チュートリアルで熱戦を繰り広げました
先制を取ったのは私だ。素直に槍で突き、ダメージを与える。その後は『ハウンド』も私も一度距離を取る。そして、直ぐに体勢を整えた『ハウンド』の突撃が来る。でも、それは予測済みだ。
「『オーラ・アタック』!」
突撃に対して、槍で迎撃する。勿論、向こうの方が攻撃力が上なので、押し負けそのまま倒される。それでも、『ハウンド』にダメージを与え、突撃の勢いを削ってこちらのダメージを削ることには成功した。
『ハウンド』にこれまでと同じようにマウントを取られる。力負けしているとはいえ、『オーラ・アタック』でパワーを強化しているので、直ぐには押し負けない。ぎりぎりと押し合いながらも、私には少しの余裕があった。
限界近くまで追い込まれた所で、私は反撃を開始した。
「『ライト』!」
超至近距離からの光。それは『ハウンド』を怯ませ、拘束を脱出するのに十分な効果があった。……限界まで引き付けただけあって効果は絶大だった。だが、これで油断してはいけない。
「『隠密』」
『ハウンド』の拘束を逃れると同時に『隠密』を使う。一度視界から外れれば効果があるのは実証ずみ。これでこちらから攻撃を加えるまでは、それなりに安全な状態を維持できる。この空白を使って、反撃に備える。
私は近くの草むらに姿を隠す。こちらからも、向こうからも、お互いを見えない状態にする。……私には『気配察知』があるため、向こうの動きが何となく分かる。でも、向こうは感知系のスキルを持っていないようなので、『隠密』まで持ち出した私を探し出すのは困難だろう。
「『ライト・ボール』」
そして、得た時間を使って『ライト・ボール』を作っていく。この『ライト・ボール』は作るのは一度に一つずつだが、作った『ライト・ボール』が消失する前に再び作れば複数の『ライト・ボール』を同時に操る事が出来る。ただし、『ライト・ボール』が残っていればいるほど、作る際の魔力消耗量も多くなる。ただ、私の種族『森歌族』は魔力量に高い適正があるので数を作るのは余裕だった。5つ程作って一纏めに固めて拳サイズの光球のようにして、準備完了だ。
僅かに顔を出して、『ハウンド』の様子を伺う。
「くぅぅ~ん」
『ハウンド』は切なげに声を上げて、私の姿を探している。しかし、探している場所は明後日の方向だ。よし、これはチャンスだ。
私は静かに草むらを脱出し、こちらに気付かない『ハウンド』に背後から襲い掛かった!
「きゃうんっ!?」
槍は無防備な首の裏に突き刺さり、『ハウンド』に大きなダメージが入った。完全な無防備だったのと、急所攻撃、それに『オーラ・アタック』で攻撃力を上げていたのが良かったのだろう。一気に体力を半分まで減らせた。とはいえ、こっちの体力も半分以下。まかり間違って再びマウントを取られたら、もう終わりである。油断は出来ない。
『ハウンド』は急に現れた私に混乱して、攻撃に移ることも出来ずに地面を転がる。その隙に私は槍を振ってもう一撃食らわせる。これはさっきと違って大きなダメージにはならなかったが、それでも確実にダメージを残せた。しかし、『ハウンド』も落ち着きを取り戻し、こちらに突撃してくる。……よし、ここでこれを使おう。
「『ライト・ボール』×5!」
さっき作っておいた光球を突撃してきた『ハウンド』の顔面に向かって投げつける。一個ではダメージは殆ど無かったが、五つ集めればそこそこの威力になる。それでも、動きを止めるまではいかなかったが、十分だ。
「『隠密』」
『ライト・ボール』はダメージと衝撃で『ハウンド』の動きを阻害したが、それ以上にその光で視界を遮ったのが大きかった。私は難なく『ハウンド』の攻撃を避け、『隠密』を使った。
そして、そのまま草むらに隠れる。それから急いで『ライト・ボール』を作る。流石に二回も見失う程相手も馬鹿じゃない。完全な場所は分からずとも近い所を探っているのが『気配察知』で分かる。そして、こちらの準備が整う前に見つかれば今度こそ私の負けだ。
私は一個ずつ『ライト・ボール』を作る。でも、『ハウンド』も少しずつこっちに迫っている。緊張の中で、それでも一個ずつ作り、3個目を作った所で破局を迎えた。
「きゃんっ!!」
捕捉された――! 気付いた瞬間には身体が動いていた。草むらの向こうにある気配を感じ取り、『ハウンド』が突撃しようとするのを先んじて槍で叩き、動きを抑える。そのまま、一歩後ろに下がる。
私の『気配察知』は何となくそこに何かがいるのが分かったり、大雑把な動きが分かる程度の能力だ。草むらを介して姿の見えない状況は向こうよりこちらに分があるとはいえ、一度でも攻撃を食らったら終わりになるような状況で見えない敵を弾き続けるのは無謀な話だ。
なので、無理に抑え続けたりはしない。『ハウンド』がこっちに来るというなら仕方ない。ここで勝負しよう。『気配察知』のお蔭で何となく攻撃のタイミングが分かるので、どちらにせよこちらのほうが有利なんだ。
「きゃんっ!!」
草むらから『ハウンド』が飛び出してくる。タイミングは予想通り! 突発的な攻撃は避けられないでしょ? 私は出た瞬間に合わせて槍を突っ込む。当然、草むらから出て直ぐに万全な回避が出来る訳無く、私の攻撃は直撃した。不意打ちだったからか、ダメージは大きい! 行ける!
