スキルを決めて、チュートリアルを始めました
苦戦して、苦戦して。ようやく、スキルの設定を終えた。
私が取得したスキルは『隠密』、『気配察知』、『初級槍術』、『光魔法』だ。
『隠密』は自身の気配を消し、敵に見つかりにくくするスキルだ。戦いなんて怖いし、避けられる物なら避けるべきと考えこのスキルを選んだ。
次の『気配察知』も同じ理由で取得した。このスキルはそのまま、周りの気配を察知するスキルだ。
次の『槍術』は槍の扱いに補正を与える武器スキルだ。先の通りに戦いは避けて通るつもりだが、全く戦わない訳にもいかないだろう。その為の武器スキルだ。他にも剣や弓、または魔法がある中でこのスキルを選んだ訳は単純で、最も使いやすそうだったからである。剣やらなにやらはリーチが短く、敵に接近しなくてはならない。それは、一介の女子高生の私には厳しい。では弓や魔法なら遠くから攻撃できるだろうと言うだろうが、自慢ではないが手先は不器用なので弓など持ってのほか、魔法もよく分からないのであまり手を出したくない。
そんな訳で、そこそこリーチがあって、簡単に使いやすそうな槍に決めたのだ。
最後のスキルは『光魔法』だ。これはもう、イメージ先行で取得した。取得してきたスキルが、何ていうか、こう、この子のイメージに合わないと感じて、最後のスキルだけはイメージを合わせた綺麗なスキルを取った。
頑張って設定しては見たが、まあ、上手くいかなくても構わない。私としては、『ナツ・フォレストソング』として色々街でも見て回れれば問題ないのだ。そんな訳で、私は本当に設定を終える事が出来た。そうして、カメリアちゃんが一つお辞儀をした。
「おつかれさまです。最後に、何か修正するものなどはありますか? もし、無ければ、これで設定を終えさせて頂きます」
「はい。問題ありません。カメリアさん、今日はありがとうございました。カメリアさんがいなければ、私もっと大変だったと思います」
素直な気持ちでお礼を言うと、カメリアさんは少し頬を紅くしてはにかんだ。
「いいえ。ナツ様、本当にお疲れ様です。もし、よろしければ最後に戦闘のチュートリアルを受けていきますか? いきなり本番だと苦戦するかもしれませんし……」
「チュートリアルですか? ううん、分かりました。ぜひ、お願いします」
確かチュートリアルとは、基本操作を覚える為の、いわば初心者講座のような物だと聞いた。それなら、私でもやれるかもしれない。そう思って申し出を受け入れた。
すると、カメリアさんは最後に美しく一礼した。
「かしこまりました。では、後武運を」
私は足元より現れた黒い何かに覆われ、暗闇の中に閉じ込められた。そして、視界が晴れるとそこは四方草原のだだっ広い空間に一人立っていた。
「って、あれ!? カメリアさん、来ないの!?」
私は慌てて周りを見渡すが、どこを見渡しても人の影一つ無い。私は絶望に打ちひしがれた。こんな急にカメリアちゃんと別れることになるなんて。もう少し、話したかったぁ~~。
とはいえ、今更後悔しても時既に遅し。仕方ないので、真面目にチュートリアルを受けよう……そう思って、項垂れていた頭を上げると、
「おう、ねーちゃん。正気に戻ったか?」
何故かごついゴリラ……じゃない、ごつい男が中腰でこっちを覗き込んでいた。……危く、声を上げるところだった。しかし、それを押さえ込むと、今度は一体全体どんな状況なのか分からなくなってしまった。
そんな私の態度から状況を察したのか、その男は、
「あ~、こりゃカメリアの奴、担当が変わるの言ってなかったな。悪かったな、混乱させて。俺はゴメリア・クロスワーク。戦闘のチュートリアルのガイドをやっている。今回、あんたのチュートリアルを受け持つことになった。よろしくな!」
そういって、男ゴメリアは見かけに似合わない爽やかな笑顔を浮かべた。結構いい奴っぽいと思ったが、カメリアちゃんの代わりだと思うと、……はぁ、なんだかなあ。
「ええと、カメリアさんとはもう会う機会はないですか?」
テンションがダダ落ちた私は、気になっていた事を聞いた。しかし、男は苦笑して首を横に振る。
「まあ、まず無理だと言って置こう。しかし、もし、君がこの世界の奥地まで辿りつけたのなら、もしかしたら出会えるかもしれない」
なるほどね。カメリアさんはこれから私が行くゲームの世界にも来れるんだ。でも……あの言い方だと、相当進めないと会えそうにない。私では多分、無理だろう。
「……まあ、いいです。それで、戦闘のチュートリアルとはどうするのですか? 見たところ他に誰も居ないですけど。まさか、あなたと戦えなんて言わないですよね?」
そんな事を言われたら、速攻で逃げ出す自信がある。何せ、相手は岩のような筋肉を持つ大男だ。たとえゲームの世界でだって、こんな華奢な女の子『ナツ・フォレストソング』が勝てる訳が無い。というか、腕の一振りで死んでしまうだろう。
そんな事を言うと、男は笑って、
「ははっ、流石にそんな事は言わないさ。ここでは実際の戦闘も出来るし、スキルを試したり出来る。で、敵役だが……それっ」
男がなにやら唱えると、地面に美しい幾何学模様が浮かび上がり、その中から光を伴って二匹の小型な犬が出て来た。茶色い体毛をした可愛らしい犬だ。頭の上を見ると『ハウンド』と書かれたウインドウが見える。
「俺は召喚士なんだ。だから、ねーちゃんには俺が召喚した魔物と戦ってもらう。安心してくれ、負けてもペナルティは無いし、やりたいなら何度でも挑戦できる。……それじゃあ、準備はいいか?」
男の言葉に私は頷く。こんな可愛い魔物を相手にするのは心苦しいが、自分が戦えるか試して置かなければならない。私は『初心者の槍』を構えた。そして、男に目で合図を送った。
「よし、それでは双方戦いを開始しろ!」
男の掛け声と同時に私は『ハウンド』に近づき、槍を突き出す。槍は見事に『ハウンド』に命中し、ダメージを与えた。私は心の中でガッツポーズを取る。よし、このまま徐々に体力を削っていこう。
しかし、そんな簡単にいく訳は無かった。
「キャンッ」
攻撃を食らって後退した『ハウンド』は明らかな敵意を乗せて、体当たりを掛けてくる。私は避けきれずに正面からぶつかり後ろに弾かれる。ごろごろと地面を転がり、私は止まった所で立ち上がり『ハウンド』の挙動を伺う。幸いにも『ハウンド』は追撃をしなかったが、残りのHPを見ると向こう僅かに減っただけなのに対し、私は3分の1位ダメージを負ってしまっていた。
このまま交替で攻撃していたら、明らかにこっちが先に倒れる。しかし、分かっていても私にはどうしようも無かった。『ハウンド』は素早く、森歌族である私は速さでも『ハウンド』に及ばなかった。
私が放った槍は避けられる事があるのに、向こうの攻撃は避けられない。それでいて攻撃力は向こうの方が上。……何これ、無理ゲーじゃん。




