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セブンスアビス  作者: レイタイ
出会い編
12/90

優しき九尾の女性 一

「ふふ…………」

「…………」

「…………」


 傷も癒えてきて(フェシルにはまだ無理はしないよう止められている)とりあえずは刀の感想を伝える為にと鍛冶屋に来ていた。

 しかし宿からここまで。 いや、今日1日中俺の左腕にくっついて離れないフェシルを見た鍛冶師はギロリと睨んでくる。


「何故こうなっている」

「いや、俺に聞かれても」

「私が作った剣と刀だぞ!? へし折るなんてどんな無茶したんだ!」

「あ、そっちか」


 どうやら剣や刀がへし折られたことに対して怒っているらしい。 フェシルに対してはノータッチですか。


「ふん。 キミが誰をたらし込もうと私の知ったことではない。 だが部屋の温度が上がるから他所でやりたまえ」

「いや、ここ充分暑いからな?」


 石窯のせいだろう。 物凄く気温が高いのだ。

 フェシルも少し汗ばんでおり、良い匂いがするから止めてもらえないだろうか。


「それで? 刀はどうだった?」

「軽いし切れ味は良いしで良かったぞ。 まぁ問題は耐久度がな…………」

「いや、そこに関しては全く問題視していなかったよ。 なんたって普段の剣と同じ強度だからな。 …………その剣の方も折れたわけだがな」


 また睨まれちまったよ。 でも刀は俺のせいでも剣は俺のせいじゃないからな?


「実は神と一戦交えてな。 その時に両方折れちまった」

「ほう、神と? どのように」

「剣の方は高速の剣を受けた瞬間へし折られたな。 刀は俺の剣技に耐え切れずにポッキリいっちまった」

「…………ほう? つまり刀はキミのせいなわけだな?」

「へ?」


 ジワジワとにじり寄ってくる鍛冶師。 怖いよ。 怖い怖い。

 子供みたいな格好なのに雰囲気は目の前にライオンがいるみたいなんですけど。 もちろん檻なんてなしのやつ!


「まぁ試作品段階だ。 それに私の技術がまだまだだったというわけだろう」

「いや、そんなことはないと思うぞ? 相手が神だったからで、天使とかは余裕だったぞ?」

「ほう? ではキミは私の技術は神に劣ると言いたいのか?」


 いや、実際そういう人間の方が多いんじゃないんですか? 俺なんで怒られてんの?


「あんた、さっきから聞いてれば随分と勝手なことを言うのね。 ルナの何が悪いっていうのよ」

「キミには何も言っていない。 痴女は引っ込んでいろ」

「痴女ですって? 私がルナ以外に好きになる男なんていないわよ!」

「充分痴女じゃないか! もうその男に股でも開いたんだろ!」

「なっ!? あんたいきなり何言ってんのよ!」


 あのー…………俺を挟んで喧嘩しないでもらえます?

 俺が遠い目をしているとドアが開いた。


「おい、客」

「大体チビのくせに何マセたこと言ってんのよ!」

「私はキミ達より年上だ! キミこそ私を敬ったらどうだ!」


 駄目だ、全然聞いてねぇ。 というかやっぱり年上だったんだなこの人。


「え、えっと…………」


 その人物は酷く太ったような雰囲気の女性だった。 紅色のローブを深く被って顔を隠している。

 しかし、違和感がある。 まずは魔力の量が尋常じゃない。 上級天使より上、神の1歩手前くらいまである。 更には魔力の流れも太った雰囲気に似合わず痩せ細っている。


「お前、何者だ?」

「え!?」

「いや、そんな動揺されても困るんだが」


 しかし何故素性を聞けば動揺されるのか。 それは後ろめたいことがあるという証拠である。

 俺の脳内に暗殺という2文字が浮かんだ。 セブンスアビスである俺の命を狙って、なども考えられる。


「フェシル」


 言い合いをしていたフェシルを真剣な声音で呼ぶとすぐに太ももに付いていたホルスターからハンドガンを抜いて構えた。

 いや、うん。 そこまでする必要もなかったんだけどな。


「じゅ、銃!?」


 銃口を向けられた太った女性は慌てた様子で手を挙げる。 その際に、その手が体型の割に小さいのが気になった。


「…………お前、もしかして」


 俺はゆっくりとローブの女性に近付く。 女性は慌てて周囲を見回していたが関係ない。

 フードをバサリと取ってやる。 するとヘナっとなっていた狐の耳がピョコッと立った。


「じゅ、獣人族!?」

「…………」


 その女性は悲しみに目を伏せる。 俯いた際に綺麗な長い金髪がさらっと表情を隠した。 髪の隙間から覗く大きなエメラルドグリーンの瞳が不安に揺れる。


「ほう、中々の美人ではないか」

「確かに美人だが、その前に獣人だろ? もっと別の反応見せなくていいのか?」


 冷静に彼女を見つめる鍛冶師にツッコミを入れながら、とりあえずローブを脱がせる。

 太っている、そう思ったのは尻尾を隠していたからだ。 数にして9本。 これだけ隠して入ればそりゃ太ったように見えるものだ。

 九尾の狐を擬人化したようなその人物を再度眺める。

 かなりの高身長(俺と同じくらい)にスタイルの良い身体付きとスイカやメロンを彷彿とさせる胸が凄い人だった。 更には自分の身長ほどある9本の尾がふわふわしていそうである。 耳も時折ピクピクしており可愛らしい。


