鎖に繋がれた少女 終
温かく、柔らかい感触。 その心地良い感触をもっと感じていたくて引き寄せてしまう。
「きゃっ…………!」
「ん……んあ?」
妙な声が聞こえて目を開ける。 そこにはかなりどアップで頬を染めた少女の姿があった。
「…………フェシルさん? この状況は……?」
「な、何よ…………恥ずかしいからあまり顔を近付けないでもらえる……?」
「あ、あぁ…………悪い」
慌てて離れる。 すると少し布団がめくれて白い裸体が目に入った。
「……裸体? ……裸? …………ハダカ?」
「ルナ?」
ちょっと待て。 なんだこれは。 どういう状況だ。
落ち着け、俺は王だろ。 これくらいで動揺してどうする。
俺が覚えている限りの寝る前の状況と現状の状況を整理しよう。
まず俺は神を殺し。 その後にその傷が原因で気絶しちまって、それで目が覚ましたのが今だ。 そして隣を見ると一糸纏わぬ姿のフェシルがいると。 ちなみに俺も全裸なわけだ。
「…………俺もしかして、やらかした?」
「え?」
うん、やらかしたよね? 間違いなくやっちまってますよね?
だってもうこれアウトなパターンだよな!? 俺もう大人の階段登った後だよな!?
「何を慌てているのか分からないけれど、ルナが寒そうだったからこうしてるだけよ?」
「へ?」
寒そうだったから? いやでも普通そこまでしませんよね?
「か、家臣なんだから当然でしょ…………」
「お、おう…………」
2人して恥ずかしくて視線を逸らす。 なんだこの恋人のような甘酸っぱい雰囲気は。
フェシルは恥ずかしそうに布団で身体を隠してしまう。 ん? そういやなんでベッドにいるんだ?
「俺達、どうやって帰って来たんだ?」
「え? えっと、なんかセミロングの天使に移動魔法で街に戻してもらえたのだけれど。 う、嘘じゃないわよ?」
「セミロング…………あ、ヒーラか? 身長が小さな天使」
「え、えぇ。 し、知り合いなの?」
知り合い、というか協力者というか。 多分あの子は俺と同じ感情を持つ神の下についているのだと思う。 あくまでも予想だが。
「顔見知り程度だな。 実はお前が捕まったことも教えてくれて、あの砦に案内してくれたのも彼女だ」
「そ、そう。 でも天使よね? 何者なの?」
「さぁ…………。 まぁ悪い奴ではない、くらいしか俺には分からん」
「そう…………」
フェシルは少し考え込むように顎に手を当てた。 しかし考えても結論は出ないようで途中で諦めてしまう。
「とりあえずそろそろ服着た方がいいんじゃないか?」
「服は…………ボロボロのしかないけれど。 あ、そのごめんなさい。 勝手に宿代にお金を使ってしまったわ」
「いや、そんくらいは別にいいんだけど。 もしかしてお前、一文無し?」
「…………だって神に追われた時に何処かに落としたんだもの」
視線を逸らして拗ねたように言われた。 ああ、はい。 俺のせいですよね。
「しばらくは大丈夫かもしれんが、働かないとな」
「えぇ…………」
まだまだ一応余裕はあるとはいえ贅沢が出来るわけでもない。 それになんとなーく、あんまり覚えてないというか思い出したくないというか。
もしかしなくても刀までへし折れましたよね? 俺の最後の剣技でそれはもう見事に。
これは痛い出費だ。 あの鍛冶師は何を言ってくるのか分からないしな。
「あ、あの…………ルナ」
「ん?」
フェシルは何やらモジモジと恥ずかしそうにしていた。 ちょっと可愛い。
「その…………お、お礼、まだだったわよね?」
「へ? お礼? 何の?」
「助けてくれたお礼」
言われてなかったっけ? …………言われたような、言われてないような。
どっちにしてもお礼を言われたいが為に助けたわけではないので別にいらないんだけどな。
「別にお礼なんていらな–––––」
「ありがと。 ちゅ…………」
「っ!?」
フェシルの顔が近付き、唇に柔らかく、しっとりとしたものが押し付けられた。 い、今のキスだよな?
「あ、あの、フェシルさん?」
「何?」
「い、今のって…………」
「あら、足りない?」
「いや、そうではなくてですね」
何故キスをしたのかを聞こうとした瞬間、笑顔で再び唇を奪われた。
「ん……んむ…………んぅ……」
フェシルから色っぽい声が漏れ始める。 ちょ、ちょっと待ってくれません?
最近全然してないから下半身がとても反応しそうで困るんですが。
「…………トロンとしてる。 可愛いわね……」
「ふぇ、フェシル…………」
「えぇ。 私も初めてだけれど、年上だものね。 リード……してあげる♡」
「へ?」
その後、俺は本当に大人の階段を登ってしまった。 まぁ途中フェシルが痛みで泣きそうになったり、俺の傷が開いて大変なことになったりと慌ただしいものになってしまったのは今となっては良い思い出なのかもしれない。
身体も、心までもが鎖に繋がれていた少女を。 もしかすれば俺は助けることが、鎖を断ち切ることが出来たのかもしれないと。 そんな幸せを噛み締めながら胸に抱く彼女の温かさに心地良い気分になった。