「『ライト・ボール』!」
体勢を崩したままの『ハウンド』に『ライト・ボール』を叩き付ける。3つ分の『ライト・ボール』は威力は低いながらも、確実にHPを削った。HPも残り少ない。けれど、こちらももう切れるカードが残ってない。後は純粋に槍での戦闘になる。
「ふぅぅぅぅ~~~~…………」
大きく息を吐き、最後の攻防の覚悟を決める。目を合わせれば『ハウンド』も戦意の篭った目をしていた。
先に動いたのは『ハウンド』だった。当然かもしれない。もう策が無い私は、力づくの戦いになれば負けしか残っていない。そうでなくとも、先手を取らなければ、策も何も使えない。
『ハウンド』は勢い良く飛び込んでくる。単純に避ければ姿勢を崩した所を狙って押し倒される。ここで迎撃するしかない。
「『オーラ・アタック』!!」
最大の強化を行うべく、残った魔力の全てをこの技に注ぎ込む。
私は『ハウンド』の突撃に合わせて、全力で槍を突き出す! 純粋な力勝負!
「きゃうんっ!?」
槍は『ハウンド』の身体を大きく抉った。けれど、『ハウンド』はそれで倒れはせずに、私を押し倒した。最悪のパターン。魔力も残っていないから、『光魔法』で隙を作ることも出来ない。だけど、このまま諦めて溜まるか!
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!?」
全力を振り絞り、『ハウンド』に攻撃する。槍の柄を叩きつけたり、拳で殴りつけたり。それは攻撃と言えない攻撃だったが、それでも、ダメージは入った。追い払えない以上、私には倒される前に倒すしか方法が無い。向こうの方が攻撃力が上だとしても、残りHPは奴の方が少ない。可能性は残ってる!
痛みを堪えて、必死に『ハウンド』に攻撃を加える。『ハウンド』は私の左腕に噛み付いた。だから、右手の槍の柄で頭部を叩き続ける。私のHPはどんどん減っていく。対する『ハウンド』も残り少ないHPを徐々に減らしていく。
本当は数十秒にしか過ぎない戦いは、しかし、数時間に及ぶ戦いのそれと同じだけの必死の攻防だった。けれど、決着はつく。
敗者は、淡く光に包まれる。死に戻りという現象だが、激闘を光が讃えてくれているように私は思った。
「きゃんっ」
光に包まれた『ハウンド』は満足そうに吠えた。私はそれに応えるために手を差し出す。お互いの健闘を讃えるために。
「良い勝負だったね。楽しかったよ。ありがとう」
私の言葉に答えるように、手を重ねてくれる。友情を育む事が出来たようでとても嬉しかった。そして、『ハウンド』は淡い光に包まれて消えた。私の瞳から一筋の涙が溢れた。
「さようなら『ハウンド』君。君のことは絶対に忘れないよ……」
「いや、死に戻っただけで消えてないからな。お望みならすぐ呼び出せるし」
良いシーンだったのに台無しにする野暮な男がいた……………………チッ。




