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セブンスアビス  作者: レイタイ
出会い編
17/90

優しき九尾の女性 終

 俺達は現在方向を変えて歩いている。 案内はシルヴィアに任せている。 何故そうなったのか、それは俺のこの発言が原因だ。


「本当に生命の泉の秘薬が必要なのか?」


 もし仮にシルヴィアを1人で行かせることが目的だとすれば秘薬は必要なくなる。 そうなった場合全くの無駄足となってしまうのだ。

 当然困っている獣人族がいるのならば手を貸すつもりだ。 もちろんその人物がシルヴィアに敵対していないことが第一条件ではあるが。


「本来は秘密の場所ですから誰にも言わないでくださいね?」


 その本来秘密の場所をあっさりと教える辺り、俺達よりシルヴィアがうっかり口を滑らせそう。 というツッコミは言わないことにした。 ただの優しさだ。

 ということで少し戻って草原のとある場所。 ガサリと音がしたかと思った瞬間、地面がめくれて空洞を発見した。


「ここから少し行った所です。 実は森に出るんですよ?」

「へぇ…………」


 それは初耳だ。 いや、そもそも獣人族の仲間自体初めてなのだ。 今まで誰も興味なさそうだったというのが本音だったのだろう。 オーレリアですら獣人族に対して可もなく不可もなくといった感じだった。 これがこの世界での獣人の扱いらしい。

 俺がこの世界の獣人族事情を変えよう、だなんて思ってはいない。 しかし全国の男達はまずは思い知るべきだろう。 耳と尻尾がどういう存在かを!


「ルナ?」

「え? な、なんだ?」


 フェシルがジト目で見てきた。 もしかして考えてることバレてる?


「気持ちは分かるけれどあまり変なことを考えたら…………分かっているわよね?」

「え、マジで俺の考えてること分かってんのか?」

「ルナは優しいし紳士だけれど単純だもの」


 そうだったのか。 さらっと褒められたのは嬉しいけど。

 それから少し暗い道を歩いていくと明かりが見えてくる。 本当に森に出たみたいだ。


「「「「「何者だ!」」」」」


 同時に様々な獣人族に囲まれた。 全員が槍を持っており、その先端を何の躊躇いもなく向けてくる。

 シルヴィアは慌てた様子で俺の腕に抱きついてくる。 右側は腕が少し痛いのだが。


「シルヴィア・シルフォス? 貴様、何故人間を連れている!」


 代表をして正面に立っていた兎耳の女が話し掛けてくる。 しかしその表情は険しく、そして敵対しているかのようだ。 いや、決めつけるのは早計か。


「お前、シルヴィアの知り合いか?」

「人間に話すことなどない」

「そうかよ」


 俺は超高速で動くと全員の槍を回収した。 こんなもんがあったら話すら出来ない。


「なっ!?」

「で? まともに話を聞く気あるか?」


 炎の魔法で槍を灰へと変えていく。 先端の金属すら溶かすほどの熱に全員が驚いた。

 俺も一応はシルヴィアに魔法の訓練をつけてもらっている。 このくらい出来て当然だ。


「ルナ、こいつら全員殺ってもいいの?」

「え?」


 シルヴィアは銃を取り出したフェシルに驚いたように目を見開いた。 やっぱりあんまり良くはないんだろうな。


「シルヴィアが悲しむからそれはやめような」

「そう…………なら仕方ないわね」


 フェシルは大人しく銃をホルスターに戻す。


「ルナさん…………」


 シルヴィアから熱い視線を向けられる。 うん、俺も下手すりゃ殺りかねなかったのでその視線は今はちょっと心苦しい。


「俺達の目的は決まってんだよ。 お前達に手を挙げることもなければ目的さえ達成すればそのまま出ていく。 で、お前はシルヴィアのことを知ってんのか?」

「あ、ああ…………この村に住んでいて知らない人物はいないと思うが…………」

「ふーん…………で? お前らはこいつに関して、どう思ってんだよ?」

「「「「「………………」」」」」」


 その沈黙に答えは出たようなものだ。 シルヴィアが少し泣きそうになったので頭を撫でてやる。


「ふふ…………」


 すると気持ち良さそうに目を閉じた。 うん、ちょっと単純すぎない?


「ルナさん♪ ちゅー…………」


 そのまま頬にキスされる。 いや、やり過ぎだから。 というかこいつもまた随分とエロくなったなおい。


「あ、シルヴィアずるいわよ!」

「ふぇ!? す、すいません!?」

「あの、俺を挟んで言い合うのやめてもらえる?」


 なんでいつも俺を挟むんだ。 勝手にしててくれよ。


「ルナが真ん中に決まっているでしょう? どうやって私達2人が同時に抱きつけるのよ」

「そうですよ。 ルナさんは絶対に真ん中です」

「ああ、そう…………」


 突如として始まった桃色空間に全員が面食らっていた。 まぁそうだろうな。 以前までは幸薄そうな表情しか見せなかったシルヴィアが今はこうして様々な表情を見せているのだから。


「ま、まぁとりあえずお前らの1番偉いのに会わせろ」

「っ! 長老に何する気だ!」

「ちょっと質問するだけだろうが…………」


 何故こうも面倒なのか。 シルヴィアを見習えよ。 今もこうしてふわふわむにむにぼよんぼよんの胸を押し付けて幸せそうに頬を緩ませている彼女を。

 いや、うーん…………俺今結構真剣に来たつもりだったんだよ? なんでこんなにくっつかれてんの?


