チュートリアルでスキルを試してみました
投稿するのは久しぶりです。遅くなって申し訳ありません。
「か、勝てるか、こんなの~~~~っっ!!??」
私は全力で叫んだ。私の上には『ハウンド』が乗っかり、噛み付こうとしてくる。私は槍の柄の部分で必死に防ぐがパワーが足りず、押しのけるまではいけない。そして、私のHPバーはどんどん削られていく。私は再度叫んだ。
「勝てるか、バカーーーーっっ!!?? 何がチュートリアルだ~~~っっ!!??」
牙や荒い息が眼前に迫る、こんな怖いチュートリアルがあってたまるか!
「おーい、ねーちゃん、大丈夫か? ……あ」
「あ」
流石に心配になったゴメリアが近づいたタイミングで私のHPが切れた。私は光に包まれた。死に戻りのエフェクトだ。
気付くと私は『ハウンド』から離れ、地面に女の子座りで座っていた。とはいえ、下草がクッションになっているので、足にダメージは無い。しばし、呆然としていると、ゴメリアが話しかけてきた。
「おう、ねーちゃん。大丈夫か?」
「……はい。ええと、これって……いわゆる死に戻りですか?」
「……おう」
「……そうですか」
私の質問に、気まずさげにゴメリアが応える。私もどことなく気まずい。何せ、チュートリアルなのだ。相手のレベルもそれに合わせて低く設定してある筈だ。なのに、完璧に負けた。となると、実践だと…………。
思った以上に厳しそうだと思いながらも、このまま逃げ帰るのはしゃくだ。……よし。
「ゴメリアさん! さっさと二回戦目行きますよ!」
「お、おう。やる気たっぷりだな……」
「えぇ、負けっ放しは嫌ですから!! さあ、早く!」
私の剣幕に負けて、ゴメリアは再度『ハウンド』を召喚する。途中「見た目は可愛いのになあ……」という声が聞こえた気がするが、全く気にならない。負けたまま終わりに出来ないという思いだけが、頭にあった。
友井夏奈は負けず嫌いだった。
「やぁっ」
槍を構えて、『ハウンド』に突き刺す。微量のダメージが入り、『ハウンド』から距離を取る。ここまではさっきと同じ。そして、
「きゃんっ」
可愛らしい声を上げて、『ハウンド』が体当たりを仕掛けてきた。その攻撃を予測していた私は大きく横っ飛びで回避しようとした。いや、実際回避は成功した。だが…………。
「ちょっ、ちょっと待って! たんま!!」
地面に倒れこんだ私は再度飛び掛る『ハウンド』の体当たりを受けきれず、再び『ハウンド』にマウントを取られた。……狙ってないよ。こんな寒いシャレは考えません。
ともかく、『ハウンド』に押さえ込まれた私は為す術なく、散々押し合いへし合いした甲斐無く死に戻った。
「もう一回!」
今度は体当たりを避けるのではなく、攻撃で対応をしようとした。けれど、ダメージを無視して突っ込まれて、再び『ハウンド』のマウント状態。対策出来ずに死に戻り。
「もう一回!」
「はいはい」
四回目は、徹底した攻撃で攻撃させるスキを無くそうとした。これはある程度成功した。一度攻撃に入られるとその勢いで攻撃を食らっても突っ込んでくるが、その前に攻撃を食らうと攻撃を躊躇するのが分かった。それでも、ある程度攻撃を食らうと覚悟を決めて力づくで攻撃してくるので、また『ハウンド』のマウント状態。再び死に戻り。
「もう一回!」
「よし! ねーちゃん、少し落ち着こうか!」
五回目に入ろうとすると、ゴメリアに止められた。何だよ。邪魔しないでほしい。そんな抗議の視線を送ると、ゴメリアは一瞬怯んだようだったが、すぐに持ち直して爽やかに笑った。
「あんまり、連続してやっても効率が悪いし、一旦休憩を……」
「却下」
秒速でゴメリアの提案を退ける。どんな物でも、やれる時にやるのが鉄則だ。なので却下。
「ええい、分かった。じゃあ、せめてスキルを使ったらどうだ。さっきから一度も使ってないだろ」
仕方ないという風に言われた言葉に、私ははっとする。確かに折角ゲームの世界なのに、使っているのはただ槍を突き出すだけ。わざわざゲームの世界に来てまでやることではない。
私は素直に、自身のスキルを見直した。
私のスキルは『隠密』『気配察知』『初級槍術』『光魔法』だ。一つ一つ試してみよう。
