々しく思えるがそれを遥かに超えた槍と同程度の突き。 氷を纏ったそれは炎魔の左肩に風穴を空ける。


「水氷剣・孤月」


 更に刀の向きを縦から横に変え、右肩までを斬り裂く。 更に刀を逆手に持ち変え、大きく身体を捻る。


「氷風剣・降」


 首元から脇下までを一気に斬り裂く。 ズルズルと身体が崩れ、炎魔がバラバラとなって倒れる。


「グォ…………」

「…………水氷剣・追蓮」


 俺は刀の切っ先を下に向けると炎魔の頭部に突き刺す。 そこから氷が発生し蓮の花のように広がる。

 刀から手を離すと魔力に還元され、黒い粒子となって消え去った。 精製魔法というのは便利なものだと勝手に感心した。


「はぁ…………」

「流石ルナね」

「本当です。 物凄く差を感じます…………」


 パキパキっと音を立て、蓮の花が散った。 炎魔も既に跡形も残っておらず、周囲の炎も赤い魔力の粒子となって霧散していく。


「わぁぁ……綺麗です…………」

「そうね。 しかもその真ん中を歩くルナ…………」

「か、格好良いですね…………」


 何やら2人が頬を染めていた。 まぁ俺の知ったことでもないのだが。 どうせまたエロい話でもしてんだろ、多分。


「今回は面倒な相手だったな」

「そうね。 腕、平気?」

「あぁ、多少焼けた程度だ」

「は、早く手当てしましょう!」


 シルヴィアが鞄からせっせと救急箱を取り出して俺の腕の治療をしてくれる。 巻かれた包帯が何故かしっくりくる。


「なんでしょう、まるで違和感を感じないのよね…………」

「俺も同じことを思ったんだが…………」

「ルナさん、よく右腕を怪我されますから」


 そうですよね。 といっても俺は左利きなので問題はない。 いや、オーレリアもハグロウも右利きだしもう両利きみたいなものだが。


「まぁとにかくありがとな」

「はい! で、ですが気を付けてくださいね? ルナさんが怪我ばかりですと嫌です…………」

「そうよ。 いつも最前線で1番危険な立ち位置なのだから気を付けるのよ?」

「注意してどうにかなるもんなのか…………?」


 俺だって別に怪我をしたくてしてるわけではない。 そうなってしまったというだけで基本無傷で敵は殺したいものだ。


「とりあえず今日はここまででしょうか?」

「…………そうみたいだな」


 皆一様に震えていた。 いきなりあんなのと出くわせばそうなるのも必然だろう。 そもそもこの攻略自体がなくなるレベルだ。


「情けない連中よね」


 フェシルは辛辣だ。 まぁ俺も気に食わない連中なので反論はしない。 シルヴィアを馬鹿にしたのはまだ許せん。


「ルナさんもフェシルさんも辛辣ですね…………。 でも私の事を想ってくれていて嬉しいです」

「そりゃあ…………」

「大事な仲間だものね」

「はい」


 シルヴィアが微笑む。 俺達は頬を少し染めながら照れ笑いを浮かべる。


「あの、大事な話をしてるんだ。 そこで桃色空間を出さないでもらえるか?」


 そしておっさんに注意されると。 しかしこれに関しては思うことがあったのかシルヴィアか反論する。


「恐怖する気持ちも分かりますが、それはあなた方の経験が足りないからではないですか?」

「だからそれを複数で補って––––––」

「ですが私達がいなければ全滅でしたよね?」


 あぁ、そういうことか。 シルヴィアは相変わらず優しいな。 フェシルもシルヴィアの意図に気付いて少し微笑んだ。


「そ、それは…………」


 おっさんは言葉に詰まらせる。 シルヴィアは真剣な眼差しで、それでいて淡々と告げる。


「この攻略、やめた方が良いかと思います」

「なっ!? 何故だ!? キミ達もいるんだ、勝てないわけが––––––」

「その他力本願はあまり良くないと思います。 もちろんそれ自体は悪いことではないと思いますが、それでもあなた方は一生わたくし達に頼って生きていくつもりですか?」


 こちらをアテにしているのは重々分かっている。 だがそれでも甘えて来られるのは腹が立つ。 特にこいつはシルヴィアを馬鹿にしておきながらそれをしているので余計にタチが悪い。


「それに、わたくし達にも限界はあります。 先程の炎魔が2体現れた場合、勝てはしますがあなた方を守れる余裕はありません」


 つまりはそういうことだ。 シルヴィアはこの攻略自体が力不足の集まりなので無理だと言っている。 というか事実なので反論のしようもないだろう。


「なっ!? そこまで強くなっていてそんなに厳しいものなのか!? キミ達なら余裕で––––––」


 え? こいつマジで言ってんの? 他力本願どころの騒ぎじゃないんじゃないか?


「…………やはりあなたはリーダーには向いていないです」

「はぁ!?」

「リーダーとは常に皆の中心にいて…………仲間想いで優しくて。 そして何よりも強くいなければなりません」

「た、確かに俺は弱いがそれでも–––––」

「いえ、あなたは弱いです。 実力もそうですが、何よりも心が弱いと思います」


 わぁ…………辛辣。 というかシルヴィアが怒ってる。 静かに怒ってる。 何やら本能的に恐怖を感じるのは気のせいか?

 普段温厚な人物が怒ると怖いとよく聞く。 実際目の当たりにしてそれがよく分かった。 フェシルも少し苦笑いを零す。


「ルナさんが気に食わないと言った理由がよく分かりました。 あなた方は努力をすることを怠って、ただ群れているだけなんです」

「お、おう…………」

「はっきり言ってのけたわね…………」


 そこからは一方的にシルヴィアのお説教が始まった。 時間にして1時間ほど。 その間に現れた魔物はとりあえず俺達の方で殺しておいたが全く気にした様子はなく説教が続く。 怖い。


「ですからあなた方は駄目なんです」

「すいません…………生まれてきてすいません…………生きててすいません…………」

「心をボロボロにしたぞ…………」

「ネガティヴどころの騒ぎじゃないわね…………」


 それからは満場一致で撤退することになった。 俺はもう少し先に進みたかったのだが、戦力的にあんな化け物がいるのならもう少し後でも良いか。 もう少し使える攻略組か、それとも頼りになる大事な仲間を増やすべきだろう。


「シルヴィア、お疲れ」

「はい。 あ、すいませんでした長々と護衛させてしまって」

「いや、お前もずっと警戒してたろ? 時折こっち見て魔法撃とうとしてたし」

「本当に器用よね…………」


 シルヴィアは基本他力本願ではない。 というか俺の仲間にそんな奴はいない。 …………いや、自分でなんとかして来た過去があるからか。

 それでもそばにいたいと思ってくれる。 俺もそう思える。 だからこの関係を、きっと仲間と呼ぶのだろう。

 お互い足りないところは補い合う。 しかしその弱点を克服する努力は怠らない。 俺達が互いに互いを教えあっているのにはそういう意味があるのだろう。


「さて、帰るか」

「ときちんと締めくくれれば良かったのだけれど。 本当に良いの?」

「え? 何がだ?」

「刀」


 フェシルが指差した。 へし折れた刀の残骸を。


「…………めちゃくちゃ怒られる未来しか見えない」

「あはは…………」


 シルヴィアが乾いた笑みを零す。 フェシルも微妙な表情だ。

 帰りたいのに帰りたくない。 というか刀の報告をしたくない。 そんなことを思いながら刀の残骸を拾ってトボトボと歩いた。

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