「お前らもちょい離れろ。 ほら、後で相手してやるから。 な?」

「…………仕方ないわね。 でもその…………後でね?」

「そ、そうですか…………あの、後でその、いっぱい可愛がってくださいね?」


 2人して上目遣い。 そんなことされたら断れないよな…………。


「はぁ…………分かった分かった」

「っ! やっとルナが乗ってくれたわ!」

「やりましたね!」


 2人してハイタッチ。 仲良いのか悪いのかよく分からんなこいつら。


「ほれ、いいから案内しろって」

「き、貴様を信用しろというのか!? そもそも何者なんだ!?」

「あー、名前は紅月 ルナだ。 セブンスアビス」

「せ、セブンスアビス!?」


 案の定驚かれる。 しかしこいつら本当に気に食わないから早く通してくれねぇかな…………。 ちょっとイライラしてきた。


「いいからとっとと案内。 別に何もしねぇよ」

「は、はい…………」


 睨んでやるとあまりの恐怖に頷かれてしまう。 そこまで殺気は出していないのだが。

 兎耳の女の案内の元、長老と呼ばれる1m程の小さい白髪に白い髭のジジイに会う。 いかにも長老だ。 どの獣と混ざっているのか不明だが。

 兎耳の女は長老に何やら耳打ちをする。 俺の素性でもバラしているのだろう。


「セブンスアビス…………なのかの?」

「まぁな。 つってもあんまり長い話でもなければそこまで興味もないことなんだがな」

「…………何用じゃ?」


 そこには警戒の色が見て取れる。 しかしシルヴィアがいるお陰か話はまともに聞いてくれるだろう。


「生命の泉の件だ。 こいつを1人で行かせた理由を聞きたい」

「それは…………」


 答えようとはしない。 シルヴィアが悲しむからそういうのはやめてもらいたいものだ。


「別に返答次第で何かするってわけじゃねぇよ」

「…………本当かの?」


 伺うような視線。 男にやられると腹立つんだが。


「あぁ」

「…………わし達にとってシルヴィア・シルフォスは脅威じゃ。 彼女が牙を向けばわし達はすぐに全滅するじゃろう」


 はっきりと告げられたその言葉にシルヴィアが涙を流す。 俺はそんなシルヴィアを優しく抱きしめながら小さく笑みを作る。


「ならこいつは俺が貰っても問題はないわけだ」

「なっ!?」

「脅威だから1人で生命の泉へ行かせた。 あわよくばそのまま死んでくれとでも思ってたんだろ? なら俺が貰っても何も問題はねぇだろ」


 その場の全員が言葉を詰まらせる。 俺の要件はこれでいい。 これ以上はここにいるだけ無駄だ。


「俺の要件はそれだけだ。 生命の泉に行く必要性がないならそれでいい」

「ま、待ってくれ!」

「…………なんだよ」


 未だに話を続けて引き留めようとするジジイにイラっとくる。 フェシルも同じ思いなのか手を下げていつでも銃を取れるようにしていた。


「何故シルヴィア・シルフォスを…………」

「…………お前らにとっての脅威が、俺達にとっての恐怖だと思うなよ?」


 全員を強く睨み付ける。セブンスアビスとなってしまったが普段はあまり殺意を向けたくはない。 だが俺にだって守りたいものも、そして人を選ぶことだってする。

 俺のことを善人だと言ってくれる人は俺の周りにいる。 しかし俺はそうは思わない。 だからこそこうして遠慮なく殺意を向けられる。


「少なくとも俺にとってシルヴィアは大事な仲間だ。 俺はお前らの命なんかより仲間を優先する」


 全員の顔を睥睨する。 一様に怯えた雰囲気で俺から一歩下がる。


「シルヴィア…………」

「はい…………」

「ごめんな。 辛い思いをさせて…………」

「いえ…………お陰で私も決心が出来ましたから…………」


 そう言って顔を上げたシルヴィアは微笑んでいた。 目尻に涙を溜めながらも微笑む姿にドキリとする。


「お前は強いな」

「そうね。 本当に凄いと思うわ」


 フェシルも慰めるようにシルヴィアに後ろから抱きつく。 シルヴィアは本当に心から笑みを浮かべていた。


「じゃあな。 もう2度と会いにくることはねぇよ」

「そ、そうじゃろうな…………」


 再度睨んで、そして最後に置き土産にと精一杯の殺意を向ける。 その様子を見た2人さえも少し怯えた様子だ。


「さぁ、こんなとこさっさと出るぞ」

「は、はい」

「え、ええ」


 俺は2人を連れて来た道を戻って行く。 シルヴィアは本当に決心をしたようで振り返ることはなかった。

 草原の心地良い風が頬を撫でる。 シルヴィアの様子を伺うと少し悲しげに俯いていた。


「…………さて。 やることは無くなっちまったし、さっきの約束通りにするか」

「え? や、約束、ですか?」

「ほら、後でいっぱい可愛がるってやつ」


 目をパチクリとさせたシルヴィア。 フェシルも優しげに微笑んでいる。 俺の意図も当然分かっているのだろう。


「あ、あれは冗談だったのでは…………」

「冗談だろうと約束は約束だ。 ここから街はちょい遠いしな…………。 テントの中になっちまうけど」

「っ…………! ルナさん!」


 シルヴィアが飛び込んでくるのを受け止める。 フェシルもついでにと腕に抱きついてくる。

 何にせよ、シルヴィアが笑ってくれるなら俺はそれでいい。

 彼女はただひたすらに優しく、そして強い女性だ。 9本の尾を自在に操り、頭に生えた狐耳が愛らしい。

 強いが故に優しい彼女が2度と悲しまない為に必要なものとはなんだろうか。 俺は多分、彼女のそばにいることなのだと、そう思いながら優しく彼女を包み込んだ。

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