「……よし! スキルも使って戦います。もう一回お願いします!」
私は槍を構えた。まずは『隠密』を試そう。召喚された『ハウンド』に向かって、私は飛び出した。
結論を言おう。無理だった。ずたぼろだった。
まず、『隠密』は気配を消す事が出来るスキルだったが、目の前に堂々と立っている状態で使っても、普通に意味が無い。一応、攻撃を避けて『ハウンド』の視線から外れた時に、『ハウンド』に発見されるのが遅れるという効果があったが、その隙をついた攻撃と同時にこちらを認識され、すぐに蹂躙された。
次に試そうとした『気配察知』はパッシブ系の効果だったために試そうにも試す事が無かった。そもそも、『隠密』同様に目の前に敵がいる状態で持っていても効果が無いスキルだった……。
三番目に『初級槍術』を試した。このスキルは基本的に槍の扱いや威力を上げるパッシブ系のスキルなので、さっきまでと殆ど変わらない。けれど、『アーク・アタック』というアクティブ系の攻撃技があったので、それは結構使えた。『アーク・アタック』は単純に魔力を槍先に集めて威力を上げるという技だったので、ダメージ量が上がったのは助かった。とはいえ、それでも『ハウンド』の攻撃力には押し負けるのだが。
最後は『光魔法』だ。これは、ある意味で期待通りだった。小さく、綺麗な光の球を作り出す『ライト・ボール』という技と『ライト』という僅かな明かりを作り出す技が使えた。……もっともそれぞれの規模が小さいのは私の知力が低いからで、本当は『ライト・ボール』はコブシ大の光球で攻撃する魔法で、『ライト』は光で暗闇を照らす魔法だ。私のはスーパーボール程度の大きさの光球と、蝋燭一本分程度の明かり位しか作れなかったが……。
とはいえ、私は『光魔法』については満足していた。元々の期待通り、美しい光を見せてくれたからだ。別に野蛮な戦闘に持ち込む必要は無いと思う。そういう満足感はあったが、一応戦闘で使ってみる。
「『ライト・ボール』!」
ちっちゃな、スーパーボール位の赤い光球を放つ。そう、この『ライト・ボール』のスキルは色を変えられるのだ! 色々試している時にそれを知って私は歓喜した。特に私は赤い色の光が綺麗で、お気に入りになった。
小さな光球は『ハウンド』の鼻に当たった。そして散った。『ハウンド』は少しびっくりしたようだったが、別にダメージが入ってる様子は……あ、ちょっぴり僅かにHPバーが減ってる。一応ダメージは入ってるのね。でも、威力が低すぎて攻撃だとは思えなかったらしく、『ハウンド』は困ったような態度で戸惑っている。ついでにゴメリアも呆れている。覚えて居ろよこの野郎。……よし、この隙に。
「『ライト』!」
私は手のひらを『ハウンド』の眼前に突きつけて魔法を放った。ただ明かりを作り出すだけの技だが、流石に目の前でやられるとキツイ所があるらしく、『ハウンド』の目を少しの間眩ませることに成功した。私は隙を逃さず槍で攻撃を仕掛ける。それでそれなりにダメージを与えたが、元々光量が少ないのですぐに持ち直した『ハウンド』に襲われてTHE END。
――――――そんな訳で、私のスキルを用いた戦いは全敗で終わった。あまりの負けっぷりにゴメリアも驚いていた。最下級の魔物相手にこれだけ負けた人を初めて見たらしい。それでも諦めないガッツを褒められたが、全く嬉しくない。
「どうする? 確かに『ハウンド』は倒せなかったが、戦い方は大体分かっただろう? 町や、敵の居ない場所でもスキルのレベルを上げれば、その内倒せるようになるだろうし、ここじゃあ戦い方は覚えられるがスキルもレベルも上がらない。この辺で切り上げて、町に行ったらどうだ?」
ゴメリアがそんな事を言ってくるが、当然却下だ。確かにゲーム上のデメリットは無いが、負けっ放しっていうのが気に喰わない。ここまでやったのだし、意地でもここで勝つ。
「申し訳ありません。でも、戦いや苦難を避けても何もなりませんから」
この一戦で必ず勝つ。そういう意志でゴメリアを見ると、彼は少し驚いたように目を見張り頷いた。
「10戦目……これで必ず勝ちます!!」
自身を追い込む為の宣言をして、槍を構える。再び召喚される『ハウンド』と視線を合わせ、そして交錯する。