「フェシル、ヤバイ。 俺あの人の耳撫で回したいんだけど」

「いきなり何言ってるのよ…………。 尻尾の方が気持ち良さそうでしょう?」


 和ませようとしたのが分かったのかフェシルも乗ってくる。 獣人の女性は目をパチクリとさせる。


「え、あ、あの、わたくしのことでしょうか?」

「そうだけど?」

「ここに獣人族なんてあんたしかいないじゃない…………」


 ちょっと天然な斜め上の発言。 まぁ見た目通りほんわかしていそうだ。


「人間の街に獣人族がいるなど聞いたことがないがな。 キミの友人か?」

「いや、全く関係ないけど。 とりあえず客なんじゃないのか?」

「そうか。 ではキミ達の要件は後だ。 先にそちらの要件を聞かせてもらおう」

「え?」


 獣人族の女性はキョトンとする。 何が起こっているのか分からないといった雰囲気だ。


「何をしている? 客なのだろう? ならば早く要件を言うといい」

「は、はい。 あの、強い剣が欲しいんですけど…………」


 こちらの様子を伺いながらも要件を伝える。 でもその聞き方絶対良くない。


「強い剣? それはどういう意味だ? 私の造る剣はどれも強い剣ではないという意味か?」

「ち、ちちちち違います!」


 ほら、やっぱりこうなった。 というか年上なら相応の常識を身に付けて欲しいものである。


「え、えっと…………岩もスパスパ切れちゃうような剣とかって…………ありますか?」

「岩? それはどういう鋼材だ?」

「え、えっと…………」


 なんかもう見ていられないんですけど。 この獣人族の子、可哀想すぎるんですけど…………。


「何が目的でそんな剣が欲しいんだ?」

「え? え、えっと…………行きたい所があるんですが、魔法が効かない魔物がいまして。 だから武器を–––––はっ! す、すいません! 違います! 冗談です!」


 なんか急に慌て始めた。 しかしいきなり冗談とか嘘とか言われても全く信じれないんですけど。


「岩の魔物なんていたっけ?」

「ロックスパイダーじゃないかしら? ほら、普段は岩のようだけれどいきなり腕が8本生える気持ち悪いやつ」

「あぁ、あれか…………」


 しかも結構早めに動いてくる本当に気持ちの悪い魔物だ。 更にはその地域となると…………。


「確かそっち方面には生命の泉ってのがあったな。 ほら、飲めば活力が湧くとかいうやつ」

「っ!?」


 ビクッ! と全身を震わせた獣人の女性。 見事に当たりらしい。 反応で分かってしまうのはなんというか、申し訳ないな。


「それは獣人からすれば秘薬とも呼ぶべき薬だ。 それを求めているということだろう。 だがな、流石に魔物を両断出来る保証は出来ない」

「そ、そうですか…………」


 あからさまに落ち込む獣人の女性。 しかしいつもの無反応のはずの鍛冶師が軽くジャンプして俺の襟首を掴む。 無理矢理姿勢を低くさせられた。


「痛っ…………なんだよ……」

「丁度良いからキミが手伝ってやれ」

「ん?」


 何突然。 この人こんなに人思い、もとい獣人思いでしたの? 手伝う分には構わないが。


「い、いえ、そんな、得体の知れない人と一緒なんて!」

「得体の知れない人じゃないわよ。 失礼なこと言わないでもらえるかしら?」

「ひぃ……!」


 怯えた様子で後ずさる獣人。 なんだかフェシルとは合わなさそうだな…………。

 俺がそんな呑気なことを考えていると獣人の女性と目が合う。


「あ、あの…………」

「……? どうした?」

「どうしてそんなに普通なんですか?」

「え?」


 一体なんだいきなり? 何故普通なのかって、普通だから普通なんだろ? …………自分で何考えてんのか分かんなくなってきたんだが。


「わ、わたくしは獣人族なんですよ?」

「それは見て分かるけど。 俺別に盲目じゃないからな?」

「そ、そういうことではなくてですね…………」


 何やらもじもじし始めた。 俺はじっと続きを待っているがフェシルは少しイライラしていた。


「ちょっと、はっきり言いなさいよ」

「ひぃ……!」

「フェシル、急かさなくてもいいだろ?」


 俺が嗜めるとフェシルは小さく溜息を吐いて俺の腕に抱きついてくる。

 いや、抱きついてくれとは言っていないんですけど? まぁそうしないと落ち着かないならそれでもいいんだが。


「手伝う分には構わんが、俺と一緒にいると色々危険だぞ? それでもいいのか?」

「え…………」


 獣人の女性は驚いた表情をする。 同時に腕で身体を隠して更に距離を取られた。

 ちょっと待ってください、そういう意味じゃない。 別に俺は危険じゃない。


「ほう? 堂々とエロ宣言とは。 見上げた根性だ」

「いや、そんなとこ褒められても。 後、別にエロ宣言はしてない」

「そうよ。 ルナとエッチするのは私よ」

「痴女は少し黙っていてくれ」


 あー、また言い合い始まったよ。 だから俺を挟んでしないでくれ…………。


「とりあえず話だけでも聞くぞ? …………こんなうるさい状態だけど」

「は、はあ…………」


 女性は少し呆けた様子で頷いた。 とりあえずこれで話は進むんじゃないだろうか。フェシルと鍛冶師がうるさいけど。

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